第8回 自己株式(その2).

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第8回 自己株式(その2)

取得された自己株式の地位(承前)

金庫株の地位 自益権および共益権の扱い 権利 有無 条文 理由 自益権 剰余金配当請求権 なし 453 配当の繰延べ防止 残余財産分配請求権 2016/6/9 金庫株の地位 自益権および共益権の扱い 権利 有無 条文 理由 自益権 剰余金配当請求権 なし 453 配当の繰延べ防止 残余財産分配請求権 504Ⅲ 分配の循環防止 新株引受権 202Ⅱ 自己株式増加防止 株式無償割当 186Ⅱ 同上 株式分割 あり? 182 争い有り 株式併合 184Ⅰ 自己株式比率上昇防止 組織再編等における対価の交付 (抱合せ株式) 749Ⅰ③, 753Ⅰ⑦ 共益権 議決権 308Ⅱ 議決権歪曲防止 議決権を根拠とする監督是正権 意味がない それ以外の監督是正権

金庫株の処分 自己株式取得によるその他の変動 株式の消却 自己株式の処分 発行済株式総数 議決権総数 ⇒詳細は次回 ⇒新株発行で 2016/6/9 自己株式取得によるその他の変動 発行済株式総数 発行済株式総数は(消却をしない限り)変動しない ただし、少数株主権の要件の算出においては、自己株式が発行済株式総数から除外される場合がある(会854Ⅰ②イ) 議決権総数 通常は、議決権比率の計算の分母からは除外される(会309Ⅰ「議決権を行使することができる株主の議決権」) 例外的に、特別支配会社・特別支配株主の判定の場合には分母に算入 金庫株の処分 株式の消却 ⇒詳細は次回 自己株式の処分 ⇒新株発行で

自己株式の会計処理 自己株式取得 支払った取得対価が資産の部から減少 2016/6/9 自己株式の会計処理 自己株式取得 支払った取得対価が資産の部から減少 取得した自己株式は資産の部に計上せず、資本の控除項目(マイナス)として表示(計算規76Ⅱ柱書き、⑤) スタート時点 自己株式を100,000で取得 資産 1,500,000 負債 600,000 現金 1,000,000 借入金 その他 500,000 純資産 900,000 資本金 350,000 資本準備金 資本剰余金 50,000 利益剰余金 150,000 資産 1,400,000 負債 600,000 現金 900,000 借入金 その他 500,000 純資産 800,000 資本金 350,000 資本準備金 資本剰余金 50,000 利益剰余金 150,000 自己株式 △100,000

※参考 他社株式を取得した場合 スタート時点 他社株式を100,000で取得 資産 1,500,000 負債 600,000 現金 2016/6/9 ※参考 他社株式を取得した場合 スタート時点 他社株式を100,000で取得 資産 1,500,000 負債 600,000 現金 1,000,000 借入金 その他 500,000 純資産 900,000 資本金 350,000 資本準備金 資本剰余金 50,000 利益剰余金 150,000 資産 1,500,000 負債 600,000 現金 900,000 借入金 有価証券 100,000 純資産 その他 500,000 資本金 350,000 資本準備金 資本剰余金 50,000 利益剰余金 150,000

自己株式と剰余金の配当 剰余金の計算においては自己株式は仮に資産計上する(実際には計算規則で[その他資本剰余金+その他利益剰余金]で計算) 2016/6/9 自己株式と剰余金の配当 剰余金の計算においては自己株式は仮に資産計上する(実際には計算規則で[その他資本剰余金+その他利益剰余金]で計算) 分配可能額計算時に自己株式の帳簿価格を控除 自己株式取得と分配可能額 資産 1,400,000 負債 600,000 現金 900,000 借入金 その他 500,000 純資産 800,000 資本金 350,000 資本準備金 資本剰余金 50,000 利益剰余金 150,000 自己株式 △100,000 剰余金(会446、計算規149) ←分配可能額計算時に剰余金から控除(会461Ⅱ③)

※参考 剰余金の計算方法(会446、計149) 会社法446条1号の構造 計規149条の構造 イ.資産 ハ.負債 ①イとロを合計 2016/6/9 ※参考 剰余金の計算方法(会446、計149) 会社法446条1号の構造 計規149条の構造 足す 引く イ.資産 ハ.負債 ①イとロを合計 =イとロを引く ニ.資本金 ②ハとニを合計 =ハとニを足す ニ.準備金 ③上記①-②を全体から引く ホ.その他 法務省令 ④その他資本剰余金とその他利益剰余金を足す 剰余金 その他資本剰余金 ロ.自己株式 その他利益剰余金 2~6号は期末後の変動なので覚えなくてよい

自己株式の処分 受領した処分対価が資産の部に計上 2016/6/9 自己株式の処分 受領した処分対価が資産の部に計上 処分した自己株式が資本の控除項目から削除され、処分差益・差損はその他資本剰余金となる(計規14Ⅱ①) ※消却時はその他資本剰余金から自己株式の帳簿価格を引く(同24Ⅲ) 自己株式取得中 自己株式を170,000で売却 資産 1,400,000 負債 600,000 現金 900,000 借入金 その他 500,000 純資産 800,000 資本金 350,000 資本準備金 資本剰余金 50,000 利益剰余金 150,000 自己株式 △100,000 資産 1,570,000 負債 600,000 現金 1,070,000 借入金 その他 500,000 純資産 970,000 資本金 350,000 資本準備金 資本剰余金 120,000 (+70,000) 利益剰余金 150,000

違法な自己株式の取得の効果 基本的な考え方 通説 立案担当者の提案 2016/6/9 違法な自己株式の取得の効果 基本的な考え方 通説 自己株式取得の手続的瑕疵、内容的瑕疵(財源規制違反を除く)はいずれも自己株式取得無効と考える。ただし、譲渡株主が善意(・無重過失)の場合には取得は有効になる ※市場取引による取得の場合には株式の売買自体が無効になることはあり得ない(市場では問屋である証券会社名義で売買されているから) 財源規制違反の自己株式取得は一律無効とする見解が有力だが、善意・無重過失の者からの取得は有効とする見解もある 立案担当者の提案 手続的な瑕疵については民93類推で処理し、善意・無過失の譲渡株主からの取得は原則有効 財源規制違反については会461以下は、取得を有効としたうえで譲渡株主に特別な弁済義務を負わせた規定

見解 態様 平成17改正前 現行会社法 通説 多数説 葉玉説 剰余金の配当 手続違反 絶対無効 財源違反 有効+弁済義務 自己株式取得 (合意取得) 相対無効 民93類推 (合意取得以外 の任意取得) 取得請求権付株式は無効 その他は有効+弁済義務 (強制取得) 絶対無効? ? 取得条項付株式は無効 ※学説には財源規制違反の自己株式取得を有効と解する説もあるが、学説の「有効」は譲渡株主に代価の返還義務がなく、取締役等の責任で対応すべきとする(葉玉説の「有効」とは意味が違う)

一般的な剰余金の配当 学 説 不当利得返還 葉玉説 法定の支払義務

自己株式取得 学 説 同時履行の抗弁* 代位取得 葉玉説 法定の支払義務 葉玉説:多数説だと譲渡株主に返還請求をしても同時履行の抗弁権を対抗され返還を拒絶される 多数説:会462は同時履行の抗弁権を排除する規定と解すれば足りる *同時履行の関係に立つのは「株式」と「代金」ではなく、「株券・名義」と「代金」

自己株式処分 支払 処分 葉玉説:会社が自己株式を無償または廉価で処分した場合に、不当利得構成だと譲渡株主に株式の時価を返還するから会社財産の確保が困難 多数説:上記の場合も、売却価格を譲渡株主に返還すれば足りる(最判H19.3.8百-16 参照)。葉玉説だと株式消却時に譲渡株主が代位すべき対象がなくなり不都合

各見解の検討 通説の問題点 立案担当者の見解の問題点 2016/6/9 各見解の検討 通説の問題点 株主平等原則違反の場面を想定していない(譲渡株主と会社・会社債権者のことしか考えていない) 各場面で、譲渡株主が善意(・無重過失)の場合の効力をどう考えるべきなのか詰められていない 自己株式を処分した場合の「自己株式取得の無効」の問題が考慮されていない 立案担当者の見解の問題点 手続的な瑕疵について一律に民93類推で処理するのは問題(株主平等原則違反の場面が紛れ込んでいる) 財源規制違反を有効とする意味がない(取得決議は法令違反で無効だから、必ず決議を欠く配当という瑕疵を併発する)

個人的な見解 瑕疵の種類によって扱いを変えるべき。巻き戻しの必要性の有無で判断 2016/6/9 個人的な見解 瑕疵の種類によって扱いを変えるべき。巻き戻しの必要性の有無で判断 純粋な手続的瑕疵については、適法な機関決定を欠く取引(362条4項1号2号参照)と同じに考える。ただし強制取得手続の瑕疵は一律無効 株主平等原則違反については一律無効 財源規制違反も一律無効 瑕疵の種類 効果 理由付け ①合意取得における総会・取締役会決議の無効・取消 ※相対取引を除く 会362と同じ 取得自体に瑕疵はなく、単なる手続違反 ②強制取得における総会決議の無効・取消 原則無効 株主権の違法な侵害 ③売主追加請求権の無視、決議のない相対取引 一律無効 株主平等原則違反 ④ミニ公開買付における按分義務違反 ⑤161条の取得価格違反 株主平等違反(160条の規制の潜脱) ⑥取得数超過 授権がなかっただけ(①と同じ) ⑦財源規制違反 債権者保護

違法な取得と会社の損害 売却済みの場合の損害についての学説 取得価格と売却価格の差額が損害(売却差額説) 2016/6/9 違法な取得と会社の損害 売却済みの場合の損害についての学説 取得価格と売却価格の差額が損害(売却差額説) ※取得直後の処分であれば売却差額説と時価差額説は同額 [取得価格と時価の差額]と[売却価格と時価の差額]の合計が損害(時価差額説) 取得価格全額が損害(取得価額説) 〔例〕時価2億のときに2億3千万円で取得し、時価が2億5千万円に上昇した時点で2億4千万円で売却 2億3千万-2億4千万=-1000万(損害なし) (2億3千万-2億)+(2億5千万-2億4千万)=4000万 2億3千万(損益相殺?) ※自己株式の売却損は(新株有利発行とは異なり)会社の損害

未売却の場合の損害についての見解 判例 取得価額と現在の時価の差額(売却差額説の変形) 取得価額と取得時の時価の差額(時価差額説の変形) 2016/6/9 未売却の場合の損害についての見解 取得価額と現在の時価の差額(売却差額説の変形) 取得価額と取得時の時価の差額(時価差額説の変形) 取得価額全部(取得価額説そのまま) 判例 売却済みの場合 違法な取得~売却は一連の行為であり、取得価額と売却価額の差額が損害(最判H5.9.9百-23) ※子会社が親会社株式を違法に取得した場面における親会社取締役の損害賠償責任の事案で特殊。H13解禁前の事案 未売却の場合 違法な自己株式取得と相当因果関係のある損害は取得価額から取得時の時価を減じた額(大阪地判H15.3.5百-22)

その他 検討 適法な取得と違法な取得で損害と評価すべき損失の範囲に差異を設けるかどうか 2016/6/9 検討 適法な取得と違法な取得で損害と評価すべき損失の範囲に差異を設けるかどうか 時価差額説は適法な取得と違法な取得で損害の範囲が変わらない 売却差額説は相場変動リスクについて会社の損害と考える 取得価額説は違法な取得による支出はすべて損害となり、保有する自己株式の価値は考慮しない ※自己株式の資産性をどう考えるのかとも絡む その他 自己株式取得無効については特別な訴えは用意されておらず、一般的な無効確認の訴えによる 自己株式取得差止めについても特段の規定はなく、違法行為差止(会360)あるいは仮処分による