“いじめ現象”の形式構造を探る ~人工学級のMulti-Agent Simulation~ 新潟大学 福祉人間工学科 前田 義信
“いじめ現象”の形式構造を探る 赤坂(1995)が提案するいじめの形式構造を概説する.集団の構成員は様々な価値(野球,音楽等)を見出した主体的自律的に行動する人(エージェント)であり,価値をめぐる構成員の相互作用によって,互いに差異の消失した集団(群集化,同質化)が出現する.群集化集団は,特定の一人を集中的に排除(いじめ)することで新たな差異と秩序を生成しようとする.そこでは,どのような構成員がいじめの対象とされるのか? 例えば,アニメや電車という価値を見出すエージェントは,野球や音楽に価値を見出すエージェントより“いじめられやすい”のか? ここでは,価値の具体的内容を考慮しないで形式だけを追求し,いじめが発生する構造を Multi-Agent Simulation で明らかにする.
シミュレーション方法 エージェントを20人用意 一人のエージェントは全価値 M 個の中から 任意に m=10 個の価値を見出す 二人のエージェントの間で 同調行動・・・自分の価値を相手に合わせる 排除行動・・・相手の価値を剥奪する (排除行動は同調行動と逆の行動) 最終的に誰とも価値を共有できないエージェントを潜在的いじめ被害者(potential victim, P.K.Smith et. al. 1999)
シミュレーション結果(1) 初期状態 同調行動のみ 同調行動と 排除行動 電子情報通信学会論文誌 Vol.J88-A,No.6,pp.722-729より
シミュレーション結果(2) 横軸において,m=10であり,Mは可変 電子情報通信学会論文誌 Vol.J88-A,No.6,pp.722-729より
結論 エージェントが局所的な同調行動のみを起こす 全エージェントが同じ価値を見出すという 大域的現象が出現 エージェントが局所的な同調行動のみを起こす 全エージェントが同じ価値を見出すという 大域的現象が出現 エージェントがさらに排除行動も起こす 排除行動が同調行動の結果を打ち消すので はなく,数人の潜在的いじめ被害者を排出す る形で集団が安定化 エージェントの見出せる価値数が中程度のとき, 潜在的いじめ被害者数が最も多い(非単調性) 一元的管理主義がいじめの原因ではなく, 管理主義の不徹底さに原因がある!?
“いじめ現象”は価値の具体的内容や 個人の性格・嗜好とは無関係 “いじめ現象”はエージェントの 相互作用の中に構造化される という立場から それをなくすための知見を得たい