高齢者の人権、特に認知症を めぐる現状と課題 敦賀温泉病院/海上寮療養所 千葉大学医学部附属病院地域医療連携部 特任准教授 内閣府 障害者政策委員会委員 上野 秀樹 ホームページ http://hidekiueno.net/ 認知症アシストフォーラム https://ninchisho-assist.jp/ 今回の講義 →現在、世界中で増加している認知症の人が一人の人権の享有主体として生きることができるようにするためにはどうすればいいかを考えていきます。
日本における認知症 平成25年6月 厚労省研究班の発表 認知症の人 462万人 認知症の予備軍 400万人 平成25年6月 厚労省研究班の発表 認知症の人 462万人 認知症の予備軍 400万人 ←65歳以上の人の4人に一人が認知症かもしくはその予備群
JAAD ■認知症の定義 いったん正常に発達した知的機能が持続的に低下し、複数の認知障害があるために社会生活に支障をきたすようになった状態。 (認知障害の中でも記憶障害が中心となる症状で、 早期に出現することが多い) ■認知症と区別すべき病態 意識障害・せん妄、加齢による認知機能の低下、抑うつ状態による仮性認知症、精神発達遅滞等。 JAAD 認知症 いったん正常に発達した知的機能が持続的に低下し、 複数の認知障害があるために社会生活に支障をきた すようになった状態。 (認知障害の中でも記憶障害が中心となる症状で、早 期に出現することが多い) <認知症と区別すべき病態> 意識障害・せん妄、加齢による認知機能の低下、うつ状態による 仮性認知症、精神遅滞ほか。 認知症の定義 認 知 症 と は? 認知症とは? 認知症は、いったん正常に発達した知的機能が持続的に低下し、複数の認知障害があるために社会生活に支障をきたすようになった状態をいいます。認知機能については後ほど説明しますが、認知障害の中で、特に記憶の障害、すなわちもの忘れが中心になる症状で、多くの場合、それが早期から出現します。 認知症と区別すべき病態として、意識障害やせん妄、加齢による認知機能の低下、うつ状態によるいわゆる“仮性認知症”、精神遅滞などがあり、まず、これらを鑑別し除外することが大切です。
認 知 症 と は 正常なレベルまで発達した知能が、正常レベル以下にまで低下し、社会生活に支障を来すようになった状態 正常 認知症 年 齢 正 常 知 的 機 能 認知症 異 常 精神発達遅滞 年 齢
認知症とは 認知機能障害 ≒今まで出来ていたことが出来ない もの忘れ、自分の周囲の状況がわからない、理解力の低下、判断力の低下 ≒今まで出来ていたことが出来ない もの忘れ、自分の周囲の状況がわからない、理解力の低下、判断力の低下 日常生活、社会生活上の支障がある →生活障害の存在
認 知 症 高齢化が一番の危険因子 →だれでも高齢になれば認知症になる可能性がある 現在、完全な予防法、完全な治療法は存在しない 認 知 症 高齢化が一番の危険因子 →だれでも高齢になれば認知症になる可能性がある 現在、完全な予防法、完全な治療法は存在しない →認知症を怖れていてもうまくいかない 必要なのは、認知症になってもいきいきとして生活できる社会をつくること
人類の歴史 暮らしやすい社会を求めての試行錯誤の歴史 →衛生環境の改善などで高齢になっても生きられるようになった →衛生環境の改善などで高齢になっても生きられるようになった →人口の高齢化とともに避けられない認知症の問題 →認知症の人が暮らしやすい社会をつくるという課題
認知症の人が行きたい場所に行くことが出来ず、迷っている →徘徊 認知症の人が行きたい場所に行くことが出来ず、迷っている →徘徊 普通の人でも慣れない都市の地下鉄の乗換えに戸惑い、迷ってしまってなかなか目的地に行き着かないことがあります このようなときに親切に言葉をかけてくれる人がいてくれたら、どんなにうれしいことでしょう。
認知症の人が心ない人にだまされてしまい、大切な財産を奪われてしまうことがあります 普通の人も巧妙な詐欺に引っかかって、財産を失うことがあります こんな時に、誰もがだまされない仕組みがあれば、どんなに素晴らしいことでしょう。
普通の人の暮らしにくさ、認知症の人の暮らしにくさ、障害のある人の暮らしにくさ →実は連続している 認知症の人が暮らしやすい社会、障害のある人が暮らしやすい社会をつくること →普通の人が暮らしやすい社会をつくること
認知症になると →人間にとって避けられない「障害の問題」を自分の問題として考える契機になる 高齢化による身体機能低下 →身体障害 高齢化による身体機能低下 →身体障害 認知機能障害 →知的障害 行動・心理症状 →精神障害 →人間にとって避けられない「障害の問題」を自分の問題として考える契機になる
障害のとらえ方~医療モデル 障害者問題の原因 →見えない目、聞こえない耳、動かない手足に求める →見えない目、聞こえない耳、動かない手足に求める →解決のためには治療やリハビリによる除去・軽減が必要 →「障害=あってはならないもの」 →障害者は克服がうまくいかなかった、気の毒な存在 →障害者は同情、保護の対象
障害のとらえ方~社会モデル 障害者問題 →障害者が日常生活または社会生活において受ける制限は、身体障害、知的障害、精神障害、その他心身の機能の障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずる
移動の自由 3階建ての建物に階段だけ →両下肢が麻痺した車いすの人は上下階の移動が不可能 (障壁 disability) →両下肢が麻痺した車いすの人は上下階の移動が不可能 (障壁 disability) 3階建ての建物にロッククライミング用の壁だけ →普通の人は上下階の移動が不可能 (障壁 disability)
移動の自由 段差もなく平坦な通路 →車いすの人も自由に通行が可能 段差だらけの通路 →車いすの人は通行できない 2メートルの段差のある通路 →車いすの人も自由に通行が可能 段差だらけの通路 →車いすの人は通行できない 2メートルの段差のある通路 →普通の人も通行できない
移動の自由 ○ × 社会の状態 車いすの人 普通の人 2mの段差を ものともせずに移動できる人 すべての通路に段差のない社会 通路には、高さ 20cm程度の 段差がある社会 × すべての通路に2mの段差がある社会
認知症の人が生き生きとして暮らせる社会 実現のために必要なのは 認知症の人が生き生きとして暮らせる社会 実現のために必要なのは 私たちの社会のあり方を変えること
平成24年6月18日 厚労省から国の認知症施策の基本方針が発表 今後の認知症施策の方向性について
認知症と精神科医療 国連 障害者権利条約 2006年採択 日本は、2007年に署名、関連法制度の整備を積極的に行い、2014年1月に批准。 国連 障害者権利条約 2006年採択 日本は、2007年に署名、関連法制度の整備を積極的に行い、2014年1月に批准。 →内閣府 障がい者制度改革推進会議 精神科医療に関しては、厚労省 社会援護局 障害保健福祉部 精神・障害保健課 →新たな地域精神保健医療体制を構築するための検討チームの設置 第2R 認知症と精神科医療
これまでの認知症施策の再検証 かつて、私たちは認知症を何も分からなくなる病気と考え、徘徊や大声を出すなどの症状だけに目を向け、認知症の人の訴えを理解しようとするどころか、多くの場合、認知症の人を疎んじたり、拘束するなど、不当な扱いをしてきた。今後の認知症施策を進めるに当たっては、常に、これまで認知症の人々が置かれてきた歴史を振り返り、認知症を正しく理解し、よりよいケアと医療が提供できるように努めなければならない。
今後の目標 このプロジェクトは、「認知症の人は、精神科病院や施設を利用せざるを得ない」という考え方を改め、「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」の実現を目指している。
認知症の人の精神科入院 平成11年 54000人 36700人 67% 平成14年 71000人 44200人 62% 病院に入院中の 精神科病床に入院中 割合 認知症の人の数 の認知症の人の数 平成11年 54000人 36700人 67% 平成14年 71000人 44200人 62% 平成17年 81000人 52100人 65% 平成20年 75000人 51500人 68% 平成23年 80000人 53400人 67%
日本の精神科医療 ~ 現 在 ~
精神科病床数が多いこと
人口1万人あたりの精神病床数 28 7 10 1 5 3 8 日本 イギリス フランス イタリア スウェーデン アメリカ カナダ 韓国 出典:OECD Health Data 2007 (アメリカ・カナダは2004年、その他の国は2005年のデータ)
長期在院患者さんが多いこと
病棟の人員配置が少なく、低コストで運営されていること
精神科病院と一般病院の比較 比較項目 病院数 病床数 1病院あたり病床数 病床利用率 平均在院 日数 精神科病院 1,074 260,322 242.4 91.1 320.3 一般病院 7,886 1,367,607 173.4 78.0 19.2 100床あたり 1日平均 外来患者数 入院レセプト点数 (点/日) 民間病院の割合 医師数 看護職員数 3.2 31.0 48.6 1,292 87.3 12.6 50.9 186.8 3,243 68.2
日本の精神科医療の特徴 精神科病床数が多いこと 長期在院患者さんが多いこと 病棟の人員配置が少なく、低コストで運営されていること
その原因は? 精神科病棟が居住機能を担っていること
入院医療が必要でない患者さんを入院させていると 病棟は、入院患者さんの残された能力を生かすような運営が難しい →食事は上げ膳・据え膳、清掃も病院で行うため、患者さんは寝ているだけの生活になりがち いわゆる施設化 =社会的廃用症候群
日本の精神科医療政策 3つの過ち 第一のあやまち 精神科特例による運営上のメリット(1958年)と医療金融公庫の創設(1960年)による民間精神科病院建設への低利融資により、隔離・収容型の精神科医療政策をとったこと 第二のあやまち 診療報酬上の精神科療養病棟制度をつくり、(結果として)社会的入院患者の入院を維持するシステムを作ったこと 第三のあやまち 精神科病院に認知症の人を入院させていること
日本の精神科医療の問題点 民間病床数が多すぎること 精神保健福祉法が、精神障害者の地域生活支援、自己決定支援の考え方に立っておらず、「精神障害者の管理」のための法律になっていること
精神科医療 法制度 1900年 精神病者監護法 1919年 精神病院法 1950年 精神衛生法 1965年 精神衛生法改正 精神科医療 法制度 1900年 精神病者監護法 1919年 精神病院法 1950年 精神衛生法 1965年 精神衛生法改正 ライシャワー事件(1964) 1987年 精神保健法 宇都宮病院事件(1983) 1995年 精神保健福祉法 2013年 精神保健福祉法改正
日本の福祉政策の問題点 過去に「障害者は特別なケアが出来る施設に収容して生活してもらう」という考え方が主流であった時代に、民間に収容施設をつくらせたこと 現在の多床室 収容型特養の問題
認知症の人の精神科入院 平成11年 54000人 36700人 67% 平成14年 71000人 44200人 62% 病院に入院中の 精神科病床に入院中 割合 認知症の人の数 の認知症の人の数 平成11年 54000人 36700人 67% 平成14年 71000人 44200人 62% 平成17年 81000人 52100人 65% 平成20年 75000人 51500人 68% 平成23年 80000人 53400人 67%
BPSDの早期発見、早期治療 ケアマネ、ヘルパー等、介護保険関連の職種への啓蒙活動 一般向けの啓蒙活動
平成24年6月18日 厚労省から国の認知症施策の基本方針が発表 今後の認知症施策の方向性について
これまでの認知症施策の再検証 かつて、私たちは認知症を何も分からなくなる病気と考え、徘徊や大声を出すなどの症状だけに目を向け、認知症の人の訴えを理解しようとするどころか、多くの場合、認知症の人を疎んじたり、拘束するなど、不当な扱いをしてきた。今後の認知症施策を進めるに当たっては、常に、これまで認知症の人々が置かれてきた歴史を振り返り、認知症を正しく理解し、よりよいケアと医療が提供できるように努めなければならない。
今後の目標 このプロジェクトは、「認知症の人は、精神科病院や施設を利用せざるを得ない」という考え方を改め、「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」の実現を目指している。
できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会 実現のための大きな柱 →認知症初期集中支援チーム →身近型認知症疾患医療センター (認知症医療支援診療所)
認知症初期集中支援チームの概念図 参考資料3 ⑤在宅初期集中支援の実施 ①初回アセスメント訪問 ⑥家族支援 ②チーム員会議の開催 ④チーム員による本人家族への説明とケア方針の作成 近隣地域 ・認知症の進行状況に沿った対応 ・経過予測とサービス利用時の調整 ・緊急時・重篤時を含むケア方針の作成 等 ・在宅での普段の 生活 ・生活歴、現病歴 ・身体状況 ・認知能力 ・ADL・IADL ・生活環境 本人 家族 ⑤在宅初期集中支援の実施 ・アセスメントの共有 ・支援ポイントの明確化 ・在宅での具体的ケアの提供 ・環境改善 ・服薬管理 ・24時間365日連絡体制の確保 ①初回アセスメント訪問 ⑥家族支援 ・カウンセリング ・対応方法のアドバイス 29 地域包括支援 センター等 介護サービス 必要時 ②チーム員会議の開催 ⑦急性増悪期のアウトリーチや電話相談 ③認知症疾患医療センター等への検査、診察紹介 (主治医経由) 認知症初期集中 支援チーム 紹介 診断 認知症疾患医療 センター 情報提供 助言 ⑧ケアマネジャー等への助言 紹介 ⑨地域ケア会議への出席 診断 かかりつけ医
認知症初期集中支援チーム 初期からしかできない適切な支援を行うこと 医療は必要時のみ 早く診断をするのが大切なのではない。初期の段階でその人の言葉をたくさん聞くこと、その人がどこで住みたいか、どんな生活をしたいかを聞く。 →初期の段階で出会うこと、出会いのポイントを前に倒すことが大切なのである。 医療は必要時のみ
早期からの支援のために 認知症に関する肯定的な啓発活動の必要性 支援を必要としたときに、認知症の人やケアラーが必要な支援を手軽に手に入れることが出来るような環境作り