認知心理学 日常の記憶 今井むつみ.

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はじめに 近年、飲酒が関与する重大な交通事故が発生しており、未成 年の時からのアルコールについての正しい教育がより重要と なってきている。 タバコは学校において健康被害等の防煙教育が徹底されてき ているが、アルコールは喫煙と異なり健康を促す側面もあり全 否定できないため防酒教育導入の難しさがある。しかし、一方.
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認知心理学 日常の記憶 今井むつみ

今日のテーマ 私たちの記憶はどのくらい正確で信頼ができるか 私たちの記憶の確かさはどのように要因に影響されるか

いつも見慣れているコイン

ラベルによって見たものが変わる?

三日月 C 5

7 4 6

カーテン 長方形内のひし形 7

2 8 8

スキーマ理論と記憶(1) 私たちが記憶することは、私たちがすでに知っていることによって大きく影響される スキーマ:あらゆる種類の一般的知識をカバーする一般的な術語 例:物語スキーマ(物語がどのように展開するかについての抽象的な知識) スクリプト:特定の種類の出来事に関する一般的な知識 例:レストランでの食事スクリプト フレーム:特定の物体や場所の特性に関する知識 例:茶の間についてのフレーム

スキーマ理論と記憶(2) 記憶表象は経験の「複写」記録ではない スキーマが記憶に影響を与える局面 スキーマに影響される過程で能動的に構築される スキーマが記憶に影響を与える局面 選択:何が符号化され記憶に貯蔵されるか 貯蔵:現在の情報はスキーマの枠組みで貯蔵される(貯蔵される情報のタグ付け) 標準化:出来事の記憶は先行する期待に一致するようスキーマと首尾一貫するようにゆがめられる傾向 統合化:現在の経験はスキーマが提供するデフォルト値と統合されて記憶に表象される 検索:特定の記憶を検索するためにスキーマを通じて探す、検索された情報が直接表象されていないときには、スキーマに基づいた推論によって検索することが可能

ブランスフォードとジョンソンの実験 非常に曖昧な文章を提示 統制群 実験群 →読者はどのスキーマを想起したらよいのかわからない スキーマの想起ができないので文章をよく理解できない →符号化ができない、スキーマの枠組みにそった記憶表象がつくれない 実験群 スキーマの想起を援助される →スキーマを通じて文章を理解、スキーマの枠組みでの記憶表象→高い再生率

セレナーデ問題

洗濯問題

検索時におけるスキーマの影響 Anderson & Pichert(1978)の実験(1) 少年が学校をずる休みし、家族がいない家で一日を過ごすストーリーを構成 テキストは72の概念ユニットを含む 道路からほどよく引っ込んだ魅力的な古い家 じめじめした地下室 10段変速の自転車、カラーテレビなどの家族の財産のあれこれなど それぞれの概念ユニットについて不動産屋にとっての重要性と泥棒にとっての重要性を評定(本実験には参加しなかった別の被験者)

検索時におけるスキーマの影響 Anderson & Pichert(1978)の実験(2) 本実験 半分の被験者は不動産屋の観点から、残りの半分の被験者は泥棒の観点から読む 12分の妨害課題の後、再生 5分の遅延の後、2度目の再生 (このとき、被験者の半分はテキストを読んだときの視点と違う視点で再生するよう指示された 不動産屋→泥棒、泥棒→不動産屋)

検索時におけるスキーマの影響 Anderson & Pichert(1978)の実験(3) 結果 スキーマを変更した被験者は2回目の再生で1回目の再生よりも7%多くの概念を再生 スキーマ変更をしなかった被験者の2回目の再生量は1回目よりわずかに低下 新たに与えられたスキーマにおいて重要な概念の再生 →10%増加 前のスキーマでは重要だが現在のスキーマにとっては重要でない概念の再生 21%減少

物についての記憶 Brewer & Treyens(1981)の実験(1) 被験者を一人ずつ部屋に来させ、25秒間その部屋に一人でいさせる 次に別の部屋に呼び、最初の部屋で見たものを全て再生するように指示 最初の部屋 大学院生の研究室風、61のアイテム スキーマに関連するもの(机、タイプライター、コーヒーポット、カレンダーなど) スキーマに無関連なもの(コマ、樹脂の破片) 別の被験者でスキーマ期待尺度と顕著性尺度の二つの尺度で評定

物についての記憶 Brewer & Treyens(1981)の実験(2) 結果 再生された項目はスキーマ期待性尺度が高いものと顕著性尺度が高いもの(最もありそうな項目ともっとも人目をひく項目) 実際には存在しなかった項目が再生される(ファイルキャビネット、ペン、電話器など) 位置についての記憶も標準化(物体を標準的な位置に移して再生:メモ帳は実際には椅子のシートの上にあったのに、机の上にあると思いだされた)

目撃者の証言 目撃した出来事に関する記憶がどれだけ頑健なものか 法定での目撃証言の信頼性に関して大きな示唆 誘導尋問、誤った情報、質問の際の微妙な言い回しが記憶に影響を与えるか Loftus:記憶は変容する これに対して誤った情報は質問への答え方に対してバイアスを与えるが最初の記憶には影響を与えないという反論もある

誤誘導情報の効果 Loftus(1975)の実験(1) 実験の手順 自動車事故のような出来事の映画か一連のスライドを見る 目にした出来事についての事後情報を与えられる(質問をされたり、その出来事の物語的記述を読まされたりする) 最初の出来事についての記憶について調べる

誤誘導情報の効果 Loftus(1975)の実験(2) 第2段階で被験者は2つにグループ分けされる 首尾一貫条件(正しい情報) 「白いスポーツカーが停止標識を通り過ぎたときに、それはどのくらいの速さで走っていましたか?」 誤情報条件(誤った情報) 「白いスポーツカーが田舎道を走っていて農家の納屋を通り過ぎたときそれはどのくらいの速度で走っていましたか?」(実際には映画には納屋はでてこない) 記憶テストで納屋を見たといった被験者 首尾一貫条件群:3%以下 誤情報条件群:17%

誤誘導情報の効果 Loftus, Miller, Burns(1978)の実験(1) 実験の手順(1) 被験者に自動車事故についてのカラースライドを見せる 被験者の半分:停止標識で停車した赤のダットサンのスライド 残りの半分:前方優先道路ありの標識のところで停車した赤のダットサンのスライド

誤誘導情報の効果 Loftus, Miller, Burns(1978)の実験(2) 実験の手順(2) 質問(半数は事後情報一致、半数は矛盾) 各グループの半分:「赤のダットサンが停止標識でとまっていたあいだに別の車がそれを追いこしたかどうか」 残りの半分:「赤のダットサンが前方優先道路ありの標識でとまっていたときに別の車がそれを追いこしたかどうか」 20分後に強制選択再認テスト 結果(正答率) 一致した情報を与えられた被験者:75% 矛盾した情報を与えられた被験者:41%

目撃者の証言 質問の言い回しによる目撃者の証言への影響(1) Loftus(1974) 多数の自動車の関わった事故の映画を見せたあと被験者に質問 Did you see a broken headlight? Did you see the broken headlight? →より多くの肯定的な答え

目撃者の証言 質問の言い回しによる目撃者の証言への影響(2) Loftus & Palmer(1974) 「自動車同士が激突した(smashed)ときに、車は大体どれくらいの速さで走っていましたか?」 「衝突した(collided)」 「どんと突き当たった(bumped)」 「接触した(contacted)」 「ぶつかった(hit)」 「激突した」と言われた被験者は「車はどれくらいの速度で走っていましたか?」という質問に対してスピードがより速いと評価 割れたガラスがなくても「割れたガラスを見ましたか?」に対してイエスと答える率が高かった