生物学 第1回 生物学を学ぶにあたって 和田 勝
担当者の自己紹介 東京大学理学部生物学科動物学専攻を卒業し、同大学院修了しました。 博士論文のテーマは、「鳥類における視床下部の脳下垂体支配機構」というタイトルでした。
その後の研究テーマ 鳥類の繁殖戦略の内分泌学的研究という観点から ○ 鳥類の繁殖行動とホルモン ○ ウズラ、コリンウズラなどの繁殖周期 ○ 鳥類の繁殖行動とホルモン ○ ウズラ、コリンウズラなどの繁殖周期 の研究、特に繁殖終了のメカニズム さらに、 野鳥を用いて野外で行う野外内分泌学への展開として ○ フンボルトペンギンの換羽と繁殖の内 分泌学的研究 ○ ウグイスの繁殖戦略とストレス応答に 関する研究
講義について この講義は、これから学ぶ専門の科目の基礎として、生物とは何か、生物の示すはたらきはどのように制御されているかを中心に、順を追って学んでいきたいと考えています。
講義について 授業に使ったスライドは、後で見ることができるようにWebページに載せておきます。授業中は、必要な事項をノートにメモをして、スライドを楽しんでください。復習として、スライドとメモを対照させて、自分なりのノートをつくってみてください。
Webページ 以下のアドレスを控えておいてください。そこにパワーポイントのファイルを載せておきます。ダウンロードして自分のパソコンで復習できます。 http://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/nodai/nodai.htm
受講する際のお願い 授業には必ず出席をしてください。毎回、出席カードを配布しますので、鉛筆で自分の学籍番号等をマークした後、その回の講義の感想、担当者への注文、質問などを必ず裏に書いてください。 分からない事があれば、もちろん遠慮なく手を上げて質問してください。
ちょっと質問があります タンパク質もDNAも生体高分子です。これらの高分子は単量体が鎖状に結合したポリマーです。 タンパク質およびDNAを構成している構成要素は、それぞれ何でしょうか。名前を出席カードの裏に書いてください。またその構成要素はどんな分子ですか。書いてください。 この授業に対する期待、要望、質問、その他なんでも書いてください。
科学とは 科学(Science)と聞くと、どのようなことを思い浮かべますか。
科学とは 広い意味では「科学」は、自然科学、人文科学、社会科学の総称です。 狭い意味では、自然科学、特にこれから述べる科学的方法と、それに基づいた知識の集積を指します。 自然科学(natural science) 物理学、化学、生物学、地学、天文学など
科学とは 医学、農学、工学などは、これらの科学的知識を応用した「応用科学(applied science)」で、これも自然科学に含めます。
生物学とその方法 バードウォッチング、庭いじり、潮溜まりの探索などにみられるように、ヒトは生き物が好きです。 生物学は、こうした性質の上に、近代科学の方法論と手法によって、生物と生物の示すさまざまな生命現象を明らかにしようとする科学の一分野です。
科学の方法 ここで、近代科学の方法論について述べておきます。 Scienceの語源は、ラテン語の「知ることscientia」に由来します。 科学には大別して2つの方法があります。 1つは「発見と帰納の科学」であり、もう1つは「仮説と演繹の科学」です。
データを矛盾なく説明できるような包括的な結論 観察による発見と帰納 測定 観察 データ 観察 測定 (それぞれの データはtestableでrepeatableである必要) データを矛盾なく説明できるような包括的な結論
観察に基づく仮説と演繹 観察 設問 仮説 予想 試験 もしも仮説が支持されなかったら、仮説を修正するか新たな仮説をたてる もしも仮説が支持されたら、次なる予想を立てそれを試験する 試験 (実験あるいはさらに観察)
日常生活での仮説と演繹 もしも仮説に基づく予想が否定されたら、仮説を立て直す どこが悪いのかしら 電池切れか 懐中電灯がつかない 仮説に基づく予想が確かめられた 実際に新しいものに取り換えてみる もしこの仮説が正しいならば、電池を新しいものに換えればなおるはず どこが悪いのかしら 電池切れか 懐中電灯がつかない もしも仮説に基づく予想が否定されたら、仮説を立て直す
似非科学について 上に述べた科学的方法論によらない結論を、本当だと主張する似非科学(Pseudoscience)あるいは疑似科学には注意をしましょう。 たとえば、「水からの伝言」があります。
あるページから引用 『ガラス瓶に水を入れて、一方には、「ありがとう」と書いた紙を貼り、もう一方には、「ばかやろう」と書いた紙を貼り、水の結晶を写真に撮ると、大きな違いが出てくるのである。』 「ありがとう」の結晶 「ばかやろう」の結晶
あるページから引用 これはでたらめです。水がヒトの言葉を聞き分けることはありません。ページの制作者が恣意的に写真と言葉を組み合わせた捏造品です。 「ありがとう」の結晶 「ばかやろう」の結晶
似非科学について これらのことは、江本勝というヒトの書いた「水からの伝言」、「水は答を知っている」にも書かれていることですが、みんな嘘です。 科学的な装いをこらして書かれていて、ふつうの本屋さんの、場合によっては科学のコーナーに置かれているので、スピリチュアルよりも厄介な問題です。
似非科学について TVの健康・科学番組(たとえばもう終了したが「発掘あるある大事典」など)は、あくまでバラエティー番組なので、注意しましょう。 美容や健康食品も、そうです。
科学に戻って 少しわき道にそれましたが、科学リテラシーを持つということはとても大事なことです。 普段からよく考えるような癖をつけ、ネット上の情報も本当に正しいかどうか十分注意しましょう。
観察の重要性 いずれにしても、出発点として観察によるデータの集積が重要です。 肉眼 顕微鏡 双眼鏡 小さくて観察できない 近寄って観察できない 顕微鏡 双眼鏡
顕微鏡改良の歴史 レンズが物を拡大してみせるということは知られていました。 複数のレンズを組み合わせた複式顕微鏡は、17世紀の初頭にオランダのヤンセン親子が発明したと言われています。
この絵を知っていますか。 これはJohannes Vermeer (1632-1675)が描いた有名な一枚 「真珠の耳飾の少女」(1665年頃)です。 フェルメールはオランダのデルフト生まれで、同じ年(月も)に生まれたのがレーウェンフックでした。
デルフト眺望 Vermeerの描いたDelft眺望(1660-1661)
レーウェンフックの観察 オランダの織物商人だったレーウェンフックは、独特な単式顕微鏡を作製して微生物などを観察しました。
レーウェンフックの観察 レーウェンフックは原生生物、細菌、淡水性の藻類などを観察し、王立科学アカデミーへレターとして報告し続けます。 ヒトの精子も発見しています。
フックによる細胞の発見 イギリスのフックは複式顕微鏡を使って動物や植物の微細構造を図版にした本「Micrographia」を出版(1665)しました。
フックによる細胞の発見 この本の中で、コルクの顕微鏡像があり、その空所を細胞(cell)と名づけました。
顕微鏡の改良 その後、複式では避けられなかった色収差の問題を、異なる材料で作ったレンズを張り合わせることで克服できることが発見されます。 標本の染色法などの改良がおこなわれました。
現在の顕微鏡 光学顕微鏡 透過型電子顕微鏡 走査型電子顕微鏡
顕微鏡の原理 光線を 使う 電子線を 使う
顕微鏡の原理 電子線を 使う
光学顕微鏡で見ると 染色してあります。 この部分を拡大してみると
この部分の断面を拡大してみると
細胞の構造 こうして次第に細胞の構造が明らかになります。
細胞の構造 細胞の構造についてはまたあとで学びます。今は、我々の体は無数(60兆個と言われています)の細胞からできていることを覚えておいてください。
細胞の大きさ 最後の質問です。平均的な細胞の大きさはどのくらいでしょうか。単位を含めて書いてください。
今日の講義の最後に 来週から本格的に、「生物学」の講義に移ります。 その前にいくつかのことをお話ししておきたいと思います。まずは「ちゃんと勉強しなければあかんよ」という点について。
大学で学ぶということ 「大学で、どのように学ぶか」は、皆さん、オリエンテーションである程度、習ったことでしょう。まずはactive learnerになれということです。 そのために、たとえば次のサイトは役に立つかもしれません。 http://www.humanities.manchester.ac.uk/studyskills/
大学で学ぶということ このサイトのなかで、大学で学ぶために必要なスキル(Essential Study Skills)として次の項目を挙げています。 1. Reading 2. Note taking 3. Writing 4. Listening
大学で学ぶということ Note takingは重要なスキルです。 講義を受けるのは、受動的なことのように感じるかもしれませんが、ListeningとNote takingを通じて、activeでcritical thinkingなものにできるのです。
ノート・テーキング ノートのとり方は人それぞれでしょうが、上に挙げたサイトにもノートのとり方が書かれています。 たとえば、今日の講義では、大きな項目として次のようなことがありました。 科学とは何か(似非科学)、データ(観察)の重要性、細胞の観察
大学での単位の考え方 単位の考え方についても少し触れておきます。 1単位というのは、1時間の講義を15回行い、その予習と復習にそれぞれ1時間ずつを当てると考えて、合計した45時間の学習を行って、試験を合格して与えられるものです。
単位の考え方 2単位はその倍ですから、本来なら講義を120分やらなければならないのですが、途中の休み時間を取らずにやったと考えて、90分でよしとしています。 だから、1時間につき2時間の予習と復習の時間は単位に含まれているのです。そのことを忘れないでくださいね。
予習と復習のために 予習と復習のためにこの講義で使うパワーポイントのファイルは、次のサイトに載せておきます。 http://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/nodai/nodai.htm 教科書は指定した通りです。 「基礎から学ぶ生物学・細胞生物学 第2版」 和田勝 羊土社 3150円(税込)
出席カードとメール 講義中に質問などがあれば、遠慮なくしてください。また、出席カードの裏に、必ず何か書いてください。その日の講義で分かったこと、質問、コメントなど。 またメールアドレスは以下の通りです。 m3wada@nodai.ac.jp