オバマ政権のアジア戦略と集団的自衛権をめぐる国内論議 菅 英輝 京都外国語大学 2013年11月16日 平和学会九州地区部会講演会 (北九州大学)
話の流れ 1 オバマ政権のアジア戦略 2 オバマ政権のアジア太平洋重視戦略と日米安保 3 安倍政権と集団的自衛権をめぐる国内論議
Ⅰ オバマ政権のアジア戦略 1 アジア戦略の課題 (1)アメリカ経済の再生(最優先課題) ①経済はパワーの源泉 ②アメリカ経済の景気回復、雇用創出、輸出拡大→成長セン ターとしてのアジアの経済的活力を取り込む ・米韓自由貿易協定、環太平洋経済連携協定(TPP)でリーダーシップ、EUとの自由貿易連合 ・クリントン「雇用外交」(jobs diplomacy)(12年2月21日)
Ⅰ オバマ政権のアジア戦略 ・10年1月27日 オバマ大統領般教書演説:5年間で輸出を倍増させる→大統領令「国家輸出イニシアティブ」(NEI) ・13年1月12日 一般教書演説 最優先課題:「米国を新規雇用と製造業を引きつける磁石にする」 「米国の輸出を押し上げ、雇用を助け、成長するアジア市場との条件を公平にするため、TPP交渉を完了する」。
米国製品貿易の地域別シェア
米国製品貿易の地域別シェア 輸 出 輸 入 2000年 2010年 アフリカ 1.1% 1.8% 3.7% アジア(中国を含む) 22.0% 米国の貿易取引の地域別割合 【出典】U.S. International Trade Commission ※「アジア」は、東アジア、南アジア、東南アジア、オセアニア(オーストラリアとニュージーランドを含む)を指し、中央アジアは含まない。 米国製品貿易の地域別シェア 輸 出 輸 入 2000年 2010年 アフリカ 1.1% 1.8% 3.7% アジア(中国を含む) 22.0% 23.5% 28.9% 32.3% アジア(中国以外) 20.3% 17.6% 22.6% 16.2% 中南米 6.0% 8.9% 4.7% 5.7% CIS(独立国家共同体) 0.3% 0.6% 1.4% ヨーロッパ 18.8% 17.9% 15.8% 15.4% 中東 1.9% 3.1% 2.5% 3.3% 北米 29.5% 26.6% 23.2% 22.2%
Ⅰ オバマ政権のアジア戦略 (2)アジア太平洋地域において平和と繁栄が持続する環境の必要 (3) 中国のパワーの台頭への対処 ・脅威ではないが不確定要因 ・包摂的アプローチ/中国を排除しない/「責任ある利害保有者」としての振る舞いを求める ・実際には、「選択的責任ある利害保有者」として行動(途上国と先進国の使い分け)→米側は問題視→対中ヘッジ戦略
Ⅰ オバマ政権のアジア戦略 (4) アジア太平洋の地域秩序形成:ルール・規範重視 Ⅰ オバマ政権のアジア戦略 (4) アジア太平洋の地域秩序形成:ルール・規範重視 ・安全保障:国際法の遵守、通商と航行の自由の尊重、紛争の平和的解決 ・経済:開かれた透明な市場、自由で公正な通商、ルール遵守の開かれた国際経済システム ・政治:人権の尊重、民主化
オバマ政権のアジア太平洋重視戦略の目的と課題 アジアの経済成長の取り込み アメリカ経済の再生 アジア太平洋の平和と繁栄の持続 軍事バランスの変化とトランスナショナルな脅威 リバランス (資源の選択的集中と軍事プレゼンスの拡大) ルールと規範に基づく地域秩序の形成・推進 国防費の削減 取り込み ・同盟国との関係強化 ・パートナー国との関係強化 ・多国間地域的枠組みの強化 中国を排除しない包摂的アプローチの推進 イラン、アフガニスタン からの撤退
Ⅰ オバマ政権のアジア戦略 2 アジア太平洋重視戦略(「リバランス」戦略) (1)2011.11.17 豪州議会でのオバマ演説 Ⅰ オバマ政権のアジア戦略 2 アジア太平洋重視戦略(「リバランス」戦略) (1)2011.11.17 豪州議会でのオバマ演説 ①「最も重要な戦略的利益」を検討し、明らかにし、防衛上の優先順位と予算支出の指針とする。 ②アジア太平洋を最優先する。防衛予算の削減はこの地域に影響しない。 ③アジアはアメリカの経済成長にとってきわめて重要だ
Ⅰ オバマ政権のアジア戦略 (2)12年1月 国防省の国防指針報告書『米国のグローバル・リーダーシップの維持』 ①アジア太平洋重視戦略(「リバランス」戦略) ・中国の軍事力増強への対処 ・北朝鮮の脅威、サイバー攻撃、テロリズム、麻薬の取り締まり、災害への対処 ・アジア太平洋地域の経済的重要性
国防省 国防指針報告書 『米国のグローバル・リーダーシップの維持』 国防省 国防指針報告書 『米国のグローバル・リーダーシップの維持』
Ⅰ オバマ政権のアジア戦略 ②兵力の広範な分散と柔軟性 ・沖縄、グアム、ハワイ Ⅰ オバマ政権のアジア戦略 ②兵力の広範な分散と柔軟性 ・沖縄、グアム、ハワイ ・フィリピン、シンガポール、タイ、豪州:ローテーション方式によるプレゼンス ・大規模な恒久的基地:日本(4万)、韓国(2.8万)
中国の海洋戦略とオバマ政権の「戦略的リバランス」
Ⅰ オバマ政権のアジア戦略 ③同盟諸国・友好国との関係強化 ④インドとの戦略的パートナーシップの強化 ・ブッシュ・ジュニア政権のときに開始 ⑤東南アジア重視姿勢(ブッシュ・ジュニア政権とは異なる点) ASEAN地域フォーラム(ARF)への積極的参加、インドネシア・ヴェトナムとの関係強化、ASEANと友好協力条約調印(09年)
Ⅰ オバマ政権のアジア戦略 (3)米国防費の大幅削減(→リバランスの必要) ・財政赤字:今後10年間で4兆ドル削減 ・12~21会計年度(10年間)6千億ドル(約42兆円)の削減 ①「2正面戦略」から「1正面プラス戦略」へ ②資源の選択的集中による軍事プレゼンスの拡大(兵力の広範な分散と柔軟性)
Ⅰ オバマ政権のアジア戦略 ・地域間シフト: 11年7月 対テロ戦略レポート:対テロ戦争の限定化(アルカイダとの戦いに絞る)。アフガニスタンからの撤退計画。10万人→12年夏まで3.3万人を撤退→13年1月の一般教書演説:6.6万人から3.4万人削減、14年末までに戦争を終了する。 ・兵力構成シフト:兵力削減:陸軍と海兵隊は大幅削減、海軍の削減は最小限:陸軍(57万→49万、在欧米軍の縮小)、海兵隊(20.2万→18万)、海・空軍(空母11隻を維持)
作戦区域
Ⅱ オバマ政権のアジア太平洋重視戦略と日米安保 Ⅱ オバマ政権のアジア太平洋重視戦略と日米安保 1 米国のアジア太平洋重視戦略 ①包摂的アプローチと対中ヘッジ戦略 ②米日韓の同盟&米印パートナーシップ ②西太平洋の南西諸島を含む地域における防衛態勢の強化(グアム、豪州、北マリアナ諸島、フィリピン、シンガポール、インドネシア) 2 米軍再編最終報告(06年5月)の見直しとその問題点 ・2012.4.27 日米安全保障協議委員会(2+2)共同発表
Ⅱ オバマ政権のアジア太平重視戦略と日米安保 Ⅱ オバマ政権のアジア太平重視戦略と日米安保 「調整」のポイント ①駐沖海兵隊のグアム移転と普天間飛行場の代替施 設に関する進展との切り離し ②地理的分散(沖縄、グアム、ハワイ、豪州の場合、 ローテーションによるプレゼンス) ・約9千人の米海兵隊要員とその家族の海外移転 ・沖縄に残留する海兵隊(約1万人):第3海兵機動展 開部隊司令部、第一海兵航空団司令部、第3海兵後 方支援群司令部、第31海兵機動展開隊及び海兵隊 太平洋基地の基地維持要員、その他必要な航空、陸 上及び支援部隊。
Ⅱ オバマ政権のアジア太平洋重視戦略と日米安保 Ⅱ オバマ政権のアジア太平洋重視戦略と日米安保 ・「戦略的な拠点としてグアムを発展させる」 :グアムに移転する海兵隊員(約5千人) 第3海兵機動展開旅団司令部、第4海兵連隊並びに第3海兵機動展開部隊の航空、陸上及び支援部隊、基地維持要員
Ⅱオバマ政権のアジア太平洋重視戦略と日米安保 ③国防省の新戦略指針(12年1月)に基づきアジア太平洋地域に防衛上の優先度を移す ④日本の取り組み:「動的防衛力」の発展、南西諸島を含む地域における防衛態勢の強化 ⑤ 二国間の「動的防衛協力」(共同訓練、共同の警戒監視・偵察活動及び施設の共同使用、グアム及び北マリアナ諸島連邦の共同訓練施設の整備)
Ⅱ オバマ政権のアジア太平洋重視戦略と日米安保 Ⅱ オバマ政権のアジア太平洋重視戦略と日米安保 3 「動的防衛協力」:「アジア太平洋地域全体の平和と安定」に寄与。 →集団的自衛権の問題を提起する。 (1)野田政権の国家戦略会議フロンティア分科会(座長・大西隆東大教授)報告書(12・7・6) ・2050年に向けた日本の将来像を提言 ・日米同盟強化の必要と集団的自衛権の解釈の見直しの検討を提言
Ⅱ オバマ政権のアジア太平洋重視戦略と日米安保 Ⅱ オバマ政権のアジア太平洋重視戦略と日米安保 Cf 野田佳彦『民主の敵』(新潮新書、2009年):「集団的自衛権は認めるべきだ」 (2) 自民党総務会の国家安全保障基本法案を了承(12・7・6) ・憲法を改正しなくても、集団的自衛権の行使は可能とする内容 (3)自民党選挙公約 ・憲法改正、提案要件を過半数に緩和、国防軍、集団的自衛権の明確化、国家安全保障基本法の制定、日本版NSCの設置
Ⅱ オバマ政権のアジア太平洋重視戦略と日米安保 Ⅱ オバマ政権のアジア太平洋重視戦略と日米安保 (4)13年10月3日 日米安全保障協議委員会(2+2)共同発表 ・「日米同盟の枠組みにおける日本の役割を拡大するため、米国との緊密な調整を継続」(役割分担の増大) ・「集団的自衛権の行使に関する事項を含む」安全保障の法的基盤の構築、防衛予算の増額、防衛計画の大綱の見直し、防衛力強化ー米国は「これらの取り組みを歓迎し、日本と緊密に連携していく」
Ⅱ オバマ政権のアジア太平洋重視戦略と日米安保 Ⅱ オバマ政権のアジア太平洋重視戦略と日米安保 ・日米防衛協力のための指針(1997年のガイドライン)を2014年までに見直すことで正式合意(日本周辺有事、テロや海賊対策、宇宙やサイバー空間分野での協力) ・グアムへの在沖海兵隊の移転を2020年代前半に開始
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 1 安倍政権の外交・安保政策課題 (1)憲法改正 (2)解釈改憲による集団的自衛権の行使 (3)国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案の成立 (4)特定秘密保護法案の成立、内閣情報局の新設
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 2 憲法改正に関する朝日新聞世論調査(2013年5月) (1)96条改憲:反対54%、賛成38% (2)9条改憲:反対52、賛成39% 男性:43%対50%、女性:61%対28% (3)集団的自衛権の行使:反対56%、賛成33%(改正の必要63%、解釈改憲34%) (4)国防軍の設置:反対62%、賛成31%
朝日新聞世論調査13年5月2日掲載
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 (5)改正賛成派の理由 ①日米同盟の強化や東アジア情勢の安定につながる(41%) ②今の自衛隊の存在を明記すべきだ(37%) ③自衛隊を正式な軍隊にすべきだ(17%) (6)改正反対派の理由 ①戦争を放棄し、戦力をもたないと謳っている(48%) ②いまのままでの自衛隊が活動できる(34%)
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 ③変えると東アジア情勢が不安定になる(14%) (7)9条の意義 9条があったから非核三原則や武器輸出三原則禁止の政策がつくられ、軍事化への歯止めになった(69%)
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 3 憲法改正に関する国会議員の現状(2012年12月、朝日・東大共同調査) (1)衆議院(2012年12月)の当選議員 ・憲法改正89%、集団的自衛権の行使79% ・05年衆院選(自民党の大勝):憲法改正87%、集団的自衛権の行使35% ・09年衆院選(民主党政権下):憲法改正59%、集団的自衛権の行使33%
2012年12月、朝日・東大共同調査
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 (2)参議院選挙( 2012年12月、朝日・東大共同調査) ・当選者+非改選議員 憲法改正75%(3分の267%を超える) 96条改正:賛成は3分の2に満たない。 賛成(自民党76%、日本維新の会全員、みんなの党83%)、反対(公明党80%、民主党93%) ・07年参院選:賛成57%、10年参院選61%
2012年12月、朝日・東大共同調査
朝日新聞・東大谷口研究室共同調査(13年7月5日掲載)
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 4 衆院選当選者と有権者―改憲賛成に温度差(2012年1月、朝日・東大共同調査) ・賛成(1)から反対(5)までの5段階方式 (1)当選議員全体:賛成89%、投票者:50% (2)自民党議員:賛成99%、比例区で自民に投票した有権者57% (3)日本維新の会:議員全員賛成、投票者66% (4)民主党:議員59%、投票者30%
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 5 集団的自衛権行使の実現に向けた安倍政権の動き (1)13年1月25日 新防衛大綱、年内作成を閣議決定、2010年の防衛計画の大綱の見直し (2)同年1月17日 安倍首相、集団的自衛権対象拡大検討の意向を表明
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 (3)1月8日 安保法制懇の活動再開 (4)13年8月 内閣法制局長官に集団的自衛権容認派である小松一郎元国際法局長を起用する人事を決定 ・小松氏は、第一次安倍内閣で容認論議を事務方として支えた人物。内閣法制局解釈変更への地ならし ・次長が昇格するという慣例を破る異例の人事
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 (5)憲法解釈の結論、来春以降 ・安倍首相の私的諮問機関「安保法制懇」の提言、秋の臨時国会後の12月中旬以降の予定 ・秋の臨時国会で、他の重要法案の成立を先行させる(産業競争力強化法案、日本版NSC設置法案、特定秘密保護法案など) ・公明党との調整
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 6 集団的自衛権の政府解釈 ・定義:「自国と密接な関係にある外国への武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないのに、実力で阻止する権利」 ・ 「日本は国際法上は集団的自衛権を有しているが、行使することは許されない(81年政府答弁書) ・米軍などと海外で活動するには「武力行使と一体化」しない範囲で認められる。
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 7 根拠法 国連憲章51条「国連加盟国に対して武力攻撃が発生した場合、安全保障理事会が必要な措置をとるまでの間、個別的または集団的自衛権の権利を害するものではない」
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 8 根拠法への疑問―国連憲章51条の成立の経緯(肥田進「国連憲章第51条の創設過程から見た集団的自衛権の意味とダレスの関わり」13年10月27日、日本国際政治学会アメリカ政治外交分科会報告) (1)日本国内の議論の前提 集団的自衛権が日米安保のような二国間同盟にも当然適用されるとの認識が一般的である。 ・しかしこのような解釈は妥当なのか
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 サンフランシスコ会議で国連憲章51条にいう集団的自衛権については、具体的な概念規定は行われず、その適用対象も明確に議論されたわけではない。したがって、集団的自衛権の概念が二国間同盟に適用されるという前提が確認されたわけではない。 集団的自衛権の概念が二国間同盟にも適用されるとの解釈には無理がある。
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 (2)集団的自衛権の創設者の考え ・集団的自衛権は全米相互援助条約(チャプルテペック協定、1945年3月)のような地域的集団防衛機構の設立のための国際法上の根拠 を提供したもの。 ・集団的自衛権―「米州諸国の一国に対する侵略はすべての米州諸国に対する侵略とみなし、すべての米州諸国は攻撃を受けた国家を支援する正当な防衛の権利を行使する」
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 (3)国連憲章会議ではフランスとソ連は二国間同盟を認めるべきだと主張。 だが、米国代表団の首席顧問を務めたダレスは、「集団安全保障の全体系を崩壊させてしまう」と批判、後に、米下院の公聴会でも、「それは51条の精神ではない」、と述べている。
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 (4)日米安保条約との違い Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 (4)日米安保条約との違い 前文:両国は51条に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認する。 第5条「締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 9「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の報告(08年) ①公海上での米艦船への攻撃への応戦 ②米国に向かう弾道ミサイルの迎撃 ③国際平和活動をともにする他国部隊への「駆けつけ警護」 ④国際平和活動に参加する他国への後方支援 *①と②の集団的自衛権の行使を容認を提言
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 10 安保法制懇の提言への批判 (1)柳沢協二元内閣官房副長官補 ①、②の場合、「在日米軍基地が攻撃されないことはあり得ない。日本の領域が攻撃される以上、いずれも個別的自衛権で十分対応できる」(『朝日新聞』13年8月3日) (2)83年中曽根康弘首相の国会答弁「日本が武力攻撃を受けた場合に、日本を救援する米艦船を救うのは、個別的自衛権の範囲だ」 (同上、13年2月14日)
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 11 解釈改憲への批判 (1)前法制局長官山本庸幸(つねゆき):集団的自衛権の行使、憲法解釈変更難しい。行使容認には「憲法の改正しかない」(『朝日新聞』13年8月21日) (2)元内閣法制局長官阪田雅裕:「憲法は国家が守るべき規範を定めたもので、時々の政権が勝手に都合よく解釈するのは問題だ」(『朝日新聞』13年2月14日)
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 ・「憲法9条の下で集団的自衛権を行使できるということになれば、平和主義を掲げた9条はあってもなくても同じことになり、法規範としての意味がなくなる」 ・憲法9条の解釈については国会で何十年も議論が積み重ねられてきた。ある日、突然これまでの議論を「なかったことにします」ということが議会制民主主義の下で許されるのか。 ・容認なら解釈変更ではなく、憲法を改正すべき。
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 (3)柳沢協二元内閣官房副長官補 「内閣法制局は歴代の自民党内閣の意向に沿う形で憲法解釈をしてきた。法制局が悪いというのはフェアーではない。解釈変更は改憲と同じ効果がある。閣議決定や関連法案の成立で変更していいのか。集団的自衛権を行使したいなら憲法改正を論じるべきです」
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 12 安倍首相は集団的自衛権の行使で何を目指しているのか。それによって、日本国民の利益は守られるのか。 (1)「戦後レジームからの脱却」、押しつけ憲法論(vs9条を支えてきたのは日本国民) (2)「片務性の解消」(vs「基地と人との交換」) (3)「日本の言い分は世界に通用しない」(vs国際貢献のあり方は多様) (4)「日米同盟がより効果的に機能するため」
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 13 検討すべき多くの問題点 ・日米中の関係:中国への対応には日米間でお温度さがある。尖閣諸島問題、歴史認識問題、経済的相互依存 ・日本外交の閉塞性の原因を集団的自衛権の行使の有無に責任転嫁していないか(外交力の問題) ・東アジアの緊張を高めないか(中、韓の反対、 米国にも慎重論、敵地攻撃能力の獲得)
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 ・歯止めがなくなることで、逆に国益を損なうことにならないか。日本の意図に反して、アメリカの世界戦略の一翼を担わされる危険性(「巻き込まれ」の危険、イラク戦争の教訓)。 防衛省幹部「集団的自衛権の行使を容認するには、日本がアフガニスタン戦争のような海外の戦争に加わる覚悟と国家戦略が必要だ。議論が容認ありきになっている」
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 14日本国憲法今も先進モデル、最古の米国憲法時代遅れに ・米法学者による188カ国の憲法分析(デービッド・ロー教授、ミラ・バ―スティーグ教授) ・米連邦最高裁判所判事ギンズバーグ 「今から憲法を創設する時、私なら米国憲法は参考にしない」
『朝日新聞』12年5月3日
Ⅲ 安倍政権と集団的自衛権をめぐる論議 ・ワシントン大学デービッド・ロー教授 「日本の憲法が変わらずに来た最大の理由は、国民の自主的な支持が強固だったから。経済発展と平和の維持に貢献してきた成功モデル。それをあえて変更する政争の道を選ばなかったのは、日本人の賢明さではないでしょうか」 ・9条は、過去の侵略戦争への反省の表明。これを変えることは、近隣諸国の不安や不信を招く。