定航船社におけるM&A後の経営資源の再配置に関する研究 海運ロジスティクス専攻 0755017 秦文良 指導教員:黒川 久幸 こんにちは、秦文良と申します。 今日は「定航船社におけるM&A後の経営資源の再配置に関する研究」テーマで発表させていただきます
目次 研究背景 研究目的 定航船社のM&Aとその現状 経営資源の再配置の手段について M&A事例から見た経営資源の再配置の特徴 結論 今後の課題 まず研究背景について説明します。
世界コンテナ荷動き推移 世界のコンテナ荷動き量が急増 1億 TEU 約3000万 TEU
研究背景 アライアンスを組み、M&Aにより経営規模を拡大する 荷動きの増加に対応するため、船舶の大型化や新規投入が必要。 コンテナターミナルの整備には莫大な資金が必要。 経済のグローバル化に伴い、全世界を対象とする輸送サービスが要求されるようになった。 このようなコンテナ貨物量の増加に対応するため、定航船社がコンテナ船の大型化や新規投入を図ってきました。しかし、定時・定曜日の輸送サービスを提供するため、数多くの船舶を運航するとともにコンテナターミナルのオペレーションも行う必要があって、莫大な資金を必要とします。したがって、#経済のグローバル化に伴い、全世界を対象とする輸送サービスが要求されるようになりました。#このため、定航船社は他の定航船社とアライアンスを組み、更には、他の定航船社をM&Aによりきゅうしゅうし、経営規模を拡大してきました。 アライアンスを組み、M&Aにより経営規模を拡大する
定航海運における固定資産の 回転率 70%以上 他の業界と比べると定航海運業が固定資産が総資産に占める割合は非常に高いです。#約7割以上に占めていることが分かります。定航海運業は船舶を利用して荷物を運ぶ輸送サービス業で、自社が持っている船隊を特定の航路で運航することによって、荷主に船腹スペースを販売します。つまり、船社にとって船舶は最も重要な経営資源です。固定資産である船舶をどのように利用するか船社にとって非常に重要な意思決定です。
したがって、M&A後の船舶の 再配置が重要 B社 M&A C社 #M&Aによる獲得した経営資源をどのように再配置するのかは船社の経営に大きな影響を与えるため、#非常に重要な意思決定です。その再配置について、検討していく必要があります。 M&Aにより新たに得た船舶を既存の船舶を含めて、 世界の航路に適切に配船する必要がある。
研究目的 本研究では経営資源である船舶の配船に着目し経営の視点から見たM&Aの狙い、またその再配置の特徴を明らかにする。 ★経営資源の再配置の手段に関する検討 そこで、本研究では経営資源である船舶の配船に着目し、経営の視点から見たM&Aの狙い、また、その再配置の特徴を明らかにします。具体的には、#経済性及びサービスの面から実行が可能な船舶の再配置手段を整理します。そして過去のM&A事例をもとに採用されている再配置手段の特徴をまとめ、M&Aの狙いを明らかにすることを目的とします。 ★M&A事例から見た経営資源の再配置の特徴
定航船社のM&Aとその現状 表の示すように、定航海運業界ではこれまでにも数多くのM&A(買収・合併)を繰り返してきました。
研究対象とする六つのM&A事例 本研究では、先に示した表の事例の中に、大規模なM&Aかつ海運アライアンスの構成にも大きな影響を与えた六つのM&Aを対象としてM&A後の船舶の再配置は、どのような特徴があるかを分析します。のちほどの文章に表示を簡素化するため右の記号で各M&A事例を表します
目次 研究背景 研究目的 定航船社のM&Aとその現状 経営資源の再配置の手段について M&A事例から見た経営資源の再配置の特徴 結論 今後の課題 M&A後の経営資源の再配置の特徴を明らかにするためには、まず、経営資源を再配置するときに実行可能な手段を整理していきます。
経営資源の再配置の手段について 定航海運における基本な関係式 M: 船腹量 W: 積載能力 式1 N: 隻数 f: 寄港頻度 T(P): 1航海時間 α: 積載率 D: 輸送需要 式1 式2 まずコンテナ船を用いて定期運航を行う際の基本的な関係式について説明します。式(1)は#ある航路の船隊が有している一度に積載可能な輸送量を示しています。式(2)は#投入隻数と各港の寄港頻度、ならびに1航海する所要時間の関係を示しています。この式から、一定の隻数でサービスをするときに、航海時間が増えると寄港頻度を下げる必要があることがわかります。式(3)は#船舶の積載率を表し、貨物の輸送需要と船社の輸送能力の関係を示しています。 式3
経営資源の再配置の手段について 経営資源の再配置が経済性とサービスに影響 M: 船腹量 式1 W: 積載能力 N: 隻数 f: 寄港頻度 T(P): 1航海時間 α: 積載率 D: 輸送需要 式1 式2 ある航路で、より多くの貨物を獲得するために、多くの港に寄港しようとすると、その分の入出港時間と荷役時間が増えます。更に多くの港に寄ることは寄り道になって、航海時間が増加します。この結果、貨物の仕出し港から仕向け港までの所要時間が増えて荷主へのサービス低下となります。 しかし船社の費用面から見れば、異なる評価となります。#式(2)から、1航海時間が増加するとき、もし隻数を増やさなければ、もう一つのサービス要素寄港頻度を低下させることになります。しかし、この寄港頻度の低下は、貨物をある一定期間集めてまとめ輸送することになり、 つまり、輸送需要を増加させる。#結果として式(3)から、積載率が向上して経済性の向上に繋がります。このことは船社にとっては歓迎すべきことになります。 一般に、多くの小型船を投入することよりも少ない大型船を投入したほうが、規模の経済性が働いて全体の費用を抑えることができます。このことは先の式(3)を用いた考察からも言えることで、しかし、#このことは船腹量が一定であれば隻数の減少となり、結局、先に述べたように、#式(2)から寄港頻度の低下をまねくことになります。このような寄港頻度の低下は荷主にとっては決して好ましいことではありません 式3
経営資源の再配置の手段について 経営資源の再配置が経済性とサービスに与える影響 以上の基本式より、経済性の向上策とサービスの向上策を纏めました。この表から、経済性の向上策とサービスの向上策がお互いに矛盾することが分かります。単独で実施すると必ず別の指標を阻害しますから、また、定航船社が経営資源を再配置する際に様々な制約条件を考慮しなければなりません、例えば、寄港回数の増減は寄港頻度に影響を与えるため、ウィークリーサービスを原則としている定航海運の運航に合いません。このため隻数の増減と合わせて実施する必要があります。 以上のことを踏まえ、定航船社が経営資源を再配置するときに実行可能な手段について大きく六つに纏めました
経営資源の再配置の手段について 表の示すように大きく六つの手段が考えられ、それぞれ経済性やサービスの向上を狙った船舶の再配置です。ここで、いくつの手段を簡単に説明します。 まず、手段一は船舶の大型化による経済性の向上及び寄港地数の減少による所要時間の短縮を狙った手段です。なお、この手段の採用には積載率の低下をふせぐために輸送需要の増加が必要です。もし、大型化により、積載率が低下したら、手段三を実施して、寄港回数の増加により積載率の向上に寄与することができます。 また、手段四は荷主の在庫削減を考慮した手段です。これは一部の寄港地において、高速かつ多頻度の輸送サービスを提供するもので、このようなリードタイムの短縮は、サプライチェーンにおいて非常に需要で、定航船社が3PL事業者として荷主を獲得するための大切な視点の一つです。なお積載率の関係から、経済性を著しく阻害することなく多頻度の輸送を可能とするために小型の船舶の活用が考えられます。
目次 研究背景 研究目的 定航船社のM&Aとその現状 経営資源の再配置の手段について M&A事例から見た経営資源の再配置の特徴 ・航路別から見た経営資源の再配置の特徴 ・類型毎のM&Aの特徴 結論 今後の課題 次は、先に述べた経営資源を再配置するときに実行可能な基本手段を基いて、#各船社が主要航路における経営資源の再配置の特徴を整理します。そして、クラスター分析を行い、グループごとの再配置の特徴を検討します。
国際輸送ハンドブック 使用のデータは国際ハンドブック1996から2007年まで(97-01、05-07)のデータです。国際ハンドブックには、航路のデータ、及び航路毎の就航船舶についてのデータが記載されています。本研究においては航路区分は、国際ハンドブックのとおりに六つにわかれています。
航路別から見た経営資源の再配置の特徴 データ項目 M&A前後の船舶の配置を比較する指標としては、既存研究を参考にし、経営資源にかかわる指標中で船腹量、平均積載量、そして寄港回数の三つの指標をもちいます。買収は買収側の船社、合併の場合は合併前に両社の平均を基準にM&A前後の値を比較します。最初に北米と欧州航路について見ていきます。
主要航路の再配置の特徴 北米航路 この図は北米航路における、研究対象とする六つのM&AについてM&A前後の船腹量、積載能力、寄港回数の変化を示す図です。横軸は積載能力に対するM&A前後の比で、縦軸は一航海当たりの寄港回数に対するM&A前後の比を示します。そして、図の中に円のサイズは船腹量に対するM&A前後の比を示します。この図から輸送量が増加している北米航路では、船舶の大型化、寄港回数を減少させる手段を採用して、#経済性を高める同時にサービスを重視する定航船社が多いことが分かりました。
主要航路の再配置の特徴 欧州航路 欧州航路では、船舶の大型化をベースに再配置手段の一と二が主として採用されています。六つのM&Aの中に#五つが大型化により経済性の向上を目指しています。また、APLが他のM&Aと違った再配置手段を採用している。船舶の小型化、寄港回数の増加による積載率の向上を図り、経済性を高める手段六を採用しています。
航路別の再配置の特徴 大型化 大型化 新設 新設 大型化 新設 新設 大型化 新設 新設 大型化 大型化 寄港回数減少 それでは全体の航路の特徴の纏めについて説明します。この図は全航路において、平均積載量と寄港回数増減の割合を示しています 北米と欧州航路では、船舶の大型化を主として実施していますが、#80%以上のM&Aが実施している。また北米航路では欧州航路と異なり、#寄港回数の削減を実施している定航船社が多く、80%以上のM&Aが採用しています。輸送量が増加している北米航路と欧州航路においては、各船社が船舶の大型化により、経済性の向上を目指すことが判明されました。 また、南米、アフリカ、中東航路では、新興の市場として各船社がだんだん重視され、M&Aにより、#新しいサービスを開始し、マーケットの拡大により取引量の増大を期待することができます。また、M&A前から該地域に航路を開設している船社は#船型を大型化することが顕著な特徴と言えます。 東南アジア航路では短距離輸送するため、1航路当たりの寄港回数が少ない。#船舶の大型化による密度の経済性の向上を図ります。なお、積載率の関係から寄港回数の削減が見られません。 大型化 寄港回数減少
目次 研究背景 研究目的 定航船社のM&Aとその現状 経営資源の再配置の手段について M&A事例から見た経営資源の再配置の特徴 ・航路別から見た経営資源の再配置の特徴 ・類型毎のM&Aの特徴 結論 今後の課題 以上、個別の航路についての特徴が分かったので、今度は船社が世界全体の航路に対してどのように配船しているのか見ていきます
クラスター分析 使用データの例 分割数設定 ここでまず各M&Aに対して経営資源を表す指標をもとにクラスター分析を行いました。具体的には前に示した航路区分ごとの就航隻数、船腹量、平均積載量などの伸び率です。データをクラスター分析に適用するため、下の表の示すように伸び率を23個の整数で表します。
類型毎のM&Aの特徴 クラスター分析 B類型 C類型 A類型 クラスター分析の結果をもとにM&A事例を三つの類型が わけられます、A類型はAPL、MSで、B類型はCMA、HA、MLで、C類型はPNとなりました
A類型のM&Aの特徴 【A類型】(APLとMS) 既存航路への経営資源の集中と新規航路の進出を図っている。 既存航路への経営資源の集中と新規航路の進出を図っている。 各類型M&Aの航路別の再配置の手段を基いて、各類型M&Aの再配置の特徴を検討します。 A類型(APLとMS) 既存航路への経営資源の集中と新規航路への進出を図っています。具体的には、APL及びMSは北米と東南アジア航路において、M&A後に船腹量シェアを10数%まで拡大しました。これにより、経営資源の集中による航路シェアの拡大を図り、競合他社に勝る輸送サービスの提供を目指しています。 また、APLはアフリカ、中東・西アジアに、MSは中東・西アジアに新しい航路を新設し、事業の拡大を図るとともに輸送ネットワークの拡大によるサービスの向上を図っています。
B類型のM&Aの特徴 【B類型】(CMA、HA、ML) 新しい航路に輸送サービスを展開し、グローバル・輸送サービスを提供することに重点を置いている。 B類型(ML、HA、CMA) 新しい航路に輸送サービスを展開し、グローバル・輸送サービスを提供することに重点を置いています。なお、CMAとHAが東南アジア航路から撤退しているが、実質的には、他の航路で東南アジアに寄港しているため、全世界輸送サービスを提供していることが言えます。具体的には、MLは南米航路において四つの航路を新設し、船舶を29隻に投入しています。HAは一つの航路を新設し、船舶を4隻投入しています。CMAはアフリカ航路に新しい航路を三つ新設し、21隻を投入しています。
C類型のM&Aの特徴 【C類型】(PN) 既存航路における経済性の強化を図り、競合他社との競争に勝ることを目指している。 C類型(PN) 既存航路における経済性の強化を図り、競合他社との競争に勝ることを目指している。 C類型(PN) 既存航路における経済性の強化を図り、競合他社との競争に勝ることを目指しています。PNは輸送サービスを提供している北米、南米、欧州、そしてアフリカの四つの航路において船舶の大型化を図り、経済性の向上による収益の向上を狙っています。
類型毎のM&Aの特徴 A類型 C類型 B類型 この表は各類型の航路別の再配置手段のまとめです。#クラスター分析の結果はB類型とC類型が近いですが、A類型はちょっと離れています。A類型とそれ以外のB、C類型の違いとしては#南米航路において、A類型は配船していないのに対し、B類型とC類型は配船しています。次にB類型とC類型の違いは、#M&A後にB類型がグローバル・輸送サービスを構築したのに対し、C類型は配船地域を拡大しなかった点が異なります。
結論 航路別の再配置特徴 最後に結論に入ります。本研究では経営資源である船舶の配船に着目し、経営の視点から見たM&Aの狙い、またその際配置の特徴を検討しました。このため、定航海運における六つのM&A事例を対象にM&A前後の船腹量などの比較を行い、経済性及びサービス面からの再配置の狙いを分析しました。結果としては、船舶の大型化を基本とした再配置手段が多く採用され#、競争が激しい北米航路では寄港回数の削減による所要時間の短縮といったサービス向上の競争も行われていることがわかりました。また、南米、アフリカ、中東航路では、新興の市場として各船社がだんだん重視され、M&Aにより該当区域で#新しい航路にサービスを展開し、取引量の増大を目指しています。
結論 類型毎の再配置の特徴 【A類型】(APLとMS) 既存航路への経営資源の集中と新規航路の進出を図っている。 既存航路への経営資源の集中と新規航路の進出を図っている。 【B類型】(CMA、HA、ML) 新しい航路に輸送サービスを展開し、グローバル・輸送サービスを提供することに重点を置いている。 【C類型】(PN) 既存航路における経済性の強化を図り、競合他社との競争に勝ることを目指している。 そして、クラスター分析を用いたM&Aの分類から、再配置に関する特徴が明らかとなりました。A類型は既存航路への経営資源の集中と新規航路への進出で、B類型はグローバル・輸送サービスを提供することに重点を置き、そしてC類型は既存航路における経済性の強化を図るといった再配置に関する特徴を持っています。
今後の課題 M&Aによる経営資源の再配置が船社の収益性に与える影響を検証する必要がある。 競争の激しい定航海運において、今後も寡占化が続くと考えられます。本研究では、過去に行った六つのM&A事例に関して、経営資源の再配置の特徴をまとめました。更に深く研究を進める場合、M&Aによる経営資源の再配置が船社の収益性に与える影響を検証する必要があると思います。
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MaerskによるSeaLandの買収 北米、欧州航路の船社グループの船腹量推移 MaerskSealand 買収前は世界第16位だったNOLグループは、運航船隊で世界の5位の海運会社となった APLを買収したNOLはGrandアライアンスをりだつし、商船三井、HMMと提携し、The New Worldアライアンスにくわわることを発表した。 P&OとNedlloydの合併の結果、P&ONedlloydは当時の中国のCOSCOに次ぐ世界第二のライナー会社となった。そして、P&O Nedlloydは6月にはGrandアライアンスに参加した
航路別の再配置の特徴 大型化 大型化 新設 新設 大型化 新設 新設 大型化 新設 新設 大型化 大型化 寄港回数減少 この図は各航路において、平均積載量と寄港回数増減の割合を示しています 北米と欧州航路では、船舶の大型化を主として実施していますが、#80%以上のM&Aが実施している。また北米航路では欧州航路と異なり、#寄港回数の削減を実施している定航船社が多く、80%以上のM&Aが採用しています。輸送量が増加している北米航路と欧州航路においては、各船社が船舶の大型化により、経済性の向上を目指すことが分かった。 また、南米、アフリカ、中東航路では、新興の市場として各船社がだんだん重視され、M&Aにより、#新しいサービスを開始する。マーケットの拡大により取引量の増大を期待することができる。また、#M&A前から該地域に航路を開設している企業は#船型を大型化することが顕著な特徴と言える。 東南アジア航路:短距離輸送するため、1航路当たりの寄港回数が少ない。#船舶の大型化による密度の経済性の向上を図ります。なお、積載率の関係から寄港回数の削減が見られない。 大型化 寄港回数減少