日本の教育改革と総合的な学習の時間         広島大学 難波博孝.

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日本の教育改革と総合的な学習の時間         広島大学 難波博孝

1.はじめに  日本の戦後教育改革の歴史を概観し、その中に「総合的な学習の時間」を位置付け、その変遷と今後の方向性を考える

2.日本の戦後教育改革の歴史(小学校学習指導要領の変遷を中心に) 2.1.1945年から1997年まで (1)1947年学習指導要領(試案) 経験主義教育の思想に基づく 修身・地理・歴史の廃止  社会科の新設  家庭科の男女共修 自由研究の新設

2.1.1945年から1997年まで (2)1951年学習指導要領(試案) 経験主義教育の思想に基づく 自由研究が廃止され「教科以外の活動」に変更 学力低下という批判 各学校では経験主義カリキュラムは徹底せず

2.1.1945年から1997年まで (3)1958年学習指導要領 系統主義教育の思想に基づく 法的拘束力を持つようになる 「道徳の時間」の設置

2.1.1945年から1997年まで (4)1968年学習指導要領 系統主義、「教育内容の現代化」思想に基づく 特別活動(学級活動・児童会活動・クラブ活動・学校行事)の設置 つめこみ教育、新幹線教育という批判が出てくる

2.1.1945年から1997年まで (5)1977年学習指導要領 系統主義に基づく 学習内容を削減(ゆとりカリキュラム)する 授業時間数、教育内容の削減

2.1.1945年から1997年まで (6)1989年学習指導要領 経験主義的な「新学力」観に基づく 授業時間数、教育内容の削減 小学校1・2年の理科・社会科を廃止して生活科を新設する

2.2.現行学習指導要領(1998年)について (1)経験主義的思想に基づく (2)生きる力の育成 (3)学習時間と教育内容の削減(ゆとり教育) (4)完全週休2日制の実施 (5)「総合的な学習の時間」の新設

2.2.現行学習指導要領(1998年)について (1)経験主義的思想に基づく 経験主義 1947 1951 1998 1989 1958 経験主義 1947 1951              1998                       1989              1958                    1977 系統主義            1968

2.2.現行学習指導要領(1998年)について (2)生きる力の育成 自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力 自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性 たくましく生きるための健康や体力

2.2.現行学習指導要領(1998年)について (3)学習時間と教育内容の削減(ゆとり教育) (4)完全週休2日制の実施 週に2時間 授業時間の削減 教育内容の2〜3割削減 (4)完全週休2日制の実施 1992年月1回週休2日制 1995年月2回週休2日制 2002年完全週休2日制

2.2.現行学習指導要領(1998年)について (5)「総合的な学習の時間」の新設 ・教科外の時間としての設置 ・各学校が独自に計画、実施する ・体験学習を重視する ・横断的・総合的な学習(例えば、国際理解、情報、環境、福祉・健康)を行う。

2.2.現行学習指導要領(1998年)について (6)小学校の教育課程 (教科) 国語、社会、算数、理科、生活、音楽、図画工作、家庭、体育  国語、社会、算数、理科、生活、音楽、図画工作、家庭、体育 (教科外)  道徳  特別活動(学級活動、児童会活動、クラブ活動、学校行事)  総合的な学習の時間

2.3.1998年以後現在までの日本の教育の状況 2.3.1.1999年学力低下論争 ・岡部恒治他著「分数ができない大学生」が発端 ・大学生に行った小中学校レベルの数学のテストの結果、大学生の学力低下が明らかになったとした。 ・彼らは大学生の学力低下の原因が小中学校教育であるとした。 ・文部科学省の「ゆとり教育」路線を批判した。 ・論争の結果、文部科学省の姿勢は修正され、学習指導要領の一部改定を行うことになった。

2.3.1998年以後現在までの日本の教育の状況 2.3.2.2003年学習指導要領一部改定 学習指導要領が、最低基準であることが明確に示された。 経験主義教育の一部放棄 学校間の競争を産み出すことにつながった。

2.3.1998年以後現在までの日本の教育の状況 2.3.3.2004年PISAショック 2.3.3.1.PISAの概要 ・PISA=OECDによる学習到達度調査 ・15才対象 ・2000年から3年ごとに行う ・読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシー、問題解決を調査する

2.3.1998年以後現在までの日本の教育の状況 2000年 2003年 2.3.3.2004年PISAショック 2.3.3.2.PISAの結果と影響     2000年      2003年 数学   1位(557点)    6位(534点) 読解力  8位(522点)   14位(498点) 科学   2位(550点)    1位(548点) 問題解決 (実施せず)      4位(547点) ・数学・科学・問題解決力は良好 ・読解力は大幅な低下 ・2008年学習指導要領改定では、国語科だけでなく全教科全領域での「読解力」「言語(国語)力」向上が大きな目標

2.3.1998年以後現在までの日本の教育の状況 2.3.4.2006年教育基本法改定(安部首相の影響) ・公共の精神の尊重の重視 ・愛国心の強調 ・政府に教育計画を策定させる

2.3.1998年以後現在までの日本の教育の状況 2.3.5.教育再生会議の方向と頓挫(内閣に所属。文部科学省には所属していない。安部首相の影響)  (1)授業時数10%増 「ゆとり教育」見直し   (2)教員の質を高める  (3)子どもに規範意識を持たせる  参議院選挙の敗北、安部首相退陣の可能性から、教育再生会議の提言の実施は一部のみ

2.3.1998年以後現在までの日本の教育の状況 2.3.6.2008年学習指導要領改定の方向性 道徳教育の充実 国語力の育成 小学校段階の英語の導入 体験活動の充実 授業時数の増加 総合的な学習の時間の改善

3.「総合的な学習の時間」の設置とその変遷 3.1.1998年「総合的な学習の時間」新設 (1)新設の趣旨 ・画一的な教育からの脱皮 ・学校の独自性 ・教科横断的・総合的な課題の学習 (国際理解、情報、環境、福祉・健康) ・児童主体の体験活動

3.1.1998年「総合的な学習の時間」 新設 (2)総合的な学習の時間の教育課程上の位置付け 小学校1・2年生・・・生活科  小学校1・2年生・・・生活科  小学校3年生以上・・・総合的な学習の時間     週に3時間(1時間は標準45分) (3)総合的な学習の時間のねらい     主体的な問題解決能力の育成     自己教育力の育成 (4)総合的な学習の時間の名称  総合的な学習の時間の名称は各学校で決定

3.「総合的な学習の時間」の設置とその変遷 3.2.2003年学習指導要領一部改定 (付加された内容) ・各教科、道徳で獲得した知識や技能と関連づけること ・学校で計画を立てることの義務づけ ・教師が指導するこの明確化 ・学校図書館の活用

3.「総合的な学習の時間」の設置とその変遷 3.3.現在の小学校における実践状況 (1)総合的な学習の時間の学習活動(複数回答可) 横断的・総合的な課題 児童の興味・関心に基づく課題 地域や学校の特色に応じた課題 その他 3年生 86.2% 59.8% 89.9% 5.0% 4年生 90.1% 60.5% 84.6% 5.1% 5年生 91.0% 67.0% 83.2% 5.8% 6年生 91.3% 71.5% 80.7% 6.4%

3.「総合的な学習の時間」の設置とその変遷 3.3.現在の小学校における実践状況 (1)総合的な学習の時間の学習活動(複数回答可) 横断的・総合的な課題 児童の興味・関心に基づく課題 地域や学校の特色に応じた課題 その他 3年生 86.2% 59.8% 89.9% 5.0% 4年生 90.1% 60.5% 84.6% 5.1% 5年生 91.0% 67.0% 83.2% 5.8% 6年生 91.3% 71.5% 80.7% 6.4%

3.「総合的な学習の時間」の設置とその変遷 3.3.現在の小学校における実践状況 (2)横断的・総合的な課題を取り上げている学校の具体的な学習活動(複数回答可) 国際理解 外国語会話* 情報 環境 福祉・健康 その他 3年生 65.2% 56.5% 61.3% 44.3% 39.9% 17.9% 4年生 65.7% 57.3% 62.3% 62.8% 53.0% 13.9% 5年生 68.8% 59.3% 65.4% 58.8% 46.7% 17.2% 6年生 74.8% 61.7% 41.6% 49.7% 22.4%

3.「総合的な学習の時間」の設置とその変遷 3.3.現在の小学校における実践状況 (3)総合的な学習の時間でよく行われている体験活動 1 ものを制作する体験 2 動植物の飼育・栽培体験 3 動植物の観察体験 4 社会的な施設活用の体験 5 交流教育の体験 6 人権と平和の意義について考える活動の体験 7 地域の自然の調査活動の体験 8 郷土史・伝統文化の探求活動の体験 9 地域社会の調査活動の体験  10 地域独自の産業・商業等に関しての活動の体験 11 衣食住等地域の生活に関する探求活動の体験 12 現代社会の課題を追求し解決策を考える体験 13 遊びを創造し実践する活動の体験 14 ボランティア・福祉等社会活動の実地体験 15 多様な人と多様なテーマでの意見交換の体験 16 環境維持のための諸活動の体験 17 情報機器活用の体験 18 気象・天体観測活動の体験19 音楽・演劇等を創作したり演じたりする体験 20 健康維持・保健体育の活動等を実践する体験 21 地域の諸活動への参加体験 22 野外生活の体験 23 外国人との交流活動の体験 24 外国文化の探求の体験 25 自分の生き方を考える職場体験 26 生死の意味を考える活動の体験 27  その他

3.「総合的な学習の時間」の設置とその変遷 3.3.現在の小学校における実践状況 (4)総合的な学習の時間の評価 1 学習活動におけるプロセスでの自己評価 2 グループ内で相互評価 3 発表を基にしてのクラス全体での評価 4 作品等、具体的な個々の学習成果に基づく教師の評価 5 学習成果の総括的報告(レポート)に基づく教師の評価 6 児童生徒との対話に基づく教師の評価と指導

3.「総合的な学習の時間」の設置とその変遷 3.4.総合的な学習の時間の現在の課題 ・学校間の格差 ・目標の不明確さ ・教科や学校行事との重複 ・教師の事務量の増加

3.「総合的な学習の時間」の設置とその変遷 3.5.今後の見通し 1.教科(社会科など)、特別活動、選択教科など各教科等との関係の整理 2.ねらいや育てたい力の明確化 3.児童生徒の発達段階に応じた内容の整理

4.おわりに 日本の教育改革も、総合的な学習の時間も、日本の政治状況で変化するだろう。

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