11章:赤道域中層大気における平均東西風の長周期変動 ー準2年振動と半年振動についてー 11章:赤道域中層大気における平均東西風の長周期変動 ー準2年振動と半年振動についてー 西風 赤道域半年振動 10hPa 東風 北半球冬 100hPa 1月の平均東西風 赤道域下部成層圏準2年振動(10m/s間隔)
11−1:Eliassen-Palm の定理の一般化 波による平均東西流加速の一般論を、Andrews and McIntyre (1976, J. Atmos. Sci. ) から引用しておく 擾乱の式として(ブシネスク流体近似、β平面、静力学平衡)、 東西平均流の変化の式は以下のように書かれる。 ここで、 右辺:unspecified forcing terms この方程式には、重力波および、Rossby波動が含まれる。 ー>この式を変形すること: 南北熱フラックス収束が子午面循環をつくり、それにコリオリ力がかかり運動量を変化させる ー>波が担っている運動量という考え方 平均東西風は緯度、および高さの関数であり、対応した温度場も緯度、高度依存性をもつ。
Eliassen-Palm flux: の項を東西風の変化の式にくりこむと、以下の式になる。 Eliassen-Palm flux をpseudo-運動量フラックスと呼ぶこともある <ーそれの収束が東西風の変化に対応する の項(Eliassen-Palm flux divergence)の変形から、平均東西流の加速として以下の式が導かれている。ここで、平均東西流の式で *のついた項が、小さい近似である(波が定常で、散逸やcritical levelがないときはゼロになる) ここで、 は波動に伴う流体粒子の南北変位をあらわし、 である。 波に対しての散逸や外力(1項や2項)、transienceの時(3項)、またcritical level (2、3項)のところで東西風が変化することを示している。 Richardson数が大きく、赤道β平面で、位相速度 cをもつ赤道にtrapする波動についての近似では:
Eliassen-Palm定理の破れの最も簡単な例 のようになり平均流が時間とともに変化していく。このとき西風を生成可能。 波は定常ではあるが、散逸されつつある場合;定常で散逸されつつあるのだから、例えば対流圏で常に強制されている。散逸として、同じ係数 a のRayleigh摩擦と Newtonian冷却を考え、散逸は小さいとする。 ブシネスク近似で、静力学平衡をみたす2次元重力波の鉛直波数 m について を解いた例:1つの東に伝わる波のみの、平均東西風の時間発展の様子をみたもの。Plumb, 1977, J. Atmos. Sci. 左図はフラックスの時間変化。 いま、波は平均流に対して東に動いているとしている。このとき上方に伝播する波の解はWKB近似的に以下のように表される(Lindzen, Dynamics in Atmospheric Physics, 1990) 時間 鉛直座標や時間は無次元化されている 鉛直EPフラックスは今の場合、 基本流に対して西向きの波の運動量フラックスは負である。 となり高さの関数。また、 このとき 東向きの波と西向きの波が両方あるとどうなる? 条件によっては西風と東風で振動しそう
波が散逸しつつあるとき、東西平均流が変化することを述べた。その典型的な例が赤道域の下部成層圏に存在する準2年振動と考えられている。 11—2:準2年振動(QBO)のありよう 波が散逸しつつあるとき、東西平均流が変化することを述べた。その典型的な例が赤道域の下部成層圏に存在する準2年振動と考えられている。 QBOに関する観測結果をいくつか述べる(cf. Andrews et al. ,1987) 西風と東風の繰り返し、上から伝播してくる(40kmくらいからか) 準2年振動は年振動と関係があるらしい。QBOの西風が下降するとき、季節的振動である半年周期振動の西風(equinoxのとき)と同期している時もあるよう 71-72 59-60 準2年振動の周期は22ヶ月から34ヶ月と一定ではない。平均の周期は28ヶ月くらいPlumb(1984)より 東風 西風持続at44hPa 西風 Pascoe et al., JGR, 2005では、太陽 Minで西風がより持続;東風がおりる(20-44hPa へ)時間が太陽 Maxで2ヶ月短い という統計的結果となっている。 半年振動(約48kmの高さ)と準2年振動、Wallace(1973)より、5m/sごと、
赤道からすこしはずれると、 が正のとき(西風が高さとともに大きい時)、 赤道からすこしはずれると、 が正のとき(西風が高さとともに大きい時)、 北半球で が負だから赤道の方が温度が高い。このとき、熱力学の式から(T’>0として) 赤道にtrapされた現象である のようであろうから は下降流となり、西風shearのときは鉛直移流により、はやくQBOは下降する。 QBO 西風と東風の下方伝播の違い: 下方伝播の速さは約1km/月で西風の下方伝播の方が幾分速い。これは、子午面循環の違いで説明されるであろう。 西風 shear warm 下降流 地衡風近似と静力学平衡からくる温度風の関係と、熱力学の式におけるNewton冷却と断熱鉛直運動のバランスの式: から 図:Plumb and Bell, 1982, QJRMSの2Dモデルより
11−3 準2年振動の力学的説明 赤道下部成層圏の準2年振動を波と平均流の相互作用の考え方でモデル化してみる。まずは、赤道上のみを取り扱う。東西方向に一様な風(平均流)を支配する運動方程式は右の式: QBOを生成しているといわれる波動について:準2年振動の西風(上層)が下りてくる時期で、周期15日程度の擾乱がある。これは東向きの波で西風運動量をもっており、散逸するとき西風を生成する。Wallace-Kousky wave(1968, J. Atmos. Sci. )とも呼ばれ、対流圏で生成された赤道ケルビン波といわれている。 西風 東風 対応 上方伝播ケルビン波の位相関係 赤道下部成層圏のケルビン波の時間−高度断面図(上が東西風で下が温度)。1963年の夏、場所はカントン島(南緯3度)
赤道下部成層圏にケルビン波はあって、波数1で振幅が最大で10msー1くらいはあるらしい。 波の生成は対流と大規模波動がcoupleして出来たものらしいが、明確ではない。わかり易い考えとして波動と第2種不安定(台風のメカニズム)を結びつけたWave-CISKを使ったHayashi(1970)があるが、この理論も潜熱放出パラメーターに強く依存する 赤道下部成層圏にケルビン波はあって、波数1で振幅が最大で10msー1くらいはあるらしい。 時間 東西 4000km 21km高度、1958, Apr. 15-30、ほぼ赤道上、影は南風成分のところに Wallace and Kousky, 1968, JASから 西向きの波について:図はYanai and Maruyama(1966, J. M. S. J.) により発見されたRossby-重力波の伝播の様子を示したもの。東西波数4くらいで、位相速度は25msー1程度、振幅は2〜3msー1の振幅をもっている。観測されているRossby-重力波の振幅はそれほど大きくない、この波は散逸するとき東風を生成する。 Holton and Lindzen(1972)はこの2つの波を使って準2年振動をモデルで再現したが、RG波の振幅を大きく与えている。 大循環モデルで表現されたRossby-重力波、Hayashi and Golder, 1994, J. Met. Soc. Japan. 波の振幅はv=0.5m/s程度である。
Holton-Lindzen(1972)のモデル:Kelvin波とRossby-重力波を使い、ニュートン冷却で波を減衰 方程式は、南北には積分された式で、 となる.HLでは、上層の半年振動 を与え,28km以上で, はKelvin波とRossby-重力波の運動量フラックス は Kelvin波: QBOを再現するためには赤道上のRossby-gravity waveの南北風振幅は下部境界で6msー1 程度与えている。 HLの1次元モデルで再現されないものとして西風の下方伝播が東風より速いことがある。前に述べたように鉛直と南北の2次元子午面循環を考慮すれは説明可能であろう(cf. Plumb and Bell, 1982 ) Rossby-重力波については分散式から Rossby-gravity重力波の場合,鉛直運動量フラックスは、 ではなくて の南北平均である 高度 位相速度30msー1のケルビン波及びRossby-gravity波を使ったのはQBOの南北スケールと波の南北スケールが1500km程度と同じくらいということである。 例えば、Kelvin波として 年 から c=30m/s として le は1000km程度になる。 10m/s間隔、shadeが西風
Plumb(1984)による、位相の下方伝播と振動 2つの東西に伝播する内部重力波を用いた振動の仕方: 波の波長は40000km(波数1の赤道ケルビン波に相当)、位相速度は30msー1(東向き、及び西向き)と仮定。ここで、約6msー1の東西風の振幅を仮定する。水平スケールが大きいと、この程度の振幅が必要である。それに対応して下部境界での運動量フラックスはHLと同じく、 という値を用いる。 計算結果が図に示してある。周期約1000日程度の準2年振動的な構造になっている。
3次元のmechanistic model で再現した例: 大振幅のKelvin波とRossby-重力波を下部境界で与えるとQBOは再現される。西風の方が早く下降している。 T=1800 days でのKelvin波の東西風。振幅が観測に比べて大きい(15m/sくらい)、2.5m/s間隔。 Takahashi and Boville, 1992, JAS T=1500 days でのRossby-重力波の南北風。振幅が観測に比べて非常に大きいこと、 2.5m/s間隔
GCMの中のQBO: Takahashi(1999, GRL) 現実的なQBOが再現されている。モデルでは、様々な重力波でQBOが生成されている モデルは、水平分解能が60kmであり、約200km以上の重力波が直接表現される。このモデルの範囲内で(対流のパラメータで重力波の生成が異なるであろう)、 西風シアー:東向き赤道波動は、25-50%の寄与をもち、内部重力波は50-75%程度の寄与をになっている。 東風シアー:西向き赤道波動は10%程度、中緯度からのRossby波動は10-25%程度、主に内部重力波が寄与 最近のモデルQBO, Kawatani et al., 2010, JAS、色はEP-fluxの発散、周期は15ヶ月
QBOの南北スケールに関して: QBOの南北スケールは、1500km程度である。赤道波動のみでは説明できていたが、重力波が主要因とすると、別の考え方も必要であろう。 ERA-40 dataからのQBO振幅分布、Pascoe et al., 2005, JGR 準2年振動の振幅(実線)と位相(破線)の緯度−高度断面図、Wallace(1973)より
Haynes(1998, Q. J. R. M. S.)による説明: の式を思い出そう(2章) p, NやNewton冷却の高さ依存を落とすと 数値実験による確認:南北に広いforcing(上図)にも関わらず、生成される東西風は赤道域のみとなっている(下図)。 ここで、準2年の変動に比べて、Newtonian damping係数は大きいのでおもな応答は 応答の南北スケールを L とし、時間のスケールをT、forcingの鉛直スケールをDとして左辺1項のz微分項に反映するとする。1項と2項で0に近いものが応答しやすいだろう。スケール的には のようであろう。f=βL とすれば、上式は のように南北スケールが決まる。 =2x3.14/2/3x107=10-7 =10-6 =0.1、Dを10kmとすると 2x10-2 x104/2x10-11=1013 3000km --> L=1500km程度で、観測の値に近い値となる。
11—4:QBOに関係した幾つかの話題 QBO-likeな、流れの交代する実験: Plumb and McEwan (1978, JAS)、流体力学的(相似性)に興味深い。 t=150mで左の方への流れ、t=170mで右の方の流れが見える。膜の振幅等が下図とは異なるが、 実験装置:下でStanding波を作る。 左が実験で得られた振動、右が理論の結果
中間圏のQBO: 中間圏QBOが見つかっている、Burrage et al. (1996, J. G. R.) 中間圏QBO 成層圏QBO 重力波をパラメータ化したモデルで再現された中間圏QBO(y-z 2Dmodel)、 Mayr et al. (1997, J. G. R.)、振幅は大きくない
QBOと惑星波動との関係:Yamashita et al QBOと惑星波動との関係:Yamashita et al., 2011, JGR QBOの西風位相のとき、東風位相のときと比べ、惑星波動の活動として、高緯度成層圏でフラックス偏差としては下向きで、発散的(西風加速)である。 QBOは中緯度成層圏に影響を及ぼしているよう(Holton and Tan, 1980, 図はYamashita et al., 2011, JGRから ) 下部成層圏QBOが西風のとき、冬の極夜Jetの西風が統計的に強くなっている、JRA-25 dataから 矢はEP flux偏差(QBO西風ー東風)、線は発散の偏差、色のあるところは有意性をしめす。
QBOの対流圏への影響、Crooks and Gray, J. Climate, 2005から 上図のQBOに対応して、統計的に有意なシグナルが見られる。北半球対流圏にQBOと関係するanomalyが見え、赤道20kmの高度でのanomalyがつながっているようにみえる。 下部成層圏QBOの西風位相ー東風位相の偏差、Pascoe et al., JGR, 2005から 18
補足:対流圏との関係 Maruyama and Tsuneoka ( 1988 )は ENSO と QBO の関係を調べている。ENSO のときケルビン波の活動度が強まり西風の下降が早まっているようだと述べている(1987年のENSOの時,東風の持続が短かった) 熱帯域の深い対流(OLRと対応)と下部成層圏の東風shear(低温、上昇流)とが関係あるという話しと矛盾しない、という論文もある (Collimore et al., 1998, GRL ) 冬季惑星波動の振る舞いの違いにより、QBOの東風位相のとき、北アジア域の下層大気がwarming anomalyとなっている (Chen and Li, 2007, JGR)
QBOは物質変動にも存在する(下はオゾンQBOの例をしめす)、Randel and Wu, 1996, JASから Lu et al., 2008, JGR 影 - positive 中緯度のオゾンQBO(赤道QBOと逆位相) 全オゾン 高度緯度パターン
木星の準4年振動 赤道域の標準温度からの偏差の時間変化、□(実線)が赤道、ダイアモンド記号が14S, △が14Nである。 高度緯度の2次元モデルによる準4年振動の再現、この図は、Kelvin波とRossby重力波のforcingを与えている。 7.8μmのbrightness温度の時間変化、おおよそ20hPa高度
11−5:赤道域成層圏の半年振動 1:成層圏界面付近の半年振動 Dunkerton, JAS,1978: 基礎方程式はこれまでと同様に とする. は,半年振動の東風成分のみ生成するようにしてある. 10m/s間隔 西風を加速するKelvin波について、観測でみつかっているような位相速度c=50m/s,東西波数は1を選ぶ, 東風加速について:非線型の子午面移流 ,中緯度からの惑星波動の効果,重力波が考えられている.どの程度の割合かはまだ分かっていないよう。 西風加速について,重力波が大事であるといわれている. NCAR GCMの半年振動:西風はおもにKelvin波と書いてある,西風が弱いよう−>たぶん重力波が足りない <-対流のパラメータのせいであろう。 Sassi, F., R. R. Garcia and B. A. Boville, 1993: The stratopause semiannual oscillation in the NCAR community climate model. J. Atmos. Sci., 50, 3608-3624.
2:中間圏界面付近の半年振動 成層圏界面の半年振動とは位相が逆転している。成層圏の半年振動の風をかんじて、逆方向の重力波が80kmまで伝わっていきそこで、波が壊れて逆位相に半年振動が生成されているらしい GFDL- GCMの中の半年振動。この場合は西風がよく再現されている。<ー 対流のパラメータが異なる。対流調節が用いられており、調節が瞬間的におこり、そのため多くの重力波が生成されているようである。 Hamilton and Mahlman, 1988, J. Atmos. Sci.
Solsticeの西風は20m/s程度、equinoxの東風は -30m/s程度の振幅をもっている。 レーダー等で評価された中間圏半年振動: Garcia et al., 1997, JGR Solsticeの西風は20m/s程度、equinoxの東風は -30m/s程度の振幅をもっている。 80km 東風 クリスマス島(2N)のレーダーで評価されたMSAO 東風 CCSR/NIES/FRCGC GCM(T213L256)での半年振動、Watanabe et al. , 2008, JGR MSAOの東風はある程度は再現、ただ、このモデルでのtop境界近くである HRDI衛星データからのMSAO
Antonita et al., 2008, JGRでは、中間圏の半年振動は重力波がmainly causedであると言っている インド、Trivandrm(8.5N, 77E)にある流星レーダーをもちいて評価している 月平均東西風 50m/s/3month〜17m/s/month 東西風の加速、実線は月平均のSAO風変化から、dotted はestimated された加速、2004年6月から2007年5月、1W:1年目の西風 2-3時間周期の短周期重力波にともなうu’w’の季節変化 ー> 右の加速の評価
低分解能気候モデルの結果:Richter and Garcia, 2006, GRL 水平2度の分解能、重力波の効果をパラメータ化して入れてあるモデル ad. EPD G モデルの中間圏半年振動 による Solstice(西風位相)では、重力波に加えて、子午面循環、分解されている波動によるEP-flux dovergence(特に2日波)が寄与、equinox(東風位相)は全forcingが小さい EP-flux Divergence, 黒は全成分、赤は2日波(7章)、青は1日潮汐の寄与