Rossby 波動が関係する成層圏平均東西風の変動例

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Rossby 波動が関係する成層圏平均東西風の変動例 冬季 東西平均の温度の時間変化(突然昇温と呼ばれるー>10章) 東風 西風 東風 西風 1979年2月26日の東西平均風 この現象に中高緯度の惑星波動(planetary波)が重要、β効果から引き起こされるその線形波動の振る舞いや性質について述べておこう。 北半球冬 1月の平均東西風

5—1:準地衡風方程式について - 線形的にRossby波を取り出すための準備 - いま中・高緯度を見るので sin   をある緯度のまわりに展開(赤道 beta 平面近似と同じやり方) (1) これを以下のように表す  (2) 第2項の大きさは1000kmのスケールでは 10(-11)x10(6)m=10(-5) 惑星スケールの擾乱について、中・高緯度においては地衡風近似が観測的に成り立つから第0近似の式として   (3) (4) これは定常の式である —> 時間発展的にはどうなるか? ということで、次のorderまで進む 大規模な運動についての鉛直移流の項については w が小さいとしてその項を落とす。すると第1次近似として次の式になる。ここで時間微分、移流項およびβ - 項の u, v については地衡風とし、f 項には次のorderの量をいれる      (5) (6)

1の添え字 は第1次近似(地衡風からのずれ、この項があると地衡風が少しずつ運動する)の量。次に運動が水平的なのでそれを表すものとして渦度の鉛直成分の方程式を導く。渦度の鉛直成分(地衡風成分のみ)は (7) (6)のx-微分から(5)のy-部分を引く。地衡風の水平発散はゼロ((3), (4) から)であることを考慮すれば、 (8) ここで渦度に地衡風近似を使えば( (3) , (4) ) (9) 第0近似では水平速度は地衡風で非発散であった。1次のオーダーの u1 , v1 に対応した連続の式は (10) である。ここでw にはゼロの添え字をつけた。それを考慮すると(8)の準(完全には地衡風の定常状態ではなく時間変化するのでこの様な名前がついたのだろう)地衡風の渦度方程式は (11) ここで密度(圧力)は H のスケール・ハイトで変化している。

次に準地衡風方程式での熱力学の方程式は以下のようにする。 (12) ここで温度の水平移流の速度の所に地衡風を用いた。(12)が準地衡風近似の熱力学の方程式である。(11)と(12)を一つにまとめると準地衡風近似におけるPotential Vorticity 方程式が得られる。 (13) (14) この様に、準地衡風近似の方程式は1つの変数のみの時間発展の式で表される。また(3)と(4)から流線関数を導入する。 (15) β はコリオリ項の南北微分からでたことを思い出すと(14)はさらに (16) とすると(準地衡風近似でのポテンシャル・渦度) (17) Rossbyモードの保存的な時間発展の式になる この方程式を用いて、5章では惑星波動の鉛直・南北の伝播性を、7章では中層大気の傾圧不安定や順圧不安定の問題に適用してみよう。

5−2:惑星波(Planetary wave)の鉛直伝播 成層圏大規模擾乱の冬と夏の違い 中・高緯度中層大気の大規模な渦の様子に目を向けよう。図は10mbの水平断面図(等圧面高度)を示す。地球規模の波動的擾乱(惑星波、Planetary wave 又はロスビー波、Rossby wave )をみることが出来る。下に対流圏高低気圧の図をのせている。それに比べこの図では水平スケールが大きいことにきずかれるであろう。なぜ? これが惑星波の鉛直伝播の問題である。 高 図:1979年1月26日の10mbのHeight図。 低 右に夏の場を示しておこう、ほとんど丸い! 図:7月平均の10mbの温度分布 ー> 500mb, 1964 Nov 20の高度場

惑星波動(Planetary wave)鉛直伝播の1つの見方  冬の成層圏では東西方向に一様ではない渦がみられ、一方夏には東西方向にほとんど一様な風のみしかないことをみた。成層圏平均東西風の緯度−高度断面図では、冬と夏では東西風の向きが異なる。すなわち夏では東風、冬では西風である。この冬と夏の、東西方向に一様でない大規模擾乱の振舞いの違いについては、CharneyとDrazinによってはじめて理論的に示された(JGR, 1961)。 西風 東風  話しは線形の議論である。基本流として”一定”の東西風のみが吹いていると仮定する。もし東西風が高さの関数であれば、解析的には特別の場合を除き解けない(高さの1次関数のときは合流型の超幾何関数で表される)。一般には東西風は高さ及び南北方向にも変化している。そのときには球面の効果をきちんと考慮した準地衡風の方程式が必要であろう。この問題についてはMatusno(1970) を参照 −> あとで ということで、理解しやすいのでまず最も簡単な話しをする。一定の東西風 u0 が吹いているときの線形の準地衡風の方程式は以下のよう、またよくやるように、ここではN2は一定と仮定、 (18) <-- よくやるように東西、南北に波の仮定をおこない、東西に位相速度 c で動くとし、また鉛直方向には密度の効果を考慮して流線関数を以下の様に仮定する。 (19) この様に仮定すると鉛直の構造を決める方程式は以下の様になる。 (20)

である。m2 が正ならば波として鉛直に伝播が可能であることを示す。m2 が負ならば鉛直方向に指数関数の形になり伝播は不可能になる。 ここで (21) である。m2 が正ならば波として鉛直に伝播が可能であることを示す。m2 が負ならば鉛直方向に指数関数の形になり伝播は不可能になる。 (21)をみてきづくことは k , l が大きいと負になることである。すなわち水平のスケールが小さい(あまり小さくなると準−地衡風の近似が使えなくなる、1000kmくらいの水平スケールまではいいよう)と鉛直方向に伝播しない。図に対流圏、中・高緯度の大規模擾乱がのっている。対流圏の擾乱の方が明らかにスケールが小さい。この話しは数千kmの擾乱が自励的に対流圏に生成することと矛盾しない。エネルギーが逃げたら不安定になりにくいであろうから。  定常惑星波の原因(または生成)の1つとしてすぐに考えられるのは山岳による強制である。そのとき位相速度はゼロである(線型で時間∞のとき、また海陸の熱の違いの時も同様)。このとき(21)は (22) 周期 この式から東風のときm2 は負となり鉛直に伝播不可。これが夏の成層圏において定常惑星波がない理由である。また上式から西風があまり強くても伝わらない。この臨界速度をRossby critical velocityと呼ぶ。式で表すと (23) 波数 陰の部分が鉛直伝搬 ここで β = 1.6 x 10 -11 s-1 m-1 , Lx = 2π / k = 28000 km , Ly = 2 π / l =10000km , f = 10-4 s-1, N = 2x10-2 , H = 7 km と選ぶと Uc = 28 ms-1 , となる。この数値はそれほど大きくない。これは南北のスケールを小さく選んだためである。例えば南北巾10000kmの南北に伝播しないモード(standing mode)ならば Ucはもっと大きい。

これまでは β-平面の一定東西風での議論である。南北伝播を含め、球面上の準地衡風近似の方程式を使った議論をみておこう(cf これまでは β-平面の一定東西風での議論である。南北伝播を含め、球面上の準地衡風近似の方程式を使った議論をみておこう(cf. Matsuno, 1970)。 球面上で一様な東西風(南北と鉛直の関数とする)があるときの線形の準地衡風方程式は(Adrews et al., 1987, Middle Atmosphere Dynamicsから): 計算に使われた東西風緯度-高度図 有効的なβ効果 定常な(c=0)惑星波動として(上式で時間微分をおとす) のような形を仮定する(東西方向には波形、鉛直南北の波の構造を決めたい) N2が一定のときは以下の式になる、 n : 屈折率と呼ばれる u=0は特異点

観測で見積もられ、計算に使われた波に関しての下部境界(500mb)条件、モデル下端で擾乱を強制する 有効β項の分布図 振幅 位相 波数1 緯度 波数0に対する屈折率の二乗 波数3 定常な惑星波動の臨界層 観測で見積もられ、計算に使われた波に関しての下部境界(500mb)条件、モデル下端で擾乱を強制する

水平分布の計算例(Matsuno,1970, J. Atmos. Sci 水平分布の計算例(Matsuno,1970, J. Atmos. Sci.)、約30kmでの高度分布(波数=1-3を足してある)、アリューシャン高気圧が見える。右下は観測による高度場。200m間隔で1967年の1月の状況、下図は500hPaでの高度場偏差(これを境界条件として与える、100m間隔) 境界条件としての500hPa高度場偏差、 左を強制することで、図のような線形波のresponseとしての結果 60Nでの波数1成分の振幅と位相 観測による、1967年1月

波数1と2の鉛直、および南北伝播性、1の方が上層まで伝播している。 左の結果に対応した波数1惑星波動のエネルギーフラックス、上方および赤道方向に波が伝わっていることが見える。 波の振幅と位相 対応:異なる表現 準地衡風近似で、定常惑星波動の場合は、 近年は、運動量的な流れである、Eliassen-Palm フラックスによる表現が多い、惑星波動の場合、

平均東西風、左が南半球で右が北半球、上図が1月で下図が7月 波数1、上が波の振幅(decameters)、下が波の位相。左7月(南半球)、右が1月(北半球) 西風 振幅 西風 東風 位相 30mb以上は Nimbus 5( Jan. 1973からDec. 1974), 6( Jul. 1975からJun. 1978) 衛星データ

最近の衛星観測例:Garcia et al., JAS, 2005 赤道中間圏(西風)まで penetration SABERで得られた2002 June-July(夏)の平均温度、右の惑星波動の解析とは季節が異なる 14K 120km 中間圏界面 0.01mb 成層圏界面 1mb 14km 1/25-2/24, 2002:定常惑星波動(波数=1)に伴う温度の振幅と位相

5−3:球面上の自由振動について  前節は惑星波動の強制問題(対流圏で強制した波が鉛直に伝播する問題)をあつかった。この節では自由振動の話。ここでは、等温静止大気の振動を  地球全体を感じる自由振動ですから、地表面で鉛直流ゼロが自然な選択     等価深さ(鉛直構造)が決まる(どんな構造になるか?) もともとの高度座標での境界条件は のように書かれるであろう。 Geopotentialで書き換えると 時間の全微分    は log-p 座標で線形的に(平均の風がないとする) であろうから、 がlog-pでの下部境界条件となる。等温静止大気では なので、上の式は と書かれる。 一方、熱力学の式は log-p 座標では だったので、2つの式から    を消すと、

等温大気のとき         であるので、上の式を変形して、 となる。上式の時間微分を落とすと、   についての境界条件としては、 これが Geopotential に関する自由振動にたいする下部境界条件である この境界条件から自由振動の鉛直方向の解は変数分離形 として、上の境界条件の式に対応するものとして大気の中も のような形をもつ。これはあきらかに外部波である(鉛直には伝播しない形)。鉛直方向の方程式は1章の赤道波と同様に だから、計算すると、 ここで、       を用いて、

書き直すと、 これが自由振動の等価深さである。浅水波としたときの速度          は音速に等しい。320m/sで等価深さとしての h は おおよそ10kmとなる。スケールハイトと比較して、 (比熱比)分大きくなる。 その時の変数分離した形で地球の回転を考慮した球面上の式を書くと,    は自由振動の時の等価深さである. この式をいつものように(球だから経度をつかう) のように分離すると,南北の構造を決めるLaplaceの潮汐方程式がでてくる。 これが基本的な長波(鉛直に静力学平衡を満たす波)に関する球面上の式である.     として,

s=1(東西波数1)のときの、等価深さ h(横軸) と振動数との関係の図。 図の(a), (b)はh>0のときで、(c),(d)はh<0を示す。左図は東に伝わる波で右図は西に伝わる波である。東に伝わる波はKelvin波とか慣性重力波と書いてある。西に伝わる波は惑星波とかRossby-重力波とか慣性重力波と書いてある。  図(b)の○印のドット入りはあとの例にある自由振動の5日waveに対応している(惑星波のところ)。h=10kmに対応したところである。  南北に高次のRossby波に対応しては、波の周期がゆっくりになっている。Rossby波の分散式で 等価深さ 振動数 周期 東進慣性重力波 5日 惑星波 南北波数が大きくなれば、c は小さくなり、周期はゆっくりなるであろう。 ⊗は1日潮汐の第1モードを示す(13章)

5−4:現実大気中でのRossby波の自由振動 前節でみたように、自由振動は外部波の1つで、なめらかな固体境界を満たす振動である.境界条件を考慮すると、             の形なので、鉛直方向には指数関数的に大きくなる。 赤道対称 Hirooka(1992):s=1, 周期=5日の成層圏 1hPa での自由Rossby波、西に伝播している。 この5日波が南極大陸で作られているという話しもある、Cheong and Kimura(1997, JAS):500mbで、軸が南北に傾いている(自由振動の解では南北に位相軸は傾かない)。また、Miyoshi and Hirooka(1999, JAS)では湿潤過程の重要性を指摘している。 Maddenにより解析された周期5日の自由Rossby波、s=1で赤道対称な基本モード(海面気圧高度場)の水平構造、右は鉛直分布。破線は理論的な鉛直構造、それよりゆっくり振幅が増大している。

衛星観測結果:5day波の全球構造 equinox seasonの5day波 平均東西風、boldは高度偏差最大 1977 Oct. 温度 Lawrence and Randel, 1996, JGR 平均東西風、boldは高度偏差最大 1977 Oct. 温度 位相 西向き 約81kmでの温度スペクトルの緯度分布 高度の振幅と位相

最近の衛星観測結果から:5day wave SABER data, 2002年の春での5 day 赤道対称Rossby normal modeの温度分布 Garcia, 2005, JAS

水蒸気変動に見られる準5日波 (normal modeらしい) Sonnermann et al., JGR 2008 水蒸気変動に見られる準5日波 (normal modeらしい) マイクロ波をもちいた観測とLIMAモデルとの比較 5/1 2003 7/1 2003年、May/Juneの観測された水蒸気変動、ALOMAR(69N, 16E), Norway, マイクロ波 モデルの水蒸気変動の時間緯度断面図

極中間圏雲(Polar Mesopheric Cloud)変動に見られる準5日波 Merkel et al., JASTP 2009 CIPS, 中間圏の氷エアロのミーspacecraft上の、雲imageと粒子サイズ測器 Cloud Imaging and Particle Size Instrument on the Aeronomy of Ice in the Mesosphere spacecraft 2007年の夏、それぞれの緯度における、solstice期のzonal dayly頻度変化、5日程度の変動 波数ー振動数スペクトル解析、正振動数が、西向き伝播をしめす、波数 s=1で5日あたりに強いシグナルが見える 経度180バンドでの、雲アルベードの変化の時間変動

データ解析で求められた、10day wave(自由振動)の構造、1981, Apr.の1hPa高度偏差、50m間隔 10日波について データ解析で求められた、10day wave(自由振動)の構造、1981, Apr.の1hPa高度偏差、50m間隔 東西波数1で南北に最初の基本的な3つのモードの理論的な構造分布図、10日波=図の(1,2)モードは反対称モードの最も簡単な南北構造をもつ。 振幅の時間的な変化の様子

赤道角運動量(Equatorial Atmospheric Angular Momentum, EAAM)に現れる10日波 Feldstein, JAS, 2006, 565-581 質量の寄与 風の寄与 EAAMの位相(NCEP/NCAR 冬期dataから) EAAMのtendencyに線形回帰した地表面気圧ー>赤道に関して反対称に近い構造 EAAM vectorの約10-day の変動にs=1 反対称Rossby normal modeが対応しているらしい <ー地表面気圧の変化によるマスバランスの違いで変動をもたらしているよう。 グリニッジにおける赤道角運動量の位相 ー>10日程度の振動

観測で求められた、16day wave(自由振動)、これは赤道に関して対称モードである。Hirooka and Hirota, 1985, J. Atmos. Sci. 冬半球の方にシグナルが見える(非対称的)。下は4月の振幅変動(対称的) 線形計算に用いられた冬の基本風 80km 赤道対称的 計算で求められた(Salby, 1981, J. Atmos. Sci.)16日波の緯度-高度図、冬の極に大きな振幅をもっている。構造はかなりいびつになっている。 1980年

Dima, Wallace, and Kraucunas, 2005, Dima and Wallace, 2007, JAS: 5−5:対流圏の赤道Rossby波 n=1赤道Rossbyモード 定常のforcing(東西には周期的) 年平均の降水量(影、mm/day)と150hPaの高度(線)および水平風ー>赤道Rossby波的構造がみえる 10S-5N平均の、eddy成分の高度(色)と東西、鉛直速度(矢、m/sとcm/s)/m2 )、但しERA-40 data 定常応答の解、Matsuno, 1966, JMS