人工知能概論 第9回 位置推定(2) 粒子フィルタ

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人工知能概論 第9回 位置推定(2) 粒子フィルタ 立命館大学 情報理工学部 知能情報学科 谷口忠大

STORY 位置推定(2) ベイズフィルタを実装されたホイールダック2号は思った.「何だか,これ,面倒くさくないだろうか」.ベイズフィルタでは常に「自分があらゆる状態にいる確率」を考えなければならない.ところが,迷路は広いが,自分がいる場所は一箇所だし,自分がいる可能性のある場所も正直なところ限られている.ほとんどの場所で自分の存在確率はほぼ0だ. こんな,ムダな情報を持っているより,むしろ,「僕はここにいるかもしれない」という仮説をいくつか持っておいた方がいいのではないだろうか.

仮定 位置推定(2) ホイールダック2号は迷路の完全な地図を持っているものとする. ホイールダック2号は自分がどこにいればどんな観測が得られるか知っているものとする(ただし確率的に). ホイールダック2号はそれぞれの状態で自分がどんな行動をとれば,どの状態へ移動するのかを知っているものとする(ただし確率的に).

Contents 9.1 ベイズフィルタの問題点 9.2 モンテカルロ近似 9.3 粒子フィルタ 9.4 通路上のホイールダック2号の位置推定    (粒子フィルタ編)

ベイズフィルタの復習 状態stで観測otを得る確率 状態stに移動している確率 あらゆる状態を考慮(全部の確率の和が1.0)

ベイズフィルタの復習 章末問題2を考えてみよう A, B, C, D という4つの状態 行動では確率 ½ で停留、1/6 で別の部屋   行動では確率 ½ で停留、1/6 で別の部屋 光が見える確率(A-Dの順): 1/10, 1/5, 2/5, 1/10 一度目の行動後にロボットがAにいる確率 その時光が見えたとする。Cにいる確率

9.1.1位置推定とメモリ管理 確率がゼロのところを陽に表現しない 効率的データ表現を! 前章であつかったベイズフィルタでは,実装上の非効率な点がある.それは「全ての状態に関する存在確率を常に保持しなければならない」という点である. 膨大な状態空間が存在する場合には,ロボットが絶対に存在しないであろう場所における存在確率も含めて,その状態空間全てにおいて存在確率P(st |o1:t , a1:t-1 ) の更新を行う必要がある.これは非効率である. 確率がゼロのところを陽に表現しない 効率的データ表現を!

粒子フィルタのコンセプト 粒子フィルタ モンテカルロ近似 SIR Monte Carlo Localization (MCL) Particle Filter 粒子フィルタのコンセプト これに対して,「ロボットはここにいるかもしれない」という仮説(候補)をいくつか持って,これを更新することで,自己位置推定を進めるのが粒子フィルタ だいたいこのへんにいる・・・・ 粒子フィルタ モンテカルロ近似 SIR

Contents 9.1 ベイズフィルタの問題点 9.2 モンテカルロ近似 9.3 粒子フィルタ 9.4 通路上のホイールダック2号の位置推定    (粒子フィルタ編)

サンプル点の集合を確率分布の近似として扱う 9.2.1サンプル点の集合による 確率分布の近似 「『自らがいそうな状態』に関する候補をいくつか持つことで『すべての状態』についての情報を持つ代わりにする」 なんとなく裏に潜むイカサマサイコロの 確率分布を想像できる! サンプル点の集合を確率分布の近似として扱う

“サンプリング”とは? x(i)~P(x) 確率分布から具体的な値を抽出(サンプリング)すること. サイコロを振って値を出すことに相当. 信号処理のサンプリングとは別物だから気をつけて! 統計学の「標本調査」の標本をサンプルと呼ぶのと同じ “サンプリング”とは? 確率分布から具体的な値を抽出(サンプリング)すること. サイコロを振って値を出すことに相当. 機械学習等の分野では「確率分布からdrawする(引き出す,振り出す)」のような表現を使う. 例)確率分布P(x)からi番目のサンプルx(i)をdrawする. x(i)~P(x) 確率分布からdrawする記号 ※イメージとしては C言語における int x= rand() をイメージするのがよい.

9.2.3 モンテカルロ法 モンテカルロ法は一般的に,確率分布の式を直接扱うかわりに,その確率分布から生成されたサンプル群によって,その確率分布の代用とする方法である. 期待値の評価によく用いられる. より一般的に確率変数x についての関数値f (x) の期待値を評価する. ※ x(i) は確率分布P(x) からサンプリングされるi 番目のサンプル値

例)図形の面積を求める話 S=R*Nin/(Nin+Nout) 下記の内側の図形の面積の近似値を求めよ.長方形の面積はRとする. 領域の面積= 長方形の面積×(6/11) くらい? S=R*Nin/(Nin+Nout)

9.2.2 モンテカルロ近似 モンテカルロ法が前提にしているのは,N 点のサンプル集合が元々の確率分布のよい近似になっているという性質である. として,N 個のサンプル点によって確率分布を近似する.δはクロネッカーのデルタである.

1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6 イカサマサイコロのモンテカルロ近似 P(x) は近似のマークです. 例えば半分の確率で6がでるイカサマサイコロを10回振る. x(i)={6,6,3,2,3,4,6,6,6,1}と出たとする. P(x) 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6

演習9-1 モンテカルロ法 あるテストについてクラスの平均点を調べようと100 人のクラスでランダムに10 人から聞き取り調査をした.すると,10 人の回答の平均値は50 点であった.モンテカルロ法に基づいてこのクラスの平均点を求めよ.

Contents 9.1 ベイズフィルタの問題点 9.2 モンテカルロ近似 9.3 粒子フィルタ 9.4 通路上のホイールダック2号の位置推定    (粒子フィルタ編)

9.3 Sampling Importance Resampling (SIR) 非常に巧妙な手法であり,ベイズ更新自体にモンテカルロ近似を適用することによって,アルゴリズム上は常に,仮説となるサンプル点群を持てばいいことになり,非常に実装しやすいアルゴリズムとなる. Sampling Importance Resampling もう一回 サンプリングする サンプリングする 重み付けする

これじゃあ,ベイズフィルタの売りの漸化式にはならない! SIRの導出(1) 第8章の導出を必ず復習! 第8章のベイズフィルタ 事後分布のモンテカルロ近似 右辺のFへの適用 モンテカルロ近似のもとになる 一個一個のサンプルのことを 粒子と呼ぶ. これじゃあ,ベイズフィルタの売りの漸化式にはならない!

SIRの導出(2) 粒子iごとに式を分解してみる. (Point) シグマの順番を変える!

分解した式の解釈 t-1時刻の粒子iが状態遷移したものの確率分布 粒子iが状態遷移後,観測を得て重み付けられたもの 全ての粒子についての和

SIRの導出(3) 状態遷移後の確率分布の近似 思い切ったモンテカルロ近似 以上によりFtが重み付けられた粒子群の和として表される. wiをサンプル点の”重み”と見る.

また,粒子群になった!アルゴリズミックな更新式が得られる! SIRの導出(4) resampling!!! st(i)をサンプリングしてモンテカルロ近似 また,粒子群になった!アルゴリズミックな更新式が得られる! リサンプリング(resampling) するというアイデアにより,SIR では粒子群の効率的な更新のアルゴリズムを得ている. サンプル点の集合は粒子群のように振る舞うため,各サンプル点のことを粒子(particle) と呼ぶ.

9.3.2 粒子フィルタ のアルゴリズム 簡単な実装! メモリ使用量も制御容易!

Contents 9.1 ベイズフィルタの問題点 9.2 モンテカルロ近似 9.3 粒子フィルタ 9.4 通路上のホイールダック2号の位置推定    (粒子フィルタ編)

9.5 例:通路上のホイールダック2号(粒子フィルタ編) 9.5 例:通路上のホイールダック2号(粒子フィルタ編) 8章と同じ問題を考える. ベイズフィルタと異なり,ロボットの位置についての確率分布を粒子の集合で表現される. 移動は80%の確率で成功する. 70% の確率で正しい観測が得られるが,誤認識が発生した場合はそれぞれ2% の確率でのこり15 個の選択肢の中から誤った観測が得られるものとする.

続き

9.4.2 粒子フィルタの応用 移動ロボットの自己位置推定には粒子フィルタはMCL (Monte Carlo Localization,モンテカルロ位置推定) と呼ばれ,大変よく用いられている方法である. 実際には,連続の確率システムの状態方程式に置き換え,確率分布は離散分布ではなく,システムノイズにガウス分布を仮定することが多い. また,コンピュータビジョンの研究では,古くから物体追跡(オブジェクト・トラッキング)に粒子フィルタが用いられている. (動画の例)Monte Carlo Localization demo. (Youtubeより) https://www.youtube.com/watch?v=10tvdmZ7OqU

まとめ 位置推定の問題においてベイズフィルタが持つ問題点をメモリ管理と関連して理解した. モンテカルロ法とモンテカルロ近似について学んだ. SIR のアルゴリズムを数学的に導出し,その近似の仕組みについて理解した. 粒子フィルタのアルゴリズムについて学んだ. 例を通して粒子フィルタの実行時の基本的な手続きについて確認した.

章末問題3,4の解説 まずは自分で取り組んでみよう (解答が巻末にあることはある) しばらくしたら解説する

演習9-2 ホイールダック2号はスタート時無情報である. それぞれのマスにある粒子(パーティクル)の分布の一例を 上記のセル内に書け.粒子の合計数は20とする.

演習9-3 演習9-2の状況の後にホイールダック2号が「停止行動」を とった後に観測を行ったところ右のような観測を得た. この観測を得た後に,ホイールダック2号がいる場所を リサンプリングした結果の粒子数の一例を各セルに書け (乱数は適宜,各自で生成するものとする.)

演習9-4 9-3の後にホイールダック2号は左に移動し, を観測した. その後の自己位置をリサンプリングした場合の粒子の分布 9-3の後にホイールダック2号は左に移動し, を観測した. その後の自己位置をリサンプリングした場合の粒子の分布 として妥当な数字を各セルに記入せよ