天然物薬品学 微生物が生み出す医薬品2
天然物由来医薬品の売上げ(2012年度,億円) タクロリムス 免疫抑制薬 微生物産物 528 タクロリムス 免疫抑制薬 微生物産物 528 クラリスロマイシン 抗菌薬 微生物産物+化学変換 305 プラバスタチン 高脂血症用薬 微生物産物+微生物変換 260 シクロスポリン 免疫抑制薬 微生物産物 216 タゾバクタム+ピペラシリン 抗菌薬 微生物産物+化学変換 215 ボグリボース 糖尿病治療薬 微生物産物+化学変換 195 ドセタキセル 抗がん剤 植物産物+化学変換 190 パクリタキセル 抗がん剤 植物産物 185 セフカペンピボキシル 抗菌薬 微生物産物+化学変換 180 セフジトレンピボキシル 抗菌薬 微生物産物+化学変換 165 アジスロマイシン 抗菌薬 微生物産物+化学変換 140 ミカファンギン 抗真菌薬 微生物産物+化学変換 129 シンバスタチン 高脂血症用薬 微生物産物+化学変換 95
微生物由来の免疫抑制薬
免疫抑制薬 ・臓器移植・・・拒絶反応 細胞障害性T細胞 → 移植臓器 ・自己免疫疾患 細胞障害性T細胞 → 自己抗原 細胞障害性T細胞 → 移植臓器 ・自己免疫疾患 細胞障害性T細胞 → 自己抗原 ・アレルギー性炎症(アトピー性皮膚炎) ヘルパーT細胞のバランス変化(Th1/Th2)
シクロスポリン Trichoderma inflatum 臓器移植,骨髄移植における 拒絶反応の抑制 ベーチェット病,乾癬(内服,注射) 副作用:強い腎毒性
混合リンパ球反応 (MLR) 微生物培養液 Responderの増殖 [3H]-チミジンの取り込み BALB/cマウスリンパ球 C57BL/6マウスリンパ球 (Responder) BALB/cマウスリンパ球 (Stimulator) + マイトマイシンC Responderの増殖 [3H]-チミジンの取り込み 混合リンパ球反応 (MLR) 微生物培養液
タクロリムス(FK506) Streptomyces tsukubaensis 臓器移植における拒絶反応の抑制(内服,注射) アトピー性皮膚炎(外用)
FK506のin vitro免疫抑制作用 (IC50, nM) MLR ヒト 0.22 14 細胞障害性T細胞生成 マウス 0.2 24 IL-2産生 ヒト 0.1 10 IL-3産生 マウス 0.3 32 骨髄球増殖 マウス 1400 800 FK506のin vivo免疫抑制作用 (ED50, mg/kg) 臓器移植モデル 動物 FK506 シクロスポリン 心臓 ラット(po) 1.0 10 肝臓 犬(po) 1.0 20
シクロスポリン タクロリムス Trichoderma inflatum Streptomyces tsukubaensis シクロスポリン シクロフィリン カルシニューリン NFAT IL-2 タクロリムス FKBP12
臓器移植後の健康状態 腎臓移植者 肝臓移植者 心臓移植者 移植者全体 体調が非常に悪い 1.2% 体調が非常に悪い 0% 体調が悪い 0% どちらともいえない 0% 体調が非常に悪い 1.1% 体調が 非常に悪い 0% 体調が 悪い 8.4% 体調が 悪い 体調が 悪い まったく健康 まったく健康 8.5% 11.8% 14.3% まったく 健康 28.6% まったく 健康 28.6% 13% どちらとも いえない 16.8% どちらとも いえない 17.3% どちらとも いえない 14.3% ほぼ健康 71.4% ほぼ健康 61.3% ほぼ健康 60.5% ほぼ健康 42.9%
GMP ミコフェノール酸モフェチル ミゾリビン ミゾリビン ミコフェノール酸 IMP XMP Penicillium brevi-compactum Eupenicillium brefeldianum ミゾリビン ミコフェノール酸 GMP IMPデヒドロゲナーゼ IMP XMP
mTOR阻害薬 薬剤 + FKBP12 mTOR ラパマイシン エベロリムス (mammalian target of rapamaycin) T細胞増殖抑制 ラパマイシン エベロリムス Streptomyces hygroscopicus 心移植における拒絶反応の抑制(経口) 副作用:口内炎,腎障害
S1PR1アゴニスト ミリオシン フィンゴリモド Mycelia sterilia,Isaria sinclairii (冬虫夏草) 多発性硬化症(経口) スフィンゴシンキナーゼによりリン酸化され,スフィンゴシン 1-リン酸受容体(S1PR1)のアゴニストとして作用することにより,リンパ球の二次リンパ組織(リンパ節など)から末梢血中への移出を抑制する。
免疫賦活薬 クレスチン カワラタケ抽出成分 ピシバニール 溶連菌製剤 レンチナン β-(1→3)-グルカン(シイタケ) クレスチン カワラタケ抽出成分 ピシバニール 溶連菌製剤 レンチナン β-(1→3)-グルカン(シイタケ) シゾフィラン β-(1→3)-グルカン(スエヒロタケ) 丸山ワクチン 結核菌抽出物 ・がん治療を目的に開発 ・高分子で化学的に不均一な製剤 ・作用機構が不明 ・有効性が不明瞭
エキソペプチダーゼ阻害物質 ウベニメクス Streptomyces olivoreticuli 成人非リンパ性白血病の寛解導入後の維持療法(経口) 作用機序:アミノペプチダーゼB阻害 → T細胞,NK細胞,マクロファージ活性化
微生物由来の高脂血症治療薬
主要死因別死亡率(人口10万対)の年次推移 1945~2011年 250 悪性新生物 結核 200 脳血管疾患 心疾患 150 死亡率(人口10万対) 100 肺炎 50 昭和20年 1945 25 1950 30 1955 35 1960 40 1965 45 1970 50 1975 55 1980 60 1985 平成2 1990 7 1995 12 2000 17 2005 23 2010 人口動態統計 厚生労働省大臣官房統計情報部 注: 1995年の心疾患の低下および脳血管疾患の上昇は、ICD-10の適用と死亡診断書の改正による影響が考えられる。
高コレステロール血症治療薬 心疾患(死因2位) 心筋梗塞・・・冠状動脈の動脈硬化による狭窄 脳血管疾患(死因4位) 心筋梗塞・・・冠状動脈の動脈硬化による狭窄 脳血管疾患(死因4位) 脳梗塞・・・脳血管の動脈硬化から生じる脳血栓 血中コレステロール(LDLコレステロール)高 血管内壁に変性コレステロール沈着 動脈硬化 血中コレステロールの2/3は肝臓で合成される
コレステロール生合成系 14C-酢酸 ラット肝酵素系 アセチルCoA×3 イソペンテニル二リン酸 メバロン酸 HMG-CoA ステロイドホルモン コレステロール
HMG-CoAレダクターゼ阻害薬ML-236Bの発見 (コンパクチン) Penicillium citrinum HMG-CoA レダクターゼ メバロン酸 HMG-CoA コレステロール
スタチン類のコレステロール生合成抑制作用 IC50 (ng/ml) ML-236B プラバスタチン ロバスタチン シンバスタチン ラット肝臓無細胞システム 1.7 0.8 0.5 0.5 ラット肝細胞 7.0 2.2 1.9 1.4 ラット脾臓細胞 1.3 70 1.4 2.2 マウスL細胞 2.7 600 0.8 1.6 ヒト皮膚線維芽細胞 1.6 200 1.6 1.2 ML-236B R1 = H R2 = H ロバスタチン R1 = CH3 R2 = H シンバスタチン R1 = CH3 R2 = CH3 プラバスタチン
微生物変換によるプラバスタチンの製造 Streptomyces carbophilus ML-236B ナトリウム プラバスタチン
プラバスタチンのコレステロール低下作用 肝臓 HMG-CoAレダクターゼ活性 HMG-CoAレダクターゼ産生 コレステロール LDL受容体 血中コレステロール
プラバスタチン(260億円/年) シンバスタチン(95億円/年) フルバスタチン(75億円/年) アトルバスタチン(610億円/年) ピタバスタチン(450億円/年) ロスバスタチン(755億円/年)
糖尿病治療薬 (食後過血糖改善薬) インスリン分泌量 ↓ インスリン標的組織の感受性 ↓ α−グルコシダーゼ 阻害薬 血糖値↑ 網膜症,腎症,神経障害
α−グルコシダーゼ阻害薬 アカルボース Actinoplanes sp. アミラーゼ阻害による副作用 マルトース バリダマイシン グルコース Streptomyces hygroscopicus 農薬用抗生物質 グルコース α−グルコシダーゼ阻害 による食後過血糖抑制
α−グルコシダーゼ阻害薬 バリダマイシン Streptomyces hygroscopicus ボグリボース アミラーゼ阻害作用がない バリエナミン バリダマイシン Streptomyces hygroscopicus バリダミン バリオールアミン ボグリボース
α−グルコシダーゼ阻害薬 ノジリマイシン デオキシノジリマイシン ミグリトール α−グルコシダーゼ阻害活性 小腸上部で吸収 Streptomyces roseochromogenes Streptomyces lavendulae NaBH4 ノジリマイシン デオキシノジリマイシン ミグリトール α−グルコシダーゼ阻害活性 小腸上部で吸収 アミラーゼ阻害作用がない
リパーゼ阻害薬 脂質の分解吸収↓ リプスタチン Streptomyces toxytricini 抗肥満薬 オーリスタット
合成医薬 vs 微生物由来医薬 合成 微生物 構造の新しさ 既知構造の組合せ ユニークなことがある 構造の複雑さ 単純 複雑なものが多い 合成 微生物 構造の新しさ 既知構造の組合せ ユニークなことがある 構造の複雑さ 単純 複雑なものが多い 構造展開 容易 複雑ゆえに困難 生産性 高 低(初期) 製造法 個別の合成法 同様の発酵法 製造コスト 高 低 探索効率 6千 ~ 1万/日 数百 ~ 千/日 不得意分野 なし 抗生物質,抗がん剤以外