脂質管理における アンメットニーズ 寺本 民生 先生 監修 : 帝京大学医学部 臨床研究センター センター長 2015年6月作成

Slides:



Advertisements
Similar presentations
今 日 の ポ イ ン ト今 日 の ポ イ ン ト 糖尿病人口は予備群を含めると 2,050 万人1.1. 糖尿病は血糖値が高くなる病気 ただし自覚症状がほとんどありません 2.2. 血糖値が高い状態を「高血糖」といいます3.3. インスリンの作用が弱くなったために高血糖に なったのですが、高血糖は必ず改善できます.
Advertisements

メタボリックシンドロームの考え方. 危険因子の数と心臓病のリスク 軽症であっても「肥満(高 BMI )」、「高血圧」、「高血糖」、「高トリグリセリド(中性脂肪) 血症」、または「高コレステロール血症」の危険因子を2つ持つ人はまったく持たない人に比べ、
サノフィと Regeneron 社は、脂質管理の重要性の認知 向上と LDL コレステロール治療におけるアンメット メディカルニーズの研究に寄与してまいります。 脂質管理におけるアンメットニーズ 2015 年 6 月作成 2016 年 5 月改訂 SAJP.ALI 監修 : 帝京大学医学部.
山口県医師会 禁煙推進委員会 禁煙の効用 1. 山口県医師会 禁煙推進委員会 禁煙の効用 禁煙後 20分 12時間 2週間~ 3ヵ月 1~9 ヵ月 1年 5年 10年 血圧や脈拍が下がる 血液中の一酸化炭素濃度が正常になる 心機能が改善する 肺機能が回復する 咳、息切れが改善される 上昇していた冠動脈疾患のリスクが半減す.
米国の外来呼吸器感染症での抗菌薬投与状況 抗菌薬投与率 普通感冒 5 1% 急性上気道炎 52% 気管支炎 6 6% 年間抗菌薬総消費量 21% 【 Gonzales R et al : JAMA 278 : ,1997 】
健診時血圧 160/100 以上 ⑨ 市町村主催の 健康教室等へ の勧誘 健診時血圧 160/100 以上 健診時血圧 160/100 以上 健診時血圧 160/100 未満 かつ未治療 のもの 汎用性の高い行動変容プログラ ム 高血圧対策(案)
11-2 知っておくと役立つ、 糖尿病治療の関連用語 一次予防、二次予防、三次予 防 1.1. インスリン依存状態 インスリン非依存状態 2.2. インスリン分泌 3.3. 境界型 4.4. グルカゴン 5.5. ケトアシドーシス、ケトン体 6.6. 膵島、ランゲルハンス島 7.7. 糖代謝 8.8.
1. ご高齢の糖尿病患者さんと 若い人との違いはなに? 2. ご高齢の糖尿病患者さんの 治療上の注意点 3.
1. 動脈硬化とは? 2. 動脈硬化のさまざまな 危険因子 3. さまざまな危険因子の 源流は「内臓脂肪」 4. 動脈硬化を防ぐには
インスリン治療費に関する 医師・患者意識調査結果
レニンーアンジオテンシンシステムの阻害が、 左心室機能が残存している急性冠動脈症候群 患者の血清アルドステロンの上昇を抑える:
Update in ESC: Dabigatran among OAC
福山市民病院 内科 山陽病院 内科 辰川匡史 (武田製薬の資料を参考にしました )
LDL-C代謝機構の 新たなパスウェイ PCSK9 野原 淳 先生 監修: 金沢大学大学院 医薬保健学総合研究科 脂質研究講座 特任准教授
 脂質異常症における   食事療法の基本 管理栄養士 森 律子.
背景 CABGを必要とする虚血性冠動脈疾患の背景には動脈硬化の影響があり、プラークの退縮効果が明らかにされているスタチンを投与することで予後を改善する効果が期待される CABGを行った患者に対しスタチンを投与することで予後を改善する効果を検証することが本研究の目的である 2015/2/17 第45回日本心臓血管外科学会.
CHA2DS2-VAScスコア別 RE-LY®サブグループ解析結果の考察 小川 久雄 熊本大学大学院 生命科学研究部 循環器病態学
Association of Major and Minor ECG Abnormalities With Coronary Heart Disease Events 心電図異常と 心血管イベントの関係 谷川 徹也 JAMA, April 11, 2012—Vol 307, No
全身倦怠感 全身倦怠感はさまざまな病気にみられます 疲れやすい… だるい…
うつ病と心臓疾患 世界精神医学会 “Depression and Heart Disease”
職員健診;判定基準変更 ~血圧・脂質・尿酸等の疫学、 診療ガイドラインを背景として~ 高血圧症/脂質異常症合併患者の疫学と治療実態 1.
EWTOPIA75 高LDLコレステロール血症を有するハイリスク高齢患者 (75歳以上)に対するエゼチミブの脳心血管イベント発症
糖尿病の病態 中石医院(大阪市) 中石滋雄.
聖マリアンナ医科大学救命救急医学教室 今西 博治
糖尿病とは インスリン作用不足による 慢性の高血糖状態を主徴とする 代謝疾患群 まず糖尿病とはどんな病気か知ってしますか?
2型糖尿病患者におけるナテグリニドと メトホルミン併用療法の有効性と安全性の検討
透析患者に対する 大動脈弁置換術後遠隔期の出血性合併症
生活習慣病について 船橋市医師会ホームページ掲載用.
メタボリック症候群(MetS)の有無と、成人以降の体重増加とCKDの関連
野菜は1日350g食べましょう 料理例 D-4 野菜350gの目安 80g 85g 100g 100g 75g 80g 140g 75g
一般住民の大腿骨近位部骨折発症率で 認められる地域差は、 血液透析患者でも認められる
CHA2DS2-VAScスコア別 RE-LY®サブグループ解析結果の考察 小川 久雄 熊本大学大学院 生命科学研究部 循環器病態学
第2回栄養セミナー 川崎医科大学 糖尿病内分泌内科 衛藤 雅昭 生活習慣病(肥満,糖尿病,高脂血症)の 食事療法
1. 血糖自己測定とは? 2. どんな人に血糖自己測定が 必要なのでしょうか? 3. 血糖自己測定の実際 4. 血糖自己測定の注意点
第1章:ATIS(アテローム血栓症)とは? atherothrombosis
汎用性の高い行動変容プログラム 特定健診の場を利用した糖尿病対策(非肥満を含む)
Hironori Kitaoka.
生活習慣を変え、内臓脂肪を減らすことで生活習慣病の危険因子が改善されます
1. 痛風・高尿酸血症とは 2. 糖尿病・糖尿病予備群と 痛風・高尿酸血症の関係 3. 高尿酸血症の治療は 3ステップで 4.
血管と理学療法 担当:萩原 悠太  勉強会.
汎用性の高い行動変容プログラム 特定健診の場を利用した糖尿病対策(非肥満を含む)
循環器疾患領域の代表目標項目(17) 8 循環器疾患、9 糖尿病 循環器疾患の減少に関する代表目標項目(5)
日本糖尿病学会のアクションプラン2010(DREAMS)
ヒトインスリン混合製剤30から 二相性インスリン アスパルト30/70への 切り替え時における食後高血糖および 動脈硬化の改善
1. 糖尿病の患者さんは、脳梗塞や 心筋梗塞に注意が必要です 2. 脳梗塞と心筋梗塞の原因は どちらも動脈硬化です 3.
メタボリック シンドローム.
栄養成分表示は、 健康づくりに役立つ重要な情報源 栄養成分表示ってなに? 栄養成分表示を活用しよう① 〈留意事項〉
脂質異常症.
資料 1.「指導対象者群分析」のグループ分けの見方 特定健康診査及びレセプトデータによる指導対象者群分析 【フロー説明】
EWTOPIA75 高LDLコレステロール血症を有するハイリスク高齢患者 (75歳以上)に対するエゼチミブの脳心血管イベント発症
4.生活習慣病と日常の生活行動 PET/CT検査の画像 素材集-生活習慣病 「がん治療の総合情報センターAMIY」 PET/CT検査の画像
井澤修平 早稲田大学大学院人間科学研究科 日本学術振興会特別研究員
小児に特異的な疾患における 一酸化窒素代謝産物の測定 東京慈恵会医科大学小児科学講座 浦島 崇 埼玉県立小児医療センター 小川 潔、鬼本博文.
健診におけるLDLコレステロールと HDLコレステロールの測定意義について~高感度CRP値との関係からの再考察~
第2回 市民公開講座 糖尿病を知って その合併症を防ぎましょう
福島県立医科大学 医学部4年 実習●班 〇〇、〇〇、〇〇、〇〇、〇〇、〇〇
高脂血症.
災害時の循環器リスクスコア - AFHCHDC7 Score
St. Marianna University, School of Medicine Department of Urology 薄場 渉
1.
A-2 男性用 健診結果から今の自分の体を知る 内臓脂肪の蓄積 ~今の段階と将来の見通し~ 氏名 ( )歳 摂取エネルギーの収支
心電図 二次チェック 非ST上昇心筋梗塞 ST上昇心筋梗塞 ー不安定狭心症 予防的治療: (禁忌でなければ): βブロッカー、ACE阻害薬
A-3 女性用 健診結果から今の自分の体を知る 内臓脂肪の蓄積 ~今の段階と将来の見通し~ 氏名 ( )歳 摂取エネルギーの収支
1. 糖尿病の患者さんは 血圧が高くなりやすい 2. 糖尿病に高血圧が併発して 合併症が早く進行する 3. 血圧コントロールの 目標と方法
吹田研究(2009年発表分) (対象:4694人、期間11.9年)
(上級医) (レジデント) 同意説明取得 無作為化 割り付け群による治療開始 来院時
1. ご高齢の糖尿病患者さんと 若い人との違いはなに? 2. ご高齢の糖尿病患者さんの 治療上の注意点 3. ご高齢の糖尿病患者さんの
疫学概論 §C. スクリーニングのバイアスと 要件
衛生委員会用 がんの健康講話用スライド.
疫学概論 臨床試験の種類 Lesson 14. 無作為化臨床試験 §B. 臨床試験の種類 S.Harano,MD,PhD,MPH.
Presentation transcript:

脂質管理における アンメットニーズ 寺本 民生 先生 監修 : 帝京大学医学部 臨床研究センター センター長 2015年6月作成  センター長 寺本 民生 先生 2015年6月作成 SAJP.ALI.15.06.1631

心血管系疾患の既往歴の有無にかかわらず高コレステロール血症患者の主要治療目的はLDL-Cを低下させることです1,2,3 高リスク群 非常に高いリスク群 [Ref 1/ Reiner et al. 2011/ Pg1783/col2/para2, Pg1784/col1/para2] [Ref 2/ Grundy et al. 2004/ Pg231/col1/para1, Pg232/col1/para3 /para4] [Ref 3/ Go et al. 2013/ Pg e73/para5] [Ref 4/ Jones et al. 2012/ Pg4/table2] [Ref 5/ Stein et al. 2003/ Pg1291/table3] Ref 6/ Pijlman et al. 2010/ Pg191/table1] LDL-C 管理目標値 100 mg/dL未満 LDL-C 管理目標値 70 mg/dL未満 欧州心臓病学会 (ESC)/欧州動脈硬化学会 (EAS) および全米コレステロール教育プログラム成人治療委員会 成人治療パネル(NECP ATP)III ガイドラインは、心血管イベント発症高リスク群のLDL-C管理目標値は100 mg/dL未満、非常に高いリスク群では70 mg/dL未満と推奨しています1,2 1)European Association for Cardiovascular Prevention & Rehabilitation, et al.: Eur Heart J 32(14): 1769-1818, 2011 2)Grundy SM, et al.: Circulation 110(2): 227-239, 2004 3) 日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版, 杏林舎, 東京, 2012

LDL-C 1 mmol/L(39mg/dL)の減少につき、1年あたりの心血管系イベントの相対リスクが22 %低下することが示されています4 (%) 50 [Ref 1/ CTT 2010/ pg1674/col1/para2, pg1679/col1/para2] 冠動脈疾患イベント発症率の低下率 40 l n [Ref 2/ La Rosa et al. 2005/ Pg1434/figure4] [Ref 3/ O’Keefe et al. 2004/ Pg2144/fig3] 30 i e j 22% m k f d 20 g h 10 a c b IMPROVE-IT a: GISSI Prevenzione; b: ALLHAT-LLT);c: ALERT; d: LIPS; e: FCAPS/TexCAPS; f: CARE; g: LIPID; h: PROSPER; i: ASCOT-LLA; j: WOSCOPS; k: Post CABG; l: CARDS; m: HPS; n: 4S -10 0.5 1.0 1.5 2.0 (mmol/L) 19 39 58 77 (mg/dL) LDL-Cの減少量 4) Cholesterol Treatment Trialists’ (CTT) Collaboration, et al.: Lancet 376(9753):1670-1681, 2010 5) Cannon CP , et al.: N Engl J Med June 3, 2015

LDL-C 50mg/dL未満の群で主要な心血管系イベントの発症率のハザード比は0.44と最も低値であることが示されています6 1.5 ハザード比 * 1 1 0.71 0.64 0.56 0.58 0.51 0.5 0.44 <50 (n=4,375) 50〜<75 (n=10,393) 75〜<100 (n=10,091) 100〜<125 (n=8,953) 125〜<150 (n=3,128) 150〜<175 (n=836) ≧175 (n=375) (mg/dL) *LDL-C 175mg/dL以上群を1.00とした場合 対象 : スタチンによる治療が行われ、その後1年以上のフォローアップがなされた8つの無作為化臨床試験、解析対象38,153例 方法:メタ解析の手法を用い、管理LDL-C値ごとの主要心血管系イベント発症リスクについて検討 6) Boekholdt SM, et al.: J Am Coll Cardiol 64(5): 485-494, 2014

日本において、心血管疾患のハイリスク患者は、厳格な脂質管理が必要であるにもかかわらず、約3割は管理不十分です7 ● 二次予防群・一次予防カテゴリーIII群の合併疾患別 LDL-C管理目標値未到達率 全国15施設の電子カルテシステムより、2009-2012 7) 寺本 民生 ほか:薬理と治療 41:415-424, 2013

日本においても、糖尿病など複数の代謝危険因子を保有する一次予防患者では、心血管死亡率は高いことが示されています8 NIPPON DATA 90 ● 耐糖能異常の有無別に見た危険因子数と循環器疾患死の関係 耐糖能異常なし 耐糖能異常あり 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 3.67 1.00 1.91 1.99 1.61 1.78 3.25 心血管疾患死のハザード比 なし 1個 2個 3個以上 なしまたは (n=181) (n=1,604) (n=2,600) (n=1,451) (n=985) (n=249) (n=149) 耐糖能異常以外の危険因子数 8) Kadota A, et al.: Diabetes Care 30(6): 1533-1538, 2007

既存の薬物療法にもかかわらず急性冠症候群(ACS)患者の 心血管系イベント再発率は依然高いままです9 薬物治療, % 入院患者 フォローアップ患者 全例 (n=3,597) 一年 (n=3,351) 二年 (n=3,228) 抗血小板薬(全例) 99.3 92.2 84.7 抗高血圧薬 91.6 86.3 79.4 スタチン 77.8 75.0 69.5 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.10 0.04 0.03 0.01 0.02 ST上昇型心筋梗塞患者 7.48% 全例 累積心血管系 イベント発症率 4.75% 非ST上昇型ACS患者 p=0.001(STEMI vs NSTE-ACS, Log-rank test) 180 360 540 720 900 (日) ACS発症後の追跡期間 対象:20歳以上日本人ACS入院患者3,597人を2年間追跡調査 方法:2年間主要な心血管系イベントの累積発症率をKaplan-Meier法で解析 9) Daida H, et al.: Cric J 77(4): 934-943, 2013

FH患者は若年からの累積LDL-C値がきわめて高く、CHD発症予防のために早期からの介入が必須です10 (mg/dL) 8,000 53歳 35歳 48歳 6,000 55歳 高用量スタチン で開始 推定累積LDL-C値* 4,000 低用量スタチン で開始 FH:無治療 FH:18歳より治療 非FH脂質異常症 2,000 6 12 18 24 30 36 42 48 54 60 (歳) 推定累積LDL-C値:推定LDL-C値×年 推定LDL-C値算出モデル 非FH :0-15歳 80mg/dL、15-24歳 100mg/dL、25-34歳 120mg/dL、35-54歳 140mg/dL FH :無治療 180mg/dL :低用量スタチンを用い10-18歳より治療開始 120mg/dL :高用量スタチンを用い18歳時点で治療開始 100mg/dL 10) Wiegman A et al.: Eur Heart J. 2015 May 25. pii: ehv157

糖尿病を含む二次予防患者および一次予防患者では、LDL-C低下によるCHDイベント予防効果が複数の研究によって示されています11 (%) 55 4S DM (プラセボ群) 50 糖尿病患者の二次予防 二次予防 一次予防 45 40 冠動脈性心疾患イベントの発症率 35 30 4S DM (シンバスタチン) CARE DM (プラセボ) 25 LIPID DM (プラセボ) LIPID DM (プラバスタチン) 4S (プラセボ) 20 CARE DM (プラバスタチン) 4S (シンバスタチン) 15 LIPID (プラセボ) 10 CARE (プラセボ) WOSCOPS (プラセボ) CARE (プラバスタチン) WOSCOPS (プラバスタチン) LIPID (プラバスタチン) 5 AFCAPS (ロバスタチン) AFCAPS (プラセボ) 60 80 100 120 140 160 180 200 220 LDL-C 平均値(mg/dL) 11) Fisher M: Heart 90(3): 336–340, 2004

まとめ ● LDL-C 値とCVイベント発症との間には明らかな相関が認められる ● CVイベント発症リスクに応じてLDL-C値を管理することが重要 (二次予防の場合:日本のGLでは<100mg/dL, 欧米では<70mg/dL) ● 欧米のデータでは、LDL-C値を50mg/dL未満に管理した際のHRは0.44と最も低いことが示されている ● 日本では、約3割がLDL-C管理目標値を達成していない ● 複数の危険因子を保有する糖尿病併発高コレステロール血症、ACS発症後の2次予防、家族性高コレステロール血症など、未だにCVイベントリスクが高い病態もあり、現状の脂質低下療法の課題となっている