4 公共部門の経済学
10 外部性
しかし、市場の失敗(market failures)は起こりうる。 思い出しましょう: アダム・スミス(7章)による市場の「見えざる手」に導かれて、市場の利己的な買い手と売り手は、社会が市場から引き出せる総便益を最大化する。 しかし、市場の失敗(market failures)は起こりうる。
外部性と市場の非効率性 外部性( externality )と呼ばれるものは、ある人の行動が周囲の人の福祉に及ぼす影響のことである。<ただし、この影響は補償付きでない。> 外部性は、市場を非効率的にして、総余剰を最大化できないようにする場合がある。
外部性と市場の非効率性 外部性が発生するのは. . . . . . ある人が周囲の人々の福祉に影響を与えるような活動に従事し、なおかつ、この影響に対して何らの補償を支払わない(もしくは、受け取らない)時である。
外部性と市場の非効率性 周囲の人々への影響が悪影響である場合には、このときの外部性は「負の外部性」という。 周囲の人々への影響が好影響である場合には、このときの外部性は「正の外部性」という。
外部性と市場の非効率性 負の外部性( Negative Externalities )の実例 自動車の排気ガス タバコの煙 よく吠える犬(うるさいペット) アパートでの他の部屋から聞こえるうるさい音楽
外部性と市場の非効率性 正の外部性(Positive Externalities)の実例 予防注射 修復された歴史的建造物 新しい技術の研究
図10-1 アルミニウムの市場 アルミニウム の価格 供給 (私的費用) 均衡 需要 (私的価値) QMARKET アルミニウム の量 図10-1 アルミニウムの市場 アルミニウム の価格 供給 (私的費用) 需要 (私的価値) QMARKET 均衡 アルミニウム の量 Copyright © 2004 South-Western
外部性と市場の非効率性 負の外部性があると、市場は社会的に望ましいよりも多い量を生産するようになる。 正の外部性があると、市場は社会的に望ましいよりも少ない量を生産するようになる。
厚生経済学(Welfare Economics): 復習 アルミニウムの市場 市場均衡のもとでの生産量=消費量は、生産者余剰と消費者余剰を最大化しているという意味で、効率的である。 もしアルミニウム工場が大気汚染(負の外部性)を出しているのならば、アルミニウム生産の社会への費用は、アルミニウム生産者への費用よりも大きくなる。
厚生経済学(Welfare Economics): 復習 アルミニウムの市場 生産された一単位のアルミニウムについて、社会的費用とは、生産者の私的費用および大気汚染によって悪影響を受けた周囲の人々への費用である。
図10-2 汚染と社会的最適 アルミニウム 社会的 費用 の価格 汚染の 費用 需要 (私的価値)) 供給 (私的費用) 最適 図10-2 汚染と社会的最適 アルミニウム 社会的 費用 の価格 汚染の 費用 需要 (私的価値)) 供給 (私的費用) 最適 QOPTIMUM 均衡 QMARKET アルミニウム の量 Copyright © 2004 South-Western
需要曲線と社会的費用曲線の交わるところで最適な産出量が決定される。 負の外部性 需要曲線と社会的費用曲線の交わるところで最適な産出量が決定される。 社会的に最適な生産量は、市場均衡量よりも小さい。
負の外部性 外部性の内部化(internalizing an externality) とは、人々が自らの行動の外部的効果を考慮に入れるようにインセンティブ(誘因)を変更することである。 インセンティブって何?→第4原理(9~11頁)
負の外部性 社会的に最適な生産量に達するやりかた 政府は、生産者に税金を課して均衡量が社会的に望ましい量にまで減少することを通じて、外部性を内部化することができる。
外部性が周囲の人々に利益を与える場合には、正の外部性が存在している。 その財の社会的価値が私的価値を超えている。
正の外部性 教育は正の外部性の実例であり、教育が教育を受けた個人に高賃金を与えるだけでなく、すべての人に便益を与える良い政府をつくることで社会全体に利益を与える。このようなときに正の外部性は存在する。
図10-3 教育と社会的最適 教育 の価格 供給 (私的費用) 社会的価値 需要 (私的価値) QMARKET 教育の量 QOPTIMUM 図10-3 教育と社会的最適 教育 の価格 社会的価値 供給 (私的費用) 需要 (私的価値) QOPTIMUM QMARKET 教育の量 Copyright © 2004 South-Western
供給曲線と社会的価値曲線の交わるところで最適な産出レベルが決定される。 正の外部性 供給曲線と社会的価値曲線の交わるところで最適な産出レベルが決定される。 最適な産出レベルは均衡量より大きくなる。 市場は、社会的に望ましい量よりも小さい量を生産してしまう。 その財の社会的価値は、私的価値を上回る。
産業政策(Industrial Policy)ケーススタディ 正の外部性 外部性の内部化: 補助金 正の外部性を内部化しようとする試みの中心的な方法として使われている。 産業政策(Industrial Policy)ケーススタディ 技術促進的な産業を促進するために政府が経済へ介入すること 特許法(Patent laws) とは、特許をもつ個人(もしくは企業)に政府介入についての所有権を与える技術政策であるといえる。 すなわち、特許とは外部性を内部化する試みといえる。
2 外部性の当事者間による解決法 外部性の問題を解決するに際して、いつも政府の行動が必要となるわけではない。
外部性の当事者間による解決法 道徳律と社会的拘束力 慈善事業 異なるタイプの事業の統合 理解関係者間の契約
取引費用(Transactions Costs) コースの定理 コースの定理( Coase Theorem )とは、もし民間の当事者たちが資源の配分について費用をかけずに交渉できるのであれば、外部性の問題はつねに民間市場で解決され、資源が効率的に配分される、という命題である。 取引費用(Transactions Costs) 取引費用とは、当事者たちが契約に合意し、それを遂行する過程で負担する費用のことである。
なぜ当事者間による解決法はいつも機能するわけではないのか 取引費用が非常に高く当事者たちの合意が不可能である場合には、民間の経済主体によるアプローチは失敗する。
3 外部性に対する公共政策 外部性が大きく、民間経済主体による解決が見つからないときには、政府は外部性の問題をいつくかの手法で解決をはかる場合がある。その手法とは. . . 指導・監督政策(command-and-control policies). 市場重視政策(market-based policies).
外部性に対する公共政策 指導・監督政策 一般には、規制の形をとる: 例: ある種類の行動を禁止する. ある種類の行動を義務化する. 全ての学生は予防接種を受けなければならない 大気汚染についての規制は、米国ではEnvironmental Protection Agency (EPA)によって、日本では環境省によって行われている。
外部性に対する公共政策 市場重視政策 政府は、私的インセンティブと社会的効率性を合わせる為に税金や補助金を利用する。 ピグー税(Pigovian taxes) とは、負の外部性を補正するために利用される税のことである。
外部性に対する公共政策 規制 vs. ピグー税の例 もし、環境省がある工場から排出される汚染を減少したいと考えたときに、環境省ができることには、次の二つがありうる… その企業に汚染をある特定の量にまで減少させないと命じる(すなわち、規制)。 その企業が排出する汚染量に応じて税金をかける(すなわち、ピグー税)。
外部性に対する公共政策 市場重視政策 売買可能な汚染許可証があると、汚染を行う権利をある企業から別の企業に自主的に移動させることができる。 これらの許可証に対する市場は次第に発展していく。 汚染を低い費用で減少させることができる企業は、汚染を減少させるのに高い費用をかける企業に自らの許可証を販売するであろう。
図10-4 ピグー税と汚染許可証の同等性 (a) ピグー税 汚染の 価格 汚染権の需要 P ピグー税 Q 1. ピグー税 は汚染の価 図10-4 ピグー税と汚染許可証の同等性 (a) ピグー税 汚染の 価格 汚染権の需要 P ピグー税 Q 1. ピグー税 は汚染の価 格を設定す る 汚染の量 2. . . . 需要曲線とともに 汚染の量を決定する Copyright © 2004 South-Western
図10-4 ピグー税と汚染許可証の同等性 (b) 汚染許可証 汚染の Q 汚染許可証 の供給 価格 汚染権の需要 P 2. 図10-4 ピグー税と汚染許可証の同等性 (b) 汚染許可証 汚染の Q 汚染許可証 の供給 価格 汚染権の需要 P 2. . . . 需要曲線とともに 汚染の価格を決定する 汚染の量 1. 汚染許可証 は汚染の量を 決定する Copyright © 2004 South-Western
要約 買い手と売り手の間の取引が第三者に直接影響を与えるとき、その効果は外部性と呼ばれる。 負の外部性があると、市場における社会的に最適な量は均衡取引量よりも少なくなる。 正の外部性があると、社会的に最適な量は均衡取引量よりも多くなる。
要約 外部性の影響を受ける人たちがその問題を当事者間で解決できることがある。 コースの定理によると、費用をかけないで交渉することができれば、資源が効率的に配分される契約につねに到達することができる。
要約 民間で外部性を十分に処理できないときには、政府がしばしば介入する。 政府は行動を規制することもあり、またピグー税を使ったり汚染許可証を発行したりして外部性を内部化することもある。