恒星系との相互作用による大質量ブラックホール連星の進化 岩澤全規(国立天文台), 安相容(サムスン), 松林達史(NTT), 船渡陽子(東大), 牧野淳一郎(国立天文台) I will be talking about “Eccentric evolution of supermassive black hole binaries”
発表要旨 殆どの銀河に大質量ブラックホール(SMBH)が存在し、銀河の合体によってSMBH連星が形成 近年のN体シミュレーションから質量の異なるSMBH連星の離心率が非常に高くなる事が分かった。しかし何故離心率が上昇するのかは分かっていなかった。 本研究では離心率成長の機構を解明した。
発表概要 研究背景 SMBH連星の離心率成長機構 議論 まとめ SMBH連星の形成 Final Parsec Problem 重力波観測 まとめ
大質量ブラックホール(SMBH) ほとんどの銀河中心領域に106-1010M8の大質量ブラックホール(SMBH)が存在する。 log Mバルジ [M8] log MSMBH [M8] Marconi and Hunt 2003 ほとんどの銀河中心領域に106-1010M8の大質量ブラックホール(SMBH)が存在する。 MSMBH∝Mバルジ 何故この様な関係があるか分かっていない。 ガスの降着によるSMBH成長(Umemura 2001)。 銀河の合体によるSMBH成長
階層的構造形成 銀河は銀河同士の衝突合体を繰り返していくことで、成長していく。 星 SMBH 銀河は銀河同士の衝突合体を繰り返していくことで、成長していく。 SMBHが銀河の衝突合体で合体成長出来るのなら、MSMBH∝Mバルジは説明できる。
SMBH連星の形成 merge 銀河の衝突によりSMBH連星が出来る(Begelman et al. 1980)。 連星の距離が十分近ければ、重力波放出によってエネルギーが散逸し、合体出来る。 merge
SMBH連星の合体に関する理論 (Begelman el. al 1980) 連星の周りの星がなくなる(loss cone depletion)。 銀河の緩和によってloss cone内に星が供給される。 連星の進化の時間スケール = loss cone 内に星が運ばれる時間スケール = 緩和時間 (∝星の数N e.g.銀河では1016yr) >> Hubble Time 重力波によって合体出来る程連星は近づけない。 SMBH連星は宇宙年齢内には合体出来ない (Final Parsec Problem)
銀河中のSMBH連星に関する最近の研究 Makino & Funato (2004) 銀河モデル中にSMBH粒子を二つ置いたN体シミュレーション。 Nが大きい程銀河の緩和時間は長い。 SMBH連星の進化は銀河の緩和で決まる。 N=103 N=106 時間 宇宙年齢では合体不可能。 しかし、観測的には、SMBHが合体成長している。
M&F後の研究 Berczik et. al 2006, Iwasawa et al.(準備中) 親銀河が3軸不等だと連星の進化が遅くならない。非軸対称ポテンシャル場では角運動量が保存しないので多くの星が中心を通る。 Perets et al. 2008, Matsui et al. 2009 銀河中に星団や分子雲等がある場合、実行的な緩和時間が短くなる。 Armitage(2005), Mayer(2007),etc… 早崎さん講演 ガス円盤との相互作用で効率的に角運動量を抜く。 離心率が高ければ連星は重力波放出により合体出来る。 重力波による合体のタイムスケール∝(1-e2)3.5 Iwasawa et. al 2007, 谷川さん講演 SMBH3体以上あるとそのうちの2体が離心率の高い連星を形成。 Matsubayashi et. al 2007, Iwasawa et. al (準備中) 質量の異なるSMBH連星はe>0.99になる。
質量の異なるSMBH連星の進化 質量が異なるSMBH連星の離心率が非常に高くなる。 Matsubayashi et al (2007) 質量比 1:1000 安 修士論文(2008) 質量比 1:10 何故、離心率が上がるのかについては分かっていない。 本研究では、離心率が上がる機構を解明した。
質量の異なるSMBH連星(1:1000)の軌道進化の研究 Matsubayashi et al (2007) 銀河中にSMBH粒子を二つ置いたN体シミュレーション。 質量比q=1/1000 高離心率の連星が出来る。 軌道長半径 1800 18000 18000 1-離心率 1800 Lockmann & Baumgardt (2008) も同様の結果。 SMBH連星の離心率が非常に高くなる。
本研究概要 質量の異なるSMBH連星のN体シミュレーションを行い、周りの星の軌道の変化を調べることで、何故、離心率が上がるのかを調べた。
初期条件 銀河モデル N=4096 MBH=1010M8, 8*107M8 Mgalaxy=1.25*109M8 ρ∝r-7/4 (Bahcall-Wolf カスプ) N=4096 MBH=1010M8, 8*107M8 Mgalaxy=1.25*109M8 OJ287(SMBH連星候補)を想定 10pc
連星の進化 軌道長半径 離心率 e>0.99 重力波による合体時間 離心率が非常に高くなる SMBHは宇宙年齢以内に合体
角運動量を持ちさる粒子 LZ ⊿Lzの累積 中心近くの星が角運動量を持ちさる。 SMBHの遠点
中心近くの星の軌道 順行軌道 順行軌道 逆行軌道 逆行軌道 軌道の向きは頻繁に変化する。 SMBHの離心率も頻繁に変化する。 軌道の向きが変化する 順行軌道 順行軌道 Star: Lzを失う BH: Lzを得る e: 下がる 逆行軌道 Star: Lzを得る BH: Lzを失う e: 上がる エネルギーはほぼ一定 逆行軌道 軌道の向きは頻繁に変化する。 SMBHの離心率も頻繁に変化する。
何故軌道の向きが変化するのか ? 軽いSMBHの軌道は非軸対称ポテンシャル場を作る(永年摂動, 古在機構). 星のLzは保存されないので軌道の向きは変化する。
3体問題での軌道変化 aBH/aFS=1/3 eBH=0.0 or 0.5 eFS=0.75 i=60degree BHが円軌道: Lz保存
この機構により、SMBHと星は効率的に角運動量の交換を行う。 この機構だけでは、統計的には離心率は進化しない。 他の機構が必要
星の選択的なエスケープ 順行軌道 エスケープした星の累積個数 順行軌道 逆行軌道 逆行軌道 順行軌道の星はエスケープしやすい
何故、順行軌道の星がエスケープしやすいのか? 星は軽いSMBHに近づいた時に散乱される 逆行軌道 相対速度:大 衝突断面積:小 散乱されにくい 順行軌道 相対速度:小 衝突断面積:大 散乱されやすい
何故、離心率が上がるのか? 順行軌道 逆行軌道 角運動量が抜ける機構は二つの過程の組み合わせ。 角運動量を持って逃げる 星の軌道の向きの反転 順行軌道の星の選択的なエスケープ 角運動量を持って逃げる 星はLzを失う SMBHはLzを得る 離心率は下がる 星はLzを得る SMBHはLzを失う 離心率は上がる エスケープ しやすい エスケープ しにくい。 順行軌道 逆行軌道
何故、離心率が上がるのか?(別の説明) N順行<N逆行 N順行=N逆行 軌道の向きが保存しないので、N順行=N逆行 になろうとする。 SMBHは角運動量を失い、離心率が上がる。 順行軌道を選択的に弾き飛ばすため、逆行軌道を持つ星が多くなる。
等質量SMBH連星との違い(私的予想) Aarseth 2003, Berentzen 2009 では等質量SMBH連星でも離心率が成長。 星の選択的エスケープが起こらない。 非等質量:軽いSMBH連星に近づく星を散乱 等質量:軌道長半径に入った星を散乱 重い質点+非軸対称摂動ではなくなる。 重いSMBHの軌道運動が無視できない。 恒星系の自己重力が無視できない。 Aarseth 2003, Berentzen 2009 では等質量SMBH連星でも離心率が成長。 両シミュレーションとも初期の離心率が高い。
等質量SMBH連星の離心率進化 等質量SMBH連星のN体シミュレーション 銀河:plummer model BH質量:銀河質量の1% 粒子数:256k 初期に高い離心率を持った連星は、さらに離心率が高くなる。 初期の離心率が大事。 おそらく同じ機構で離心率の成長が起きている。
重力波を観測出来るか? 近点通過時に振幅の大きなパルス状の重力波を放出 重力波干渉計(Lisa): 厳しい。 パルサータイミング: 観測出来る。
まとめ SMBH連星の離心率が成長する機構を解明した。 Minor mergerでSMBHは成長できる。 SMBHが非軸対称ポテンシャル場を作る。星の角運動量が変化し、SMBH連星の離心率も変化。 順行軌道の星が選択的に弾き飛ばされる。 Minor mergerでSMBHは成長できる。 Major mergerでも合体する可能性がある。 初期の連星の離心率が大事 銀河がhead on collisionに近ければ合体出来る? 離心率の高い連星からの重力波を観測可能