(C) 藤田喜久, 浪崎直子,中村崇,中野義勝 サンゴのことをいっぱい知ろう! じゅーご サンゴ15 サンゴを学ぶ15の話 (C) 藤田喜久, 浪崎直子,中村崇,中野義勝
使用にあたってのご注意 1)著作権表示 サンゴ15の使用に際しては、必ず「(C)藤田喜久・浪崎直子・中村崇・中野義勝」と、著作権表示を明記してください。 2)無断でのコピー、再配布、二次利用、有償配布の禁止 著作権者の許可なしに、無断でコピー、改変、転載することは堅くお断りします。また、有償で配布することはできません。 3)フィードバックのお願い 「サンゴ15」は、「育ってゆく」教材です。より良い教材にしていくため、使用後、改善点などフィードバックをお寄せ下さい。
サンゴの1:島をつくる生き物 あたたかい海には、 島をつくってしまうスゴい生きものがいる! その生きもののことを「サンゴ」 <解説> 沖縄などの暖かい浅い海には,「サンゴ」と呼ばれる,硬い石灰質の骨格を持った生物がいます. この「サンゴ」の屍骸(骨格)が長い年月をかけて積み重なってできる地形のことを「サンゴ礁」と呼びます. ツバルは、国土全体がサンゴ礁でできています。 サンゴは「生物」を,サンゴ礁は「地形」を,それぞれ示す言葉です.良く似た言葉ですが,まったく意味合いが異なります。 ・サンゴ礁とは? →サンゴを中心とした生物達の骨格や殻などが,長い時間をかけて積み重なってできた「地形」のことです. ・「サンゴ」とは? →サンゴ15では,特にことわりの無い限り,「造礁サンゴ」のことを単に「サンゴ」と呼びます. この「造礁サンゴ」とは,石灰質の固い骨格を持ち,褐虫藻を体内に共生させている生物のことを指します. サンゴ礁をつくる生物は,サンゴの他にも沢山います.例えば,有孔虫(ホシズナ「お土産屋で目にする星の砂」やゼニイシ)の仲間,貝の仲間,ウニの仲間,フジツボの仲間,コケムシの仲間,海藻類などなど.これらの生物は,いずれも石灰質の骨や殻を持っています.「サンゴ礁」という言葉から,サンゴだけが役立っているように思われることもあるかもしれませんが,実際には,様々な生物たちが関係しあってサンゴ礁を作り上げています. サンゴ礁をつくる生物(サンゴ)がいたとしても,サンゴ礁ができるとは限りません.サンゴ礁の「礁」という言葉は,「浅いところにあって波に対する抵抗性を持つ地形(水面すれすれにあって,波を砕くような地形)」を指します.サンゴが「礁」をつくりあげるための条件の一つとして,冬の最低水温が18℃以下にならないことがあります.ですから,比較的水温が低く,サンゴの成長スピードが遅い場所では,サンゴが生息していたとしてもサンゴ礁はつくられません(「サンゴ群落」とか「サンゴ群集」などと呼ばれます).現在のところ,サンゴ礁の北限は,日本海にある壱岐とされています. サンゴ礁は,その形によって,大きく3つのタイプに分類されます. ・裾礁:浅海に生じ,岸に連なるか,僅かに離れて発達するタイプ.簡単に言えば,「島(陸地)のまわりにできるサンゴ礁」.沖縄(日本)のサンゴ礁はほとんどこれに相当します. ・堡礁:岸から離れて平行に発達し,岸との間にかなり深い海域(10〜80m)が広がるタイプ.オーストラリアのグレートバリアーリーフが有名. ・環礁:環状に発達するタイプ.内部には浅い海域ができ,礁湖(ラグーン)となる. サンゴ礁は,時に,隆起して島などの陸地となります.沖縄県には,観光地として有名な竹富島のように,山や川が無い平坦な島が地域が沢山ありますが,それらはサンゴ礁が隆起してできた島です.また,南太平洋では「国」そのものがサンゴ礁でできている例もあります.このような場合,「サンゴ礁」は,海域にある一地形だけを指すのではでなく,海岸や陸域の様々な環境やそこに住む生物,人の暮らしまでも含みます.近年,サンゴ礁保全の必要性が叫ばれていますが,守るべき対象を明確にするためにも,「サンゴ」と「サンゴ礁」をしっかりと理解する必要性があります. その生きもののことを「サンゴ」 サンゴがつくる地形のことを「サンゴ礁」と呼ぶ!
サンゴの2:サンゴには、いろんな形がある サンゴはイソギンチャクと同じ「刺胞動物(しほうどうぶつ)」の仲間 拡大してみると かたまり 葉っぱ テーブル わらじ 枝 地面をおおう 拡大してみると <解説> ひとくちにサンゴといっても色々な形や色のものがあり,一見植物のように見えるものもあります.また,石灰質の骨格を持つので,触ると石のように固いです.しかし,サンゴに接近して,その表面をよく観察するとイソギンチャクのようなもの(ポリプ)が沢山集まってできているのが分かります.このポリプと呼ばれるイソギンチャクのようなものはそれぞれが餌を食べたり、産卵したりすることが出来るれっきとした動物なのです. ポリプが集まって形作るものを「サンゴの群体」といいます. その形は実に様々です. 主に,被覆状群体(ひふくじょうぐんたい),葉状群体(ようじょうぐんたい),樹枝状群体(じゅしじょうぐんたい),塊状群体(かいじょうぐんたい)の4つの基本形があります. ・被覆状群体:基盤となる岩などを薄く覆うように広がる群体です.平面的な群体なのでポリプの数が少なく,堆積物に弱い(埋まってしまいやすい)ですが,樹枝状や葉状の群体形にくらべて波浪などの物理的破壊や干出(干潮時に干上がること)に対する耐久性は高い形だとされています.したがって,波あたりや流れの強い場所や,潮間帯などでよく見られる群体形です.写真の下段左端がこれに相当します. ・葉状群体:基盤から上方に向かって,薄く,幅広く伸びる群体形です.表面積が大きいのでポリプの数が多く,基盤から立ち上がるので堆積物に強いですが,繊細な形をしているため脆く,波浪などの物理的なちからで破壊されやすいため,波の穏やかな場所や,やや水深のある環境で見られます.写真の上段右端がこれに相当します. ・樹枝状群体:基盤から上方に伸び,細かく枝分かれする群体形です.枝分かれの仕方などで,樹木状になったり,テーブル状になったりします.表面積が大きいのでポリプの数が多く,基盤から立ち上がるので堆積物に強いのですが,繊細な形をしているため比較的脆く,波浪などの物理的破壊への耐久性が低い群体形です.波が穏やかで,適当な水深と光量がある場所では,もっとも優占する群体形です.写真の上段左端と中央がこれに相当します. ・塊状群体:半球状(上左右に同じように)成長する群体です.ポリプの数が少なく,成長が遅いですが,波浪などの物理的破壊や干出への耐耐久性はきわめて高い群体形です.波あたりの強い場所や潮間帯,イノー内などでよく見られる群体です.写真の下段中央がこれに相当します. なお,サンゴの群体の形は,種によって概ね決まっていますが,同じ種でも生息環境によって変異に富む場合もあります. 写真の下段右側の「わらじみたいな形」は,単体性(ポリプが一つのみ・非群体性)のクサビライシの仲間です.単体サンゴと群体サンゴについては,「サンゴの6」を参照ください. サンゴはイソギンチャクと同じ「刺胞動物(しほうどうぶつ)」の仲間
サンゴは、敵から身を守るために、自分で作った骨格に体を隠す。 サンゴの3:サンゴの体 ポリプが引っ込んだ時 触手 口 胃 骨格 ポリプ ポリプが出てる時 <解説> 造礁サンゴの体のつくりはとても簡単で、上に口があいた海水のつまった筒状の袋のような形をしています。この動物であるサンゴの体の構成単位のことを「ポリプ」と言います。(人体に出来ることのある「ポリープまたはポリプ」とは異なります。) ポリプの中心には口があり、口を取り囲むように触手が並んでいます。 サンゴはこの触手を使って、他の生物を攻撃したり、餌となる動物プランクトンを捕まえて、口に運びます。 口の中は、胃腔(いくう)という空洞があり、ここで養分の吸収をおこないます。老廃物は、口から排出します。サンゴは卵や精子を作りますが、それらは胃腔の中にある隔膜と呼ばれる部分で作られ、口から産卵・排出されます。 ポリプは、自分で分泌した石灰質の硬い骨格の穴の中に、自分の体を隠す事ができます。 多くのサンゴは、昼間はこの穴の中に隠れており、夜になると穴から出てきて活発に餌を食べたりしています。 また、ポリプは危険を感じるといつでも穴の中にひきこもることができます。 サンゴが自分で作る骨格の形態は、サンゴの種ごとにある程度の特徴があるため、サンゴの種類を同定する際の重要な基準のひとつとなっています(近年では、遺伝子を調べる事であらたな基準作りが進められています)。 補足:造礁サンゴとは、刺胞動物の中で、硬い石灰質の骨格を作るなかまのことを総称したものを指します。 サンゴは、敵から身を守るために、自分で作った骨格に体を隠す。
サンゴの4:単体サンゴと群体サンゴ サンゴには、1つのポリプだけの「単体サンゴ」と、 沢山のポリプが集まってできている「群体サンゴ」がある。 <解説> サンゴは、たった1個のポリプからできているのはまれで、ほとんどのサンゴは複数のポリプが集まって暮らしています。これを群体サンゴと呼び、成長してもたった一つのポリプで暮らすものを単体サンゴと呼びます。 群体サンゴも、最初は口が一つの単体サンゴからはじまります。 成長に従って、自分のクローン(遺伝的に全く同一なポリプ )を作ってポリプの数を増やしてゆき、一かたまりの群体を形成していきます。群体サンゴのポリプとポリプの間は共肉と呼ばれる組織で繋がっており、神経による情報伝達や栄養の受け渡しなども行っています。なんらかの要因で群体の一部が死亡した場合でも、生き残った部分が生き延びて、失われた部分を再生することもできます。 群体の形は、同じ種類のサンゴであっても、波当たりや光の強さなど周りの環境によって大きく変化します(可塑性があるとも言います)。例えば、波当たりの強い場所では、枝は太くなったり、波当たりの弱い場所では細くなったりと、サンゴはうまく環境に適応して生きています。 補足:群体の色も様々です。深場や濁りで光の少ない場所では、より効率よく限られた光エネルギーを利用できるように、褐虫藻をたくさん保持したり、光合成に必要なクロロフィルなどの色素を増やして対応しています。このような場所のサンゴと浅場のサンゴでは色の濃さが顕著に異なります。 単体・群体に関わらず、サンゴは岩や石などの固いものにくっついて生活する固着性のものがほとんどですが、離れて暮らす非固着性のものもいます(クサビライシの仲間など)。 サンゴには、1つのポリプだけの「単体サンゴ」と、 沢山のポリプが集まってできている「群体サンゴ」がある。
サンゴの5: サンゴの多くは、暖かい海にすんでいる サンゴの5: サンゴの多くは、暖かい海にすんでいる 10種 50種 400種 100種 200種 300種 450種 赤道 <解説> 一般的に、造礁サンゴが生息するには、3つの条件が必要です。 (サンゴ礁が存在する条件ではない点に注意!) 一つ目は水温が16度から32度までの暖かい海であること。 二つ目は光が届きやすい、浅い海であること。 三つ目は水が澄んでいること。 そのため、造礁サンゴのほとんどは赤道を中心に、北緯30度から南緯30度の範囲に帯状に分布しています。 世界で最もサンゴの種類が豊富な場所は東南アジアの、インドネシアとフィリピン、パプアニューギニアの3つの国に囲まれた海域で、 ここには450種以上のサンゴが分布しています。 ここから離れるにつれ、生息するサンゴの種数は少なくなってきます。 日本は、サンゴの分布の北限に位置するにもかかわらず、なんと400種類ものサンゴが生息しています。 これは世界最大のサンゴ礁域であるオーストラリアのグレートバリアリーフと同じくらいです。 日本の沿岸には、サンゴの分布の中心である東南アジアから、黒潮にのってサンゴの生育に欠かせない暖かい海水が運ばれてくるため、高緯度のわりにたくさんの種類のサンゴが生育しています。 日本には、400種類ものサンゴが見つかっている。
サンゴの6:サンゴの一生 サンゴの多くは、卵を生む 卵を生む 水面近くをただよう 海底で暮らす ようになる 成長する プラヌラ幼生 定着したてのポリプ 成長する 海底で暮らす ようになる <解説> 多くのサンゴの一生は、初夏の満月頃の夜に産卵し、海水中で卵と精子が受精するところからはじまります。受精した卵は「プラヌラ幼生」となります。 体表にある繊毛を使って泳ぐことができるプラヌラ幼生は、しばらく水面付近を漂い、海流にのって長距離移動をおこない生息域を広げます。受精後1週間から1ヶ月で、プラヌラ幼生は光とは逆の方向へと泳ぎ出して海底で定着する場所を探すようになり、お気に入り(生存に適した)の場所を見つけると岩に定着して、変態(そのままの形で大きくなる成長とは異なり、形態を大幅に変えることができます)しポリプとなります。最初、変態したてのポリプは成長して大きくなりながら同時に骨格を形成し、分裂や出芽によって自分のクローン(遺伝的に全く同じ)ポリプを周囲に作ってポリプの数を増やし、次第に群体として成長していきます。 群体は、一部が砂に埋もれたり、動物にかじられたりして死亡したり、群体の一部が折れたり剥がれたり(断片化)を繰り返しながら、成長・成熟して卵や精子を作るようになります。こうして有性生殖(精子・卵子の受精から生じた幼生から新たに群体が形成され始めるケース)と無性生殖(破片・断片化した群体が別の場所に固着し、それぞれが成長して群体の数を増やすケース)を繰り返して自分の子孫を増やしていきます。繁殖を開始する時期は、サンゴの種類や環境によって様々です。サンゴは数百年以上生きるものもあり、サンゴに寿命があるかどうかは、まだよくわかっていません。 サンゴの繁殖様式は実に多様です。 例えばハナヤサイサンゴの仲間は、親の体内で卵と精子が受精し、体内でプラヌラ幼生になるまで保育してから海水中に産み出す繁殖様式(幼生保育型と呼ばれる)をとります。クサビライシの仲間は、ちょうどキノコ形をした骨格の「かさ」の部分が岩盤から伸びた柄の部分から離れ落ちて独立して成長し、残ったサンゴの柄に当たる部分に、また新たな傘ができ、それが再び離れ落ちるといった過程を繰り返す繁殖様式をとることで知られています。 またサンゴには、1つのポリプで、卵と精子の両方を作ることができる雌雄同体の種と、ポリプ・群体が別々の雌と雄に分かれている雌雄異体があります。 補足:熱帯域のサンゴ群集やある種のサンゴでは一斉産卵しないで年間を通して産卵するケースも報告されています サンゴの多くは、卵を生む
サンゴは、出芽や分裂をしてポリプの数をどんどん増やす。 サンゴの7:サンゴの成長 芽が出る 分裂する この部分がサンゴ <解説> サンゴの成長は、単体性のサンゴの場合はポリプのサイズを大きくすることで成長し、 群体性のサンゴの場合は、ポリプの数を増やすことで成長します。 サンゴのポリプ大きさの限度は、概ねサンゴの種類ごとに定まっており、 その種の大きさの限度を超えた場合、ポリプが分裂したりすることでその数を増やします。 このポリプの数の増え方には2種類あります。 一つは、ポリプのわきから、隙間をうめるようにして、新しい小さなポリプの芽が出る方法です(アザミサンゴなど)。 これは触手環外出芽と呼ばれています。 もう一つは、サンゴのポリプが大きくなってもう一つの口ができ、ポリプがくびれるようにして2つに分裂する方法です(キクメイシなど)。これを触手環内出芽といいます。 補足:サンゴの成長は年間を通して一定ではなく、光や水温など様々な環境に左右されています。特に白化の被害を受けたものでは長期に渡って成長が遅くなったりすることが明らかになっています。また、一部が死んでから同様の形に回復する場合もあります。ですから、サンゴの大きさ=年月とならないこともあります。 サンゴは、出芽や分裂をしてポリプの数をどんどん増やす。
サンゴの8:サンゴの体には、植物がすんでいる! サンゴの8:サンゴの体には、植物がすんでいる! 褐虫藻 (かっちゅうそう) <解説> 造礁サンゴの体の中には、褐虫藻という小さな植物プランクトンが棲んでいます。 褐虫藻の大きさは、それぞれが約10μm。1mmの100分の1ほどの大きさです。 サンゴは褐虫藻が光合成によって作り出す栄養をもらって、エネルギー源としています。一方、褐虫藻はサンゴの中に住むことで、敵に襲われることのない安全な住み場所を与えてもらっており、お互いが助け合って生活しています(相互に利益をもたらす事から、相利共生関係ともいう)。 造礁サンゴの多くは、栄養源の多くを褐虫藻に頼っているため、サンゴにとって光は大変重要な環境要素であり、サンゴは透明度の高い、光のよく届く明るい場所に多く棲んでいます。透明度の悪い場所や100mよりも深い場所にはほとんど棲めません。十分に光をうけるために、光の強さに応じて群体の体を変える種類のサンゴまでいます。 補足:褐虫藻は造礁サンゴだけでなく、イソギンチャクやシャコガイなど、他の多くの動物の中にも共生しています。 群体形の可塑性の例:ハマサンゴの仲間(Porites sillimaniani)は明るい場所では(群体が固着している海底の面積に対して)より表面積の大きい柱状に、暗い場所では扁平な群体に成長します。 褐虫藻は、光合成で作った栄養をサンゴにあげている。
サンゴの9:サンゴは、エサを捕まえて食べる 触手 <解説> サンゴは、夜になると、自分で動物プランクトンを捕まえて食べます。 サンゴは昼間はポリプを骨格の中にひっこめているけれど、夜になるとポリプを開いて触手を伸ばしています。 夜、近くに寄ってきた動物プランクトンを、刺胞を使って麻痺させ、捕まえた餌は触手を使って口から胃腔の中に運び込まれます。胃腔に放射状に張り出している隔膜や、隔膜の縁と下の方にある「隔膜糸」で、えさを消化するための酵素を分泌して消化し、吸収します。老廃物は、口から外に吐き出します。 また、海中に漂っている微小な有機物を、体表の表面に粘液を分泌して付着させ、体表にある繊毛によって口の方に運んで、食べることもあります。 夜になると、触手を使って動物プランクトンなどを捕まえる。
すむ場所をめぐってあらそいながら、複雑な地形をつくっていく。 サンゴの10:サンゴも、ケンカをする 上に成長して影をつくる 隔膜糸で攻撃 <解説> (海底にくっ付いていて動くことが出来ない)固着性の造礁サンゴは、成長するにしたがって隣の別の群体に近づきすぎてしまい、主要なエネルギー源である光が良く届く空間を巡ってケンカをします。動けないサンゴでは、いろいろな武器を使ってけんかをすることが知られています。 その武器には主に2種類あります。 一つは、スウィーパー触手です。 スウィーパー触手を持つことが知られているノウサンゴとキクメイシの仲間のポリプの触手は、通常長さが1cmほどですが、スウィーパー触手は長さが10cmにも伸び、水流によって周囲のケンカ相手である敵のサンゴに接触し、触手の先端から刺胞を発射して、刺胞の毒によって相手を殺します。周辺の敵を退治(掃除する:sweep)することからスィーパー触手と呼ばれます。スィーパー触手はケンカする相手が現れた場合に必要に応じて作られ、ケンカする相手がいなくなると、もとの触手に戻ります。 また、昼間でもポリプが長く伸びているハナガササンゴでは、普通のポリプと長さは変わらないのですが、攻撃用の刺胞がたくさんあるスウィーパーポリプが作られることが知られています。 補足:スウィーパー触手とスウィーパーポリプは主に夜に使われます。 もう一つの武器は、サンゴにとっての食べ物の消化器官である、隔膜糸です。 攻撃する相手を認識したら、ポリプの口やポリプの体壁をつらぬいて、白く細長い糸状の隔膜糸を多く外に出して、相手に巻きつけ、相手の肉を直接消化酵素で溶かします。隔膜糸は1cmほどの長さのため、離れた相手を攻撃する場合には適しません。隔膜糸による攻撃もほとんどの場合夜に行われています。 また、テーブル状の成長の早いサンゴ群体の場合は、相手のサンゴ群体の上に大きく広がって影を作ることで、直接接触することなく相手を殺してしまう方法をとるものもあります。 スイーパー触手で攻撃 すむ場所をめぐってあらそいながら、複雑な地形をつくっていく。
サンゴ礁のさまざまな環境が、たくさんの生きもののすみかになる。 サンゴの11:サンゴ礁が育む生き物たち <解説> サンゴ礁は,サンゴを中心とした生物達が長い年月をかけてつくりあげる地形のことです.主には海域での地形を指しますが,サンゴ礁が隆起してできた島などもありますので,結果として,サンゴ礁域には,砂浜(削られたサンゴ骨格や貝殻の破片などが堆積した場所),岩礁(ノッチなど),転石帯(死サンゴや石灰岩片が堆積した場所),海草藻場,造礁サンゴの骨格,海底洞窟,干潟,マングローブ域などの多様で複雑な環境が存在します.それぞれの環境は,生物にとっての生息空間となりますが,さらに,生物が(穴をあけたり,岩を削ったりなどして)棲息することによって新たな環境が創出され,そこに別の生物が棲息可能になることもあります(「棲み込み連鎖」と呼ばれます). 補足:サンゴ礁の面積は,地球上の海洋面積の2パーセントに満たない(研究者により数値はかなり異なっています)とされていますが,そこに生息する生物種は極めて多いと言われています.魚類の例では、現在見つかっている種のうち,4分の1がサンゴ礁域に生息しているとも言われています. サンゴ礁のさまざまな環境が、たくさんの生きもののすみかになる。
サンゴの12:サンゴ礁と暮らす サンゴやサンゴ礁にすむ生き物から、いろいろな恵みを受けている。 水産物 浜下り(沖縄の潮干狩り) 独特の文化・歴史 自然の防波堤 建築資材(家の壁とか) 観察会の場(教育) <解説> 「サンゴの12」では,サンゴ礁は生物の生息空間として重要であることを学びました. それでは,サンゴ礁は私たち人間の暮らしにどのような恩恵をもたらしてくれているでしょうか? 「防波堤(対浸食効果)」 サンゴ礁は,外洋から押し寄せる荒波から島や陸地を守ってくれています.外洋からの波の運動エネルギーの68-77%が礁縁(リーフエッジ)で吸収されているという試算もあります.サンゴ礁による防波効果がなければ、外洋からの波が直接沿岸に当たることになり、砂浜が削られてしまう状態になると考えられます。 「漁場・水産資源」 サンゴ礁域に暮らす人々にとって,サンゴ礁に生息する多様な生物は,食用資源としても極めて重要です.複雑なサンゴ礁地形を活かした独特の漁法も発達しています.補足:サンゴ群体が作り出す様々なスケールでの3次元的な海底起伏の複雑さが、そこにに生息する魚類の種数・個体数と相関することが分っています。 「住居・建築資材」 サンゴ礁石灰岩やサンゴ塊などは,建築資材として利用されています.沖縄では,かつては,家の柱の土台としてサンゴが用いられていましたし,潮間帯の石灰岩を切り出し,建物の壁や石垣に用いられていました.また,サンゴから作られる漆喰は,瓦を固定したり,シーサー(沖縄県の獅子)を作るのに使われたりします. 「生活物資」 昔の人々は,サンゴ礁に生息する生物を生活用品として利用していました.例えば,ホラガイをヤカンとして利用したり,サンゴをおろし金や脱穀機の代わりとして利用したりしていました. 「観光資源」 サンゴ礁が発達する島嶼地域では,美しいサンゴ礁は重要な観光基盤となります.ダイビング・リーフトレイル(磯歩き)・釣りなどのマリンレジャーや,サンゴ礁域独特の文化に魅了される人々も少なくありません. 「教育・研究の場」 サンゴ礁域の様々な環境や生物達は,研究や教育のテーマとしても利用されます.また,近年では,イノーの観察会も盛んに行われています. 「医薬品等の生物資源」 サンゴ礁域には非常にたくさんの生物が生息しています.これらの海洋生物から医薬品になりうる物質を抽出する研究が活発に行われています.また,工学の分野においても,サンゴ礁域の生物の動きを参考にしたロボットの開発などが進められています.圧倒的な種多様性を有するサンゴ礁では,可能性は無限です. 「景観機能」 サンゴ礁域の様々な環境がつくりだす景観は,人を魅了し,時に安らぎを与えてくれます.部屋にサンゴ礁の写真のポスターを貼っている人も多いのではないでしょうか? 「文化を育む」 サンゴ礁と人々が密接に関わることによって,サンゴ礁地域独特の文化が産まれます.沖縄県には,海に関係する様々な祭りや風習が残っています.また,サンゴ礁が作り出す美しい景観や奇妙な色形の生物をモチーフとした芸術作品や民芸品(サンゴ染)もあります. 「水質浄化機能」 サンゴ礁域に生息する多様な生物の中には,水質の浄化に貢献している生物も少なくありません. 懸濁物食(海中を漂う有機物・栄養分を食べる)あるいは濾過食(海水を吸い込み,栄養分をこしとって食べる)の貝類や海綿類などはその代表的例です. 「二酸化炭素の吸収(固定)」 サンゴの骨格の主成分は炭酸カルシウムです.炭酸カルシウムは二酸化炭素とカルシウムから合成されるため,地球温暖化の原因の一つとされる二酸化炭素を吸収(固定)しているという考え方があります.ただし,この考えには多くの異論もあり,現在もさかんな議論が続いています. 補足:サンゴ礁から活発に骨格を作り出しながら成長する生きたサンゴが減少すると、物理的な破壊・生物的な侵食(ウニやブダイによる削り取りなど)作用によってサンゴ礁の構造が次第にもろくなり、これまでに炭酸カルシウムとして蓄積されてきた分が放出されしてしまう可能性が懸念されています。 サンゴやサンゴ礁にすむ生き物から、いろいろな恵みを受けている。
すでに、世界のサンゴ礁の30%が大きなダメージを受けている。 サンゴの13:サンゴ礁がピンチ?! 白化現象 オニヒトデの大量発生 病気・成長異常 赤土 埋め立て たくさんの観光客 <解説> サンゴやサンゴ礁は,人間にとっても大切なものですが,近年,様々な問題によって危機にさらされています. 「物理的破壊」: 台風や津波によって,サンゴが基盤から剥離して陸域に打ち上げられたり,ひっくり返って,死んでしまうこともあります.特に、白化やオニヒトデによる食害で死んでしまったサンゴの骨格は次第にもろくなるため、台風時には被害が更に大きくなります。 「被食」: サンゴを食べる生物は意外に沢山います.代表的な例は,シロレイシガイダマシ(巻貝),オニヒトデやマンジュウヒトデ,ガンガゼ(ウニ類),魚類(ブダイ類,チョウチョウウオ類など),などです.これらの生物は通常,個体数がそれほど多くないので,特に問題はありません.しかし,オニヒトデやシロレイシガイダマシなどは,時に大発生して,深刻な被害をサンゴに与えます.これらの大発生の要因については,様々な見解がありますが,人間生活の影響を指摘する人も少なくありません. 「被覆」: 海綿の一部の種が大発生し,サンゴを被覆して殺してしまうことが知られています.多くの場合,その被害規模は小さいためさほど問題にはなっていません.しかし,時に大規模に発生して,ある海域のサンゴを殆ど覆い尽くしてしまった例も知られています.サンゴが様々な環境・生物ストレスを受けて弱くなった状態だと、より一層他の生物との競争に負けやすくなると考えられます. 「開発」: 埋め立て,航路浚渫,海岸部の護岸工事などの開発行為は,直接的にサンゴやサンゴ礁を破壊します.また、工事で巻き上がった土砂や泥が流れでることで間接的な被害を周囲に及ぼすことが危惧されます. 「赤土」: 農地整備や森林伐採によって表土が露出し,大雨のたびに赤土が流れでます.流れ出た赤土は,当然ながら川を経て海へ達して堆積します.海が赤土で濁ると褐虫藻の光合成が阻害されますし,サンゴの上に大量に堆積すると窒息死する可能性もあります(少量であれば,粘液を出して掃除できます).また,赤土中に含まれるアルミニウム分が海水と反応してできるアルミニウムイオン(アルミン酸塩)に強い毒性があることが分かってきており,サンゴやその他の生物に影響を及ぼす可能性も指摘されています. 「水質汚染(生活排水などの流出物)」: 陸域からの汚染物質(家庭排水,温排水,農薬,畜舎排水、その他)が適切に処理されない状態で海に流れ出ると,サンゴやサンゴ礁生態系に悪影響をおよぼす可能性があります.例えば,過度な家庭・農業・畜舎排水によってサンゴ礁海域が富栄養化し,藻類が過剰に繁茂するなど、生物の生息パタンの撹乱を引き起こした例もあります.また,陸域からだけではなく,船舶からの重油流失や船体塗料からの重金属汚染なども問題視されます.農薬の一部には雑草の光合成を阻害する成分を含んでいるものがあり、海域に流れ込んでサンゴに共生する褐虫藻が行なう光合成を阻害し、白化を誘発させてしまう事が分っています。 「レジャー活動」: 不慣れなダイバーがフィンでサンゴを折ったり,踏みつけてしまうこともあります.また,ボートダイビングや釣りなどの際,小型船舶の停留のためのアンカーをによって,サンゴが破壊されることがあります.また,狭い範囲に沢山の人を入れる(主に観光客)ことによって,サンゴ礁生態系に悪影響(過度の踏みつけ,無秩序な生物採集など)を与えることもあります.海域に捨てられるビニール袋などのゴミや釣り糸などがサンゴに絡まって被害を及ぼす例が各地で報告されています。 「破壊的漁業や無許可採取」: 日本では現在禁止されていますが,毒物(シアン化合物など)やダイナマイトを用いた漁法があり,サンゴ礁生態系に悪影響を及ぼしています.また,サンゴは,観賞用生物として人気が高く,密漁や不法な取引が行われる場合があります. 「白化」: サンゴには褐虫藻が共生しています.サンゴが,過度のストレスを受けると,サンゴから褐虫藻が抜け出てしまい,サンゴの骨格の色である白色が透けて見える状態になってしまいます.この状態が長く続くと,サンゴは褐虫藻から得ていたエネルギーを受け取れなくなる為、死んでしまうことがあります.ストレス要因としては,高水温・低水温や紫外線、塩分の低下などが挙げられます.1997-1998年には,エルニーニョを伴った海水温の異常な上昇が起こりにより、世界の多くのサンゴが白化して死んでしまいました.その後も,度々大規模な白化が起っています.このまま温暖化が進めば,20年後には毎年大規模な白化が毎年起こり,サンゴがいなくなってしまうと危惧されています. 「サンゴの病気」: 近年,腫瘍(骨格の形成異常)やホワイトシンドロームなどの原因が特定されていない現象やサンゴの病気がたくさん報告されるようになりました.一部の病気では,病原菌が特定されているものもありますが,多くの場合その原因ははっきりしていません.海水温の上昇や陸域からの化学物質の流入などが影響しているのではないかと指摘されています. 「海の酸性化」: 大気中に放出される二酸化炭素の1/3は海に吸収されると言われています.人間生活などによって二酸化炭素が放出されて海中に過度にとけ込むと,酸性化が進みます.サンゴの骨格は主に炭酸カルシウムですので,酸性化が進むと,骨格が作れなくなったり溶け出してしまう恐れがあります.近年,実験下でこのことが確かめられ多くの人に衝撃を与えました(サンゴの骨格が溶けてしまい,ポリプ部分だけになってしまった). すでに、世界のサンゴ礁の30%が大きなダメージを受けている。
1998年、サンゴの白化現象により、世界で大きなダメージを受けた。 サンゴの14:サンゴ礁のいま 白化前 サンゴの被度(%) 沖縄本島 20 40 60 80 100 1998 1999 2000 2001 2002 2004 2005 白化 データ提供:沖縄リーフチェック研究会 コーラル・ネットワーク 白化後 1998年、サンゴの白化現象により、世界で大きなダメージを受けた。
サンゴの15:サンゴ礁を守ろうとする人たち いま、みんなは何ができる? サンゴのことを学ぶ サンゴ礁保全のための会議 サンゴ礁の健康度調査(リーフチェック) <解説> 現在,「サンゴ」や「サンゴ礁」が危機にさらされています. それらの保全のために以下のような取り組みが進められています. 1.サンゴ礁の「今」を記録する -- サンゴ礁のモニタリング サンゴ礁の保全上,もっとも重要なことの一つは,守るべき場所の状態を記録することです.定期的にある場所を調査し,記録していくことをモニタリングと呼びます.長期的なモニタリングによって,対象となる海域の状態変化や,他の場所との比較が可能になります.問題点の早期発見に貢献したり,保全対策を計画する際に役立ちます. 主として,研究者や研究機関が独自で行っているモニタリングや環境省による「モニタリングサイト1000」などがあります. また,研究者だけでなく,一般の人々も調査に参加するようなモニタリングもあります(「リーフチェック」や「コーラルウオッチ」など).最近では,ダイバーが自主的に地元の海域を記録していくような取り組み(「砂辺のサンゴを見守る会」)などもあります.このような一般参加型のモニタリング手法は,広く一般にサンゴ礁理解を促すことにもつながるため,顕著な教育普及効果があります. 2.海洋保護区(MPA) 主に,サンゴ礁が健全な地域において,開発,漁業,観光などを制限し,環境を守るために設定されるものです.グレートバリアリーフのあるオーストラリアでは地図・海域図上に国が定めた制限区域が示され、違反した場合は法律で厳しく罰せられるようになっています。 サンゴは法律で保護されています(国内:沖縄県・国際ワシントン条約など)また、沖縄県ではサンゴの密漁が摘発されたり、税関での密輸摘発が行なわれています。 3.サンゴの移植 サンゴの無性生殖を利用して,サンゴを増やす取り組みです.一般的には,台風などで折れた枝の部分や、サンゴ群体の一部を切断して他の場所に固定する手法がとられています.また,自然下あるいは飼育下で(有性生殖によって)産み出された幼生を採取して成長させた後に移植する手法もあります. 陸域で広く行われている「植林」と同じなので,とても分かりやすく,近年注目されている手法ですが,以下のような様々な問題点も指摘されています: ・成功や失敗を左右する要因が不明瞭. ・「(移植するための)種サンゴ」の密漁を助長する可能性. ・限られたサンゴ種や親株のみを用いることで種多様性や遺伝的多様性を下げる. ・本来の分布域に生育しない種を用いることによる遺伝的な撹乱の可能性. ・本来移植先にいなかった生物(感染性の病気なども含む)を(サンゴに付着・穿孔したまま)持ち込んでしまう可能性。 ・サンゴの生育に適した環境かどうか確認したうえで実施しないと無駄になる可能性が高い(サンゴが生育できない,あるいは生育できなくなった場所に移植するのだから). ・移植を実施した場所が全く管理されておらず,そこが自然環境なのか,人為的に創出された環境なのかが全くわからない. ・サンゴの移植が「サンゴ礁の保全」に単純につながるとは考えにくい. ただし,現在,最も知名度の高い取り組みであることは事実で,(サンゴやサンゴ礁の)教育普及効果は無視できないと考えられます. 今後は,事業者,研究者,行政が共同して,ルールつくりや管理システムを構築し,慎重に進めていく必要があると思われる. 4.「知ることから始めよう!」--教育普及啓発 現在,サンゴやサンゴ礁に関心をもってもらおうという取り組みが各地で行われています.また,教育普及啓発の効果的な手法も日々議論されています.この「サンゴ15」もその中から産まれました. 講演会に足を運ぶのも良いでしょうし,書店に行けば入門書も手にはいるでしょう.水族館や博物館や観察会などでは,実物のサンゴやサンゴ礁に触れるチャンスもあるでしょう.サンゴ礁の保全のためには,多くの人々が関心をもつことが重要です. 次はあなたが誰かにサンゴやサンゴ礁のことを伝えましょう いま、みんなは何ができる?