アナフィラキシーの対応 ~食物アレルギーによる アナフィラキシーの3症例から~ 長岡中央綜合病院 小児科 太田匡哉 2014/2/19 アナフィラキシーの勉強会
アナフィラキシー アレルゲン(アレルギーの原因 物質)を摂取した後、全身の複 数の臓器に重篤なアレルギー 症状がおこる状態 アナフィラキシー症状出現時 には数分でショック状態に至 る場合があり(アナフィラキ シーショック)、全身の循環 不全により命を落とすことも ある 一刻も早く治療が必要 アナフィラキシーの原因に なりやすい食物 ナッツ類、甲殻類(エビ・カニ)、 ソバ、ゴマ、小麦
免疫機能に関連するリスク因子(IgE依存性) アナフィラキシーの主な誘因 薬剤 (例:オピオイド系麻薬) 食物 毒液 ラテックス 職業上の アレルゲン 物理的因子 (例:運動、低温、高温、日光) アルコール 免疫機能に関連するリスク因子(IgE依存性) 免疫機能に関連しないリスク因子(肥満細胞を直接的に活性化) Simons, F. E. R. et al.:J Allergy Clin Immunol 127(3):587, 2011より改変 [L20120620023]
アナフィラキシーの症状 皮膚:かゆみ、蕁麻疹、発赤、湿疹 眼:充血、かゆみ、涙、まぶたの腫れ 口・のど:口内の違和感、腫れ、のどのかゆみ、イガイガ感 鼻:くしゃみ、鼻汁、鼻づまり 呼吸器:息苦しい、咳、ゼーゼー、のどがつまる、声がれ 消化器:腹痛、はきけ、嘔吐、下痢、血便 循環器:頻脈、血圧低下、手足が冷たい、蒼白 神経:頭痛、元気がない、ぐったり、意識障害、不穏 ⇒これらが複数同時に出れば『○○によるアナフィラキシー』
症例1 2歳 男児 1歳3ヶ月 卵入りの雑炊を食べて蕁麻疹 以後卵は自主的に除去していた 症例1 2歳 男児 1歳3ヶ月 卵入りの雑炊を食べて蕁麻疹 以後卵は自主的に除去していた 1歳6か月 CAP-RAST 卵白16.9UA/ml(class3) 卵除去継続。パンは食べていた。 【既往歴】 アトピー性皮膚炎 乳児期より発症 【家族歴】 父 アトピー性皮膚炎
症例1 主訴 咳嗽、呼吸苦、蕁麻疹 現病歴 12時頃 天ぷらそばを食べた。天ぷらは初めて。 13:45 咳嗽、呼吸苦の訴えあり。 主訴 咳嗽、呼吸苦、蕁麻疹 現病歴 12時頃 天ぷらそばを食べた。天ぷらは初めて。 13:45 咳嗽、呼吸苦の訴えあり。 14時頃 全身の発赤・蕁麻疹に気が付く。 15:12 救急外来受付。問診時 SpO295%。 診察待ちの間に下痢出現。 17時頃 診察開始。
症例1 現症・身体所見 心拍数 145回/分 体重 11 ㎏ 呼吸数 (記録なし) 体温 37.2 ℃ 血圧 145/86mmHg 症例1 現症・身体所見 心拍数 145回/分 呼吸数 (記録なし) 血圧 145/86mmHg 体重 11 ㎏ 体温 37.2 ℃ 意識 清明(JCS 0) SpO2 91%(room air) 受付時は95% 皮膚症状:全身に紅斑あり、一部蕁麻疹あり。 胸部:ラ音なし、喘鳴なし 心雑音なし 腹部:平坦・軟
症例1 経過 17:05 アドレナリン0.1mg筋注、酸素投与開始 17:10 mPSL、抗ヒスタミン薬、輸液開始 17:20 蕁麻疹の改善あり入院 17:40頃 吸気の延長ありアドレナリン吸入 就寝前にSpO2安定し酸素投与中止。 入院2日目症状の増悪無く退院。
症例1 外来再診で遅延反応が無かったことを確認。 初回の卵によるアナフィラキシーの診断。 総IgE 162IU/ml 卵白 3.45UA/ml 卵黄 0.48UA/ml オボムコイド 3.39UA/ml ソバ 3.76UA/ml 外来再診で遅延反応が無かったことを確認。 初回の卵によるアナフィラキシーの診断。 蕎麦の摂取歴はあり除去せず既往歴から卵の除 去を継続。 アナフィラキシーから1年後以降に閾値確認の ために卵負荷予定。 ミルクのプロバビリティーカーブでは0.94なら10%以下の陽性率。 卵白も10%以下。
症例2 13歳 男児 2歳 どら焼きを食べて蕁麻疹と喘鳴が出現 卵完全除去開始 小学校入学後も卵の完全除去を続けていた。 13歳 症例2 13歳 男児 2歳 どら焼きを食べて蕁麻疹と喘鳴が出現 卵完全除去開始 小学校入学後も卵の完全除去を続けていた。 13歳 新潟市民病院 加熱卵黄(1個分)負荷試験陰性 ゆで卵(全卵)0.5g 負荷試験陽性 少量の誤食でもアナフィラキシーの可能性あり エピペン(0.3mg)処方。 【既往歴】 気管支喘息 4歳で発症 6歳で管理薬中止。
症例2 主訴 悪心、咽頭違和感、嘔吐 現病歴 12:30頃 学校給食で卵入りの千草焼(卵41g)を半 分摂取し悪心出現。 主訴 悪心、咽頭違和感、嘔吐 現病歴 12:30頃 学校給食で卵入りの千草焼(卵41g)を半 分摂取し悪心出現。 (豆腐のあんかけが代替食予定だった) 12:48 頓用の抗ヒスタミン薬内服。 12:57 保健室へ。喉頭違和感ありアナフィラキ シーを疑い救急車要請。移動中に嘔吐出現。 13:35 ストレチャーで当院受診。
症例2 現症・身体所見 心拍数 83回/分 体重 38 ㎏ 呼吸数 30回/分 体温 36.7 ℃ 血圧 110/64mmHg(車内) 症例2 現症・身体所見 心拍数 83回/分 呼吸数 30回/分 血圧 110/64mmHg(車内) 112/64mmHg(来院時) 体重 38 ㎏ 体温 36.7 ℃ 意識 清明(JCS 0) SpO2 97%(room air) 皮膚症状なし 胸部:ラ音なし、喘鳴なし、呼吸音の減弱なし 心雑音なし 腹部:平坦・軟
症例2 経過 13:40 PSL、抗ヒスタミン薬入りの点滴開始 再度嘔吐し咳嗽、鼻汁と呼吸苦の訴え出現。 再度嘔吐し咳嗽、鼻汁と呼吸苦の訴え出現。 13:44 アドレナリン0.3mg筋注 13:45 アドレナリン吸入 14:10 BP83/64mmHgと血圧低下し下肢拳上と輸液 14:18 顔面から蕁麻疹が出現し全身に広がる 15:18 mPSL投与 15:40 血圧安定し症状の進行が収まり入院。 夜には蕁麻疹も消失。 入院2日目遅延反応なく退院。 MPSL40mgには乳糖を含んでいる。125mgには含まれていない。乳糖自体は抗原性はないが極めて微量の牛乳由来のたんぱく質が混入している。 MPSLでの即時型反応の報告もあるため極めて微量の摂取でも症状が出現する牛乳アレルギーでは乳糖添加の表示がある作物は控える方が安全である。 診療ガイドライン2012 P77
症例2 外来で本人、保護者に対してエピペンの再指導 を行い、かかりつけに情報提供。 総IgE 584IU/ml 卵白 57.4UA/ml 卵黄 22.1UA/ml オボムコイド 7.88UA/ml 外来で本人、保護者に対してエピペンの再指導 を行い、かかりつけに情報提供。 今回はアドレナリン投与後も症状が進行したた め卵白の誤食後にエピペン投与を行った際、速 やかに救急要請を行うよう指示。 一般向けエピペンの適応表を本人に説明し、学 校側に提出を指示。 ミルクのプロバビリティーカーブでは0.94なら10%以下の陽性率。 卵白も10%以下。
症例3 16歳 女児 15歳時、昼食でジャージャー麺を食べた2時間後 に体育の授業で1000m走を走った後全身に蕁麻 疹出現。直後に目の前が真っ暗になり倒れた。 数分後に意識が回復。来院時は意識清明、血圧 低下や呼吸困難などの症状は認めず、ステロイ ド及び抗ヒスタミン剤の点滴を施行され帰宅。 非特異的IgE 77 IU/mL、特異的IgE抗体 小麦 class0、ニンジンclass1 と明らかな異常なし。 経過から小麦を原因抗原とする食物依存性運動 誘発性アナフィラキシー(FEIAn)が疑われた。 小麦摂取後はなるべく運動を控えるように指導。
症例3 学校で小麦を含む給食摂取30分~1時間後に蕁 麻疹が出現するエピソードを数回繰り返してい た。(特に運動はしていなかった) 蕁麻疹出現時には抗ヒスタミン剤を頓服。原因 食物として小麦が強く疑われ、小麦除去につい て指導されていたが、他の生徒と違う食事を持 参することを本人が拒否し小麦除去せず給食を 食べ続けていた。 高校生になり、給食から小麦をできるだけ除去 した弁当を持参するようになった。 【既往歴】食物アレルギー、喘息、アトピーなし
症例3 主訴 意識障害、蕁麻疹、呼吸苦 現病歴 入院当日の13時頃、小麦除去の弁当を 家に忘れてしまったため学校でパンを 購入して摂取。 13時30分頃から体育の授業。 持久走(7km)中に全身紅潮、呼吸困難が 出現。意識混濁を認め救急車にて搬送。
症例3 現症・身体所見 心拍数 122回/分 体重45㎏ 身長150㎝ 呼吸数 24回/分 体温 36.3℃ 症例3 現症・身体所見 心拍数 122回/分 呼吸数 24回/分 血圧 49/26mmHg(車内) 67/39mmHg(来院時) 体重45㎏ 身長150㎝ 体温 36.3℃ 意識 混濁(JCSⅡ-10) SpO2 83%(room air) 全身紅潮・軽度浮腫様、両足部のみ蒼白 顔面の浮腫著明 胸部:ラ音なし、浅呼吸で両肺の換気低下あり 心雑音なし 腹部:平坦・軟
症例3 救急外来でのショックに対する救急処置 アドレナリン 0.3ml 筋注 ショック体位(両下肢拳上、弾性包帯による両 下肢圧迫) 症例3 救急外来でのショックに対する救急処置 アドレナリン 0.3ml 筋注 ショック体位(両下肢拳上、弾性包帯による両 下肢圧迫) 酸素マスク 10L/min 乳酸加リンゲル 計1000ml 急速輸液 mPSL 40㎎およびd-クロルフェニラミン5㎎点滴 静注 アドレナリン0.2ml+生食1ml 吸入
症例3 経過 加療から10分程度で収縮期血圧90mmHg以上に 安定し、意識鮮明となった。 mPSLおよびd-クロルフェニラミン点滴静注後1 時間程度で呼吸困難、全身の紅潮および顔面の 浮腫は軽快した。 遅発症状発現の可能性も考え、入院経過観察を 行ったが、明らかな症状は出現せず、入院2日 後に退院。
症例3 ω5グリアジン陽性でFEIAnの診断。 外来にてエピペン(0.3mg)を処方。小麦摂取後 の運動を禁止した。 15歳 16歳 非特異的IgE 77 IU/mL 抗原 class スギ 1 ダニ ハウスダスト 卵白 ミルク 小麦 ソバ 抗原 class ピーナッツ 大豆 ゴマ 豚肉 ニンジン ジャガイモ タマネギ 抗原 class ω5グリアジン 3 ω5グリアジン陽性でFEIAnの診断。 外来にてエピペン(0.3mg)を処方。小麦摂取後 の運動を禁止した。
食物依存性運動誘発性 アナフィラキシー(FEIAn/FDEIA) Food dependent exercise-induced anaphylaxis 小学生の有病率は0.005%(2万人に1人)、中学生で 0.017%(6000人に1人)であり稀な疾患ではある が、近年増加傾向にある。 ある特定の食品を摂取した後通常2時間以内に運動 をした場合に蕁麻疹・呼吸困難・アナフィラキシー をきたす疾患であり、食物単独および運動のみでは 何も起きないとされている。 原因食物として小麦・甲殻類が多い。 一般的な食物アレルギーに比べ重度のアナフィラキ シーをきたす可能性が高い。
食物依存性運動誘発性 アナフィラキシー(FEIAn/FDEIA) 原因食物を確定し、食後2時間以内に運動をしなくて はいけないときには原因食物を避けるように指導する ことが必要。 アナフィラキシー症状が出現した場合には、ショック に至る可能性も高いため、直ちにアドレナリンの自己 注射(エピペン)を行うべきである。 原因食物の確定が困難な例では食物負荷運動誘発試験 を行う場合もあるが、症状誘発による危険を伴う。 小麦が原因の場合、通常の食物アレルギーの原因であ る水溶性蛋白ではなく、非水溶性のω-5グリアジンが 主な原因とされており、小麦のCAP RAST等では陰性/ 偽陽性程度しか検出できないことが多い。
エピペンについて ハチ刺傷、食物アレルギーなどによるアナフィラキシー に対する緊急補助治療薬。 アナフィラキシー発症の際に医療機関へ搬送されるまで の症状悪化防止を主な目的とする。 患者本人以外に、保護者、教職員、救急隊にも使用が許 されている。 処方するにあたって、ファイザー製薬による講習会また はオンライン講習が必要。 2011年9月から保険適用 0.3mg規格;10,950円 0.15mg規格;8,112円 ※使用期限;およそ1年間、1年ごとに再処方が必要
一般向けエピペン®の適応(日本小児アレルギー学会) エピペン®が処方されている患者でアナフィラキシーショックを疑う場合、 下記の症状が一つでもあれば使用すべきである。 当学会としてエピペン®の適応の患者さん・保護者の方への説明、今後作成される保育所(園)・幼稚園・学校などのアレルギー・アナフィラキシー対応のガイドライン、マニュアルはすべてこれに準拠することを基本とします。
アナフィラキシーのGrade分類
日本小児アレルギー学会『食物アレルギー診療ガイドライン2012』より引用
アナフィラキシーの薬剤投与量 0.1%アドレナリン筋注 0.01mg/㎏/回 成人の最大量0.5mgまで(50㎏以上は同量) Rボスミン(0.1%) 1mg/ml ⇒ 10㎏なら0.1ml筋注 輸液 等張液をショックであれば10-20ml/㎏を10- 20分で急速投与 ⇒ 10㎏なら生食200mlを10分 酸素 SpO2低下あればマスク10Lで開始 抗ヒスタミン薬 Rポララミン5mg (RアタラックスPは鎮静作用があり推奨されず) ステロイド PSL10-15kg/kg, mPSL 1-2mg/kg
アドレナリン筋注部位 大腿外側(大腿の内側じゃなければ可) 筋注だから垂直に刺す エピペンならズボンの上からでも可
成人・小児のバイタル 低血圧 成人:90mm Hg以下、平常時の30%以上の低下 心拍数 成人:50-90 小児:3ヶ月-2歳 100-190、2歳-10歳 60-140、 10歳以上 60-100
まとめ アナフィラキシーは医療現場の日常の業務で遭 遇する機会も多い病態であるが、救命のために 迅速で正確な対応が必要である。 まずアナフィラキシーを疑うこと。アナフィラ キシーであれば応援を呼び、Gradeを判断して 治療を行う。 アドレナリン筋注の正しい投与量と投与部位を 熟知しておく。