2015年春学期 「現代の経営」 第9回 会社とは 樋口徹
4-1-1 営利目的の法人(p.87) 補足① 営利を目的とする社団法人 営利とは「財産上(経済的)の 利 益 を求めて活動すること」 (=金儲け=私益)『広辞苑』 対義語: 公 益 ( ↔私益)、非営利 社団とは「一定の目的のもとに結合した 人 の集合体で、団体としての単 一の組織をとしての存在を有するものである」 対義語: 財 団 (一定の目的のために結合された 財 産 の 結合体) 法人とは「人ないし財産から成る組織体に 法 人 格 (権利能力)が与 えられたもの」『広辞苑』 対義語: 自 然 人(出生時点で権利能力が与えられる) ※法律の要件を満たした組織が所定の手続きを行った場合に、権利能力 を与えられ、法人となる。
組織の分類基準2:法人格の有無 日本国内では、 民 法 によって、全ての法人は 民 法 あ るいは他の法律の規定によって成立するとされている。 日本国内には様々な形態の法人が存在するが、その全てが特定 の法律に基づいて設立されていることになる。 全ての会社は 会 社 法 の規定に基づいて設立されている。 ※法人の種類は、社会や世界的な流れを受けた規制緩和や特 定活動の推進などによって、流動的かつ多様になっている。 法人格を取得した方が経済・社会的に得かどうかは状況によっ て異なる。しかし、本格的に活動する場合は、法人形態を採るの が 一般的 である。 その理由は、法人として活動した方が、個人で活動するより社会 的な高い 信 用 が得られ、そして法人として銀行口座開設や 不動産登記などの各種 契 約 を結べ、さらに 責 任 の 範囲を制限できるなどのメリットがあるからである。
会社法の概要 明治32年に制定された「 商法 」の中で、会社についても規定さ れていたが、平成17年に会社に関する法律を統合・再編成し、「会 社法」として制定された。 会社の種類は、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社に分類 される。株式会社以外の合名会社、合資会社、合同会社を「持分会 社」と総称することもある。 ※合同会社は、 有限会社 に代わって新たに設立された。 会社法の特徴として、 株主 (出資者)や債権者の保護の視点が 重要視され、株主総会、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、 会計監査人、委員会などの機関を必要に応じて設置することになっ ている。 業務の適正を確保するために必要な体制の整備が法務省令で定 められている。 ※内部統制と呼ばれ、法令遵守に加えて、組織の健全性、 有効性、効率性を確保することを目指す。
会社法(民法の特別法) 商法典として関連する法律を統合したもの 商法特例法 (株式会社の監査等に関する 商法の特例に関する法律) 商法の一部(第2編) 有限会 社法 その他 の法律 会社に関連する法律の統合に際し、 ①用語を整理し、 ②解釈の明確化を図り、 ③関連する法の不均衡を是正し、 ④最新の社会経済情勢に対応 するようにしてある。 会社法 (平成17年制定) ※会社法に規定がない場合は民法が適用される。
大半を占める株式会社(4-1-1) 日本国内の会社総数は約 2万9570社 社あり、その内、有限会 社(会社法施行前に設立)を含めると大半が 株式会社 と なる。 ※経済産業省『平成23年企業活動基本調査確報』(2011年3月31日現在)。 日本国内の 従業員 数約4千万人の内、約99%が株式会社で 働いている。 株式会社形式が多い理由は株主が 有限責任 であることである。 これにより所有者(出資者)は最大の被害を小さくすることが できる(リスク管理)。 株式会社において株主が有限責任となっている背景には、 株式 会社では 所有と経営 が分離されていることがある。 ※お金持ちが金を自由に投資しやすくする(大航海時代の名残)。
会社を構成する人々(4-1-1) 社員 :会社法では会社の 持分 を有する出資者(株主) 社員 :会社法では会社の 持分 を有する出資者(株主) 代表者: 代表取締役 や 執行役 などのように社内で大き な 権限 を有するもの(顧客への発言などの行為に対して 会社 として責任を負う) 支配人 :使用人の中で、本店や 支店 の事業に関する権 限を有しているもの(顧客への発言などの行為に対して会社とし て責任を負う) 使用人:会社の 従業員 (物品の 販売 を除いて、顧客へ の発言などの行為に対して会社として責任を負わない) 表見 支配人:支配人のような 外観 を有するもの(その外 観を信じた第3者への発言などの行為に対しては会社として責 任を負うことがある)。 ※会社の代表者や支配人は 商業登記簿 (公開)に登記する 必要がある。裁判上やその他において責任者として対応可能。
4-1-2 会社の種類(p.88) (会社法で認められた)会社の種類と特徴 他に外国会社や特例有限会社などがある ※株式会社の場合は、機関設計や運営に規制が多い。 ※合資会社や合名会社(無限責任社員存在)の場合、破たんした時には自己責任となる一方で、社員への利益の配当が容易にできる。
物的会社と人的会社 会社を立ち上げるには、出資者( 社員 )の存在が不可欠であ る。会社は、出資者(社員)の集まりなので、人の集合体である 社団 に該当する 。 社団を分類する基準として、会社経営の際に、社員を重視する 人的 会社かあるいは出資額(持分)を重視する 物的 会社か を用いることがある。 4つの会社形態の中で、 株式 会社だけが物的会社に分類され、 残りは人的会社となる。合名会社、合資会社、合同会社などの人 的会社は、規模が 小さい 会社が多く、社員の個性や意見が 会社運営に濃く反映される。
業務の執行 合名会社、合資会社、合同会社などの人的会社では、 定款 に おいて特別の定めがない限り、全社員が業務の執行を行う(会社 法第590条)。 合名会社、合資会社、合同会社では、定款の変更や持分の譲渡 などの重要事項を決定する際には、社員 全員 の同意が必要 となる(会社法第585条)。 それに対して、株式会社では「 株主 」に業務執行の義務は課 されていない。 株式会社では、 所有と経営の分離 が進んでおり、株主に業 務執行の義務や日常的な会社の運営に干渉する権利はない。し かし、株主は 株主総会 を通して、「取締役」や「監査役」の選 任や解任などの重要議題に関して、議決権の行使を行うことがで きる。
有限責任と無限責任 債権者などの会社外部の人間にとって最も重要な関心事の一つは、社員(出 資者や株主)の責任の範囲である。 社員の責任の範囲には、有限と無限の2種類がある。 無限 責任を有する社員は会社が破たんした際には、負債に対して無制限 の責任を負うが、 有限 責任を有する社員の場合は、重大な過失や違法行 為がない限り、 出資額 を上限とすることができる(会社法第580条)。 株式会社と合同会社は 有限責任社員 のみから構成されている。 合名 会社は無限責任社員のみから構成され、 合資 会社には無限責 任社員と有限責任社員が混在している(会社法第576・638・639条)。 ※合名とは、「連帯責任を負うために、名を書き連ねること。連名。」の意。 (『日本国語大辞典』) ※連帯責任とは、「ある行為、またその結果に対して連帯して負う責任」 (『日本国語大辞典』)
外国会社 外国会社とは、 外国 の法令に準拠して設立された法人その他の外国の 団体であって、会社と同種のもの又は会社に類似するものである(会社法第2 条)。 利害関係者を保護するために、海外の会社は国内での 登記手続き が終 わるまでは、 継続的 に日本国内での取引を行うことは禁止されている(会 社法第818条)。 海外の会社が日本国内で登記をする際には、最も 類似 している日本国内 の会社形態を選択し、その形態に必要な内容を日本国内で登記しなければな らない(会社法第819条)。
4-2-1 株式(p.90) 株主の権利 株主は、株式会社への出資を行った出資者である。会社法上、株主は社員であるが、 経営者や従業員である必要はない。 会社 法第105条では、株式に付随する権利とし て以下の項目を定めている。 (1)剰余金の 配当 を受ける権利。 (2)残余 財産 の分配を受ける権利。 (3) 株主総会 における議決権。 ※会社法上では、株式に対して(1)と(2)の剰余金の配当と残余財産の分配を受ける権 利を全く与えない旨の「 定款 」の定めは無効であるとされている。 ※(3)に関しては、株主総会での 議決権 を与えない株式の発行について定款に明 記してあれば、議決権の無い株式を発行できる。したがって、議決権が与えられてい ない株主も存在する 。
平等の原則 原則として、株式会社は、株主を、その有する株式の内容( 種類 )及び 数 (保 有株式数)に応じて、平等に取り扱わなければならないとされている。 同じ種類の株式を同じ数量保有している株主に対して、剰余金の配当や残余財産の 分配などを平等に取り扱わなければならない。 しかし、この平等原則にも 例外 がある。例えば、譲渡制限が定められた株式を発 行している非公開会社が、代表取締役を兼ねている株主を優遇する旨が 定款 に 記載されている場合は、同じ種類の株でも、他の株式と平等に取り扱う必要はなくな る(会社法第109条)。
株券の電子化 (非上場会社は対象外) 「社債、株式等の振替に関する法律(2001年制定)」 (金融庁) 上場会社の株式を ペーパーレス化 し、証券会社などの金 融機関に開設された口座の株主の権利(発生、移転、消滅)を証 券保管振替機構(通称「 ほふり 」)が集中的に管理するように なった。 ※2009年には上場会社の株式は電子化された。 電子化の理由:盗難、紛失、偽造が発生することに加え、株券の 発行や 名義の書き換え には時間と費用がかかる。 株式会社 (実質的な取引) (仲介業者) 売り注文 上場 投資家A 証券会社C 証券保管振替機構(ほふり) 振替実施 (権利管理) 譲 渡 支払 取引成立 連携 買い注文 投資家B 証券会社D
4-2-2 第4回 株主総会(p.92) 株式会社の主な機関の関係 株主総会 は、株式会社の組織、運営、管理などの会社の基本 的な重要事項について意思決定を行う機関である(株主総会の設 置と年一回以上の開催が義務付けられている)。 ※日常的な運営まで口出しすることは不適切 取締役会 あるいは 取締役 が日常的な業務執行の意思決 定を行う。取締役会を設置するには少なくても取締役が 3 人は 必要。 ※取締役会を設置していない会社は、重要業務の執行に関する意思 決定を行う場合、取締役の過半数の承認が必要となる。 さらに、取締役会が設置されている会社は、 取締役 の中から 代表取締役 を選定し、会社の業務を代表して行えるようになっ ている。 ※取締役会を設置していない会社は、取締役各自が会社を代表する。 株主総会は、会社経営が健全に進めるために、監査機関(監査役、 監査役会、会計監査人、会計参与など)を選任し、取締役や代表 取締役を監督する。
株主総会 株式会社は、株主総会を年 1回 以上開催することが法律上義務付けられてい る(会社法第295・296条)。原則として、株主総会では、株式会社の組織、運営、管 理その他株式会社に関わる すべて の事項について決議することが認められて いる。 しかし、 取締役会 設置会社においては、以下の法定事項と定款で定められた 事項しか決議することができないとされている(会社法第362条)。会社法上、株主 総会でしか決議できない法定事項は以下の通りである。 (1)役員(取締役や監査役など)および会計監査人の 選任・解雇 (会社法第329 条)。 (2)資本金の額の 減少 、 定款 変更、 合併・分割 、解散など組織に関する重要 事項(会社法第447条)。 (3)その他、役員の 報酬額 の決定(同法第361条)、株式発行(同法第199条)、等。 ※取締役会が設置されている会社では、株主総会で決議できる事項が上記法定事 項と定款に明記されている事項に限定されている。その最大の理由は、取締役会 設置会社は 規模 が大きいものが多く、重要事項を株主総会ですべて決議する ことは、非効率的であるからである。それに対して、非取締役設置会社は小規模な ものが多く、株主総会が 万能 機関としてすべての事項を決定することができる。
法定事項以外の株主総会での決議事項 取締役会設置会社は、法定事項以外を決議する場合、全て 定款 で規定されていなければならない。 ※取締役会設置会社では、所有と経営の分離を前提とし て、法定事項以外は原則として取締役会で決議される。 例外事項が定款で定められることになる。 非取締役設置会社では、 株主総会 が万能機関として全 ての事項を決定することができる。 ※非取締役会設置会社は小規模であることが多いから