社会科学的側面からの原子力研究 関連させながら,検討していく リスク論, 社会意識, 倫理, 社会問題 社会的意思決定

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原子科学と倫理 原子力世論  篠田 佳彦 shinoda.yoshihiko@plum.plala.or.jp

社会科学的側面からの原子力研究 関連させながら,検討していく リスク論, 社会意識, 倫理, 社会問題 社会的意思決定 リスク論,                    社会意識, 倫理,                社会問題 社会的意思決定 科学技術をめぐる合意形成 関連させながら,検討していく まずは,市民が原子力をどう捉えているか? から

継続的世論調査の例:原子力推進賛否に関する質問 TMI チェルノ ブイリ 美浜 ギロチン もんじゅ JCO 朝日新聞調査 調査対象—全国 60 賛成 40 回答割合 % 反対 20 無回答 定点観測:同一の質問による調査 1975年1月 1980年1月 1985年1月 1990年1月 1995年1月 2000年1月 2005年1月 2009年1月 標本誤差(95%信頼区間)は、朝日新聞の定期世論調査の回収率をもとに算出

『原子力と社会』意識調査 調査対象 首都圏40km範囲に居住する 20歳~70歳未満男女 標本数 2500人   標本数 2500人   有効回収数(率) 551人(22.0%)   抽出方法 住宅地図からの無作為抽出   調査時期  2006年11月7日~2006年12月1日   調査方法 郵送法 原子力に対する賛否態度は、原子力に対する直接的な賛否態度のみではなく、それを包む、あるいはそれを支える多くのものに対する態度と関連しているという立場から、問題を総合的に解明する必要がある。 3228 林 原子力に関すること 賛否(二択、五択)、関心・信頼、恩恵・犠牲  11問 社会意識に関すること 生活を営む意識、価値観、科学技術と生活 集団の決定への対応、国・地域での政策参画意欲 17問

原子力利用に対する賛否(五択式選択肢) 本調査(首都圏40km) 内閣府調査(全国) 内閣府調査(エネルギーに関する世論調査 (2006年12月) その他 1% 無回答 その他 8% 積極的に進める 2% 積極的に推進していく 全面的に廃止する 6% 早急に廃止する 8% 3% 2% 少しずつ廃止する 将来的には廃止する 22% 15% 慎重に進める 慎重に推進していく 現状を維持する 現状を維持する 53% 47% 13% 20% 本調査(首都圏40km) 内閣府調査(全国) 賛成層は,何%か? =6+53+13=72% で良いか!

「現状を維持する」層まで含めれば、70%以上が容認 それが、社会の真意か? これをこのまま受け取れば、 積極的賛成+消極的賛成≒50~60% 「現状を維持する」層まで含めれば、70%以上が容認 それが、社会の真意か? これをこのまま受け取れば、 原子力が社会を騒がせる」ことなど起こらないはず! もう少し、賛否態度について分析する必要がある 配布資料では,目隠ししています。 朝日新聞 2008年3月21日

原子力利用に対する賛否(五択式選択肢) この賛否回答割合は, 単純ではなく 意識の深層には, 思わぬものが潜んでいる 積極的に進める 積極的に進める 全面的に廃止する 全面的に廃止する 6% 6% 3% 3% 少しずつ廃止する 少しずつ廃止する 慎重に進める 22% 22% 慎重に進める 賛成的33.8% 現状を維持する 現状を維持する 53% 13% 13% 3%-賛成的 10%-反対的 慎重に進める 反対的18% ● 半数程度が“慎重に進める=弱い賛成”を示すが!! ● 弱い賛成層、現状維持層は賛否をまたぐ範囲に分布分析より

原子力利用に対する賛否と強い関連がある質問 Q2 原子力利用に対する賛否(五択) Q4 原子力必要性(今・将来)::六択 551人の回答者、 38選択肢 を並び替え  各質問の各選択肢 と回答者に評点を算出する Q5 本来的危険性と不安::四択 Q6 原子力への信頼::四択 原子力利用の是非を五択で尋ねた回答傾向と強く関連する質問をクロス集計などから見出すことができます。 今回の調査では、原子力関係では、必要性、危険性認識、信頼、社会意識では、将来社会展望、科学技術リスク対応、社会信頼、および、伝統志向の尺度にもなる理想とする夫婦関係を尋ねた6個の質問に強い関連が見いだされました。 この7つの質問の38個の選択肢によって、先に紹介した手法によって分析をしました。 Q16 将来社会(成長と犠牲)::五択 Q20 科学技術リスク対応::六択 Q22 社会への信頼::四択 Q27 理想の夫婦関係(伝統志向)::四択

複数の質問から求めた総合的態度(原子力利用に向き合う姿勢) 総合的賛否態度=賛否と関連のある質問を組み合わせて点数化             (好意/非好意度合いを示す指標) 度数 弱い賛成-非好意的 弱い反対 少しずつ廃止 弱い賛成-好意的 賛成 反対 総合的賛否態度 好意的ーー中間態度ーー非好意的

原子力利用をめぐる意識の特徴(1) ● 半数程度が“消極的賛成”を示す ● 安全/危険意識、有用/無用認識、信頼感などとの   質問を組み合わせて分析すると!   原子力利用に対する総合的な賛否態度が算出できる ●消極的賛成層、現状維持層には、好意・非好意意識が混在 ● 消極的賛成層、現状維持層は賛否感情をまたぐ

調査から見える賛否態度層の意識の背景 賛否を決定する因子 種々の他調査もほぼ同一 ● 有用-無用、 ● 安心-不安、 ● 信頼-不信 賛否を決定する因子 種々の他調査もほぼ同一 ● 有用-無用、 ● 安心-不安、 ● 信頼-不信 が賛否に非対称な影響を及ぼす (有用・安心)(有用・不安)(無用・不安) 信頼  不信 賛成 賛成でも 反対 反対でもない 非賛成・非反対 弱い賛成を示す層を意識の背景で分けたとき、その他の質問での回答傾向を表に示します。 意識の背景では反対的であるものの弱い賛成を示す選択肢を選ぶ層は、賛成し、同時に沈黙し、しかたがない意識を有するようです。

総合的賛否態度 原子力に対する信頼を判断する観点 中間 賛成 反対 「信頼するしかない」を選択した層 ③~⑥ 不信の根拠 信頼と回答した層は,信頼できると判断した観点 不信と回答した層は,信頼できないと判断した観点 ③~⑥ 不信の根拠 ①技術的な観点 44.3% ②これまでの実績 49.7% ③原子力に関係している組織が取り組む姿勢 39.2% ④原子力に関係している人、個々人が取り組む姿勢 24.0% ⑤国が原子力行政に取り組む姿勢 32.8% ⑥国の規制や安全確保に対する取り組み 43.9% ⑦その道の専門家の意見 5.4% ⑧身近で信頼している人の意見 2.0% ⑨マスコミの報道 9.3% ⑩社会の雰囲気 4.7% ⑪信頼するしかない 22.7% 中間 賛成 反対 総合的賛否態度

賛否に対する自由記述と内容分類の分析 弱い賛成ー好意的層  『安全面条件付き推進』,『原子力は役だっている』 弱い賛成ー非好意的層 意見を記述した層の割合 57.7%  そのうちの18.9%(全体で10.1%)が「しかたがない」意識を明記した (弱い態度層は、意見記述割合が強い態度層より有意に低い)ただし,解析の途中結果 弱い賛成ー好意的層  『安全面条件付き推進』,『原子力は役だっている』 弱い賛成ー非好意的層 『しかたがないもの』 不安もあるが,有用なので 弱い反対 『不安・懸念がある』, 『省エネ,代替エネルギーに期待』

原子力利用をめぐる意識の特徴 (2) 「しかたがない」とする意識 でまとめてみると ・弱い賛成-非好意的層 ・弱い反対層 「しかたがない」とする意識 でまとめてみると ・弱い賛成-非好意的層  現状の社会生活を維持するためには、 原子力利用はやむを得ない選択 かなり現実的  =「しかたがない」を肯定し、そこで判断を停止、 「しかたがないものだ。」 ・弱い反対層  現状を見渡せば、原子力利用はやむを得ない選択だが、 無くす(依存度を低める)方向の努力が必要  やや楽観的  =「しかたがない」の先を考える姿勢を有している、 「しかたないが、・・・。」

原子力利用をめぐる意識の特徴 (3) ● 生活を営む意識、価値観との関連(伝統・権威・追従・・・) ● 現時点での必要性は89%が認識   将来における必要性    ・必要 53.6%    ・不要 8.7%    ・状況による 29.8% ● 将来社会に望むイメージ、科学技術への期待が大きく影響

賛否動向と決定因子 今後の社会のあり方に対する意識が賛否に影響 賛成態度が強まるほど、 反対態度が強まるほど 賛成態度が強まるほど、             反対態度が強まるほど ● 経済面での成長的発展を望み、      成長的発展だけを望まず、 ● 成長的発展を志向している組織などと   意識や利害が共通し、            意識や利害が共通せず、 信頼しあう                    理念的対立を生じる ● 経済成長的社会発展への 科学技術の貢献を期待し、 科学技術の負の面(副作用)を意識し ● そこで生じる犠牲を   止むを得ないものと見ている。 犠牲を認めていない 有用-無用、 安心-不安、 信頼-不信 の背景 今後の社会のあり方に対する意識が賛否に影響

「これからどうするか」を判断していく過程を重視 原子力利用に係わる事項は   ・高度に科学的・専門的事項である  と同時に   ・市民の日常生活を左右する事項     となるので、 原子力利用の是非をめぐる論争は, 将来社会の望むべき方向性の議論から始める必要があり, 市民が参画した上で方向性を見出していかねばならない が, 科学技術(=推進側)が方向性を定め,市民はそれを“受け入れる” 原子力は,専門家が意思決定し,社会のために推進するものであった  「これからどうするか」を決めていたのは,専門家=推進者! 「これからどうするか」を判断していく過程を重視 原子力の是非を“正しく”判断するシステムを我々は有していない “正しく” 価値観が入り込む,客観的ではない