専門特殊講義 2010/11/11 担当:内藤
I、ポスト・フォーディズム 1、制度の重要性 (1)制度の階層性 ある制度が支配的、主導的であるため、安定したシステムの場合は他の制度との間に相互補完的、首尾一貫したシステムが形成される 単なる制度の補完性だけではない
(2)制度と政治の密接な関係 制度の変化と政治的な変化は連動する (i)フォーディズム(国民的賃金本位制) 賃労働関係(生産性成果を巡る労使妥協)が支配的制度 →競争関係(マークアップ原理の寡占競争)、 国家形態(ケインズ=ベヴァリッジ型福祉国家)、 金融制度(管理通貨制、マイルドなインフレ) →国際体制(固定相場制、低い輸出依存度)
(i)フォーディズム(国民的賃金本位制) 競争関係 (マークアップ型の寡占競争) 賃労働関係 (団体交渉) 国家形態 (ケインズ=ベヴァリッジ型福祉国家) 国際体制 (固定相場制、 低い輸出依存度) 金融制度 (管理通貨制度、マイルドなインフレ)
(ii)金融主導型(国際的金融本位制) 国際体制(国際金融市場) →競争関係(低価格競争)、 金融制度(金融自由化、金融革新)、 金融制度(金融自由化、金融革新)、 国家形態(国際競争力形成と福祉削減) →賃労働関係(賃金・雇用のフレキシブル化)
(ii)金融主導型(国際的金融本位制) 競争関係 (低価格競争) 賃労働関係 (賃金・雇用の フレキシブル化) 金融制度 (金融自由化、 金融革新) 国際体制 (国際金融市場) 国家形態 (国際競争力形成と 福祉削減)
2、金融主導型成長体制 (1)金融化の進展 (i)金融資産の証券化: 預金に対して証券の比率上昇 (ii)機関投資家、特に年金基金の躍進 預金に対して証券の比率上昇 (ii)機関投資家、特に年金基金の躍進 (iii)家計所得の金融化: 家計の相当部分が金融所得に依存(特にアメリカ) (iv)国際的証券投資の拡大: 経済の変動性増大
(2)資産的成長体制 信用 利潤 配当 株価 1株当たり 収益 企業統治 利子率 グローバル化 消費 生産 雇用 組織投資 生産コスト 財価格
(3)金融主導型成長体制 配当及び 年金基金 容易な 信用アクセス 利潤 高株価 消費 生産 雇用 金融ノルムの普及 慎重な投資管理 グローバル化した 金融レジーム 新しい競争形態及びガバナンス 様式都市としての株主価値 極度に感応的な 賃労働関係
(4)金融主導型成長体制とフォーディズムの比較 企業統治 団体交渉 株価 金融収益 消費 生産性 賃金 消費 投資 投資 利潤 需要 需要
(5)金融主導型レジームの特徴 (i)株式配当→株価→信用→消費 (ii)生産(=需要)→利潤→株式配当→株価 「株価→金融収益→消費」回路の重要性: 金融主導型 株価と需要が累積的な好循環関係を形成 ←→フォーディズム:生産性と需要 株価-金融収益の回路を支える制度: コーポレート・ガバナンス(企業統治): 特に株主による支配
(6)フォーディズムと金融主導型の制度比較 基軸的制度 支配的制度 制度的階層性 団体交渉 労働(賃労働関係) 労働→金融・国際 企業統治 国際・金融 国際・金融→労働 基軸的調整変数 調整様式 賃金所得 国民的賃金本位制 金融収益 国際的金融本位制 支配的経済理論 経営者支配論 プリンシパル・エージェント理論
(7)グローバリゼーションの帰結 (i)即応型資本主義、金融主導型成長体制の確立: 金融革新、賃金・雇用のフレキシブル化、製造業から金融へのシフト (ii)経済の不安定性の増大 →持続可能なシステムかどうか (iii)社会的分断化: 富や所得の格差増大
II、認知資本主義論 (1)ポスト・フォーディズムにおける新たなシステム 認知資本主義論: ネグリなどのマルチチュード論の周辺で展開されている議論 非物質的労働、あるいは認知労働を軸に、近年の情報通信技術の発展とイノベーションに注目 ポスト・フォーディズムのフレキシブルな雇用、生産体制への移行 ←非物質的労働、認知的労働の発展
(2)非物質的労働 (i)認知的労働: 知識、情報などを生み出す認知的、言語的労働 (ii)情動労働: 情動を生み出したり操作する感情労働 知識、情報などを生み出す認知的、言語的労働 (ii)情動労働: 情動を生み出したり操作する感情労働 特徴: (i)労働と余暇の区別が曖昧になる (ii)雇用形態の多様化、就労と失業の区別も曖昧に (iii)非物質的労働による知識と人口の生産 →ベーシック・インカムの必要性
(3)知識と動学的な規模の経済 (i)知識は非物質的労働によって生産され、イノベーションとも密接な関係を持つ: 知識の専有と科学技術の使用がイノベーションを決定する (ii)二つの新たな規模の経済: 動学的な学習の経済(経験による学習など)とネットワークと空間の経済
知識と動学的な規模の経済 (iii)学習の経済 ←知識の累積性、機会、専有可能性、学習とネットワーク経済 ←所得、外部性効果 (iv)動学的なカルドア・フェルドゥーン法則: 学習とネットワークの経済による収穫逓増: 所得→投資→知識学習過程とネットワーク経済→利潤→所得
(4)ポスト・フォーディズムの特徴 (i)生産性の上昇 ←学習過程とネットワーク経済 (ii)金融市場の役割増大: 金融市場からの所得が消費に影響する (iii)フレキシブルなリーン生産方式 ←バラエティーの経済、小ロット生産
ポスト・フォーディズムの特徴 (iv)グローバリゼーションとの関係: 新興工業国の高成長にも依存 (v)短期的にも不安定なシステム: 不安定な雇用→所得格差の増大→消費の不安定 金融市場の不安定性 グローバリゼーションの影響 (vi)新たなトレードオフ: 不公平な所得水準と技術の過剰な専有
(6)認知資本主義の不安定な循環 弱い資本/労働の妥協 ハイテクノロジー 市場の世界化 福祉システムの民営化 生産の国際化 非物質的財の生産 不安定性と所得の分極化 体系化された知識(IPR) の利用 投資 社会的生産性 キャピタルゲイン 金融化
フォーディズムの蓄積体制 生産性の潜在的上昇 資本/労働の妥協の安定 弱い国際化 生産過程の近代化 労働者の受容 動学的な賃金 大量消費 強い生産性の上昇 強い蓄積 利潤の水準 物質的財の生産
認知資本主義の不安定な蓄積体制 生産性の潜在的上昇 資本/労働の妥協の不在 グローバリゼーション 生産過程のIT化 不安定な労働者 学習の追求と 所得の分極化 金融所得と キャピタルゲイン 強い生産性の上昇 構造的不安定性 フレキシブルな蓄積 (動学的な規模の経済) 非物質的財の生産 レント/利潤の水準 出所:Lucarelli and Fumagalli, 2008, p. 81
(6)ベーシック・インカム導入の必要性 (i)不安定性の解消 (ii)余暇と労働の区別が曖昧になることにより、認知的投入に対して適切な報酬が支払われない可能性 →動学的な規模の経済が機能しない可能性 (iii)イノベーションの地域性(産業集積)の重要性: イノベーション促進の手段としての必要性
ベーシック・インカム導入後の認知資本主義における可能な好循環 生産性の潜在的上昇 ベーシック・インカム グローバリゼーション 言語的、非物質的技術 フレキシキュリティ下の労働者 ネットワークと 学習の過程 投資(金融市場 の役割を再考 する機会) 強い生産性の上昇 (外部性) フレキシブルな蓄積 (動学的な規模の経済) 非物質的財の生産 利潤とレント課税