東アジア鉄鋼業の構造とダイナミズム -主要な論点について- 電力中央研究所社会経済研究所 2006年8月28日 東北大学大学院経済学研究科 川端 望 Web公開版では、写真の一部を省略いたしました。会場での投影と異なり、学術以外の目的にも使用可能になってしまうことを考慮したものです。
報告の課題 拙著『東アジア鉄鋼業の構造とダイナミズム』ミネルヴァ書房、2005年、の内容骨子と論点を紹介し、ご批判を仰ぎたい。
発行以後の評価 書評 アジア経済研究所発展途上国研究奨励賞最終選考対象。落選。 『ふぇらむ』Vol.11 No.6、日本鉄鋼協会、2006年6月(横山一代氏) 『産業学会研究年報』第21号、産業学会、2006年3月(田中彰氏) 『季刊鐵の世界』第136号、日本金属通信社、2006年3月。 『日刊鉄鋼新聞』2006年1月24日付、鉄鋼新聞社。 ブログ「小田中直樹ネタ帳」2005年12月19日付。 アジア経済研究所発展途上国研究奨励賞最終選考対象。落選。
本書のキーワード 本書全体に関わって 各章に関わって--自分でも明確でない? 東アジア経済発展 企業類型-生産・貿易構造 後方連関効果 市場の階層性 序列性・多様性・可変性 各章に関わって--自分でも明確でない? 日本:協調的寡占・同質的競争 タイ:プロセスリンケージ。階層的企業間分業。 ベトナム:駆け足のステップ・バイ・ステップ。担い手の転換と多様性(発展段階による担い手の転換) 中国山西省:環境破壊、技術移転、技術選択
序章 東アジア鉄鋼業研究の位置づけ
序章の課題 「東アジア」という限定をつけることの意味を明確にする。 東アジア経済における「鉄鋼業」研究の課題を明確にする。
東アジア経済発展の理論化:「産業発展と国際分業」視角 各国は比較優位構造を活用して輸出産業を形成 比較優位構造の転換に対応した産業構造転換 一国:比較優位産業の交代を通じた産業構造高度化 一産業:先発国から後発国へと伝播 先進国比較劣位部門のFDIを通した形成 内発的形成 →自由化に対応しうる輸出志向工業化戦略
「産業発展と国際分業」論 「産業発展と国際分業」論の特徴 諸理論の同質性 どの産業がいつどこで育つかが重要になる。産業育成策につながる。 雁行形態論(赤松要・小島清) 重層的追跡過程論(渡辺利夫) キャッチアップ型工業化論(末廣昭) アジアダイナミズム論(大野健一)
少ない先行研究から何を学ぶか 雁行形態論の図式は実証されてない 東アジア鉄鋼業研究の絶対的不足 繊維→鉄鋼→自動車→電子の順とは限らない 東アジア鉄鋼業研究の絶対的不足 日本、韓国、中国の国別研究はあるが 後方連関効果(今岡・大野・横山編[1985]) 輸出志向工業化→後方連関効果による国内鉄鋼市場拡大→鉄鋼業発展の可能性 制度と能力の重要性(D’Costa[1999]) 構造的制約と、主体的行動による環境変化の関係を左右する「制度」と「能力」 途上国工業の二重性(大野[2003b]) 輸出向けと国内向けに鉄鋼市場も階層化? ※この論点は15頁で出てくるが、先行研究に即して5-7頁でも書いておくべきであった。
東アジア鉄鋼業研究の課題 日本鉄鋼業の優位をどう見るか 中国鉄鋼業の成長をどう見るか アセアン諸国鉄鋼業は発展しうるか 市場は階層化するか なぜ強いか。どこまで強いか。今後はどうか。 日本のFDIや技術協力はアジアにどう影響しているか 中国鉄鋼業の成長をどう見るか 世界一の生産規模と市場規模 国際競争力は強くない アセアン諸国鉄鋼業は発展しうるか 後方連関効果は作用しているか 適切な政策と担い手が存在するか 市場は階層化するか 先進国と途上国 途上国内部の輸出向けと国内向け
第1章 東アジア鉄鋼業分析のフレームワーク -企業類型を基礎とした生産・貿易構造分析-
第1章の基本的課題 鉄鋼業の構造とダイナミズムを把握するためのフレームワークを設定する
企業類型論の方法 生産能力の水準と構成を、プロセスに即してとらえる(生産力視角) 企業を単位としつつ、企業間関係を分析する(生産関係視角)
3つの基本的企業類型 高炉法による銑鋼一貫企業 電炉法による製鋼圧延企業(電炉企業) 単純圧延企業 その他 フルライン生産 薄板類生産の担い手 高級鋼材生産の担い手 電炉法による製鋼圧延企業(電炉企業) 建設用条鋼類中心 単純圧延企業 その他
生産・貿易構造論の構成 企業類型による生産構造論 生産構造による国・地域別のグループ化 貿易分析 →東アジア規模の生産構造把握へ 鉄鋼業では、溝田[1982]、岡本[1984]、長島[1987]。 生産プロセスに基づく事業所の構造→企業の構造・類型化 多様な企業類型を産業の中で位置づけ、相互の関係を明らかに 先験的な巨大企業必勝論、垂直統合化=高度化論はとらない 生産構造による国・地域別のグループ化 鉄鋼業だから適切か?普遍性あるか? 貿易分析 財の流れを通して分業構造をとらえる 投資の流れはどう位置づけたらよいか? →東アジア規模の生産構造把握へ
経済発展と技術選択:途上国の場合 建設産業の発展→製鋼圧延企業による条鋼生産 製造業の発展→鋼板生産のところに壁 新技術による可能性 単圧:リスク小。母材供給不安 銑鋼一貫:リスク大。母材供給安定 新技術による可能性 薄スラブ連続鋳造 薄板生産の必要投資額と最小効率規模を低める 高炉以外の製鉄法 フレキシブルな銑鉄生産 資源条件によって安い鉄源となる
最小効率規模の違い 参入障壁が違ってくることに注意 最小効率規模と投資額の推定は合理的か 一つずつは確かな事例だが、統一的資料ではない。 企業類型 最小効率規模 投資額 銑鋼一貫製鉄所 300万トン 40億ドル以上 製鋼圧延所 30万トン 1億ドル以上 単圧ホット 100万トン 3億ドル 単圧冷延 25万トン 1億ドル 薄スラブ連鋳・CSP 3.3億ドル 直接還元法 50-100万トン 参入障壁が違ってくることに注意 最小効率規模と投資額の推定は合理的か 一つずつは確かな事例だが、統一的資料ではない。 単圧ホット100万トンというのは小さすぎるか。
生産プロセス視点と製品視点 企業類型 製品 高級鋼材 銑鋼一貫企業 フルライン 中心的生産者。とくに薄板類。 (普通鋼)電炉企業 条鋼類。次第に鋼板類に拡大。 通常は困難。薄スラブ連鋳と還元鉄を使用して挑戦。 単圧企業 鋼板単圧なら、高級化も可能。
第2章 東アジア鉄鋼業の生産・貿易構造 -序列性と多様性-
第2章の課題 第1章で設定した枠組みにより、東アジア鉄鋼業の生産・貿易構造分析を概観する。 その結果から、第3-6章の国・地域別分析の課題を示唆する。
東アジア鉄鋼業のグループ化 Ⅰ 銑鋼一貫体制が確立 Ⅱ 銑鋼一貫体制未確立 Ⅰ-1 銑鋼一貫企業による大量生産(日本、韓国、台湾) Ⅰ 銑鋼一貫体制が確立 Ⅰ-1 銑鋼一貫企業による大量生産(日本、韓国、台湾) Ⅰ-2 特異な技術構成と制約された大量生産(中国) Ⅱ 銑鋼一貫体制未確立 Ⅱ-1 還元鉄一貫企業による量産(インドネシア) Ⅱ-2 一貫生産の不在(タイ、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ベトナム、香港) 以上のことから、東アジア諸国・地域の鉄鋼業をグループ化するとこのスライドのようになります。 第1グループは銑鋼一貫体制による生産が中心となっている諸国・地域で、日本、韓国、台湾、中国が含まれます。 第2グループは、銑鋼一貫体制が確立していない諸国であり、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ベトナムが含まれます。北朝鮮は古い一貫製鉄所があると聞いていますが、極度に情報が不足していることと、東アジア経済のダイナミックな発展から外れているため、ここでは分類していません。
分析の指標 主要企業の技術体系 巨大一貫企業の存在 主要企業への生産集中 鋼板類生産における主要企業の地位 市場との結合 巨大一貫企業以外の企業の地位 鉄鋼貿易
第3章 日本 -二大グループ化と国際提携の意義-
第3章の課題 1990年代末から2000年代初頭にかけて生じた企業間関係転換の意義を明らかにする 2大グループ化 国際提携 JFEスチールの成立 新日鉄・住友金属・神戸製鋼の提携 国際提携
先行研究と研究視角 一貫企業の革新的特徴は持続しているか、変化しているか 企業間関係分析:協調的寡占と同質的競争 90年代前半まで持続(伊丹・伊丹研[1997]、Yonekura and Guelle[1998]) バブル崩壊で変化(馬場・高井[1994]、十名[1996a]、川端[1995][1998]) 企業間関係分析:協調的寡占と同質的競争 協調的寡占と同質的競争はセットである 日本企業の恒久的特質ではなく、変質・崩壊した
協調的寡占と同質的競争の構造 協調的寡占体制の成立 同質的競争の展開 契機としての新日鉄成立と第一次石油危機 一貫製鉄所建設競争の終焉 粗鋼生産集中度の上昇とコスト競争力の確立 「コスト・プラス適正利潤」の価格設定 価格調整の回避と生産量調整。遊休能力の保持。 同質的競争の展開 コスト削減・製品開発競争の展開 同質化した購買・生産・販売プロセスを切磋琢磨 協調の基礎を再生産
協調的寡占と同質的競争の展開・変質・崩壊 一貫企業の競争力は維持されてきた 一貫企業は建設用条鋼類市場以外は維持し続けた 高炉5社はいずれも競争から脱落しなかった 安定した利益はあげられなかった 1980年代には、「コスト・プラス」は不可能になっていた 90年代後半には価格協調・生産調整も困難になった バブル崩壊以後、一貫企業は4回にわたって経常損失を記録
協調的寡占と同質的競争を変質させた要因 アウトサイダーとの価格競争 大口ユーザーに傾いた交渉力 市場の海外へのシフト 一貫企業相互の競争 POSCO 電炉企業 大口ユーザーに傾いた交渉力 ゴーン・ショックで価格協調・シェア維持が困難に トップ・サプライヤーでなければ優遇されない→JFEスチール成立の背景に 市場の海外へのシフト 輸出して顧客は確保したが、寡占的コントロールは効かない 一貫企業相互の競争 いったん価格・シェア競争になると、悪循環に 1990年から2001年まで価格は下がり続けた(以後反転)
息切れする研究開発・設備投資 同質的競争は、技術進歩を遅らせなかった 技術指標での水準の高さ(大型高炉、エネルギー原単位、製品品質など) 物的労働生産性向上(1991-2001年53.8%向上) しかしバブル崩壊以後、収益低迷によって研究開発・設備投資は低迷し、イノベーションはマイナー化した 高炉の内容積拡大、寿命延長など 人減らしによる生産性向上・コスト削減に傾斜した 物的生産性は向上したが、価格低迷に打ち勝てなかった 付加価値生産性低下(1991→2001年度:29.6%低下)
国内の2大グループ化 新日鉄を中心とした国内提携 JFEスチールの成立 ステンレス事業統合 和歌山製鉄所再建 4ヶ所の一貫製鉄所を2ヶ所に統合 2001年度粗鋼生産シェア24.7%(新日鉄25.6%)
海外提携の3パターンと相互浸透 海外鉄鋼企業との間での技術移転+技術交流 新日鉄-アルセロール JFE-ティッセン・クルップ 住金-コーラス 新日鉄-アルセロール JFE-ティッセン・クルップ 住金-コーラス 神鋼-フェスト・アルピーネ JFE-広州鋼鉄による亜鉛めっき工場建設 新日鉄-宝山合弁による冷延・亜鉛めっき工場建設 住金和歌山製鉄所製銑・製鋼工程の合弁化と中鴻鋼鉄へのスラブ輸出 母材供給による工程間分業 JFE-TCRSS,現代ハイスコ、東国製鋼、ペルスティマ、海南海宇錫板 新日鉄-SUS、CSC 市場安定化 新日鉄-POSCO
企業間関係再編の展望 独占禁止問題? グローバル競争は抑制されない 橋梁談合問題などは再編に関係なくある 規模の経済 1)二大グループ化 価格決定力の強化 2)二大グループ化 4) 市場安定化のための国際提携 顧客との関係強化 3)JFEの広範な製品バラエティ VE・VA提案 特殊な製品・サービス開発 5)提携先への母材供給 技術交流・技術移転のための提携 期待効果/対象市場 国内市場 グローバル市場 独占禁止問題? グローバル競争は抑制されない 橋梁談合問題などは再編に関係なくある ※しかし、これ以上の合併では問題になるか?
日本の一貫企業の将来 2大グループ化と国際提携は、企業間関係の一大転換であった 協調的寡占と同質的競争の中で競争力は維持されてきたが、収益性は安定しなかった 崩壊と戦略的転換 まだ維持されている開発・生産能力をいかに強化し、活かすか。それがポイント 高収益を機会に技術的保守化を逆転させられるか 高級鋼材生産のイニシアチブをとり続けられるか (裏返すと)開発・生産能力に依拠する以外の(ミタル・スチールのような)戦略は、日本企業には無理ということ。 ※136-138頁はクリアでない。よく考えると、結局言いたいことは、藤本[2003]の能力構築競争論とほぼ同じ。(ただし、鉄鋼業の場合「ものづくり能力は健在だ」と言い切れない。これは川端[2006]を参照)
第4章 タイ ―プロセス・リンケージと階層的企業間分業― 第4章 タイ ―プロセス・リンケージと階層的企業間分業―
第4章の課題 タイを途上国鉄鋼業のリーディング・ケースとして考察 貿易・投資の自由化と輸出志向工業化の下での鉄鋼業建設 途上国鉄鋼業の技術選択
薄板生産におけるプロセス・リンケージと階層的企業間分業 藤本[二〇〇四]のいうインテグラル・プロセス+α プロセス間の調整 各プロセスの高い技術水準 出所 二〇〇三年三月の各社へのインタビューと各種公表資料から筆者が作成。
高級鋼材を生産する外資系企業 TCR-SSのCPCM(酸洗・冷延連続ライン)。最終スタンドのみ6段ミルであとは4段。2003年3月川端が撮影。 写真省略
SSIが使用する輸入スラブ 写真省略 SSIの近辺にある港で荷揚げされるスラブと、港付近に野積みしてある在庫。 2003年3月川端撮影。
鉄鋼貿易問題とFTAの展望 ホットコイルに対するアンチ・ダンピング課税問題(2003年) 本質的な要求は、ホットコイル現地調達 国内生産不可能品種(ローモ原板など)は適用除外 一般品は課税 再圧延用は? 適用除外だが、除外枠を5年かけて減らす SSI等国内メーカーのホットコイルを、冷延企業、日系ユーザーでトライアルする 本質的な要求は、ホットコイル現地調達 タイはFTAの条件として日本に技術協力を要求
途上国鉄鋼業発展への教訓 自由化のタイミングへの注意 薄板の輸入代替への課題 輸出志向工業化による高級鋼材市場の形成と市場の階層化 外資系圧延企業を誘致し、プロセス・リンケージの一部を担わせれば、高級鋼材の輸入代替も可能 低級品から中級品へレベルアップする道も。そこから先が難しい ※165-166頁は論点がクリアでない。上のようにすべきであった
日本鉄鋼企業の課題 一貫管理に基づくプロセス・リンケージによる競争優位 ↓↑ プロセス・リンケージはどこでも必要とされるとは限らない ↓↑ プロセス・リンケージはどこでも必要とされるとは限らない プロセス・リンケージが変容を迫られる 母材現地調達要求は、ローカルコンテンツ規制がなくても無視できない 地場企業への技術移転要求は無視できない 課題 維持・強化か変容か 共生か摩擦か
第5章 ベトナム -最後発からの挑戦-
第5章の課題 最後発からの鉄鋼業建設のケース・スタディ ベトナム経済の課題との関わりで鉄鋼業育成をとらえる(開発経済的視角) 輸入代替産業の一つとして工業化を担えるか 国有企業改革と私有企業育成に成功するか グローバリゼーションに対応できるか(大野[2000])
ベトナム鉄鋼業の生産構造 (2004年) 高炉 銑鉄生産 187 条鋼圧延ミル 生産 2366 (能力 4600) 条鋼市場 約 2600 高炉 銑鉄生産 187 条鋼圧延ミル 生産 2366 (能力 4600) 条鋼市場 約 2600 電炉・ビレット連鋳・造塊工場 生産 658 (フル稼働) 国内スクラップ供給 718 スクラップ輸入 163 ビレット輸入 2174 条鋼輸入 257 ホットコイル、厚板、溶接鋼管輸入 1773 鋼板・鋼管市場 約 2900 鋼管製造工場 生産 236 This slide shows the production structure of the Vietnamese iron and steel industry in 2004. Upper half is long sector. The problems of this sector include over capacity of rolling mills, and shortage of steelmaking capacity. Recently, investment rush to steelmaking factory is observed. If more an more electric arc furnaces will start their operation, the problem will change from billet shortage to scrap shortage. Lower half is flat sector. The problems of this sector is shortage of rolling capacity. In 2005, the first cold rolling mill started its operation. But its capacity is small. And, flat sector in Vietnam cannot produce high grade steel. I will discuss it later. 冷延薄板、表面処理後半輸入 1112 亜鉛めっき・カラー後半製造工場 生産 176 単位は1000トン。SEAISIとVSAのデータから川端が作成。
生産セクター(1)VSC傘下企業 設備、生産プロセス、操業方法に問題 (写真省略) (写真省略) TISCOの100立方㍍高炉羽口(上)。いったん型銑にしてから電炉に挿入する不合理(下。現在は改善)。2000年8月川端撮影(右も同じ)。 セビメタルの圧延機はトングで鋼片をたぐりよせる作業が必要。しかもぞうりばき。 ダナンスチールの2.4トン電炉。先進国なら50トン電炉が不通。 (写真省略) (写真省略)
生産セクター(2)外資合弁企業 技術的に優れているが、単圧、製管、めっきのみ (写真一部省略) ビナ・キョウエイの吹き抜け型圧延工場と年産30万トンの完全連続式棒線圧延機。日本と同レベルに自動化されている。左は2004年5月、右は2003年9月に川端撮影。
生産セクター(3)私有、外資100%企業(1) 2002年頃までは、発展性のない中小零細企業のみ (写真省略) (上)ハノイ近郊の鉄鋼村の全景。後半をクルマに踏ませて伸ばしている。(右上)規格外品のコイルを輸入してブランキングしている。(右)零細企業の作業。後方の加熱炉でスクラップを再加熱し、手前の圧延機で伸ばす。2000年8月川端撮影。
生産セクター(3)私有、外資100%企業(2) 2002年以後、現代的な私有、外資100%企業が出現 (写真省略) ブルースコープ・スチールベトナム(豪州系)が建設中(現在は稼働)の年産12.5万トンの亜鉛めっき工場。建設用だが高級品を作る。 (左)年産25万トンの完全連続式棒線圧延機はイタリア製の立派なもの。(右)ホア・ファット・スチールの20トン電炉。中国製でやや小さい。資金の限界。 (写真省略)
ベトナム鉄鋼業の育成:第1段階 国有企業改革と生産力形成 VSCマスタープランの重要性 他の担い手が不在で、市場も未整備 政府のイニシアチブ 自由化圧力を調整しながら育成政策 VSCマスタープランの重要性 マスタープランを現実的で実行可能なものにすること モデルプラントの形成
VSCのマスタープラン 非現実的な一貫製鉄所早期建設論争 JICAでマスタープラン形成と見直しを支援 真の課題に目を向けた現実的計画がポイント 条鋼セクター:圧延過剰、製鋼不足、機会主義の横行 モデルプラントの形成(SSC新工場) 漸次的自由化によるディシプリン効果 鋼板セクター モデルプラントの形成(PFS) 写真省略 左からVSCのTho生産部長、Cuong副社長、田中元JICA専門家、Son社長。肩書きは当時のもの。2001年10月、大野健一氏撮影。
VSCマスタープランによる新工場 写真省略 建設中のSSCフーミ製鉄所。粗鋼50万トンの現代的な電炉・圧延ミル。2005年4月川端撮影。 PFSのレバース冷延ミル。年産20万トン2基。建設用亜鉛めっき原板の生産が中心。2006年6月川端撮影。
ベトナム鉄鋼業の育成:第2段階 条鋼セクター:市場競争へ 鋼板セクター:拡大には外資誘致が不可欠 ベトナム鉄鋼業の育成:第2段階 条鋼セクター:市場競争へ 市場整備(工業・建築規格、スクラップ輸入に関わるインフラと法整備など) 私有企業の育成 VSCとのイコール・フッティング 統一企業法、株式会社化が後押し 鋼板セクター:拡大には外資誘致が不可欠 外資過半数出資の容認 インフラ整備へのコミットメント 適切なプロジェクト審査とライセンス付与 VSCは、パートナーとなる能力を証明する必要 フーミ製鉄所とPFSの成功が鍵
通商政策のポイント 自由化と一時的保護との関係の明確化 過渡的措置を執りながらFTA相手国との関税撤廃へ 例:用途別免税措置(タイ、マレーシア、メキシコ) 産業別に、特定の部品・材料輸入を免税とする 一時的保護と自由化の利益のバランス PFSや亜鉛めっき鋼板メーカー(建材を製造) 外資系加工組立メーカー(高級鋼板を輸入) ※通商政策も含めて、育成政策の転換について詳しくはKawabata[2006]を参照。
駆け足のステップ・バイ・ステップ のんびりしているヒマはない 必要なステップは省略できない 各ステップが遅れるほど、AFTA実施/WTO加盟/FTA交渉で一時保護の余地が狭まる 国有企業によるモデル工場→私有企業育成と外資導入への素早い切り替えが必要 必要なステップは省略できない 国有企業による生産力形成という最初のステップは必要 モデル工場の成否で、VSCの将来が試される マスタープランの柔軟性
第6章 中国山西省 -小規模製鉄の歴史と構造-
第6章の課題 中国鉄鋼業の二系統の生産の一つのケース・スタディ 山西省小規模製鉄業が存立してきた歴史と構造の解明 巨大企業による鋼板類生産(上海宝鋼など) 中小型一貫企業による条鋼類生産。電炉企業。単純製銑企業。 山西省小規模製鉄業が存立してきた歴史と構造の解明 一般的図式から大きく外れた独自の存在 その異様さも強調したいが、否定するために強調するのではない
坩堝製鉄(山西省高平。二十世紀初頭) Wagner[1997]
坩堝製鉄図面(中国東北部) 原[1993] 鉄鉱石と無煙炭を高さ34センチ×直径15センチの坩堝につめる 坩堝を製鉄炉の中に並べ、すきまに無煙炭を詰める 点火・送風 放置冷却。坩堝を壊して鉄を取り出す 原[1993]
原料立地による原料コストの安さに支えられていた 正常な市場競争とは異なる条件に支えられていた 山西省鉄鋼業史の教訓 原料立地による原料コストの安さに支えられていた 正常な市場競争とは異なる条件に支えられていた 市場の孤立性、日本の戦時キャンペーン、大躍進
ビーハイブ式コークス炉 古いタイプのもの。ガスをそのまま放出。1999年10月川端撮影。 改良型。ガスを燃やしてから放出。2003年2月川端撮影。
野焼き焼結 2001年7月、山西省嵐県にて川原業三が撮影。
操業状態が良くない小型高炉 山西省嵐県にて川原業三撮影(2000年頃)
出銑したばかりの型銑 2001年7月、山西省嵐県にて川端撮影。
石炭・コークスを満載して走るトラックの列 2001年7月、山西省孝義市付近にて川端撮影。
山西省小規模製鉄の特性 小型高炉建設を促す条件 資源濫費と環境汚染を引き起こすインセンティブ構造 最小効率規模の小ささ 型銑の広大な市場 原料単価の安さ 参入障壁の低さ 資源濫費と環境汚染を引き起こすインセンティブ構造 低廉な原料単価→品質管理・原単位管理のインセンティブない→操業を安定させる必要に迫られない 最小効率規模の小ささ 資源・環境対策を取っても、先進国の標準より小規模で利潤を獲得できる
技術指導におもむいた川原業三氏 写真省略 大村プログラムメンバーが2001年撮影。山西省嵐県政府の招待所前にて。
山西安泰集団の旧小型高炉 第1,第2高炉は34立方㍍ 第3高炉は125立方㍍ 3基の旧小型高炉。1999年、川原撮影。 手前は旧第1、2高炉の解体後。奥は旧第3高炉。2003年2月、川端撮影。
山西安泰集団の新高炉 450立方㍍×2 旧第1、第2高炉解体後に建設された新第1、第2高炉。2004年10月、川端撮影。
山西安泰集団の成長 2003年2月に残っていたビーハイブ式コークス炉は廃棄され、すべて機械化炉に 2003年2月に4階建てだった本社ビルは2004年10月には13階建てに 出所:東北大学学際センター大村プロジェクトチームが撮影。
山西省製鉄業の展望 小規模製鉄の特質の歴史的変革 政府の役割(鋼鉄産業発展政策) 企業の投資と操業の在り方が問題 長年、原料単価への依存→資源濫費・環境破壊 ついに現代的企業に脱皮する兆候 政府の役割(鋼鉄産業発展政策) 環境・品質基準で淘汰するのは合理的 規模にこだわることは適当か 企業の投資と操業の在り方が問題 同じ中小型に見えても、安泰集団のような企業はそれまでの機会主義的経営と異なる
日本の役割 山西省の資源濫費・環境破壊と日本 関わることによってともに得られるものはあるはず 大気汚染物質が浮遊物質として日本に飛来 日本の製鉄所も山西省のコークスを使用 日本の発電所は山西省の石炭を使用 関わることによってともに得られるものはあるはず 高炉メーカーのプロセス・リンケージとはまた違う交流もある
終章 東アジア鉄鋼業の達成と行方
序列性、多様性、可変性(1) 高炉法による銑鋼一貫生産の優位は、一定の修正を伴いながら維持されている。 工程間国際分業は可能。 分業の一部を担う形であれば、途上国も高級鋼材の生産に参画できる。 国・地域別グループ間には、生産量や技術水準、輸出競争力といった尺度での序列的構造が明確に存在する。 銑鋼一貫体制の壁はいまなお存在する 序列性を無視する牧歌的な議論をすべきではない 序列の下位に属するグループであっても、鉄鋼業の発展は一定の意味を持っている。 後方連関効果を通して鉄鋼市場は形成されている 途上国鉄鋼業発展の可能性を頭から否定することは適当ではない。 地域の条件による多様性
序列性、多様性、可変性(2) 序列的構造は固定的なものではなく、変化への傾向を内包している。 日本の銑鋼一貫企業に技術政策の保守化の兆候がある。 中国、アセアン諸国における工業化の進展が、低・中級鋼材のみならず高級鋼材の市場も生み出した。 外資導入、技術移転による工程間分業によって高級鋼材の生産は可能。 産業ダイナミズムの源泉は、国際競争圧力に対応した企業行動にある。 国家主導の鉄鋼業育成ではない。 政府にはなお一定の役割がある。 競争が重要であることは自由放任通いという意味ではない。 インフラ整備、環境・安全規制、国有企業の生産力形成、貿易政策、外資誘致政策。 ※259-261頁の整理は、もうすこしクリアにすべき。
東アジア鉄鋼業の焦点 高級鋼材供給ネットワークにおけるイニシアチブ 中級品市場の獲得 全般的な市場変動 各国でさらに一貫製鉄所が建設されるのか工程間分業か 日・韓・台からの投資と技術移転が重要か、各国の地場企業に技術移転が及ぶか 中国は資本はあるが、技術が未だ問題残す 中級品市場の獲得 グループⅠ-1にとっては稼働率のために必要 各国地場企業にとっては高付加価値化のために必要 全般的な市場変動 台風の目としての中国 市場変動 資源・環境問題
本プレゼンでの参照文献(1) 伊丹敬之・伊丹研究室[1997]『日本の鉄鋼業 なぜ、いまも世界一なのか』、NTT出版。 今岡日出紀・大野幸一・横山久編[1985]『中進国の工業発展:複線型成長の理論と実証』アジア経済研究所。 大野健一[2003b]「国際統合に挑むベトナム」(大野・川端編著『ベトナムの工業化戦略:グローバル化時代の途上国産業支援』日本評論社、所収)。 岡本博公[1984]『現代鉄鋼企業の類型分析』ミネルヴァ書房。 大野健一[2000]『途上国のグローバリゼーション:自立的発展は可能か』東洋経済新報社。 川端望[1995]「日本高炉メーカーにおける製品開発」(明石芳彦・植田浩史編『日本企業の研究開発システム』、東京大学出版会)。 川端望[1998]「高炉メーカーの生産システムと競争戦略」坂本清編著『日本企業の生産システム』中央経済社。 川端望[2006]「日本高炉メーカーの高級鋼戦略:その堅実さと保守性」『産業学会研究年報』第21号。 十名直喜[1996a]『日本型鉄鋼システム:危機のメカニズムと変革の視座』同文舘。 長島修[1987]『戦前日本鉄鋼業の構造分析』ミネルヴァ書房。
本プレゼンでの参照文献(2) 馬場靖憲・高井紳二[1994]「金属系素材産業」(日本インダストリアルパフォーマンス委員会『メイド・イン・ジャパン:日本製造業変革への指針』、ダイヤモンド社)。 原善四郎[1993]「中国土法製鉄法の1つ、ルツボ製鉄法」『金属』第63巻第2、3、4号、アグネ技術センター、2、3、4月。 藤本隆宏[2003]『能力構築競争』中公新書。 藤本隆宏[2004]『日本のもの造り哲学』日本経済新聞社。 溝田誠吾[1982]『アメリカ鉄鋼独占成立史』御茶の水書房。 D’Costa, Anthony P. [1999], The Global Restructuring of the Steel Industry: Innovations, Institutions and Industrial Change, London and New York: Routledge. Kawabata, Nozomu [2006], Improving the Promotion Policy for the Vietnamese Iron and Steel Industry, VDF Workshop, Hanoi, June 16. http://www.vdf.org.vn/workshop.html Wagner, Donald B. [1997], The Traditional Chinese Iron Industry and its Modern Fate, Richmond: Curzon Press. Yonekura, Seiichiro and Francoise Guelle [1998], “The Japanese Steel Industry in the 1990s”, in Ranieri, Ruggero and Enrico Gibellieri eds, The Steel Industry in the New Millennium, Vol. 2, London: IOM Communications.