脳卒中急性期患者データベースの 統計解析に関する研究 ― 中高レベル血栓溶解療法の評価 ―

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脳卒中急性期患者データベースの 統計解析に関する研究 ― 中高レベル血栓溶解療法の評価 ― 脳卒中急性期患者データベースの 統計解析に関する研究 ― 中高レベル血栓溶解療法の評価 ― ○汐月博之1) 2)、大櫛陽一1)、小林祥泰3)、 脳卒中急性期患者データベースの構築に関する研究班 1)東海大学医学部医用工学情報系 2)東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 3)島根医科大学第三内科 東海大学医学部医用工学情報系、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の汐月博之と申します。 本日は、東海大学医学部医用工学情報系 大櫛陽一教授、 島根医科大学第三内科 小林祥泰教授、 脳卒中急性期患者データベースの構築に関する研究班の方々、 と共に行なっております、 脳卒中急性期患者データベースの統計解析に関する研究、 (サブタイトル)中高レベル血栓溶解療法の評価、 についての研究成果をご報告させていただきたいと思います。

本研究の背景 治療法の評価が必要 高度医療として新しい治療法 が開発されている ↓ 普及や保険制度への組み込みの為には? はじめに、本研究に至りました背景です。 近年、高度医療としての様々な新しい治療法が開発されております。 これら新しい治療法を確立、普及させること、そして保険制度等への組み込みを考えるには 治療法の有効性の評価が必要となってきます。

日本人の三大死因 ↓ 要介護高齢者の主要原因として重要 ( 2000年度・・・34.1% ) がん 心臓病 脳卒中・・・1970~75年をピークに死亡率は減少 ↓ しかし 要介護高齢者の主要原因として重要 ( 2000年度・・・34.1% ) これは現在の日本人の三大死因を挙げております。 日本人の死亡統計をみると、それまで第1位だった脳卒中(脳血管疾患)の死亡率は1970~75年の ピークを境に減少に転じ、 現在ではガン(悪性新生物)・心臓病(心疾患)についで第3位となっております。 しかし、要介護高齢者の、手助けや見守りが必要となった主な原因を見た場合、 脳卒中に起因するものが34.1%(2000年度)と最も多くなっております。 これは、2000年4月にスタートしました介護保険法等、介護を社会全体で支えようという時代の流れからも、 重要な要因として考える必要があります。

脳卒中急性期患者データベースの構築に関する研究班 患者データ収集 「脳卒中入院台帳」 脳卒中急性期患者データベースの構築に関する研究班 により作成 全国42ヶ所の施設に設置 患者データの収集には、「脳卒中入院台帳」 を使用しております。 これは、全国レベルの大規模かつ継続性のある脳卒中急性期患者データベースを作成し、 継続的な脳卒中急性期患者データバンクを構築する目的で、 脳卒中急性期患者データベースの構築に関する研究班により作成されたものです。 近い将来の電子カルテ化を考慮し、登録用紙による調査を入力するのではなく、 直接パソコン入力する事により、効率よく精度の高いデータの電子化が可能な 将来型のデータベースシステムです。 今回、全国42ヶ所の施設から、2001年度は、8,246件の患者データを収集する事ができました。 ↓ 8,246件(2001年度)の患者データ収集

こちらは、「脳卒中入院台帳」 の画面の様子です。

このように、主な入力項目はあらかじめ組み込まれており、プルダウンメニュー等で 選択をすることができるので、 症例数の多い施設での使用でも比較的少ない労力で高い精度の連続的な症例入力が可能です。 また、将来的に多くの施設への設置を考えた場合、このような入力項目の統一や標準化が、 後のデータの活用の際には大幅に有効となってきます。

収集データの項目 病院、性、年令、入院年月日、入院時刻、脳卒中発症日、脳卒中発症曜日、脳卒中発症時刻、脳卒中発症状態、来院方法、発症-来院時間、担当科、在院日数、 脳卒中暫定診断、発症型、入院時収縮期血圧、 入院時拡張期血圧、脳卒中既往歴、入院後進行、 入院後再、脳卒中家族歴、飲酒歴、喫煙歴、心房細動、高血圧、糖尿病、高脂血症、心疾患、抗凝固療法、 腎疾患、退院日、退院時収縮期血圧、 退院時拡張期血圧、確定診断、(続く) こちらは、脳卒中入院台帳により収集されたデータの項目です。 赤い文字でお示しいたしました項目が、今回の研究で使用した項目です。

収集データの項目~続き~ 発症前rankin、入院時rankin、退院時rankin、 梗塞画像診断名、梗塞サイズ、画像診断、出血サイズ、 出血性梗塞の有無、白質病変、心血管検査、 心血管検査結果、脳血管検査、脳血管検査結果、 急性期治療内容、開始時間、日数、リハビリ開始時期、手術有無、手術内容、jss入院時、jss退院時、 nihss入院時、nihss退院時、退院時mRS たとば、mRSは~   0:無症状   1:症状あるが障害なし   2:障害あるが介助不要   3:介助必要だが独歩可能   4:歩行・日常生活に要介助   5:寝たきり   6:死亡 となっております。 NIH Stroke Scale 原典 1) Brott T, et al.: Measurements of acute cerebral infarction: a clincal examination scale. Stroke 20: 864-870, 1989    2) Goldstein LB, et al.: Interrater reliability of the NIH stroke scale. Arch Neurol 46: 660-662, 1989 Japan Stroke Scale 日本脳卒中学会・脳卒中重傷度スケール(急性期) 原典 日本脳卒中学会Stroke Scale委員会: 日本脳卒中学会・脳卒中重症度スケール(急性期) Japan Stroke Scale (JSS). 脳卒中 19: 2-5, 1997

評価対象 中高レベル血栓溶解療法 脳梗塞の初期治療法として注目 t – PA 選択動注 t – PA 点滴静注 UK 選択動注 脳卒中の死亡率自体は確かに減少してきましたが、 脳卒中の発病者は決して減少していないのが現状です。 また脳卒中の種類も、かつては重症の脳出血が多かったのに対して、 (近年では国民の栄養状態の改善と高血圧症の管理等により)、脳出血が減少、軽症化し、 食事の欧米化(によって糖尿病や高脂血症が増えたこと)、高齢化により(動脈硬化や不整脈などの) 心血管系の疾病が増えたこと等から、脳梗塞が増加しています。 今回我々は、脳梗塞の初期治療法として注目されております「中高レベル血栓溶解療法」 を評価の対象として選定いたしました。 血栓溶解療法とは、血管閉塞の原因となった血栓を溶解する薬剤を投薬し、 閉塞血管を再開通させる治療法のことです。 中高レベル血栓溶解療法の定義は、ご覧のように t-PA(組織プラスミノゲンアクチベーター ) 選択動注、 t-PA 点滴静注、 UK(ウロキナーゼ ) 選択動注、 UK 30万単位以上静注と致しました。 これらの選定にあたりまして、島根医科大学第三内科、小林祥泰教授によりご指示をいただいております。 t-PA選択動注: 極細のマイクロカテーテルを大腿動脈から閉塞した脳血管のところまで送り込み、 そこから血栓溶解剤を局所的に動脈投与する治療法 ↓ 脳梗塞の初期治療法として注目

脳梗塞 次のように分類される 心原性脳塞栓・・・・・・・・・・・・・ 26.6% アテローム血栓性梗塞・・・・・ 23.3% アテローム血栓性塞栓・・・・・ 5.4% ラクナ梗塞・・・・・・・・・・・・・・・・ 27.8% 一過性脳虚血発作 ( TIA )・・・ 8.8% その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8.1%     ( 脳梗塞例 n = 6,090 ) 脳梗塞は、その原因から大きく、 心原性脳塞栓、アテローム血栓性梗塞、およびラクナ梗塞 の3つの病型に分類されます。 今回の症例における各病型の割合はそれぞれご覧の通りでした。

対象 n=480 心原性脳塞栓、アテローム血栓性梗塞、 アテローム血栓性塞栓例 発症から来院まで3時間以内 睡眠時発症を除外 入院時NIHSSが6~29の症例 登録されている患者データが記述的な為、 まず、(「地域分け」「コード付け」「カテゴリーの統合」「順序データ化」「2値化」等、) 統計処理が可能な状態に整理を行いました。 そのデータを、 心原性脳塞栓、アテローム血栓性梗塞、およびアテローム血栓性塞栓例に限定しました。 エビデンスにより、ラクナ梗塞、厳密には他の脳梗塞例とは違うTIA、 そして病型が不明なその他は対象とは致しませんでした。 また、脳卒中の診療は、発症から治療開始までの時間が重要と考えられており、 欧米では心臓発作 (Heart attack) と同様に、脳卒中を脳発作 (Brain attack:1996年5月3日号のScience誌) と呼ぶようになり、早期治療の必要性が叫ばれております。 そこで、急性期の患者に限定する意味で、発症から来院まで3時間以内の症例に限定、 睡眠時の発症を除外しております。 また、重症度について入院時NIHSSが6~29の中等~重症の症例に絞込みを致しました。 この段階で、症例数は480例となっております。 ↓ n=480 (一部のデータ欠損あり)

患者データの分析 1.ケースコントロール分析 中高レベル血栓溶解療法実施例をケースとして(n=84)、  非実施例(n=367)から各ケースと同じ入院時NHISSランク、性別、  年齢階級および病型分類の症例を抽出し、コントロールとした(n=84) 検定方法・・・Mann Whitney - U 2.多重ロジスティック分析  独立変数・・・「中高レベル血栓溶解療法の有無」、  共変量  ・・・「性別」「年齢」「入院時NIHSS」 (1)従属変数・・・退院時mRS (n=450) (2)従属変数・・・退院時痴呆の有無 (n=332) 患者データの分析方法です、 まず、中高レベル血栓溶解療法実施例をケースとして、 非実施例から各ケースと同じ入院時NHISSランク、性別、年齢階級および病型分類 の症例を抽出し、コントロールとしたケースコントロール分析 を、さらに、 独立変数に「中高レベル血栓溶解療法の有無」、 共変量 に「性別」「年齢」「入院時NIHSS」をそれぞれ投入し、 従属変数として「退院時mRS」および、退院時痴呆の有無」を投入して オッズ比も算出できる多重ロジスティック分析を行い、 退院時の治療の効果を見ました。 今回、統計処理にはSPSS for Windows version 10.1.3J を使用 しております。

結果1 ~ケースコントロール分析~ 在院日数、NIHSS変化、退院時mRS には有意差は認められなかった JSS変化 (p<0.1)   には有意差は認められなかった JSS変化 (p<0.1)  には有意差傾向が認められ治療効果の可能性が見られた 退院時痴呆の有無 (p<0.05)  には有意差が認められ、治療効果が見られた まず、 (中高レベル血栓溶解療法実施例をケース、非実施例から各ケースと同じ NHISSランク、性別および年齢階級の症例を抽出しコントロールとした) ケースコントロール分析の結果をお示しいたします。 在院日数、 NIH Stroke Scale変化、退院時modified Rankin Scaleには有意差は認められませんでした。 Japan Stroke Scale変化 (p<0.1) には有意差傾向が認められ治療効果の可能性が見られました。 退院時痴呆の有無 (p<0.05) には、有意な差が認められ、 中高レベル血栓溶解療法実施例に治療効果が見られました。

退院時mRSが高値(=生活に障害が残る) 結果2(1) ~退院時mRSに対する多重ロジスティック分析~ odds ratio = 0.489 (0.281~0.852) ↓ 中高レベル血栓溶解療法により 退院時mRSが高値(=生活に障害が残る) となる確率が約5割となる (p<0.05) 退院時mRSに対する多重ロジスティック分析についての結果です。 オッズ比は0.489で、中高レベル血栓溶解療法を実施する事により、退院時mRSが高値 すなわち、退院時に生活に障害が残る確率の平均が約5割以下となる事がわかりました。

結果2(2) ~退院時痴呆の有無に対する多重ロジスティック分析~ odds ratio = 0.398 (0.184~0.863) ↓ 中高レベル血栓溶解療法により 退院時に痴呆の症状がある 確率が約4割となる (p<0.05) 退院時痴呆の有無に対する多重ロジスティック分析についての結果です。 オッズ比は0.398で、中高レベル血栓溶解療法を実施する事により、退院時に痴呆の症状がある 確率の平均が約4割以下となる すなわち、6割以上の確率で痴呆の症状が無い ことが示されました。(p<0.05)

結論 中高レベル血栓溶解療法を実施 退院時痴呆、QOLに関しての効果 クリニカルスケールの改善の可能性 ↓ 今回の結論です。 中高レベル血栓溶解療法を実施することによって、 退院時痴呆の有無に関しての効果が期待できることが示されました。 痴呆が、手助けや見守りが必要となる要因として2000年度において、 13.8%と高い数値を示している事からも、この結果は意義のあるものと思われます。 また、クリニカルスケールの改善が見込まれる可能性も示されました。

今後の展望 症例数を増やす 1.効果のより確実な確認 2.中レベルと高レベルでの相違の検討 脳梗塞の血栓溶解療法の確立と普及 ↓    1.効果のより確実な確認    2.中レベルと高レベルでの相違の検討 脳梗塞の血栓溶解療法の確立と普及 脳梗塞予後の改善 今後の展望です。 登録患者症例数が増えることで、より正確な分析が可能となり、 また、中レベル血栓溶解療法と高レベル血栓溶解療法の相違の検討も可能になると考えられます。 脳梗塞の血栓溶解療法の確率と普及、脳梗塞予後の改善に結びつくことを期待しています。

まとめ 新しい治療法評価の可能性 医療の現状分析 このようなデータベースの普及 ↓ ↓ 今回のまとめをさせていただきたいと思います。 このようなデータベースが普及する事によって、新しい治療法評価の可能性が 開かれるものと期待されます。 また、治療法の評価にとどまらず、医療全般の現状分析も可能になると思われます。 医療の現状分析

謝辞 本研究は 厚生科学研究事業H13-21世紀(生活)-33 の補助金により実施した 最後に謝辞です。 これで、今回の研究成果の報告を終らせていただきたいと思います。