日本語統語論:構造構築と意味 No.1 統語論とは

Slides:



Advertisements
Similar presentations
ウィキについて 1 1040431 1 1040431 植木貴宏 植木貴宏. ウィキとは? ウェブブラウザを利用して Web サーバ 上のハイパーテキスト文書を書き換え るシステムの一種。 ウェブブラウザを利用して Web サーバ 上のハイパーテキスト文書を書き換え るシステムの一種。 Wiki とは、ハワイ語で「速い」を意味.
Advertisements

プログラミング言語論 第3回 BNF 記法について(演習付き) 篠埜 功. 構文の記述 プログラミング言語の構文はどのように定式化できるか? 例1 : for ループの中に for ループが書ける。 for (i=0; i
言語教師としての 役割と認知 平成 21 年度教員免許状更新講習 3 共立女子大学 02/08/2009 笹島茂 1.
C言語 配列 2016年 吉田研究室.
東京工科大学 コンピュータサイエンス学部 亀田弘之
国内線で新千歳空港を利用している航空会社はどこですか?
知識情報演習Ⅲ(後半第1回) 辻 慶太(水)
日本語教育における 発音指導の到達目標を考える
第3章:記憶の貯蔵庫モデルと処理水準アプローチ
高速基礎マスター英語 「導入」「トレーニング」 活用マニュアル VOL.1
神戸大学大学院国際文化学研究科 外国語教育論講座外国語教育コンテンツ論コース 神戸 花子
エージェントモデル シミュレーション.
心理学測定法 水曜2限 担当:小平英治.
日本語を考える Introduction to Japanese Linguistics
日本の高校における英語の授業は英語でがベストか?
演習3 最終発表 情報科学科4年 山崎孝裕.
「データ学習アルゴリズム」 第3章 複雑な学習モデル 3.1 関数近似モデル ….. … 3層パーセプトロン
東京工科大学 コンピュータサイエンス学部 亀田弘之
プログラミング言語論 第4回 式の構文、式の評価
日本語統語論:構造構築と意味 No.1 統語論とは
小学校における英語指導は、中学校での英語学習にどのような影響を与えるか?
プログラムの動作を理解するための技術として
日本語統語論:構造構築と意味 No.3 項と格助詞(改訂版)
テキストの類似度計算
自動車レビューにおける検索と分析 H208032 松岡 智也 H208060 中西 潤 H208082 松井泰介.
日本語統語論:構造構築と意味 No.2 構造と意味解釈
高山建志 五十嵐健夫 テクスチャ合成の新たな応用と展開 k 情報処理 vol.53 No.6 June 2012 pp
第62回言語・音声理解と対話処理研究会 統語論に基づく新しい意味理論の提案 上山あゆみ(九州大学)
人工知能特論2007 東京工科大学 亀田弘之.
音韻論⑤ ----.
統語意味論:認知科学としての統語論の提案
岩村雅一 知能情報工学演習I 第8回(後半第2回) 岩村雅一
社会言語学 pp
言語処理学会第15回年次大会チュートリアル 生成文法の考え方と検証の方法 上山あゆみ(九州大学)
言語学 語のかたち① pp
データからいろんなことを学ぼう! このスライドでは、順に、こんなことを説明します。 「データ」って、どんなもの? 「データ」を集めてみよう
UMLの概要とオブジ工クト指向の基本概念 第2回
人工知能特論II 第2回 二宮 崇.
動的依存グラフの3-gramを用いた 実行トレースの比較手法
卒論の書き方: 参考文献について 2017年9月27日 小尻智子.
深層学習を用いた音声認識システム 工学部 電気電子工学科 白井研究室 T213069 林健吉.
リファクタリング支援のための コードクローンに含まれる識別子の対応関係分析
初回授業オリエンテーション 理科(生物) 大野 智久.
言語学 語のかたち② p.p
2. 音声とは 2.1 音声の科学 2.2 どうやって声を作るか ー調音音声学 2.3 声の正体とは ー音響音声学 2.4 どうやって声を聴き取るか ー聴覚音声学.
言語学の基礎 ④ 教科書 pp. 40−52.
日本語統語論:構造構築と意味 No.8 連体修飾
東京工科大学 コンピュータサイエンス学部 亀田弘之
日本の高校における英語の授業は 英語がベストか?
大野剛先生(アルバータ大学(カナダ)教授)
東京工科大学 コンピュータサイエンス学部 亀田弘之
プログラミング言語論 第9回 情報工学科 木村昌臣 篠埜 功.
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
言語表現と 視覚表現の比較 関西大学社会学部 雨宮俊彦.
記憶の仕組みを知って 記憶力を上げよう!.
国際言語文化研究科日本言語文化専攻 第26回日本語教育学講座講演会
東京工科大学 コンピュータサイエンス学部 亀田弘之
東京工科大学 コンピュータサイエンス学部 亀田弘之
東京工科大学 コンピュータサイエンス学部 亀田弘之
クローン検出ツールを用いた ソフトウェアシステムの類似度調査
香川大学工学部 富永浩之 知識工学1 第1-1章 人工知能と知識工学 香川大学工学部 富永浩之
執筆者:難波和明 授業者:寺尾 敦 atsushi [at] si.aoyama.ac.jp
自然言語処理2015 Natural Language Processing 2015
イノベーションと 異文化マネジメント 法学部国際ビジネス法学科          08ed037m 佐藤 雅史.
図15-1 教師になる人が学ぶべき知識 子どもについての知識 教授方法についての知識 教材内容についての知識.
文脈 テクノロジに関する知識 教科内容に関する知識 教育学 的知識
自然言語処理2016 Natural Language Processing 2016
英語音声学 前期・木1・CALL1 担当:福田 薫
東京工科大学 コンピュータサイエンス学部 亀田弘之
岩村雅一 知能情報工学演習I 第7回(後半第1回) 岩村雅一
Presentation transcript:

日本語統語論:構造構築と意味 No.1 統語論とは 上山あゆみ(九州大学)

言語学 紀元前~ 18~19世紀 19世紀~ 哲学(アリストテレス、プラトン、パーニニ、...) 20世紀前半 20世紀後半 比較言語学(ジョーンズ、 グリム、ソシュール、...) 構造言語学(ソシュール、 ブルームフィールド、サピア、 ヤーコブソン、...) この授業は、基本的に、生成文法の言語観に立って統語論の実践を目指すものです。 まずは、言語学の流れの中で、生成文法というものがどのように位置づけられるものであるかを、簡単に見ておきます。 類型論 (グリーンバーグ, ...) 生成文法 (チョムスキー、...)

比較言語学 異なる時代や異なる地域で同じ語彙表現の形を比べる その形の対応関係に音韻的な規則性を見つける   ↓ その形の対応関係に音韻的な規則性を見つける その規則性がどのような範囲で成り立っているかを調べる 言語の系統関係についての仮説を提案する 語彙の音韻形式に反映されない違いについては論じにくい

言語学 紀元前~ 18~19世紀 19世紀~ 哲学(アリストテレス、プラトン、パーニニ、...) 20世紀前半 20世紀後半 比較言語学(ジョーンズ、 グリム、ソシュール、...) 構造言語学(ソシュール、 ブルームフィールド、サピア、 ヤーコブソン、...) 類型論 (グリーンバーグ, ...) 生成文法 (チョムスキー、...)

類型論 それぞれの語彙の音韻形式に限らず、さまざまな文法的 特徴について、多くの言語を観察する。   ↓ 「不自然な空白」を見つける。(たとえば、「A&B も B&C もあるのに、A&C がない」とか。) そのような「空白」が存在する理由が納得できるような仮 説を提案する。 1つ1つの言語の分析の妥当性が不安材料になる。

言語学 紀元前~ 18~19世紀 19世紀~ 哲学(アリストテレス、プラトン、パーニニ、...) 20世紀前半 20世紀後半 比較言語学(ジョーンズ、 グリム、ソシュール、...) 構造言語学(ソシュール、 ブルームフィールド、サピア、 ヤーコブソン、...) 類型論 (グリーンバーグ, ...) 生成文法 (チョムスキー、...)

構造言語学 1つの言語の中のパターンを徹底的に調べて、その中に ある規則性を調べる。 まず、音韻について調べ、音素のリストとその配列の規則 性を明らかにする。   ↓ 次に、語を調べ、形態素のリストとその配列の規則性を 明らかにする。 そして、文を調べ、語の配列の規則性を明らかにする。 「文」の特徴は単に配列の規則性だけではとらえきれない。

言語学 紀元前~ 18~19世紀 19世紀~ 哲学(アリストテレス、プラトン、パーニニ、...) 20世紀前半 20世紀後半 比較言語学(ジョーンズ、 グリム、ソシュール、...) 構造言語学(ソシュール、 ブルームフィールド、サピア、 ヤーコブソン、...) 類型論 (グリーンバーグ, ...) 生成文法 (チョムスキー、...)

生成文法における言語観 言語というものを人間の認知という観点からとらえなおす。 ことさらに規則という形で教わらなくても、いつのまにか習得できて いることが多々ある。 文法の根幹の部分は、(人間という種として遺伝的に)生まれつき備 わっているものなのではないか。 普遍文法(Universal Grammar) ただし、近年の人工知能研究("deep learning")では、必ずしも「規則」として教えずとも、非常に複雑なパターンを習得しうることがわかってきている。

生成文法における言語観 言語というものを人間の認知という観点からとらえなおす。 単に、聞き覚えたまま繰り返しているわけではなく、習得した「部 品」をさまざまに組み合わせて、まったく新しい文を作り上げること ができる。 その「部品を組み合わせて、どんどん創造/生成しうる」という点こ そ、言語の本質であると考える。 生成文法(Generative grammar) 「部品の組み合わせ方(=統語論)」が言語の仕組みの根幹 である。

統語論の位置づけ 頭の中には、「部品」がたくわえられている Lexicon と、そこから いくつか選んで入力すると、それらが組み合わさって出力される計 算システムが存在していると仮定する。 Computational System LF Numeration (いくつかの単語の集合) PF Lexicon (Phonological Form: 語彙を構造化した、発音の基盤となる表示) (Logical Form: 語彙を構造化 した、意味解釈の基盤となる表示) 意味表示

統語論の位置づけ PF は、音韻的に解釈され、実際の音と結びついていく。(PFと 実際の音との対応の仕方をつかさどるのは「音韻論」) LF は、意味的に解釈され、実際の意味と結びついていく。 (LFと実際の意味との対応の仕方をつかさどるのは「意味 論」) つまり、生成文法では、統語論が音韻論や意味論のベースに なっていることになる。 (※ 構造言語学における考え方とは大きく異なっている。)

言語の知識 このように考えると、1つの言語についての知識とは、次 の2つということになる。 Lexicon、すなわち、部品となるものについての知識 Computational Systemの仕組み、すなわち、部品の組み 合わせ方についての知識 つまり、個々の語彙の知識と、それらの組み合わせ方につい ての知識があれば、文全体としては初めて見る文であっても、そ の文を適切に発音することができ、その意味がわかることになる。 生成文法の目的は、Lexicon と Computational system の仕組みを解明すること

この授業では これまでの生成文法の研究で提案されてきたことを覚え るのではなく、実際に多くの課題に取り組むことを通して、 生成文法の統語論の考え方にふれてほしい。 参考書:上山あゆみ (2015) 『統語意味論』 名古 屋大学出版会。 \5400。