違反事例等からみる輸出管理上 の注意事項 2006年7月 経済産業省 貿易管理部 1 このセクションでは、実際にありました無許可輸出等の違反事例等から皆さまに気をつけていただきたい輸出管理上の注意事項についてお話いたします。本日は、過去にありました無許可・不正輸出の事案について色々と紹介いたしますが、これは無許可輸出の手口をお伝えするのではなく、こういった事案があるので気をつけていただきたいという趣旨で紹介させていただくものです。 本日の小職の話が皆さまの輸出管理業務に少しでもお役に立てれば幸いです。 2006年7月 経済産業省 貿易管理部
2 1.不正輸出の端緒と事後審査 外国為替及び外国貿易法第25条第1項及び同第48条第1項に基づき、輸出等許可の対象となっている役務(技術)又は貨物を、必要な許可を取得せずに輸出等を行ったことが発覚した場合、事後審査を開始。 1.自主的通報 2.関係行政機関等からの通報 関係行政機関(※)からの通報 同業他社等からの通報 無許可輸出を行った者からの自主的な通報 経済産業省が通報受付 経済産業省が通報受付 まず始めに不正輸出の端緒と事後審査との関係についてお話いたします。事後審査は、ここにありますとおり、安全保障上機微な貨物や技術を必要な許可を取らずに輸出した場合に行います。その端緒としては、自主的通報や関係行政機関(安保審査課や税関、捜査当局等)からの通報等がありますが、これら以外の通報者としては、同業他社や取引先の方や、上司等の不法行為を公益通報等として通報してくる場合があります。 ここで一言申し上げておきたいのは、事後審査の目的は、①事後審査を通じて事実関係を解明すること(すなわち、大量破壊兵器の開発等に用いられていないことを確認すること)、②再発防止策を講じ今後同様の不正輸出を防ぐこと、にあります。この基本的な考え方をよく御理解いただきたいと思います。 基本的に事後審査は、違法輸出を行った方からの任意での事情聴取によりますが、場合によっては外為法に基づく報告徴収や立入検査を実施する場合があります。 また、外為法違反に対する罰則としては、刑事罰と行政罰の2つがありますが、これら以外にも貿易経済協力局長名による警告という行政指導を行う場合があります。最近でも、6月28日付けで貿易局長名で警告を行いました。ご参考までに、平成17年9月現在で、行政制裁及び貿易局長名による警告を行った件数は、ともに17件となっております。 一般的にリスクマネジメントは、初期動作が最も重要です。ゴネれば、何とか見逃してもらえる、罪を軽くしてもらえるだろうと考えるのは大間違いです。我々としても、違法輸出をできるだけ減らしていきたいとは考えていますが、事後審査の趣旨を理解せず、調査に非協力的な方には、我々としても厳格な対応を取らざるを得ません。 無許可輸出者への連絡 ※税関や捜査当局など (罰則) 刑事罰:5年以下の懲役又は200万円以下の罰金 行政罰:3年以下の輸出等の禁止
2.不正輸出事案の類型 (1)刑事罰の対象となった不正輸出事案 3 ①ハンドキャリー 必要な経済産業大臣の輸出許可等を取得せずに、外為法の規制対象貨物等を手荷物として、国外に持ち出すもの。 ②マスキング 外為法の規制対象貨物等であるにもかかわらず、それを非該当と偽って税関に輸出申告し、輸出するもの。 ③迂回輸出 不正輸出の類型のうち、任意(すなわち、犯意)をもって違法輸出がされたときの方法について御紹介します。 (1)ハンドキャリーの例としては、アイディサポートの事件があります。 (2)マスキングの例として、セイシン企業事件があります。 個別許可を取得して輸出を行おうとしていたが、急に引き合い先から追加発注が来て輸出許可を取得しに行く時間がない等の理由で、該当品を輸出する際に紛れ込ませて輸出をしようとした事例が最近ありました。税関に提出したインボイスや輸出申告書に記載されていない該当貨物が発見された訳です。 10数年前と現在とでは規制値が変わっている(厳しくなっている)ことは往々にしてあることですが、過去の古いパラメーターシート(規制値が変わる前)を用いて税関に非該当貨物だと輸出申告を行ってきた事案がありました。この場合、当然、税関からきちんとしたパラメーターシートを出してくださいと言われる訳ですが、税関からの指摘を受けて、この輸出者はパラメーターシートに記入する数字を変えてきたという事例がありました(当然、貨物は税関の保税蔵置所にあるままなで、貨物そのものはまったく変わっていないにもかかわらずです…)。 (3)迂回輸出の例としては、明伸事件があります。 これらの事件については、次で少し細かくお話したいと思います。 相手国へ直接輸出することができない外為法の規制対象貨物等を仕向国を偽って輸出等するもの。
中国経由の周波数変換器調達懸念 懸念調達企業 A 社 経済産業省 貿易会社 4 周波数変換器 北朝鮮 日本 インフォームにより 輸出阻止 A 社 03/08/07 (輸出を依頼) 共謀者 積み戻し 経済産業省 03/12/19 積み戻し アイディサポート社(従業員無しの個人経営の会社)は、李英順と共謀の上、2003年8月4日頃、北朝鮮に輸出する目的で購入した大型業務用インバーター1台を横浜港から輸出しようとしたところ、横浜税関から書類の不備を指摘され、輸出申告を撤回したものですが、同年8月7日付で経済産業大臣から吉原代表取締役に対し、同インバーターを輸出する際には、輸出許可が必要となる旨(インフォーム)がなされたにもかかわらず、2003年11月頃、大臣の許可を受けないで名古屋空港から預かり手荷物として北朝鮮を仕向地としてインバーターを輸出したものであります。結局貨物は、返送されてきたことが判明。 裁判所は、検査が軽い機内預かりとして持ち出したことから悪質だとして、このような判決が下りました。 注)周波数変換器:ウラン濃縮のための遠心分離装置の部品としての転用が可能。 輸 出 (空港・手荷物) 03/11/20 【横浜地裁判決(04/5/10)】 ○代表取締役に対し懲役1年(執行猶予3年) ○共謀者に対し懲役10月(執行猶予3年) ○周波数変換器没収 中国 貿易会社
イラン向けジェットミル不正輸出事件 懸念調達企業 S 社 貿易会社 5 ジェットミル イラン・イスラム共和国 日本 輸 出 S 社 輸 出 ①99/5/28 ②00/11/22 【東京地裁判決(04/10/15)】 ○代表取締役に対し 懲役2年6ヶ月(執行猶予5年) ○元社員に対し 懲役1年6ヶ月(執行猶予3年) ○S社に対し罰金1,500万円 イラン・イスラム共和国 本件はリスト規制対象貨物を無許可で輸出した案件です。 ミサイル推進薬の原料である過塩素酸アンモニウムを粉砕するためのジェットミルをイラン・イスラム共和国に向け、通産大臣の許可を受けないで貨物を輸出したものです。 貿易会社 【東京高裁判決(06/03/30)】 ○控訴棄却
M社 香港 政府 タイ経由の直流安定化電源装置の調達 懸念調達企業 経済産業省 通信関連企業 6 直流安定化電源装置 北朝鮮 日本 インフォームにより 輸出阻止 日本 懸念調達企業 M社 (輸出者) 02/11/19 03/4/8 輸 出 立入検査 03/4/4 香港 政府 貨物の差押さえを依頼 経済産業省 差押え 03/4/8 こちらはタイ経由で核兵器の製造・開発に用いられるおそれのある直流安定化電源装置を経済産業大臣の許可を得ずに輸出した案件です(いわゆる明伸事件)。 明伸は、直流安定化電源装置3台を北朝鮮を仕向地として輸出しようとした際、2002年11月19日に経済産業大臣から許可の申請をすべき旨の通知(インフォーム)を受けたにもかかわらず、大臣の許可を受けないで最終仕向地をタイ王国のバンコクとし、大臣の輸出許可は必要ではないと虚偽の申告をして装置三台の輸出を行ったものです。 判決の中で、被告の犯行動機として、本件装置が特殊仕様品であったため国内での転売先を容易に見つけることができず、輸出できなければ被告会社が在庫として抱える形になってしまうこと、北朝鮮の商社担当者から輸出を強く持ちかけられ、もし装置が納品されなければ担当者が代わり、会社の売上が激減するかもしれないと言われ、早期に資金を回収するために担当者の提案に乗り、タイを経由して北朝鮮への輸出を決断したものであり、被告の経済的利益のために敢行されたものであって、汲むべき点は乏しいと指摘されている。 幸いにも、輸出が発覚したため、北朝鮮に渡ることはありませんでした。 【東京地裁判決(04/2/23)】 ○M社に対し罰金200万円 ○代表取締役に対し懲役1年(執行猶予3年) タイ 通信関連企業 (輸入者)
3.違反事例からみる輸出管理上の注意事項(1) 7 3.違反事例からみる輸出管理上の注意事項(1) ~輸出手続き上のリスクを回避するために~ 違反の原因 違反事例 注意事項 望まれる改善点 (体制の強化) プログラムの判定の見落とし メーカーからリスト規制対象貨物であるとの連絡を受けていたが、当該貨物に搭載されたプログラム(ソフトウェア)については連絡がなかったため該非判定を行わなかった。 貨物とは別に内蔵されているプログラムについても役務の観点から該非判定が必要となります。 工作機械、測定装置及び試験装置等のようにコンピューター制御によって作動する機械を輸出する際には、当該機械にプログラム(ソフトウェア)が搭載されていないか確認し、搭載されている場合には、役務の該非判定が必要となります。 貨物が非該当であるからといって、内蔵プログラムも非該当とは限りません。 ◎ ○ 他人任せ メーカー及び通関業者からリスト規制対象貨物である旨の連絡がなかったため、非該当だと思い込み自社で該非判定は行わなかった。 輸出手続きに係る全責任は輸出者にあります。 他人任せは、大きな間違いの原因となります。 通関業者も輸出者が輸出貨物の該非判定を失念するおそれがあるため、常日頃から注意喚起することが望ましいです。 ○ 多種多様の貨物を輸出しようとした際、過去に大多数の貨物が非該当貨物と判明していたため、同種の他の貨物もすべて非該当だと思い込み、確認を怠ったところ、リスト規制対象貨物が含まれていることが判明した。 多種多様の貨物を同時に輸出する際には、個々の貨物の該非を正確に確認し、該当貨物がある場合はその事実を明確にし、他部門へも伝えることが重要です(購入先から明確に該当貨物があることを言われなくても、該当貨物があるかどうかを確認する必要があります)。 造部門 営業・製 輸出管 理部門 出荷 部門 研修・ 監査 該非判定の不適切な実施 これから無許可輸出の事例についてお話いたしますが、社内での体制が整備されていないとか、外為法を全く知らなかったというのはあまり本日のセッションの趣旨から外れますので、省略いたします。ただ、社内の該非判定の管理システム整備が間に合わず、技術部門等で該当と判断されているものが営業部門等に伝わらず、非該当として取り扱われてしまった事例があります。 ○役務提供の関係で申し上げれば、海外からの研修生等の受け入れが、場合によっては外為法上の役務提供に該当することもあり得るということを全く認識されずに、研修等を実施されている事例が多々あります。 ○メーカー(購入者)先だけが該非判定を行い、自社では改めて該非判定を行わない会社さんも多くあるようです(こちらは、商社さんに多いようです)。また、生半可な知識を持った方に相談して、項番の見落としや解釈等を誤ってしまったという企業さんもあります。 また、自社の貨物はしっかり該非判定はするが、他社の貨物については確認をせず、入手した該非判定書をそのまま信じて、該非判定をやらなかったため無許可輸出に繋がったという事例もありました(メーカーで輸出をやっているところが多いようです)。 ○また、自社は非該当品のみを取り扱っていると思いこんで、該非判定をやったことがなかったという事例もありました。 ○その他の例としては、社内の取引審査を担当している部長さんが長期出張で不在となり、その間の審査が緩くなってしまったときに該当品を非該当と誤って判定し、輸出されたという事例がありました。 以上を踏まえた再発防止策として、具体的な方策をいくつか紹介いたします。 【輸出管理に従事する者への教育・研修】 ① 国内外の全社員に輸出関連法規を遵守させるため、社内の基本方針、輸出管理の社内手続きついて、定期的に研修を実施すること ② 管理職や役員についても、社内の輸出管理手続きを理解し、適切な判断を行えるよう研修を実施すること ③ 定期的・継続的に研修を実施できるようスケジュールを策定。また、研修の実施記録を残し、実施日、教育内容、受講者等を管理し、受講漏れ等を防止すること ④ 最新の規制内容の理解や適切な管理・手続きを実施できるよう、輸出管理部門や該非判定部門の者を定期的に社内外の講習等へ出席させること ⑤ 社内の研修担当者を養成し、社員に対し研修を行えるだけの知識を取得させること ⑥輸出担当部門に異動した者には、速やかに輸出管理に関する規制内容・社内手続きについて研修を受講させること ⑦ 研修内容に、違反事例のケース等を盛り込み、陥りやすいミスを防ぐこと 【企業等が輸出関連法規を遵守する体制作り】 ① 社内に貨物の輸出や技術の提供時の手続きに関するマニュアル等を整備し、マニュアルに従い手続きを行うシステムを構築。また、手続きが正確に実施されているかを確認する機能も整備すること ② 顧客情報等については、定期的に見直しを実施。長年の取引相手であっても定期的に見直すこと ③ 輸出貨物又は提供技術の最終用途の確認を実施すること
3.違反事例からみる輸出管理上の注意事項(2) 8 3.違反事例からみる輸出管理上の注意事項(2) 違反の原因 違反事例 注意事項 望まれる改善点 (体制の強化) 政省令改正の見落とし 政省令改正が行われたことを忘れ、メーカー(購入先)に再度の該非判定の確認をしなかった。 許可制度に係る規制緩和が行われる一方で、大量破壊兵器関連貨物等に対しては、規制強化も実施されています。 法令改正の見落としがないよう十分な注意が必要です(政省令の改正後には、該非判定書の作成日等を改めて確認することが重要です。法令改正の際には、経済産業省担当官による説明会が開催されるほか、安全保障貿易管理ホームページにも改正の概要が掲載されますので、是非御利用ください。) ○ ◎ 参照すべき規制リストの誤り 該非判定を行うべき輸出令別表第1の項番を間違ったため、適用できない許可証を使って輸出をした。 リスト規制は、核兵器関連、化学・生物兵器関連、ミサイル関連、通常兵器関連の4つの リストから構成されており、1つの貨物が複数の項目で規制されていることもあり、注意が必要です。 ・工作機械:核関連、通常兵器関連 ・ポンプ:核関連、化学関連 ・マルエージング鋼:核関連、ミサイル関連 同じ貨物でも、項番が違うと適用できる許可証が異なる場合がありますので、注意が必要です。 判定時期の誤り メーカーから提供された時点で該非判定を行い、改造を加えて性能がアップしたあとには行わなかった。 メーカーから提供された貨物がリスト規制対象貨物でなかったとしても、改造を加えたことによってリスト規制対象貨物となることもあるので注意が必要です。 造部門 営業・製 輸出管 理部門 出荷 部門 研修・ 監査 該非判定の不適切な実施 民生用とならすべて非該当と御判断されていた企業もございますが、ここにある以外の例についても御紹介いたしますと、労働安全衛生法で作成が義務づけられている化学物質安全データシート(いわゆるMSDS;化学物質等の人体への有害性や発火性・爆発性等の性質を確認するシート)を該非判定書と思ったりした方がいらっしゃいました。
3.違反事例からみる輸出管理上の注意事項(3) 9 3.違反事例からみる輸出管理上の注意事項(3) 違反の原因 違反事例 注意事項 望まれる改善点 (体制の強化) 解釈等の誤り 民生用途なら全て非該当と独自に解釈していたメーカーの該非判定書に疑念を持たずにそのまま輸出した。 リスト規制対象貨物については、用途にかかわらず、一定の仕様・能力等を有する貨物は、経済産業大臣による輸出許可の対象となります。 民生用途=非該当とするのは大きな誤りです。 ○ ◎ 海外から購入した製品が故障し、リスト規制対象貨物であることに気づかないまま、輸出許可を取得せず、修理のために購入先向けに輸出した。 貨物の一時的貸出し又は返品であっても、「貨物を外国に向けて送り出す場合」は、輸出に該当しますので、リスト規制対象貨物の場合には、経済産業大臣の輸出許可が必要となります。 なお、「無償で輸入すべきものとして無償で輸出する貨物」(無償告示の二)には、輸出先で修理した後、再輸入するものは含まれませんので特例の対象からもはずれます。 リスト規制対象技術の提供に当たり、国際規格にて一般に公表されている技術と思いこみ、役務提供許可を取得せずに実施したところ、一部公表されていない技術があった。 「不特定多数の者に対し何ら制限なく公開されている技術を提供する取引(公知の技術)」(貿易関係貿易外取引等に関する省令第9条第1項第五号)は、 提供する技術がリスト規制対象技術であっても、 役務取引許可申請が不要となりますが、当該特例の適用に当たっては、規定を良く理解するとともに、適用の可能性を十分確認する必要があります。 造部門 営業・製 輸出管 理部門 出荷 部門 研修・ 監査 該非判定の不適切な実施 ○貨物に内蔵さている=非該当ではありません。当該プログラムが書きかえ可能であるかどうか等、きちんと暗号特例を確認してください! <暗号特例> 一 輸出貿易管理令別表第1の8の項に掲げる貨物であって、輸出貿易管理令別表第1及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令(以下「貨物等省令」という)第7条第一号ハに該当するもののうち、次のイからハまでのすべてに該当するもの。 イ 購入に関して何ら制限を受けず、店頭において又は郵便若しくは公衆電話通信回線に接続した入出力装置(電話を含む。)による注文により、販売店の在庫から販売されるもの(外国のみで販売されるものについては、当該販売の態様を書面により確認できるものに限る) ロ 暗号機能が使用者によって変更できないもの ハ 使用に際して供給者又は販売店の技術支援が不要であるように設計されているもの 二 輸出貿易管理令別表第1の9の項(7)、(8)又は(10)に掲げる貨物であって、貨物等省令第8条第九号、第十号又は第十二号のいずれかに該当するもののうち、前号のイからハまでのすべてに該当するもの。
3.違反事例からみる輸出管理上の注意事項(4) 10 3.違反事例からみる輸出管理上の注意事項(4) 違反の原因 違反事例 注意事項 望まれる改善点 (体制の強化) 解釈等の誤り ・NC測定装置に内蔵されているROM(半導体記憶装置)をプログラムの改変ができないとものとして輸出。 貿易外省令第9条(許可を要しない役務取引等)の中で、「当該貨物に内蔵されかつ、プログラムの書換え及びプログラム媒体の取替えが物理的に困難であるもの」と規定されおり、「プログラム媒体の取替えが物理的に困難であるもの」とは役務通達で、「半田付けの状態にあるものも含まれる」となっておりますので、注意が必要です。 ○ ◎ ・リスト規制対象貨物である数値制御工作機械の据付に当たり、必要な許可を取らずに据付を行った。 リスト規制対象貨物を海外に据え付ける場合、当該行為が「貨物の使用に係る技術(据付技術等)(告示第417号)」に該当する場合がありますので、注意が必要です。 出荷指示の誤り 営業部門が非該当貨物の輸出を指示したにもかかわらず、誤って該当貨物を出荷してしまった。 貨物の出荷の際には、リスト規制対象貨物であるか否かを正確に確認し、該当貨物である場合には許可証が取得されているかを確認する必要があります。 リスト規制対象技術を有するシステムについて、役務取引許可を取得することなく、インターネット等を通じ、海外の顧客に使用させた。 リスト規制対象技術を有するシステムの操作方法を非居住者に提供する場合には、役務取引許可が必要です。 また、インターネット等を通じたサービスの提供であっても、貨物と同様に役務取引審査が必要です。 造部門 営業・製 輸出管 理部門 出荷 部門 研修・ 監査 該非判定の不適切な実施 出荷確認の誤り 解釈等の誤りとして、仲介貿易の会社の誤りがあります。仲介貿易(3国間貿易)は、1項貨物についてのみ適用がありますが、火薬そのもの以外に火薬のスクイブ(点火具)についても火薬取締法上の火工品に当たりますので、1項該当貨物となります。 この他の解釈等の誤りとしては、少額特例の適用の誤りがあります。少額特例は、次ページのとおり、項番により適用できる金額が異なりますので、気をつけてください。 また、出荷指示書に包括許可証の許可番号を記入する欄があったものの、有効期限を記入する欄がなかったため、期限切れに気づかずに無許可輸出に至った事例があります。
3.違反事例からみる輸出管理上の注意事項(5) 11 3.違反事例からみる輸出管理上の注意事項(5) 違反の原因 違反事例 注意事項 望まれる改善点 (体制の強化) 許可範囲の逸脱 核兵器関連、生物・化学兵器関連貨物を中国・台湾に一般包括許可を使用し、輸出してしまった。 中国、台湾向けには、核兵器関連、生物・化学兵器関連貨物に係る一般包括許可は使えません。 包括許可の使用にあたっては、包括許可マトリクス表を参照して、出荷する貨物等が当該国向けに輸出を行える否か、きちんと確認する必要があります。 ◎ ○ 個別許可条件の未履行 取得した輸出許可証に「1年後貨物積戻し」や貨物の設置場所の報告、ストック販売に係る事前同意等の条件が付されていたが、1年後の積戻し等の条件を履行しなかった。 許可証を取得した際には、「許可条件」が付されていないかを良く確認し、「許可条件」が付されている場合には、これを遵守する必要があります。 なお、許可条件として積戻し条件が付された個別許可については、期限までに日本に積戻し、必要な書類を添付の上、 経済産業省安全保障貿易審査課に報告する必要があります。 許可証の確認ミス 許可証の有効期限や輸出許可された貨物の数量等の確認を怠った。 許可証には有効期限や許可貨物の数量等に制限が課せられている場合もありますので、必ず確認を行う必要があります。 造部門 営業・製 輸出管 理部門 出荷 部門 研修・ 監査 出荷確認の誤り 許可条件の未遵守 ○輸出許可証の有効期限ばかりに気を取られ、数量の確認等を怠ったために無許可輸出につながった事例があります。また、許可証の有効期限を確認しなかったため、無許可輸出に繋がった事例もあります。 これまで幾つかの例について紹介してきましたが、これ以外の例として、社内の組織体制の変化や人事異動(担当者の変更等)の狭間に無許可輸出を行ってしまう事例が最近見られます。 例えば、主に研究をやっているところなのですが、関係会社との間で合併等が行われたため、研究者が行っていた研究が延期されていたことがうまく輸出管理部門に伝わらずに、結果的に無許可取引となった事例がありました。 また、親会社の輸出管理で該非判定等を行っていたところ、会社が分割等により子会社がやるようになったが、業務に不慣れで該非判定を誤ってしまったとか、主に国内販売のみの会社が、いきなり輸出をやることになり、該非判定なんてやったことがないどころか、外為法に基づく規制すら知らない方が、無許可で貨物を輸出したという事例がありました。 ここで御紹介してきた無許可輸出の個々の事案は、単独で無許可輸出に繋がったものもありますし、不幸にも2つ、3つと重なってしまい、結果的に無許可輸出に至ってしまったというのもあります。
4.違法輸出に対する罰則(1) 特定の貨物の輸出・技術提供は規制の対象 違反した場合には、 12 「輸出管理とは何をすべきなのかを知らなかった。」 「輸出管理は自分とは関係がないと思っていた。」 では済みません。 特定の貨物の輸出・技術提供は規制の対象 経済産業大臣の許可が必要です。 注意 ・皆さんに比較的身近な民生用品であっても規制対象となります。 ・海外の現地子会社、日系企業向けも対象です。 違反した場合には、 (1)法律に基づき、刑事罰(罰金、懲役)や行政制裁(貨物の輸出・技術の提供 の禁止)が科される場合もあります。 (2)実際に懸念用途(核兵器の開発やミサイルの部品等)に用いられていた場合には、企業等のみならず日本に対するダメージは計り知れません。
4.違法輸出に対する罰則(2) 刑事罰 公 表 行政制裁 経済産業省からの違反者に対する警告 ・ 対象貨物/役務価格の5倍以下の罰金 13 刑事罰 ・ 対象貨物/役務価格の5倍以下の罰金 4.違法輸出に対する罰則(2) 代表2人に有罪判決 A国へ武器部品不正輸出 (価格が40万円以下でも最高200万円の罰金) 公 表 ・ 5年以下の懲役 行政制裁 ・3年以内の貨物輸出・技術提供の禁止 違法輸出に対する罰則として、刑事罰や行政制裁がありますが、これらについては、情報公開法に「国民生活に重要な影響を与える情報については、開示請求制度に基づく受動的な開示にとどまらず、政府が能動的に情報提供を行う必要がある旨」が規定(行政機関の保有する情報の公開に関する法律第40条)されておりますので、公表することとしております。 この公表により、違法輸出を行った者に対しては、企業イメージの悪化等の社会的制裁が科せられるだけでなく、場合によっては株主から株主代表訴訟を提訴される場合も想定されます。 実際に、少々古い話ですが、日本航空電子工業が関税法・外為法に違反して戦闘機搭載用のミサイルの部分品を最終仕向地がイランであることを知っていながらイランへ輸出した事件があり、会社に罰金500万円、通産省(当時)から1年6ヶ月の輸出禁止処分を受けました。これに対し、日本航空電子の株主が、当時の副社長ら取締役らを善管注意義務・忠実義務違反により、日本航空電子工業の売上高の減少による利益の喪失、棚卸し資産の廃棄損失、日本・米国で支払った罰金・制裁金等、合計145億円あまりの損害を被ったとして、担当取締役に50億円の範囲で賠償を求めました。 これに対し、裁判所は、取締役に善管注意義務、忠実義務違反があったとして損害賠償責任を認め、12億5000万円の賠償が認められました(平成8年6月20日、東京地裁)。被告側は控訴しましたが、平成9年10月に和解が成立し、元取締役らは計1億円を支払うということで和解しております(平成9年10月23日付日経新聞朝刊39面)。 経済産業省からの違反者に対する警告 ・企業イメージの悪化 ・社会的制裁 ・株主代表訴訟 等
取締役の善管注意義務違反等を認めた判決 14 (1)事案の概要 (2)株主代表訴訟の内容と判決の概要 ①1984年~1986年、戦闘機部品を、最終仕向地がイランであることを認識しながら、通産大臣の承認を受けることなく、日本国内で香港及びシンガポールの企業に販売・引渡し。 ②1985年~1989年、ミサイルの部分品を最終仕向地がイランであることを認識しながら、通産大臣の許可等を受けることなくシンガポールに輸出。 ○平成4年4月23日東京地裁判決 ・罰金500万円 ・元社長等4名、懲役2年(執行猶予3年) ○行政処分 ・輸出等禁止1年6ヶ月 (2)株主代表訴訟の内容と判決の概要 取締役らの善管注意義務・忠実義務違反により、売上高の減少による利益の喪失、棚卸し資産の廃棄損失、日本・米国で支払った罰金・制裁金等、合計145億円あまりの損害を同社が被ったとして、担当取締役3名に50億円の範囲で賠償を求める。 裁判所は、取締役に善管注意義務、忠実義務違反があったとして損害賠償責任を認め、約12億8,000万円の賠償を命じた(平成8年6月20日東京地裁判決)。 (出典)新聞報道等を基に経済産業省作成
15 5.違法輸出を未然に防止するためには 経済産業省では、違法輸出の未然防止のため、安全保障貿易管理説明会の開催のほか、企業等に輸出管理社内規程(CP)の整備等を要請しているところ。 輸出管理担当部門 ①輸出管理関連の最新情報を経済産業省等から入手し、社内に周知・徹底させる。 ②輸出管理社内規程を整備し、それを確実に実施するとともに、規程を経済産業省に届出る。 ③輸出管理社内規程が適切に実施されるよう研修や監査を通じ、定期的に確認する。 ○説明会の開催実績:今年は商工会議所・JETRO・業界団体等を対象に約50箇所で開催する予定。 ○パンフレット・HPの作成:14万部作成 ○相談窓口:03-3501-3679 ○企業等名の公表制度:384社(2005年6月末公表) ○本日配布させていただいた資料の方は、社内研修等でご自由にお使いいただければと存じます。 a)安全保障貿易管理説明会の開催 b)パンフレット・HP等の作成 c)安全保障貿易相談窓口 a)専門官による規程策定の相談受付 b)自己管理チェックリストによる確認 c)企業等名の公表制度 a)社内研修用資料の提供 b)遵守状況立入検査等の実施
16 6.海外子会社の輸出管理について 大量破壊兵器の開発等に関連した貨物等の国際的な調達ネットワークの顕在化等にかんがみ、我が国の海外子会社等が、かかる活動に巻き込まれないよう、海外子会社等においても厳格な輸出管理が必要。 懸念国等による大量破壊兵器関連貨物等の調達ネットワーク(核の闇市場等)の顕在化・巧妙化等 ・カーンネットワーク ・北朝鮮によるシアン化ナトリウムの不正調達 等 我が国企業等の海外子会社等が不正な調達活動に巻き込まれるおそれの増大 海外にある日系企業数は、約13000社(うち、アジアが約7000社(52.6%)となっています)。アジアにある企業のうち、日本側の出資比率が50%を超えるものは、約78%となっています)(平成15年度海外事業活動基本調査より) 迂回輸出の例;韓国企業が中国等を経由して北朝鮮へシアン化ナトリウム(化学兵器(神経剤:化学兵器の中でも毒性の強いもの:サリンと同種のもの)の原料物資(農薬の製造やメッキに使われるが))の迂回輸出等の事例がある(2004年9月24日朝鮮日報)。 日本企業の海外子会社等がこのような迂回輸出等に巻き込まれて製品が懸念国に流れて懸念用途に用いられていることが発覚した場合、行為そのものは海外子会社等が行ったことであっても、親会社と海外子会社等とは密接な関係にある以上、実質的に経営を支配している親会社に対する社会的な責任も強く問われかねない。 一般論としては、我が国の海外にある子会社等が行う現地での販売や輸出活動等に対しては、我が国の外為法の規制は基本的には及ばないわけだが、一方で汎用品であっても海外子会社等から懸念国等へ汎用品が再輸出される等により大量破壊兵器の開発等に用いられれば、当該海外子会社等だけではなく、親会社である日本企業のブランドイメージやレピュテーション等に多大な影響を及ぼしかねない。よって、各日本企業においては、かかるリスクを最小限にするため、対外的な説明が可能となる管理体制を構築しておくことが望ましい。 経済産業省としては、このような大量破壊兵器に関連する物資の調達活動に海外子会社等が巻き込まれないよう、アジア地域において輸出管理セミナーを開催し、各国における輸出関連法規の整備や安全保障に係る審査及び検査制度の構築等による輸出管理制度の強化に向けた働きかけを鋭意行ってきたところである。しかし、より一層の注意喚起を行うため、2005年4月に経済産業省貿易管理部長名で、「海外子会社における輸出管理の強化について[1]」という注意喚起の文書が出された。今後の取組としては、日本企業の海外子会社に対する輸出管理の指導に際し、海外子会社の従業員の研修のための教材の作成や輸出管理をしっかり行っている子会社を例とした先行事例集(ベストプラクティス)等の資料提供を通じ、可能な限り積極的に支援して参りたいと考えている(なお、民間レベルでも海外子会社向けの輸出管理の強化に関する取組は行われている。具体的な事例として、(財)安全保障貿易センター(CISTEC)において、モデル輸出管理社内規程(CP)の英語版の作成やモデルCPの遂条解説的な解説書である「海外拠点のための安全保障貿易管理ガイダンス[2]」が作成されている)。 [2] この本は、平成17年6月6付日本経済新聞(朝刊3面)やエコノミスト2005年7月5日号の書評等で紹介されている。 調達活動に巻き込まれた場合には、 (1)親会社に対する社会的な責任の追求 (2)親会社のブランド力の低下(レピュテーションリスクの増大) 等 経済産業省としても、海外子会社の従業員研修のための教材の提供やベストプラクティス(先行企業例集)の作成等を通じ、積極的に支援していく所存(CISTECでは、既にモデルCPの英訳や「海外拠点のための安全保障貿易管理ガイダンス」を作成) 。
海外子会社における輸出管理の強化について 17 海外子会社における輸出管理の強化について 平成17年4月1日 経 済 産 業 省 貿易管理部長 我が国は、平和国家としての立場から、大量破壊兵器等の不拡散政策を堅持し、大量破壊兵器等に関連する貨物の輸出や技術の提供については、国際的協調の下に、外国為替及び外国貿易法に基づき、厳格な輸出管理を行ってきております。 しかし、近年、核の闇調達ネットワークの存在が明らかになり、効果的な輸出管理の実施は国際的にも更に重要な課題とされています。また、最近は、大量破壊兵器等の製造・開発等に用いられるおそれがある貨物が第三国を経由して懸念国に結果的にわたった事例が、海外において発生しております。 このような行為に海外子会社が巻き込まれた場合、行為そのものは海外子会社が行ったことであっても、親会社と海外子会社とは密接な関係にある以上、実質的に経営を支配している親会社に対する社会的な責任も強く問われかねません。 経済産業省では、アジア地域において輸出管理セミナーを開催し、各国における輸出関連法規の整備や安全保障に係る審査及び検査制度の構築等による輸出管理制度の強化に向けた働きかけを鋭意行っているところです。また、親会社の海外子会社に対する輸出管理の指導についても、事例集等の資料提供を通じ、可能な限り積極的に支援していきたいと考えております。 このような中、海外子会社をお持ちの親会社各位におかれましても、我が国企業の海外子会社が現地で大量破壊兵器等の製造・開発等に結びつく行為に荷担することがないよう、海外子会社における輸出管理社内規程の策定等を通じた輸出管理の厳格な指導を行っていただきますようお願いいたします。 先ほど無許可輸出の事例のところで申し上げませんでしたが、自分たちの海外子会社だからとか、日系企業だから該非をきちんと確認せずに出しても大丈夫だろうと思われ、手続が緩くなるかもしれません。しかし、北朝鮮によるシアン化ナトリウムの調達の事例ではありませんが、海外子会社が迂回輸出等に手を貸してしまえば親会社に対する影響も甚大です。 また、別な観点からも、海外子会社から現地の従業員等に対して規制対象技術が漏えいしたりすると無許可での役務提供という問題だけではなく、各社のコア技術までもが流出するなど、会社の技術流出という観点からも気をつけていただきたいと思います。(なお、技術流出の防止については、当省から2005年3月に技術流出防止指針~意図せざる技術流出の防止のために~というのを作成しておりますので、何ら御参考にされてみてはと思います)。
カーン博士(主な経歴) 18 Abdul Qadeer Khan 1936年 ・ボパール(Bhopal:当時英領インド)にて出生 1960年代 ・ドイツの技術系大学に留学 1963年-67年 ・オランダのデルフト工科大学で冶金学を専攻 1972年 ・ベルギーのルーベンにあるカトリック大学で博士号取得 ・オランダのFDO(Physics Dynamic Research Laboratory)社に就職 ・英仏蘭のウラン濃縮合弁会社URENCO社の遠心分離機用特殊冶金開発に従事 1974年 ・インドが核実験を実施 1975年 ・オランダ経済省がカーンを遠心分離機関係以外の部門に移すよう FDO社に要請(同年、FDO社を退職) 1976年 ・パキスタンでERL設立(ERL:ウラン濃縮技術確立が目的) 1981年 ・ERL、A・Q・カーン博士研究所(KRL)と名称変更 2001年 ・ カーンの核拡散活動を懸念した米国からの圧力によるムシャラフ大統領の命令で退職 Abdul Qadeer Khan 出典:Global Security社のHP等を基に経済産業省作成
リビア リビアによる核関連物資の調達 国際的なネットワーク パキスタン 南アフリカ スペイン イタリア タヒル 他 ドバイ 19 濃縮技術 遠心分離器用製造機械 6フッ化ウラン 遠心分離器 リビア 出典:マレーシア警察のHP等を基に経済産業省作成
SCOPE (マレーシア) リビア ドバイ イタリア リビアによる遠心分離器の調達 国際的なネットワーク B.S.A.Tahir 20 Urs F. Tinner 最終用途 (虚偽) 石油・ガス関連機材 の製造 技術支援 SCOPE (マレーシア) 自動車部品、精密機械製造 最終用途 遠心分離器関連機材 の製造 ドバイ 最終需要者 (虚偽) 2003年10月 “BBC China”号 イタリア 最終需要者 拿捕 リビア