第79回日本社会学会大会報告(2006.10.28) 九州新幹線長崎ルート 新規着工の政治過程 角 一典 北海道教育大学
報告の課題 九州新幹線長崎ルートの条件付き着工 並行在来線経営分離に関する地元同意をまとめられないまま、着工が認められ、条件付きで予算配分がなされる →整備新幹線建設において「異例の事態」 がいかなる要因に基づいて発生したか? ⇒「合理的」なシステムが変容してしまう (損なわれていく)メカニズムはなにか
長崎ルートの経緯 中央の政治過程 地方の政治過程 1972年 整備5線の基本計画決定 1973年 整備5線の整備計画決定 1972年 整備5線の基本計画決定 1973年 整備5線の整備計画決定 1988年 3線5区間の優先着工決定 →並行在来線問題が浮上 1994年 新規着工の条件明示化 →並行在来線経営分離の地元 同意が条件化 1998年 新規着工区間の拡大 2003年 九州新幹線開業 →新規着工の議論が浮上 2004年 新規着工区間拡大 地方の政治過程 ⇒JR九州、佐世保経由では採算性がないとの意見具申 1991年 短絡ルート案の浮上 →長崎本線沿線で経営分離反対 表明が相次ぐ ⇒短絡ルートの環境影響評価開始(2002年1月終了) ⇒長崎ルート武雄温泉-新大村間の新規着工が条件付きで承認 ⇔一部自治体(鹿島市・江北町)の経営分離反対が依然と続く状態
九州新幹線長崎ルート概念図
反対運動の解体過程 1992年8月4日 佐賀県内の鹿島市・江北町・福富町・白石町・有明町・塩田町・ 太良町・嬉野町、JR長崎本線存続期成会結成 →1996年5月31日 嬉野町が期成会を脱退 2004年12月7日 古川佐賀県知事、沿線市町の意向確認の方針表明 ⇒鹿島市・太良町・江北町は反対を堅持するが、白石町・福富町・有明町・ 塩田町は経営分離の受け入れを表明、期成会を脱退 2005年6月~8月 佐賀県と期成会との協議(9回) →百武太良町長、初回の会議で、経営分離に見合う地域振興策が示され れば同意することを表明、期成会メンバーは非難 →2005年8月下旬に、鹿島市・太良町・江北町で全員協議会が開かれ、経 営分離反対を確認するも、江北町では採決が行われず ⇒11月 町長の発案による住民アンケートを実施、経営分離反対票 が多数を占めるが、江北町議会が期成会を脱退 →2006年2月 太良町で、県による地域振興策の住民説明会 ⇒説明会席上、百武町長が経営分離受け入れ表明、議会も近日中 に全員協議会を開き受け入れ決議することを了承 2006年4月16日 桑原鹿島市長5選、経営分離反対の決意を再度表明
・長崎ルートの政治過程から見えるもの ①制度上の「合理性」が矛盾を生じる構造的要因 ・不十分な形で終わった国鉄改革 ・不十分な形で終わった国鉄改革 ・「解釈の余地」を残した条件設定 ・「硬直的な」予算制度の問題 ②長崎ルート固有の条件から生じる「偶発的」要素 ・巨大公共事業の「複合作用」 ・市町村合併とのかかわり
不十分な形で終わった国鉄改革 国鉄改革を基礎とした鉄道建設の改革 ・事業体の自立性の向上 不十分な形で終わった国鉄改革 国鉄改革を基礎とした鉄道建設の改革 ・事業体の自立性の向上 →(既着工区間も含めて)建設の是非はJRの判 断による ・政治介入ルートの「解体」 →鉄道建設審議会を分割民営化時に廃止 ⇒鉄道建設における手続きの合理化 しかしながら、新幹線については計画が維持され、政治的努力のもとで整備計画は着工に至った
「解釈の余地」を残した条件設定 ・着工優先順位の確定 整備新幹線建設における「合理化」 ・地元負担 ・並行在来線の経営分離 「解釈の余地」を残した条件設定 整備新幹線建設における「合理化」 ・着工優先順位の確定 ・地元負担 ・並行在来線の経営分離 →1994年、これらについて条件を明示化 ⇒新幹線建設もある程度「合理化」される しかしながら、2004年の新規着工区間決定において、地元の経営分離同意を取らないまま、着工 が承認された
「硬直的な」予算制度の問題 鉄道改革の成果=「無制限な」投資の抑制 →整備新幹線建設も、限られた範囲(予算)内 で進められていった →整備新幹線建設も、限られた範囲(予算)内 で進められていった →着工優先順位の決定による予算の傾斜配分 予算の「限定」の限界=単年度主義の問題 →現状の予算制度下では、枠は単年度予算の 範囲でしかかけることができない ⇒一度確保された予算は、事実上「特定財源と して」維持され続ける。 →優先順位の低い区間も最終的に着工が 可能となる仕組み
整備新幹線予算の推移
長崎ルート固有の要因 ・玄海原発とプルサーマル 巨大公共事業の複合作用 ・玄海原発とプルサーマル →国策として推進されているプルサーマル受 け入れと新幹線がバーターとなる可能性 市町村合併とのかかわり ・西側において進展した市町村合併 →佐賀においても、8市37町5村(2004.12.31) が10市13町に ⇒鹿島市・江北町・太良町は合併の波か ら取り残されている。
結論 構造上のひずみは、連鎖的にひずみを拡大する傾向がある。 単年度主義による予算編成は「特定財源化」を引き起こし、合理性を漸減させる要因となっている 地方政治は複合的に中央からの影響を受けやすく、特定の課題を、シングルイシューとして意思決定を行うことが難しい