リチウム二次電池正極劣化の機構解明と抑制

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リチウム二次電池正極劣化の機構解明と抑制 佐藤幸裕

電力源であるリチウム二次電池の 長寿命化が望まれる 携帯電話、ノートPC、PDAなど、 さまざまなモバイル・ツールが市場拡大 携帯電話の普及台数 6000万台 国内でのモバイルビジネスは99年に約1700億、2007年には26倍の約4兆円5000億になると予想されている (2000年版「通信白書」 ) 電力源であるリチウム二次電池の 長寿命化が望まれる

リチウム二次電池の劣化機構については、活物質、電解液、集電体、そのほかさまざまな視点から検討されている Li+ C Al Cu →放電(負荷) ←充電(電源) 正極 負極 e LiMn2O4 不働態皮膜 劣化を引き起こすと考えられる電池副反応を単独で観察し報告した例は多いが、その結果、具体的に電池反応にどのような影響を及ぼすかを検討した例はほとんど見当たらない。 部材の副反応が電池反応にどのような影響を及ぼすかを検討 電池寿命特性の向上の可能性

論文の構成 1章 序論 2章 実験方法 3章 正極活物質LiMn2O4の劣化 4章 リチウム電池駆動電解液中における正極集電体 1章 序論 2章 実験方法 3章 正極活物質LiMn2O4の劣化 4章 リチウム電池駆動電解液中における正極集電体 アルミニウムの不働態皮膜生成 アルミニウム表面上に生成する皮膜について検討 5章 不働態皮膜の特性に影響を及ぼす因子 6章 リチウム電池駆動電解液中におけるアルミニウム 以外のバルブメタルの不働態皮膜生成 7章 炭素導電助剤が電解液分解に及ぼす影響 皮膜の絶縁性を向上させ、劣化を抑制 8章 総括

非水溶液用 水溶液用 充放電用 その場観察用 対極:Pt NBR テフロン 樹脂 電極 参照極:Ag 試料極 =Al(99.99%) テフロンキャップ 対極:Pt 参照極:Ag 電極 NBR テフロン 樹脂 Φ8 アルミニウム SUS304 金属Li(対極) 正極活物質 テフロンテープ 金属Li(参照極) LiBF4/PC+DME or LiPF6/PC+DME 非水溶液用 水溶液用 充放電用 その場観察用

AA LiBF4 LiPF6 LiClO4 電気化学測定 サイクリックボルタンメトリー クロノアンペロメトリーなど 皮膜の分析 XPS、TEM 略号 電解液 AA 0.3M アジピン酸アンモニウム 水溶液(電解コンデンサ用) LiBF4 1M LiBF4 /PC+DME リチウム電池駆動電解液 LiPF6 1M LiPF6 /PC+DME LiClO4 1M LiClO4 /PC+DME

各電解液中におけるAlのCV LiBF4 LiPF6 LiClO4 漏れ電流 各電解液において皮膜生成が起きていると考えられるが、LiBF4及びLiPF6溶液中とLiClO4溶液中において生成する皮膜の絶縁性は異なると考えられる

集電体にアルミニウムを用いる場合には電解液にLiClO4は適さない LiClO4溶液中におけるAl腐食 LiClO4溶液中においてアルミニウムは腐食する 集電体にアルミニウムを用いる場合には電解液にLiClO4は適さない

定電流時の電位時間曲線 AA 400V LiBF4 36V LiPF6 17V LiBF4 LiPF6 AA 電解液 電位上昇速度 AA 400V   LiBF4 36V  LiPF6 17V   LiBF4 LiPF6 AA 電位上昇速度 ブレークダウン電位 LiPF6<LiBF4<< AA ⇒水系より低い耐電圧の皮膜 電位が直線的に増加 ⇒膜厚が時間に比例している可能性がある

電流密度と電位上昇速度 AA 0.4 V s-1 LiBF4 1.1 V s-1 LiPF6 電流密度 / mA・cm-2 電解液 電位上昇速度 (1 mA cm–2) AA 0.4 V s-1   LiBF4 1.1 V s-1   LiPF6 電流密度 / mA・cm-2 電位上昇速度 / V s-1 □LiBF4 △LiPF6 ○AA ∝電場強度 電位上昇速度 LiBF4=LiPF6>AA ⇒電位上昇速度∝電流密度 ⇒水系同様に電気量に比例した膜厚が生成

水系( Al2O3 )とは異なり、フッ素を含む 不定比化合物( AlOx/2F3-x ) XPSによる皮膜の深さ方向分析 Fig. 16に陽極処理後のXPSデプスプロファイルを示す。いずれの試料も深層部では地金の金属状態のアルミニウムを示すAl 2pのスペクトルのピークが72.5eV付近に観察された。AA中で陽極処理後の表面では、金属状態のアルミニウムを示すAl 2pのスペクトルのピークは、アルミニウム酸化物中のAl-O結合と思われる76.8eV付近に移動した(9)。LiBF4中やLiPF6で陽極処理した場合は、Al 2pのスペクトルのピークが80.0eV付近まで移動し、Oより電気陰性度の大きいAl-Fと結合が存在すると思われる(8)。しかし、O-2sなどのスペクトルをみると、Oも表面近傍に存在していた。これらのことから、LiBF4中およびLiPF6中で陽極処理したアルミニウムの表面に生成した不働態皮膜はXPSからも不定比化合物AlOx/2F3-x と思われる。LiPF6中とLiBF4で陽極処理後の皮膜は皮膜表面ではともにAl-F結合が主であるが、LiPF6中の場合、皮膜内部では、結合エネルギーが若干小さくなり、Al-O結合に近くなっていた。このことは、集電体分極時の皮膜による電圧降下のため集電体/電解液界面の過電圧が大きくなり、同時に耐腐食性が向上することを意味する。リチウム電池駆動用電解液としてLiBF4よりLiPF6の方が耐酸化性に優れているのは、(**)LiPF6によって皮膜内部に酸素リッチのAlOx/2F3-xが形成されるためと考えられる(*)。この層の存在はLiBF4中およびLiPF6中における定電流印加時の初期電圧挙動からも推察でき、LiPF6中では通電直後の電圧ジャンプが緩やかになった。PF6の作用として、予め存在していた酸化皮膜層を保護する可能性と、その有機電解液中の極微量水分による初期に酸素リッチ層を形成する可能性があるが、有機電解液浸漬前の集電体皮膜の状態がリチウム電池の性能に大きな影響を及ぼすことから、前者の可能性が大きいと考えられる。 水系( Al2O3 )とは異なり、フッ素を含む 不定比化合物( AlOx/2F3-x )

TEMによる皮膜の断面形状 皮膜は緻密なバリヤ皮膜 35nm/20V =1.75 nm/V 皮膜 地金 LiBF4中で1mA/cm, 80s、アノード分極して生成した皮膜の断面写真を示す。厚さの確実性が若干心配ではありますが、皮膜は緻密なバリヤ型の皮膜であった。 皮膜は緻密なバリヤ皮膜

水溶液系とリチウム電池駆動用電解液における漏れ電流 LiPF6 LiBF4 AA AA中で生成でした皮膜の方が漏れ電流が小さい。 AA中で生成した皮膜の方が絶縁性が高い

水溶液系とリチウム電池駆動用電解液 水系と同じ反応機構、異なる皮膜組成 Al2O3 Al AlOx/2Fx 電位 距離 低密度 低電場強度 電流 溶液電位 Al2O3 Al Al3+ O2- F-,O2- AlOx/2Fx 電位 距離 2Al + 3H2O → Al2O3 + 6H+ + 6e- Al + 3LiPF6 → AlF3 + 3PF5 + 3Li+ + 3e- Al + 3LiBF4 → AlF3 + 3BF3 + 3Li+ + 3e- 水溶液系 低密度 低電場強度 =弱絶縁性 リチウム電池駆動用電解液系 水系と同じ反応機構、異なる皮膜組成

電流絞込み時における漏れ電流の測定(LiBF4) ポリビニリデンフルオライド N-メチルピロリドン すべての処理で電流値が減少した 生成する皮膜の絶縁性が向上

電流絞込み時における漏れ電流の測定(LiPF6) LiBF4溶液中同様、皮膜の絶縁性が向上した

電解液中への硝酸リチウムおよび水分添加によりサイクル特性が向上した 放電容量のサイクル特性( LiBF4 ) 電解液中への硝酸リチウムおよび水分添加によりサイクル特性が向上した

放電容量のサイクル特性( LiPF6 ) 水分添加以外のすべての処理がサイクル特性を向上させた

結論 正極集電体アルミニウムはフッ素を含む有機電解液中で高電場機構に従いAlF3類似化合物の緻密なバリヤ型の不働態皮膜を生成する。この皮膜は電解液中の水分、電解液中へのインヒビターの添加、そしてアルミニウムの表面処理により絶縁性を向上できる。これにより、集電体自身の腐食や集電体/電解液界面の電解液の酸化分解などの副反応を抑制でき電池性能の向上につながる。

× 600℃/ 5s 水分添加 (300~900ppm) LiNO3 (300~ 600ppm) LiBF4 LiPF6 (ブランクと比べて)  ○=サイクル特性の向上 △=効果なし ×=サイクル特性の低下

電流絞込み概念図 電位 時間 電流 皮膜溶解電流 &電子電流 溶液電位 電極電位 皮膜生成電流 漏れ電流(皮膜溶解電流&電子電流)

CV XPS GD-OES TEM XRD ICP 電池容量 電気化学的 サイクル特性 検討 表面分析 SEM EDX 組成分析 水分 濃度 ブレーク ダウン電位 電池容量 サイクル特性 電気化学的 検討 クロノポテン ショメトリー インピー ダンス 表面分析 SEM EDX XPS GD-OES TEM 組成分析 水分 濃度 XRD ICP

種々の電解液中におけるAlの定電位保持時の電流-時間曲線 LiBF4 LiPF6 LiClO4 LiClO4/PC+DME溶液中では他の二つの電解液に比べ、最終的な電流値が大きかった。 LiClO4/PC+DME溶液中において生成する皮膜の方が絶縁性が低い。

LiMn2O4⇔Li++e-+Mn2O4 アノード分極後の電解液 ブランク

記号 活物質への影響 考えられる劣化因子 Al/LiClO4 劣化、やや回復 [Al]3+,[AlCl2]+, [H]+ ([AlCl4]-, [Cl]- ) Al/LiBF4 劣化、回復せず [H]+ ,([AlF6]3- , [F]- ) Al/LiPF6 Au/LiClO4 [H]+ ,([Cl]- ) LiBF4 + AlCl3 [AlCl2]+ , ([AlCl4]-)

グラファイトに比べ、アセチレンブラックの方が表面積が 大きいのにもかかわらず最終的な電流値が減少した。 アセチレンブラックの方が炭素/電解液界面での溶媒の酸化分解が起こりにくいと考えられる。

LiBF4/PC+DME中におけるLiMn2O4のサイクル毎の放電容量 導電助剤にグラファイト(KS-15)を用いると放電容量が低下した。

アルミニウムが電池の界面に及ぼす機構 集電体表面でおきる副生成物は活物質のサイクル特性を劣化させる。 電流 Al3+ 電池反応 腐食反応 炭素(導電助材) 電池反応 Al3+ 腐食反応 電流 不働態化 Mn溶出 アニオン インターカレーション 電解質&溶媒の分解 LiMn2O4(活物質) アルミニウム (集電体)皮膜 集電体表面でおきる副生成物は活物質のサイクル特性を劣化させる。

集電体にアルミニウムを用いる場合には電解液にLiClO4は適さない LiClO4溶液中におけるAl腐食 10μm LiClO4溶液中においてアルミニウムは腐食する 集電体にアルミニウムを用いる場合には電解液にLiClO4は適さない