ミツバチの幼虫の感染症で 法定伝染病に指定されている 腐蛆病 ミツバチの幼虫の感染症で 法定伝染病に指定されている
腐蛆病(法定伝染病) アメリカ腐蛆病とヨーロッパ腐蛆病があり、世界各国で発生している。 わが国では年間を通じて発生するが、9~10月が最も多く、4~8月も多い。 東北、北海道、長野県で多発する傾向が見られる。 採蜜が季節とともに北上していくことに関連している。
アメリカ腐蛆病の発生状況(2014年6月現在) 現在発生している地域 発生の認められる地域 発生の疑いのある地域 感染が確認された地域 発生が限定的に認められる地域 現在発生の無い地域 発生の無い地域 報告のない地域
ヨーロッパ腐蛆病の発生状況(2014年6月現在) 現在発生している地域 発生の認められる地域 発生の疑いのある地域 感染が確認された地域 発生が限定的に認められる地域 現在発生の無い地域 発生の無い地域 報告のない地域
腐蛆病菌 アメリカ腐蛆病の原因菌はPaenibacillus larvaeでグラム陽性、通性嫌気性、有芽胞、無莢膜、有鞭毛の大型桿菌で、連鎖することが多い。 寒天培地上で半透明、円形の集落を形成し、液体培地ではわずかに沈殿を生じ、混濁して発育する。 ヨーロッパ腐蛆病の原因菌はMelisococcus plutoniusで、グラム陽性、単在または短連鎖の球菌である。 寒天培地上では白色の微小集落を形成する。
アメリカ腐蛆病の症状 感染芽胞が多い場合は組織破壊により無蓋期の前期幼虫で死亡するが、成虫による死虫排除に発見されにくく、主として有蓋期幼虫の死亡のみが注目される。 感染芽胞の少ない場合は、有蓋期の前蛹または蛹になる時期に死亡し、菌の産生する蛋白分解酵素の作用により腐蛆となる。 この際、単房の蓋は少し陥没し、死蛹は単房の下壁に長く伸び、白色から茶褐色、さらに黒褐色へと変化し、特徴的な膠臭を発するとともに腐敗融解し、粘稠性で糸を引くようになる。 その後、乾燥して鱗片状(スケイル)となり、単房壁に固着するが、その中には多量の芽胞が含まれている。
ヨーロッパ腐蛆病の症状 無蓋房の4~5日齢の幼虫が死亡する。 死虫は水様透明から黄白色、灰褐色、黒褐色へと変化し、発酵臭、酸臭を発するが、融解や粘着性は認められない。 死虫は不定形で単房の側壁または底部に存在する。 病勢は緩慢で、汚染単房の配列は不規則となり、有蓋・無蓋のものが混在する。
アメリカ腐蛆病の病原診断 単房内の腐蛆あるいはスケイルを材料として、サイアミンを加えたMichael培地、ニンジンエキス加寒天培地、酵母エキス加寒天培地を用いて培養する。 培養したニンジンエキス培地の凝固水で硝酸塩還元性を確認する。 材料を2.5%ニグロシン溶液または墨汁で撹拌混和し、鏡検により米粒状の芽胞を確認する。 0.5%スキムミルク1mlにスケイル1個を加えて振揺した後、10~20分間静置し、P.larvaeが存在する場合は本菌の蛋白分解酵素により、カゼインが水解され、乳液は透明化する(Holstのミルクテスト) ヨーロッパ腐蛆病の病原診断では、腐蛆を潰し、Baileyの培地を用いて37℃で数日間嫌気培養する。
アメリカ腐蛆病の診断キット 本キットはアメリカ腐蛆病の原因菌であるPaenibacillus larvaeを免疫学的手法で検出するために、英国ヨークのVita社の中央研究所、診断研究部門で開発されたものである。 本キットは野外での厳密なテストを繰り返し、国際的に信頼できるものとして応用されている。 材料である幼虫をヘラで取り、緩衝液の入った瓶に入れ、蓋をして20秒間撹拌する。 撹拌後直ちに瓶の液をスポイトで吸い上げ、2滴をサンプル注入口に落とす。 検査キットを水平な位置に保ち、材料が良く検査キットに浸透するようにして1~3分間すると反応窓に青いラインが現れる。
腐蛆病の予防 ℃ Hours after inoculation 予防は新規搬入巣箱や採密終了後の巣箱をエチレンオキサイドガスで燻蒸する。 罹患群では、密、巣箱(虫体も含めて)を焼却するのが最も効果的である。 養蜂、養密に関連した器具の消毒は0.5%ホルマリン、3%過酸化水素水、またはヨード剤、塩素剤に浸して行う。 アメリカ腐蛆病においてはマクロライド系抗生物質を市販のミツバチ用配合飼料か花粉、もしくは人工花粉とともに、ショ糖水で練って蜂成虫に与えることによって、孵化後1~2日の幼虫が王乳とともに摂取されてP.larvaeの感染に抵抗するようになる。 治療は行わず、罹患した群は全て早期に焼却もしくは埋却する。 ℃ Result of clinical progress This is the movement of the temperature. On the third day Appetite was lost and the body temperature had risen more than 41℃. Mucopurulent nasal discharge started on the fourth day. On the fifth day, watery and hemorrhagic severe diarrhea was observed and fever decreased. Symptoms were getting severe. So we sampled the Spleen and Lymph nodes after euthanasia to obtain the passage materials. Hours after inoculation
真菌によるミツバチの幼虫の感染症で 届出伝染病に指定されている チョーク病 真菌によるミツバチの幼虫の感染症で 届出伝染病に指定されている
チョーク病(届出伝染病) Ascosphaera apis(真菌)によって起こる、幼虫の死亡、灰白色ミイラ化、黒褐色化を主徴とする感染症である。 原因菌に汚染された飼料の給餌による経口感染により起こり、日本ではよく発生が知られている。 幼虫期に体内に入ったカビの胞子が蛹の時期に全体に菌糸を伸ばして,白いチョーク状の塊となるのでこの名称がある。 発症には低温への暴露が必要で,30度以下の温度に長時間蜂児をさらすと,発症率が高まることが知られている。
チョーク病の症状 一般的に一過性で自然治癒しやすい病気だが、蜂場の環境や、巣箱状態が悪いなど、飼育上の問題が原因で、発症を抑えられず、長期化させてしまうこともある。 巣門付近にこの白いチョーク(時間がたつと黒くなる)が散乱し始めたら,感染が広がっていると考えられる。 落ちている数と発症の程度は比例しており、感染が長引いて、巣箱の底や巣板上に除去されていないものが増えたら、自然治癒は難しくなる。
チョーク病の対策 診断は感染幼虫からの真菌の分離や罹患幼虫組織内真菌の確認を行う。 蜂児巣板を冷やさないことが予防としては重要で、移動時用の換気口を開けたままで飼育したり、内検時に巣板を巣箱外に長時間置いてしまうと、発症リスクが高まる。 一般的に自然治癒するが、感染がひどい場合は、蜂児を一時的にない状態にして(女王を隔離して産卵を停止させる)、巣内での感染を絶つ。 予防はエチレンオキサイドガス燻蒸消毒、アンモニウム塩液噴霧、女王蜂の入れ替えを行う。 草刈りなどをして蜂場自体の風通しを改善し、水はけもよくして、湿気の多い空気がよどみにくくすることも予防の観点からは重要である。
ノゼマ原虫によるミツバチの感染症で 届出伝染病に指定されている ノゼマ病 ノゼマ原虫によるミツバチの感染症で 届出伝染病に指定されている
ノゼマ病(届出伝染病) Nosema apisおよびNosema seranaeと呼ばれる胞子原虫によって起こる、成虫のみが罹患する疾患である。 腹部膨満、飛翔不能などを引き起こす。 経口感染した胞子が中腸上皮で増殖し、多量の胞子を排出して汚染源となる。 腸管は感染により、花粉などの消化、吸収能が低下し、成蜂は虚弱となる。
ノゼマ病の症状 感染した蜂は糞詰まりの状態を呈し、腹部膨満、飛翔不能となり、巣門周辺を徘徊する。 感染群では下痢による巣箱の異常な汚れがみられる。 感染した蜂は寿命が短縮し、かつ感染群では卵の孵化率が低く、群の弱小化の主要な原因となる。
ノゼマ病の診断予防 診断は感染成虫(15日齢以上の成虫)を冬から春先にかけて、10~25匹の消化管内の原虫の確認を行う。 成虫の中腸を取り出す 正常な中腸は茶黄色である ノゼマ感染の中腸は原虫胞子 の集積のため白色を呈する 診断は感染成虫(15日齢以上の成虫)を冬から春先にかけて、10~25匹の消化管内の原虫の確認を行う。 中腸内容を磨りつぶし、スライドグラスに乗せてカバーグラスをかぶせ、400倍で鏡検を行い原虫胞子を確認する。 治療はFumagilin(Fumidil-B)を砂糖水に混ぜて与える。 予防は空巣箱の燻蒸消毒(酸化エチレン、酢酸液)を行う。
ミツバチヘギイタダニによるミツバチの感染症で届出伝染病に指定されている バロア病 ミツバチヘギイタダニによるミツバチの感染症で届出伝染病に指定されている
バロア病の発生状況(2014年6月現在) 発生の認められる地域 発生の疑いのある地域 感染が確認された地域 発生が限定的に認められる地域 報告のない地域 現在発生の無い地域 発生の無い地域
バロア病(届出伝染病) Varroa jacobsoni(ダニ)によって起こる、幼虫の発育障害、死亡、成虫の腹部萎縮、翅のねじれ・縮みなどの奇形、脚の変形、飛翔回数や時間の減少、帰巣蜂数減少などを引き起こす感染症である。 蜂巣内で産卵増殖し、幼虫・蛹・成虫に寄生し、別の蜂との接触により伝播する。 このダニは,春期には雄蜂の蜂児で繁殖するため,ダニが発生していても蜂群への影響は限定的で気づきにくいことが多い。 ところが、夏になると、雄の生産が停止するため、大量のダニが一気に働き蜂の蜂児に寄生するようになり、多くの場合、重寄生となって寄生された働き蜂が羽化できないため、蜂群の壊滅など重大な被害につながる(夏の大発生)。
バロア病の症状 体表に成ダニを付着させた働き蜂が目につくようになるのが第一段階で、この時期には雄の蜂児を取り出すと多くの場合ダニが寄生している。 羽化不全の働き蜂が時折巣板上に見られるのが第2段階で,この段階で薬剤による防除が必要である。 巣門前に蛹や翅の伸展不良の成蜂が捨てられるようになるのが第3段階で、この段階ではかなりの働き蜂の蛹が寄生を受けていて、蜂群の壊滅も間近である。 巣箱の底にも捨てきれなかった羽化直前の蛹とダニの死体が大量に見られるようになった段階では、すでに投薬しても蜂群を救うことはできない
バロア病の対策・治療 ダニの防除には,殺ダニ剤であるフルバリネートの製剤「アピスタン」が動物医薬品として認可されているのでこれを使用する。 プラスチックの短冊状の薬剤を,蜂児巣板3~4枚あたり1枚の割合で入れる。 投与期間は4~6週間で、採蜜やローヤルゼリーの採乳時期には使用できない。 ストリップの再利用や、6週間を超える長期使用は薬剤耐性ダニを発生させる原因となるので避ける。 巣の素材である蝋には蓄積していくので、アピスタンを使用した蜂群から得られた蜂蝋を、食用や化粧品素材として用いることは推奨できない。
アカリンダニによるミツバチの感染症で届出伝染病に指定されている アカリンダニ症 アカリンダニによるミツバチの感染症で届出伝染病に指定されている
アカリンダニ症の発生状況(2014年6月現在) 発生の認められる地域 発生の疑いのある地域 発生が限定的に認められる地域 報告のない地域 現在発生の無い地域 発生の無い地域
アカリンダニ症(届出伝染病) Acarapis woodi(ダニ)によって起こる疾病であるが、多くの場合無症状の感染症である。 気管の黒色斑点、黒色化を起こし、重感染では蜂数減少を起こしたり、まれに感染蜂の寿命短縮を起こす。 ダニの寄生蜂との接触により伝播する。 診断は成蜂気管内からの病原ダニの検出を行う。 予防は殺ダニ剤を適用し、蟻酸液の噴霧を行う。
アカリンダニ症の症状と対策 ダニそのもの影響は小さく、成虫寿命にある程度短縮の影響が出るといわれている程度である。 しかし,ダニが吸血する際にウイルスを媒介する可能性があると考えられ、ウイルスの影響が強くでるような相互作用も報告されている。 何らかの病気が蔓延してきた場合に、迷い込みや盗蜂などで病群と健常群の働き蜂の接触が起こると、病気の媒介者となる可能性が指摘されている。 発生地域では、メントール処理などが行われている。
ウイルスによるミツバチの幼虫を 死亡させる感染症である ザックブルード病 ウイルスによるミツバチの幼虫を 死亡させる感染症である
ザックブルード病Ⅰ ザックブルードウイルス(Picornavirus)感染によって起こる感染症である。 世界中で発生しており、春先、蜂群の増勢期に発生しやすい。 幼虫は働き蜂からの王乳や密を介して感染するが、バロアダニによる媒介もある。 幼虫は単房蓋の形成直前・直後に死亡する。 感染前期幼虫は蛹になれず、真珠様白色~淡黄色~黄褐色~黒褐色となる。 特に頭部から黒変して死亡し、スリッパ状の形となる。 外皮は水分を含んでたるみ、もろくて襞状となり、容易に単房から剥がせることができる。
ザックブルード病の発生疫学と症状 ウイルスに感染した蜂児が、前蛹期に袋状になり、東部側に水がたまった状態(写真上)になるので、この名前で呼ばれている。 東南アジアから南アジアにかけては,1980年代を中心に多数のトウヨウミツバチがこのウイルスが原因で死亡(蜂群が壊滅)したとされている(タイサックブルード)。 現在でもトウヨウミツバチでは主要な病気だが、セイヨウミツバチでは重症例は知られていない。 トウヨウミツバチの場合特に重症でなくても、蜂群あたり数百の感染巣房を見ることができる。 巣房蓋は働き蜂によって破られ、死蜂児は取り除かれるが、完全な除去には時間がかかり、蜂児の体の一部が巣房に残っているのが見られる(写真下:下段中央の巣房など)。
ザックブルード病の診断と対策 診断は死亡幼虫の特徴的形態により行う。 死亡幼虫の乳剤から分離・精製した試料の電顕による観察で、ウイルス粒子を確認する。 ELISA、蛍光抗体法、RT-PCRにより確定診断を行う。 一般に、ニホンミツバチは病気に強いと考えられているが、セイヨウミツバチとの接触を避け,抵抗性のないウイルスなどの侵入を予防した方がよい。 同一の蜂場内で、両種を飼う場合には、このようなリスクもあることを理解してほしい。 予防は蜂を扱う人の手指・使用器具の消毒など衛生管理を徹底することである。