太陽観測衛星「ひので」によって明らかになった短寿命水平磁場と その起源について 東京大学/国立天文台 石川遼子 共同研究者:常田佐久、ひので可視光望遠鏡チーム
太陽の構造 放射層 光球 (太陽表面) 6000度 中心核 核融合反応1500万度 対流層
太陽大気 プラズマベータ 光球 T=104 [K] n=1017 [cm-3] B<1000 [G] =>β>1(ガス圧優勢) コロナ T=106 [K] n=109 [cm-3] B~10 [G] =>β<<1(磁気圧優勢) 100 10000 106K 光球 彩層 コロナ 遷移層 温度 105K 104K 太陽表面からの高さ(km)
太陽光球(表面)の磁場構造
活動領域 黒点などの磁場が密集 数万km 磁場強度:数kG 430.5nmを中心とした波長帯で観測 2万km 横から見た黒点の磁力線の様子
静穏領域 対流(粒状斑)と輝点
静穏領域 対流(粒状斑)と輝点 数100km細い磁束管(~1kG)が輝点として見えている.
大きさの差こそあれ、磁場は基本的に太陽表面に対して垂直だと考えられていた 「ひので」打ち上げ前の磁場の概念 黒点 太陽表面 数100km 輝点 数万km 大きさの差こそあれ、磁場は基本的に太陽表面に対して垂直だと考えられていた 太陽表面 輝点:細い磁束管に対応 2万km 430.5nmを中心とした波長帯で観測
黒点磁場を生成する グローバルダイナモ 太陽の差動回転により、磁場を増幅させる。 北極 北極 北極 差動回転によってできた東西方向の磁力線が浮かび上がって黒点に。 磁力線* 南極 南極 南極 太陽の回転速度
ダイナモ(磁場増幅) 磁場は、Beまで増幅される! 運動 磁場の エネルギー エネルギー 磁力線 Be:エクイパーティション磁場 対流などの運動 Be:エクイパーティション磁場 運動 エネルギー 磁場の エネルギー 磁場は、Beまで増幅される!
短寿命水平磁場の発見
大気圏外にいるため、常に回折限界(太陽面上で150-200km)を達成。太陽表面の詳細なベクトル磁場を観測。 太陽観測衛星「ひので」 極紫外線撮像分光装置 コロナの視線方向速度場・乱流を観測。 X線望遠鏡 高解像度で100万度~1000万度のコロナを撮像。 可視光・磁場望遠鏡(SOT):口径50cm 大気圏外にいるため、常に回折限界(太陽面上で150-200km)を達成。太陽表面の詳細なベクトル磁場を観測。
「ひので」可視光望遠鏡の優れた性能 高解像度 高感度 速い時間変化を捉える 宇宙からの観測で大気の影響がないため、磁場測定性能が飛躍的に進歩. 「ひので」 地上観測例 (米国立太陽天文台) 磁場の画像 強度の画像 高解像度 高感度 速い時間変化を捉える
大気の影響がないため、粒状斑と呼ばれる明るい対流セルがはっきりと捉えられている. 「ひので」による水平磁場の発見(1/2) Lites et al. 08, Orozco Suarez et al. 07, Centeno et al. 07, Ishikawa et al. 08 連続光でみた太陽表面 20000 km 1391000km 大気の影響がないため、粒状斑と呼ばれる明るい対流セルがはっきりと捉えられている.
「ひので」による水平磁場の発見(2/2) 太陽表面に対して水平な磁場が太陽表面に点在. サイズは粒状斑より小さい(~1000km以下). Lites et al. 08, Orozco Suarez et al. 07, Centeno et al. 07, Ishikawa et al. 08 可視光望遠鏡でみた、太陽表面に対して水平な磁場の様子。黄色部分が水平磁場の強い領域に対応している. 粒状斑と水平磁場の重ね合わせ 20000 km 1391000km 太陽表面に対して水平な磁場が太陽表面に点在. サイズは粒状斑より小さい(~1000km以下).
水平 VS. 垂直 水平磁場は、静穏領域磁場の主要素. 磁場強度 [G] 傾き角[度] 静穏領域の ベクトル磁場 を求める 垂直 水平 Ishikawa & Tsuneta 09 水平 VS. 垂直 静穏領域の ベクトル磁場 を求める 20000 km 水平磁場は、静穏領域磁場の主要素.
対流層からウミヘビのような磁束管の一部が出現 太陽表面と水平磁場の想像図 対流層からウミヘビのような磁束管の一部が出現 対流による ものの流れ 磁束管
粒状斑があれば、必ず水平磁場が存在する。 ユビキタス 水平磁場(1/2) 粒状斑があれば、必ず水平磁場が存在する。 Lites et al. 08, Orozco Suarez et al. 07, Ishikawa et al. 08 黄色部分が水平磁場の強い領域に対応。 120000km 250000km
ユビキタス 水平磁場(2/2) 極域から見た水平磁場分布 Ito et al. 10
水平磁場の時間発展
粒状斑(明るいセル状部分)は、太陽内部から浮き上がってきた対流に対応している。 水平磁場の時間変化を追う (1/2) 4000 km 20000km 太陽表面の対流の様子 断面図 対流が絶えず起こっている 粒状斑(明るいセル状部分)は、太陽内部から浮き上がってきた対流に対応している。
水平磁場の時間変化を追う (2/2) 非常に短い時間で、出現、消滅を繰り返し、発生頻度が非常に高い ⇒短寿命水平磁場と命名 4000 km 水平磁場の時間変化を追う (2/2) Ishikawa & Tsuneta 09a 4000 km 非常に短い時間で、出現、消滅を繰り返し、発生頻度が非常に高い ⇒短寿命水平磁場と命名 太陽表面と水平磁場の想像図 粒状斑の 断面図 +垂直磁場: Green: 13G +水平磁場: Yellow: 140G 粒状斑(明るいセル状部分)は、太陽内部から浮き上がってきた対流に対応している。
水平磁場のトモグラフィー 磁場強度 350[G] Δt = 0 sec Δt = 130 sec 0[G] 600km 1300km 速度 Ishikawa et al. 10 350[G] Δt = 0 sec Δt = 130 sec 高さ[km] 420 0[G] 600km 1300km 速度 3 [km/s] ↑ Δt = 0 sec Δt = 130 sec 高さ[km] 420 3 [km/s] ↓
大きさの比較 水平磁場 vs粒状斑 粒状斑 area サイズ分布のヒストグラムは両者よく似ている Roudier and Muller (1986) 個数 area サイズ分布のヒストグラムは両者よく似ている 粒状斑、短寿命水平磁場、どちらも特徴的なサイズはもっていない 短寿命水平磁場の方が小さい 0.2 0.6 1.0 1.4 1.8 2.2 2.6 D (arcsec) 短寿命水平磁場 # 97 THMFs Ishikawa & Tsuneta 09b イベント数 Size D(arcsec) Threshold :LP>0.22% & Area≧3pixel
寿命の比較 水平磁場 vs 粒状斑 粒状斑 粒状斑と比べて、短寿命水平磁場の寿命は小さい (平均寿命、分布域) Hirzberger et al. (1999) 平均寿命: 6 分 粒状斑と比べて、短寿命水平磁場の寿命は小さい (平均寿命、分布域) 粒状斑は小さいものほど個数が多いが、短寿命水平磁場の分布は4分にピークがある. Lifetime [min] 短寿命水平磁場 # 97events Ishikawa & Tsuneta 09b 平均寿命: 4 min Number of events Threshold:LP>0.22% & Area≧3pixel Lifetime: time with LP>0.22% Lifetime [min] Ishikawa & Tsuneta 09b Ishikawa & Tsuneta 09b
短寿命水平磁場の出現場所 と消滅場所を探る 明るい粒状斑内に出現 出現時 出現場所と消滅場所の 光の強度分布 水平磁場 粒状斑間 粒状斑内 All the region appear disappear Number of events 消滅時 強度(平均強度で規格化) Ishikawa & Tsuneta 09b
短寿命水平磁場の出現場所 と消滅場所を探る 明るい粒状斑内に出現 出現時 出現場所と消滅場所の 光の強度分布 短寿命水平磁場全てが、下降流が生じている粒状斑間まで到達して消えているという訳ではない 短寿命水平磁場の消滅機構は? 粒状斑間の下降流で沈み込む. 対流によって磁力線がばらばらになって感度以下になって見えなくなってしまった. 光球を抜けて、彩層まで到達した. THMF 粒状斑間 粒状斑内 All the region appear disappear Number of events Disappearance 強度(平均強度で規格化) Ishikawa & Tsuneta 09b
彩層やコロナを加熱するのに必要なエネルギーに匹敵する. 短寿命水平磁場の磁気エネルギー フラックス コロナ 1,000,000度 彩層 10,000度 太陽表面 6,000度 Unit: erg cm^-2 sec^-1 Ishikawa & Tsuneta 09a Required energy input (Withbroe&Noyes 1977) 静穏領域 活動領域 コロナ 3x10^5 10^7 彩層 4x10^6 2x10^7 水平磁場の磁気エネルギーフラックス ~2x10^6 ~5x10^6 ※全ての短寿命水平磁場が彩層へ到達すると仮定 短寿命水平磁場の持つ磁気エネルギーは、 彩層やコロナを加熱するのに必要なエネルギーに匹敵する.
太陽全面に遍く存在する 短寿命水平磁場. その起源は?
短寿命水平磁場の起源を探る 活動領域と静穏領域の水平磁場の性質を比較 可能性1:黒点など グローバル磁場起源 可能性2:太陽表面付近の対流による局所的磁場生成機構 太陽表面 太陽表面 黒点 磁力線 1000km 対流セル 数万km 粒状斑の対流運動によって引き伸ばされて増幅した磁場の一部が太陽表面に現れた 例:黒点からはがれた磁場が短寿命水平磁場の元となる 可能性2であれば、周囲の磁場の有無によって短寿命水平磁場の性質に違いが出ない. 活動領域と静穏領域の水平磁場の性質を比較
静穏領域と活動領域(プラージュ)の 短寿命水平磁場の性質の比較 FOV 2”x164” プラージュの垂直磁気フラックスは、 静穏領域の8倍
2つの領域で、短寿命水平磁場の性質は一致 磁場強度分布は一致 93%が700G(エクイパーティション磁場Be*)以下の磁場強度を持つ Ishikawa & Tsuneta 09a 水平磁場の磁場強度分布 磁場強度分布は一致 93%が700G(エクイパーティション磁場Be*)以下の磁場強度を持つ 垂直の磁気フラックスの差は8倍もあるのに、短寿命水平磁場の発生頻度は同じ 静穏領域 プラージュ 静穏領域 vs 活動領域 *エクイパーティション磁場(Be) 磁場強度 [G] ※プラージュ領域で垂直磁場が観測時間中,定常的に存在する領域は省いた.
極域と静穏領域の比較 全体の98%が700G(エクイパーティション磁場)以下 Ito et al. 10 静穏領域 vs極域 全体の98%が700G(エクイパーティション磁場)以下 =>静穏領域・プラージュ領域・極域で水平磁場の磁場分布が一致し、大部分がエクイパーティンション磁場強度以下
新しい磁場生成機構 短寿命水平磁場の生成機構 黒点磁場の生成機構 太陽の差動回転で磁場を増幅する「グローバルダイナモ」 粒状斑の対流運動で磁場を増幅する「ローカルダイナモ」 北極 北極 北極 磁力線 磁力線が対流で引き伸ばされて増幅される 南極 南極 南極 磁力線 対流セル 1000km 差動回転の エネルギー 磁場の エネルギー 対流の運動 エネルギー 磁場の エネルギー
まとめ 「ひので」によって、太陽表面の詳細な磁場測定が可能となり, 短寿命水平磁場が太陽全面に存在することが明らかとなった. 対流(粒状斑)と密接に関係. 総磁気エネルギーは非常に大きく、彩層・コロナ加熱に必要なエネルギーに匹敵. 静穏領域、活動領域、極域で性質に差が見られない. 磁場強度はエクイパーティンション磁場強度以下 =>太陽表面近傍の対流運動による局所的なダイナモ機構(ローカルダイナモ)が駆動.
今後 短寿命水平磁場のエネルギーが解放されれば、彩層・コロナを加熱している可能性がある. この短寿命水平磁場は、彩層・コロナ加熱に寄与しているのか? 対流ある所に短寿命水平磁場あり. 対流の存在するその他の天体(恒星・原始星・降着円盤・星間分子雲….)などにも短寿命水平磁場は存在し、活動現象や進化に影響を及ぼしているのか?