天然物薬品学 微生物が生み出す医薬品1.

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天然物薬品学 微生物が生み出す医薬品1

医薬開発化合物のソース(1981~2010年) 合成化合物 (天然物由来構造) ワクチン タンパク質 天然有機化合物 (化学修飾) 6% 15% 9% 天然有機化合物 (化学修飾) 5% 4% 11% 合成化合物 22% 29% N = 1,355 J. Nat. Prod. 2012, 75, 311-335

天然物由来医薬品の売上げ(2012年度,億円) タクロリムス 免疫抑制薬 微生物産物 528 タクロリムス 免疫抑制薬 微生物産物 528 クラリスロマイシン 抗菌薬 微生物産物+化学変換 305 プラバスタチン 高脂血症用薬 微生物産物+微生物変換 260 シクロスポリン 免疫抑制薬 微生物産物 216 タゾバクタム+ピペラシリン 抗菌薬 微生物産物+化学変換 215 ボグリボース 糖尿病治療薬 微生物産物+化学変換 195 ドセタキセル 抗がん剤 植物産物+化学変換 190 パクリタキセル 抗がん剤 植物産物 185 セフカペンピボキシル 抗菌薬 微生物産物+化学変換 180 セフジトレンピボキシル 抗菌薬 微生物産物+化学変換 165 アジスロマイシン 抗菌薬 微生物産物+化学変換 140 ミカファンギン 抗真菌薬 微生物産物+化学変換 129

抗生物質

抗生物質と化学療法薬 抗生物質 化学療法薬 微生物によって生産される抗微生物物質(狭義) 微生物によって生産される化学療法薬(広義) 微生物あるいはがん細胞に対して,その発育や増殖を阻止し, あるいは死滅させる作用のある化学物質

ペニシリンの発見 Alexander Fleming (1881-1955) ペニシリン(1928) ペニシリン生産菌 Penicillium nonatum (当時Penicillium rubrum)が生産する 抗ブドウ球菌(Staphylococci)物質 ペニシリン(1928) 化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes) 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae) 抗菌作用,毒性なし 低生産性のため単離できなかった ペニシリン生産菌  ペニシリン耐性のインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)同定に使用

ペニシリンの再発見 Howard Flory (1898-1968) & Ernst Chain (1906-1979) ペニシリン研究再開(1938) 粗精製ペニシリン(2%)がブドウ球菌感染マウスに有効(1940) ペニシリンの臨床試験(1941) ペニシリン発酵法の改良と大量培養(1941) ペニシリンGの構造決定(1945) a b βーラクタム ペニシリンG(ベンジルペニシリン) 肺炎球菌,溶血レンサ球菌,髄膜炎菌 注射薬

ペニシリンの作用と選択毒性 生物種 細胞壁の主成分 動物 なし 植物 セルロース(β-1,4-グルカン) カビ β-1,3-グルカン 生物種 細胞壁の主成分 動物 なし 植物 セルロース(β-1,4-グルカン) カビ β-1,3-グルカン 細菌 ペプチドグリカン

ペプチドグリカントランスペプチダーゼ b-ラクタム

ペニシリン耐性菌の出現 ブドウ球菌のペニシリナーゼ生産性獲得による耐性化 ペニシリナーゼ ロンドンの病院内で分離されたペニシリン耐性ブドウ球菌 1946年 15% 1947年 40% 1948年 60%

ペニシリンの改良 ペニシリンGの特性 ・グラム陽性菌,グラム陰性球菌に有効 → グラム陰性桿菌に無効 ・酸性で不安定 → 経口投与では無効 ・グラム陽性菌,グラム陰性球菌に有効 → グラム陰性桿菌に無効 ・酸性で不安定 → 経口投与では無効 ・ペニシリナーゼによる分解 ペニシリンアシラーゼ ペニシリンG 6-アミノペニシラン酸 (6-APA)

半合成ペニシリン ペニシリナーゼ 抵抗性 メチシリン(1962) 広域 経口 化学修飾 アンピシリン(1962) 6-アミノペニシラン酸 (6-APA) 広域 経口 アモキシシリン(1970)

生合成ペニシリン フェニル酢酸 ペニシリンG Penicillium chrysogenum ペニシリン生産菌 フェノキシ酢酸 フェノキシメチルペニシリン 耐酸性 → 経口投与可能

広域ペニシリン 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)にも有効 ピペラシリン 注射薬 ピペラシリン 注射薬 ブドウ球菌属,レンサ球菌属,肺炎球菌,腸球菌属, 大腸菌,Citrobacter,肺炎桿菌,Enterobacter, Serratia, Proteus,Morganella morganii,Providencia, インフルエンザ菌,緑膿菌,Bacteroides,Prevotella 抗菌力はアンピシリンより弱い ペニシリナーゼにやや不安定

Acremonium chrysogenum セファロスポリンの発見 セフェム骨格 セファロスポリンC(1955) Acremonium chrysogenum ペニシリンGより低毒性 ペニシリナーゼ抵抗性

ペニシリンからセフェム骨格への変換 ペニシリンG セファレキシン ペニシリナーゼ抵抗性 グラム陽性菌・陰性菌 経口投与可能

Acremonium chrysogenum セフェム系抗生物質 化学反応 or 酵素 7 3 セファロスポリンC 7-アミノセファロスポラン酸 (7-ACA) Acremonium chrysogenum

第1世代セフェム セファロチン 第2世代セフェム セフロキシム セフォチアム 第3世代セフェム セフォタキシム グラム陰性菌への効果拡大 セファロスポリナーゼ 抵抗性強化 セフォチアム 阻害活性強化 外膜透過性改善 第3世代セフェム グラム陰性菌への効果拡大 ブドウ球菌への効果減弱 セフォタキシム

第3世代セフェム(注射薬) セフトリアキソン ブドウ球菌,レンサ球菌,肺炎球菌,淋菌,大腸菌, Citrobacter,Klebsiella,Enterobacter,Serratia,Proteus,Morganella morganii,Providencia,インフルエンザ菌,Peptostreptococcus,Bacteroides,Prevotella  ・血中持続性が改善(1 g静注時の血中半減期7.5 h)

第3世代セフェム(経口薬) 旧第3世代セフェム → ブドウ球菌に対する抗菌力改善 セフジニル セフジトレンピボキシル セフカペンピボキシル

(第4世代)セフェム系抗生物質 セフォタキシムとの比較・・・ブドウ球菌,緑膿菌に適応拡大(注射薬) セフォゾプラン セフピロム  ・ベタイン構造を有する  ・緑膿菌,ブドウ球菌に対する抗菌力改善 セフピロム セフォゾプラン 腸球菌に対しても有効

カルバペネム系抗生物質 チエナマイシン (1976) 注射薬 イミペネム 1 : 1 シラスタチン Streptomyces cattleya 強力な抗菌活性 広い抗菌スペクトル 腎デヒドロペプチダーゼ I → 分解物の腎毒性 注射薬 デヒドロペプチダーゼ I阻害薬 イミペネム 1 : 1 シラスタチン グラム陽性菌全般(含腸球菌) グラム陰性菌全般(含緑膿菌,Bacteroides)

4-メチル基の導入により,デヒドロペプチダーゼⅠに対する安定性獲得 カルバペネム系抗生物質 メロペネム(注射) 4-メチル基の導入により,デヒドロペプチダーゼⅠに対する安定性獲得 (全合成)

セファマイシンの発見 セファマイシンC (1971) Streptomyces clavuligerus グラム陰性菌・陽性菌に有効 β-ラクタマーゼに極めて安定

オキサセフェム系抗生物質(注射薬) フロモキセフ グラム陽性菌,グラム陰性菌に広く有効 ブドウ球菌(軽度耐性MRSAを含む),  レンサ球菌,肺炎球菌,淋菌,Moraxella catarrhalis ,大腸菌、Klebsiella,Proteus,Providencia,Morganella morganii,インフルエンザ菌,Peptostreptococcus,Bacteroides,Prevotella

モノバクタム系抗生物質 スルファゼシン(1981) SQ26823(1981) 好気性グラム陰性菌に対して選択的に優れた抗菌作用を示す Pseudomonas acidphila Agrobacterium radiobacter 好気性グラム陰性菌に対して選択的に優れた抗菌作用を示す

b-ラクタマーゼ阻害薬 b-ラクタマーゼ 不可逆的阻害 アモキシシリン クラブラン酸 Streptomyces clavuligerus

経口薬 アモキシシリン 2 : 1 クラブラン酸 ペニシリナーゼ産生ブドウ球菌,Klebsiella,Proteus vulgaris,Bacteroidesに適応拡大

ストレプトマイシンの発見 ストレプトマイシン (1944) 抗生物質・・・微生物が生産する抗菌性物質 Selman Waksman (1888-1973) 抗生物質・・・微生物が生産する抗菌性物質 結核菌(Mycobacterium tuberculosis) 細胞壁 ミコール酸 → 薬剤透過性低 ストレプトマイシン (1944) Streptomyces griseus 結核菌を含むグラム陰性菌・陽性菌に対して 幅広い抗菌スペクトル(注射薬) リボソーム30Sサブユニットと結合し, タンパク質合成を阻害する 第8脳神経障害(難聴,耳鳴,眩暈 ),腎障害

アミノグリコシド系抗生物質 カナマイシンの発見 梅澤浜夫(1914~1986) カナマイシン(1957) アミノ糖 アミノサイクリトール カナマイシン(1957) Streptomyces kanamyceticus 結核菌を含むグラム陰性菌・陽性菌に対して幅広い抗菌スペクトル ストレプトマイシンより聴覚障害少ない リボソーム30Sおよび50Sサブユニットと結合し,タンパク質合成阻害

Streptomyces tenebraius 抗緑膿菌アミノグリコシド ゲンタマイシンC1 R1 = CH3, R2 = CH3 ゲンタマイシンC1a R1 = H, R2 = H ゲンタマイシンC2 R1 = CH3, R2 = H トブラマイシン Streptomyces tenebraius Micromonospora purpurea 緑膿菌を含むグラム陰性桿菌 毒性はカナマイシンよりやや強い 緑膿菌を含むグラム陰性桿菌,ブドウ球菌 抗菌活性は強い 聴器毒性,腎毒性も強い

抗MRSAアミノグリコシド アルベカシン 抗MRSA薬 聴覚障害はカナマイシンより弱い 腎毒性はカナマイシンより強い 他のアミノグリコシドとの交叉耐性少ない

リボスタマイシン アストロマイシン Streptomyces ribosidificus Bacillus circulans Micromonospora olivoasterospora グラム陰性桿菌(除緑膿菌),黄色ブドウ球菌 腎毒性,聴器毒性は弱い アミノグリコシドとの交叉耐性少ない ブドウ球菌,レンサ球菌,肺炎球菌,淋菌,大腸菌,肺炎桿菌,Proteus 毒性はカナマイシンより弱い

クロラムフェニコール(1947) Streptomyces venezuelae 広い抗菌スペクトル(緑膿菌,結核菌以外) 副作用:造血機能障害

テトラサイクリン系抗生物質 クロルテトラサイクリン (1948) オキシテトラサイクリン (1950) Streptomyces aureofaciens Streptomyces rimosus 非常に広い抗菌スペクトル(緑膿菌以外)  マイコプラズマ,クラミジア,リケッチア

テトラサイクリン系抗生物質 テトラサイクリン Streptomyces viridofaciens 非常に広い抗菌スペクトル(緑膿菌以外) 毒性は低い 多くの菌が耐性化  肺炎球菌,溶血レンサ球菌,大腸菌,肺炎桿菌など 適応:肺炎マイコプラズマ,クラミジア,リケッチア

半合成テトラサイクリン 6ーデメチルテトラサイクリン ミノサイクリン Streptomyces aureofaciens 抗菌力強化(経口,注射) 黄色ブドウ球菌に優れた抗菌力 他薬と交叉耐性示さない

マクロライド系抗生物質(14員環) オレアンドマイシン エリスロマイシン (1952) Streptomyces antibioticus Saccharopolyspora erythraea (当時Streptomyces erythreus) Streptomyces antibioticus リボソーム50Sサブユニットと結合し,タンパク質合成を阻害する  グラム陽性菌,グラム陰性球菌,マイコプラズマ,クラミジア  肺への移行性良好 → 肺炎治療薬

マクロライド系抗生物質(16員環) ジョサマイシン ロイコマイシンA3 作用は14員環マクロライドとほぼ同等 Streptomyces narboensis subsp. josamyceticus Streptomyces kitasatoensis 作用は14員環マクロライドとほぼ同等

エリスロマイシン誘導体 クラリスロマイシン アジスロマイシン 胃酸安定性強化 → 経口吸収率改善 抗菌力強化 インフルエンザ菌に抗菌力拡大 アモキシシリンと併用し,ピロリ菌(Helicobacter pyroli)除菌療法 抗菌力強化 インフルエンザ菌に抗菌力拡大 血中持続性強化

グリコペプチド系抗生物質 バンコマイシン(1955) Streptomyces orientalis MRSA感染症(注射) Clostridium difficile偽膜性大腸炎(経口) 耐性菌の出現頻度低い 腎障害 第8脳神経障害(眩暈,耳鳴,聴力低下) ショック,アナフィラキシー様症状 レッドネック症候群(急速静注時)  (顔,頸,躯幹の紅斑性充血,掻痒等) ペプチドグリカン生合成前駆体の D-Ala-D-Ala 構造と複合体形成     ↓ 重合反応,架橋反応阻害

グリコペプチド系抗生物質 テイコプラニン Actinoplanes teichomyceticus MRSA感染症(注射) 血中持続性が長い 腎障害 第8脳神経障害(眩暈,耳鳴,聴力低下) ショック,アナフィラキシー様症状 レッドマン(レッドネック)症候群

ペプチド系抗生物質 ダプトマイシン Streptomyces roseosporus MRSA感染症(注射) 細菌細胞膜に結合し,膜機能を障害 副作用:悪心,嘔吐,下痢,便秘,皮膚炎      ショック,アナフィラキシー様症状,横紋筋融解症

バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の出現 アボパルシン Streptomyces candidus 家畜用 バンコマイシン

ストレプトグラミンA (1958) ストレプトグラミンB (1958) Streptomyces graminofaciens グラム陽性菌に対して相乗的抗菌作用 タンパク質合成を相乗的に阻害 VREにも有効

抗VRE薬 キヌプリスチン 30 : 70 ダルホプリスチン バンコマイシン耐性Enterococcus faecium(VREF)感染症(注射)

リンコマイシン系抗生物質 クリンダマイシン リンコマイシン Streptomyces lincolnensis グラム陽性菌,嫌気性のグラム陽性菌・陰性菌に有効(経口) リボソーム50Sサブユニットと結合し,タンパク質合成を阻害する マクロライド系抗生物質と部分交叉耐性 副作用:Clostridium difficileによる偽膜性大腸炎

アンサマイシン系抗生物質 リファマイシンB リファンピシン Nocardia mediterranei 抗結核薬 RNAポリメラーゼ阻害

ホスホマイシン ムピロシン Streptomyces fradiae グラム陽性,陰性菌に広い抗菌スペクトル(注射,経口) ペプチドグリカン生合成前駆体であるN-アセチルムラミン酸の生合成を阻害する ムピロシン MRSAの鼻腔内感染 血清タンパク質と強く結合 → 鼻腔用軟膏 イソロイシル-tRNA合成酵素を阻害する Pseudomonas fluorescens

抗真菌抗生物質の開発

ポリエン(マクロライド)系抗生物質 アムホテリシンB(1955) Streptomyces nodosus 深在性真菌感染症(注射) 消化管カンジダ症(経口) 細胞膜エルゴステロールと結合し,細胞膜機能を障害 → 殺菌的に作用 真菌症治療のゴールデンスタンダード 副作用:腎障害,皮膚障害

キチン β-1,6-グルカン マンナンタンパク質 エルゴステロール 細胞膜 細胞壁 真菌細胞の表層構造 β-1,3-グルカン

ポリエン(マクロライド)系抗生物質 ナイスタチン Streptomyces noursei 消化管カンジダ症(経口) 皮膚カンジダ症,外陰カンジダ症(外用) 副作用:皮膚障害

その他の抗真菌抗生物質 ピロールニトリン Pseudomonas pyrrociana 呼吸系阻害 クロトリマゾールとの合剤 皮膚白癬菌感染症(外用)

キチン β-1,6-グルカン マンナンタンパク質 エルゴステロール 細胞膜 細胞壁 真菌細胞の表層構造 β-1,3-グルカン

ミカファンギンの開発 真菌細胞壁生合成阻害剤のスクリーニング in vitro Candida albicans Aspergillus fumigatus 抗菌活性 形態変化 プロトプラスト in vivo マウス消化管C. albicans感染モデル  3日間で薬効判定  微生物培養液による検定可能

C. albicans由来b-1,3-グルカンシンターゼ IC50 0.8 mg/ml Candida albicans Coleophoma empetri C. albicans由来b-1,3-グルカンシンターゼ IC50 0.8 mg/ml Candida albicans MIC 0.31 mg/ml Aspergillus fumigatus C. albicansマウス全身感染モデル ED50 1.1 mg/kg 溶血毒性あり WF11899 A

Streptomyces sp. アシラーゼ WF11899A 溶血性低減 活性増強 ミカファンギン

ミカファンギン Candida属,Aspergillus属による真菌感染症(注射) 作用機序:βー1,3ーグルカン合成酵素阻害 アゾールに低感受性の非albicans Candidaやアゾール耐性C. albicansに対しても有効

Pneumocandin B0 カスポファンギン Glarea lozoyensis Candida属,Aspergillus属による真菌感染症(注射) 作用機序:βー1,3ーグルカン合成酵素阻害

抗腫瘍抗生物質の開発

抗腫瘍抗生物質の発見 アクチノマイシンD(1953) アクチノマイシンC(1949) ウイルムス腫瘍 リンパ腫 Streptomyces parvullus A = D-allo-Ile, D-Val B = D-allo-Ile, D-Val ウイルムス腫瘍 Streptomyces chrysomallus DNA依存性RNAポリメラーゼ阻害 リンパ腫

マイトマイシンCの発見 マイトマイシンC(1956年) Streptomyces caespitosus 消化器がん,白血病,肺がん 子宮がん,乳がん,頭頸部がん(注射) DNA架橋形成

ブレオマイシンの発見 ブレオマイシン(1962) Streptomyces verticillus 皮膚がんなどの扁平上皮がんに有効(注射,外用) 作用機序:DNA鎖切断  副作用:肺繊維症,間質性肺炎,造血器への影響なし  扁平上皮細胞:ブレオマイシン取り込み大,ブレオマイシン分解酵素活性低

アントラサイクリン系抗生物質の発見 ダウノマイシン(1963年)(ダウノルビシン) アドリアマイシン(1969年)(ドキソルビシン) Streptomyces peucetius Streptomyces peucetius 急性白血病(注射) 悪性リンパ腫,肺がん,消化器がん, 乳がん,膀胱がん,骨肉腫(注射) DNAインターカレーター(塩基対の間に挿入)・・・トポイソメラーゼⅡ阻害,DNA,RNA合成阻害 アントラサイクリン系化合物特有の副作用:心毒性(蓄積性)

アントラサイクリン系抗生物質 アクラシノマイシンA(アクラルビシン) Streptomyces galilaeus 心毒性低い 胃がん,肝がん,乳がん,卵巣がん, 悪性リンパ腫,急性白血病(注射)

(抗CD33ヒト化モノクローナル抗体複合体) エン・ジイン抗生物質の発見 N-アセチルカリケアマイシン g1I Actinomadura verrucosospora 0.5 ~ 1.5 mg/kg (4,000倍 < ドキソルビシン) ゲムツズマブオゾガマイシン (抗CD33ヒト化モノクローナル抗体複合体) 急性骨髄性白血病(注射)

ラパマイシン誘導体 ラパマイシン エベロリムス テムシロリムス R = H R = CH2CH2OH R = COC(CH2OH)2CH3 Streptomyces hygroscopicus 腎細胞がん,膵神経内分泌腫瘍(エベロリムス)(経口)   mTOR(mammalian target of rapamaycin)阻害 → 血管新生阻害,がん細胞増殖抑制

トラベクテジンの開発 エクテイナシジン743(1984年)(トラベクテジン) サフラシンB Pseudomonas fluorescens エクテイナシジン743(1984年)(トラベクテジン) Ecteinascidia turbinata (海産ホヤ) 悪性軟部腫瘍(注射) DNAインターカレーター・・・ヌクレオチド除去修復阻害

エリブリンの開発 ハリコンドリンB エリブリン クロイソカイメンの抗腫瘍成分 全合成(138工程) ハリコンドリンBをモデルに全合成された  クロイソカイメンの抗腫瘍成分  全合成(138工程) エリブリン  ハリコンドリンBをモデルに全合成された  トータル64工程  乳がん(注射)  チューブリン重合阻害

抗生物質の化学

抗生物質の分類 抗菌抗生物質 β-ラクラム系 ペニシリン系(ペナム系) アンピシリン セフェム系(セファロスポリン系) セファゾリン  β-ラクラム系   ペニシリン系(ペナム系) アンピシリン   セフェム系(セファロスポリン系) セファゾリン   カルバペネム系 イミペネム  アミノグリコシド系 カナマイシン  グリコペプチド系 バンコマイシン  テトラサイクリン系 ミノサイクリン  マクロライド系 クラリスロマイシン  アンサマイシン系 リファンピシン 抗真菌抗生物質  ポリエン(マクロライド)系 アムホテリシンB 抗腫瘍抗生物質  アントラサイクリン系 ドキソルビシン  ブレオマイシン系 ブレオマイシン その他  ペプチド系 ミカファンギン  ヌクレオシド系 ポリオキシン  ポリエーテル系 モネンシン ポリケタイド

β-ラクタム系抗生物質 (カルバペナム) オキサペナム ペナム (オキサペネム) ペネム カルバペネム (カルバセフェム) オキサセフェム

ペニシリンの生合成 アセチルCoA 2-オキソグルタル酸 イソペニシリンN フェニルアセチルCoA セファロスポリンC ペニシリンG L-Cys L-Val アセチルCoA 2-オキソグルタル酸 L-2-アミノアジピン酸(L-Aad) イソペニシリンN L-Aad-L-Cys-D-Val フェニルアセチルCoA セファロスポリンC ペニシリンG

アミノグリコシド系抗生物質 アミノサイクリトール アミノ糖 アミノ糖 中性糖 アミノサイクリトール アミノ糖 カナマイシン ストレプトマイシン

テトラサイクリン系抗生物質 クロルテトラサイクリン オキシテトラサイクリン ナフタセン(テトラセン)骨格

テトラサイクリン系抗生物質の生合成 Methionine 8 ×

マクロライド系抗生物質 エリスロマイシン ジョサマイシン 大環状ラクトン(14員環,16員環)+糖

マクロライド系抗生物質の生合成 8 × グリコシル化 エリスロマイシン

6ーデオキシエリスロノライドの生合成 環化 縮合 還元 縮合 還元 縮合 縮合 還元 脱水 縮合 還元 縮合 還元 AT ACP KS AT KR ACP KS AT KR ACP KS AT ACP KS AT DH ER KR ACP KS AT KR ACP KS AT KR ACP TE 縮合 還元 縮合 還元 縮合 縮合 還元 脱水 縮合 還元 縮合 還元 環化

グリコペプチド系抗生物質 バンコマイシン

アンサマイシン系抗生物質 ポリケタイド 酸化開裂 C7Nユニット シキミ酸経路 リファマイシンB

ポリエン(マクロライド)系抗生物質 アムホテリシンB ヘプタエン ナイスタチン テトラエン

アントラサイクリン系抗生物質 アントラキノン骨格 アミノ糖 アドリアマイシン アクラシノマイシンA