日本では牛において BSE 感染が広がらない理由 鹿児島大学農学部 獣医公衆衛生学研究室 岡本嘉六

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日本では牛において BSE 感染が広がらない理由 鹿児島大学農学部 獣医公衆衛生学研究室 岡本嘉六 鹿児島大学農学部 獣医公衆衛生学研究室 岡本嘉六 ★ 過去において汚染飼料を食べた疑いのある、老廃牛の全国一斉処分を急げ ★ 牛海綿状脳症(BSE: Bovine Spongiform Encephalopathies、狂牛病) 85年 4月 初の発生 86年11月 最初の診断 37,280 89年11月 6カ月齢以上の特定牛臓器(SBO)の食用禁止 88年 7月 反すう動物由来肉骨粉の反すう動物への給与禁止 96年3月20日  新型ヤコブ病(CJD)患者10名とBSE感染牛との関連声明。 潜伏期:約5年 潜伏期:約10年 2469 1,443 442

最新の検査方法の開発に何故長期間を要したか 日本で英国の状態が再現しない根拠 37,280 最新の検査方法の開発に何故長期間を要したか 確定頭数:36,680 検査頭数:44,844 除く北アイルランド 1,311 1,870 1,443 442 牛の脳幹部位の病理組織学的検査 ELISA法 ウエスタンブロット法 免疫組織化学検査 時間がかかるので検査数が限られることや大部分の牛が発症する前に屠殺されていたので,多くのBSE感染牛の存在が見逃されていた。

生体には正常プリオンが分布しているので、プリオンに対する抗体産生が全くない → 通常の感染症に用いられる、抗体検査による診断ができない 1997年 人工的に、プリオンに対する抗体の作成に成功 攻撃的な行動、後肢に触れると蹴る。歩行障害(揺れ、後肢の引きずり、震え、転倒)、起立不能 牛海綿状脳症の臨床症状 初期 精神状態・行動の異常、不安動作、痙攣、音に対する過敏反応、持続的な鼻なめ、地面を蹴るなど 中期 後期 感覚(音、接触、光、熱)の過敏反応、運動失調(後肢を開く) 通常の感染症に必発の発熱もなく、身体上の異常も見られないので、神経症状が出てくるまでは診断が難しい.

病理専門家以外は類症鑑別できない 臨床的にBSEが疑われ、組織学的にはBSEでなかった牛の病理所見(英国) 千葉県のBSE症例の延髄組織所見 白質における巣状海綿状態、脳幹部に限局した脳炎(リステリア症)、非化膿性脳炎/髄膜炎、腫瘍、肉芽腫性脊髄炎/脳炎/髄膜炎、大脳皮質壊死症/水腫、ミエロパシー(脊髄症)、など 2歳以下の育成牛に発生が多いが,2歳以上の乳牛(搾乳牛)にも散発することが知られ,国内では6歳の搾乳牛にも発生。   CCNの臨床所見:食欲不振、歩様異常、起立不能、後弓反張。CCNでは,紫外線照射下で脳の表面や割面に自家蛍光が肉眼で認められ,瞬時に判定可能である。自家蛍光はCCNで高率に認められるが、スクレピーなどでは見られずスクリーニングに適している。 千葉県のBSE症例の延髄組織所見 (延髄神経網の小空胞) チアミン(ビタミンB1)欠乏による 大脳皮質壊死症(CCN) 病理専門家以外は類症鑑別できない

免疫組織化学染色陽性:延髄における異常プリオン蛋白質の沈着(褐色に染色) 千葉県のBSE症例の 延髄組織所見 免疫組織化学染色陽性:延髄における異常プリオン蛋白質の沈着(褐色に染色) 延髄かんぬき部 免疫組織化学染色法は、異常プリオンに対する抗体が作成された90年代に実用化された。 ELISA法、ウエスタンブロット法、 免疫組織化学染色法により、迅速、確実、多検体処理が可能となり、これらの検査術式は、国際的に統一されている。

日本で英国の状態が再現しない根拠 37,280 検査法の改良と検査体制の確立 能動的監視システム アクティブ・サーベーランス 受動的監視システム 臨床症状を呈した病変形成例のみ摘発可能 ・無症状でも異常プリオンがあれば摘発可能 ・多検体処理が可能 確定頭数:36,680 検査頭数:44,844 除く北アイルランド 1,311 1,870 1,443 442 牛の脳幹部位の病理組織学的検査 時間がかかるので検査数が限られることや大部分の牛が発症する前に屠殺されていたので,多くのBSE感染牛の存在が見逃されていた。 ELISA法 ウエスタンブロット法 免疫組織化学検査

感染症の防圧には、初期対応が最重要 欧州とは異なり、日本では初期段階で免疫学的診断方法が可能であり、迅速な対応がとられた。   89  90  91  92  93  94  95  96  97  98  99  00  01 フランス 0   0   5   0   1   4   3 12   6  18  31 161  202 ドイツ     0   0   0 1** 0   3** 0   0   2**  0   0   7  118 ポルトガル  0   1** 1** 1**  3** 12  14  29  30  106 170 163  75 スイス   0   2   8   15   29  64  68  45  38   14  50  33   30 牛の脳幹部位の病理組織学的検査 **:輸入症例

1988年7月: BSEが確認された群の英国牛のオランダへの輸出禁止(二国間条約) 187億円 英国からEUへの生体牛の輸出 150億円 120億円 75億円 37億円 英国からの牛の輸出に関する総禁止令は、 EUにおいて1996年3月まで課されなかった. 1988年7月:  BSEが確認された群の英国牛のオランダへの輸出禁止(二国間条約) 1989年7月: 同牛の英国からEUへの輸出を禁止(Decision 89/469/EEC) 1990年2月: BSEの疑いのある母牛から生まれた全ての牛、および6カ月以上の牛について英国からEUへの輸出禁止(Decision 90/59/EEC)

1.肉骨粉のみならず生体牛もが英国から欧州に輸出されていた。 英国の肉骨粉の輸出データ  単位(トン) 出典 :英国税関 データ 国名 フランス ドイツ 日本 韓国 台湾 1988 7,222 559 1989 15,674 578 200 1990 1,148 14 132 1 1,143 1991 20 5 62 220 2,023 1992 94 5 43 1,010 280 1993 5 31 103 87 1994 156 64 1995 802 23 20 42 1996 455 1 823 欧州にBSEを広げた原因 日本の輸入肉骨粉は? 1.肉骨粉のみならず生体牛もが英国から欧州に輸出されていた。 2.検査方法が病理組織学的方法しかなかった。

英国からの肉骨粉の輸入に関する調査について 10 月22 日 生産局畜産部  EU の統計によれば、1990年から1996年までの間に計 333トンの肉骨粉が英国から我が国に輸出されたとされている件について、農林水産省職員を9月26日~30 日まで英国環境・食料・農村地域省獣医国際貿易担当他に派遣し詳細な調査を行った結果、下記のとおり確認された。 記  当初英国から日本に輸入されたとされる肉骨粉 333トンについては、実際に日本に輸出した可能性のある数量は、計166 トンであることが判明した。なお、数量が変更された要因は、製品コードの記入ミス、入力ミス等であるとしている。 英国側当初の数量 132 トン 62 トン 43 トン 31 トン 64 トン - 1 トン 333 トン 現地精査後の数量 132 トン - 14 トン 20 トン 166 トン 備考 1990年 1991年 1992年 1993年 1994年 1995年 1996年 合計 フェザーミール(羽毛粉) ほ乳類以外のもの、例えば家きんのミールの可能性がかなり高い

Transmission of BSE ( BSEの伝達) DEFRA BSE information: Last updated: 30 Apr 2001 Infectivity in tissues(各組織の感染性) The aim of the tissue assays was to identify which, if any, of the tissues that might be consumed by humans contained detectable quantities of infectivity. This would of course be of significance in determining the pathogenesis of BSE too. A large number of tissues were inoculated into mice, usually by a combination of intracerebral and intraperitoneal routes 各組織を検査する目的は、ヒトが食べた際に感染する量を含んでいるか否かを確認するためである。このことは、 BSE の発病機序を解明する上でも意義がある。 The initial assays identified infectivity only in brain, spinal cord and retina of the clinically affected cattle. We are aware of no experiments which have detected BSE infectivity in blood using the mouse bioassay. Transmission studies based on intracerebral injection into mice of blood from clinical BSE cases have shown no detectable infectivity. 最初の検査では、発症している牛の脳、脊髄および網膜のみに感染性が確認された。マウス試験法を用いて血液の感染性を調べる実験には気が回らなかった。その後、発症牛の血液をマウスの脳内に接種する伝達試験を実施したが、感染性は認められなかった。

(マウスの脳内接種によって感染性がなかった発症牛の組織) Tissues from clinically affected cattle with no detectable infectivity by parenteral inoculation of mice (マウスの脳内接種によって感染性がなかった発症牛の組織) 脳脊髄液、心臓、肺、気管、膵臓、脾臓、腎臓、扁桃腺、皮膚、脂肪 血液:バフィーコート(白血球と血小板)、凝固血、胎児血液、血清 消化管:食道、第一胃、第三胃、第四胃(食道溝、筋柱)、小腸(遠位、近位)、直腸、結腸(遠位、近位) リンパ節:腸管膜リンパ節、大腿、咽頭リンパ節 筋肉:半腱様筋(モモ肉の一部)、横隔膜、最長筋(ロース)、咬筋(頬肉) 神経:馬尾(下半身の脊髄神経根繊維)、末梢神経(座骨神経、内臓神経、頸骨神経) 生殖器  雄:精巣上体、前立腺、精液、貯精嚢、精巣    雌:乳、 卵巣、 胎盤分葉、 胎水(羊水、尿膜腔液)、乳腺、子宮小丘 遠位 子牛の脳内接種によって 感染性が確認された BSE に罹った牛の48部位は、マウスの脳内接種によって感染性がなかった。マウスが発症したのは脳、脊髄および網膜のみであった。

特定危険部位 筋肉、心臓、血液、脂肪など日本人が普段食べる部位 回腸末端部 < 脳、脊髄、眼 回腸末端部 < 脳、脊髄、眼 納先生が紹介したアイゲン博士とノバック博士によれば、異常プリオンでは10万個 化学物質や微生物などの危害に関する用量反応曲線

牛海綿状脳症検査実施要領 設置者、管理者、と畜業者、従事者等への指導事項 平成13年10月16日 厚生労働省食品保健部長 (1)危険部位は、牛の頭部(舌及び頬肉を除く。)、脊髄及び回腸(盲腸との接続部分から2メートルまでの部分に限る)については、処理の過程で除去し、と畜検査員の確認を受け、焼却すること。 (2)BSE検査中のと体等を保管する際に保留用冷却設備が狭隘な場合は、他のと体等を汚染しないよう、保管用冷蔵庫を仕切るなど現在の施設を有効に活用して対応すること。 (3) と畜場の使用を制限する必要が生じた場合には、法第7条に規定する「正当な理由」に該当するものと解される。  また、必要に応じて、処理頭数の見直しを行うこと。 (4) BSE陽性牛が発見された場合は、利用可能な焼却設備を指定しておくこと。 設置者、管理者、と畜業者、従事者等への指導事項  BSEにり患牛が発見された場合の病原体の不活化法に基づき、消毒措置等を確実に行うこと。 (1)800℃以上の完全な焼却(と体、ゴム手袋、防護衣服等) (2)132~134℃、1時間の高圧蒸気滅菌(器具等) (3)水酸化ナトリウム(1モル濃度以上)、20℃、1時間の処理(施設、汚物等) (4)次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度が最低2%溶液)で1時間による処理(施設、汚物等) 廃棄を命じたもの等の消毒方法

研究用として許可された部分以外は全て消却 農場での監視体制 食肉センターでの監視体制 健康な牛 と畜検査員(獣医師)による 生体検査:症状のチェック 解体後検査:肉眼所見 精密検査:組織所見 BSE が疑われる牛 その他の病気の牛 ELISA法によるスクリーニング 家畜衛生保健所(獣医師) 殺処分・検査・消却 陽 性 陰性 健康な牛の特定危険部位を除いた牛肉のみが流通 危険4部位が除去されたことを確認・記録した上で、食用許可(検印) 帯広獣医畜産大学 ・国立感染症研究所 ウエスタンブロット法 免疫組織化学検査 + +  ー  + ー  +   ー 牛海綿状脳症の検査に係る専門家会議 + - 確定診断 研究用として許可された部分以外は全て消却

日本では牛において BSE 感染が広がらない理由 1.検査法の改良と検査体制の確立 受動的監視システム 能動的監視システム アクティブ・サーベーランス 牛の脳幹部位の病理組織学的検査 ELISA法 ウエスタンブロット法 免疫組織化学検査 2.感染症の防圧には、初期対応が最重要 欧州の流行は最新の検査法が確立する前であり、日本では、1頭が発生した時点で最新の検査法による監視体制が採られた。 3.英国からの輸入量は、欧州と比べて僅少 欧州では英国から大量の肉骨粉のみならず生牛も輸入されていた。日本では、肉骨粉の輸入量の少なく、生きた牛は輸入されていない。

牛肉から新型ヤコブ病( vCJD )に感染しない理由 1.牛肉には異常プリオンが分布していない 特定危険部位以外は、食べても感染性がない。 2.食文化の違い 日本では特定危険部位(脳、脊髄、眼)を食べる食習慣がない。 3.牛の全頭検査が実施されている 健康な牛の特定危険部位を除いた牛肉のみが流通許可されている。

牛エキスなどの加工食品も安全 加工食品については、既に全国調査が終了しており、特定危険部位の混入の疑いのある一部の商品については、回収措置も終わっています。すなわち、現在店頭に並んでいる商品は、全て、特定危険部位の混入がないものだけです。 数万点に及ぶ商品を、食品工場に出向いてチェックしたのは、各県にいる食品衛生監視員です。監視員は、獣医師、薬剤師、ならびに、農水学部卒業者で公衆衛生学や食品衛生学などの所定の科目を修得した者であり、国家資格に基づいて厳格な調査がなされています。

プリオンの不活化措置が採られておれば、危害(感染性)はない。

加工食品の原材料の記録を残すことがHACCPの原則であるが、未実施の事業体もある。今後は、原材料提供者も記録を残す必要がある 回腸遠位端 加工食品の原材料の記録を残すことがHACCPの原則であるが、未実施の事業体もある。今後は、原材料提供者も記録を残す必要がある

「製造・加工者毎、加工食品毎の報告内容」のまとめ 危険部位の混入あり 原材料記録なし 品目数 不活化措置 不活化措置 あり なし あり なし 食肉・食肉製品 健康食品 缶詰・レトルト食品 冷凍食品 そうざい類 牛エキス・調味料 菓子類 乳製品 その他 計 7,447 2,765 3,012 6,443 12,191 14,757 10,956 1, 677 16,384 75,632 2 0 1 6 11 0 1 6 2 10 21 37 19 14 66 47 27 12 1 31 264 1 0 危険部位の混入の疑いのあるもので、不活化措置が採られていないものは、 全て回収が終わっており、現在店頭にある商品の安全性は確保されている。

狂牛病(牛海綿状脳症、BSE): どの程度危険か? 岡本嘉六のホームページ 2001年9月19日 プリオンとは?   狂牛病の原因は異常プリオンとされていますが、通常の病原体とは異なり、遺伝情報(核酸:DNA、RNA)を持たないタンパク質です。このことは、以下のことを意味します。 1.自己増殖しない:  遺伝情報を持たないので、プリオンは細菌などのように、食品や消化管の中で増殖することはありません。異常プリオンが増えるのは脳に達してからであり、誰もが持っている正常プリオンが異常プリオンを鋳型として変形させることによると考えられています。 2.プリオンは、腸から吸収されない(除く乳児):  タンパク質はアミノ酸に分解されてから吸収されるので、タンパク質であるプリオンは、一般健康人においては腸から吸収されて血液に入ることはありません。すなわち、汚染食品を食べた場合でも、脳に達することはなく、発病の危険はありません。ただし、乳児では母親からの移行抗体(免疫グロブリンもタンパク質)を受け継ぐために、タンパク質を腸から吸収する特別の仕組みがありますので、異常プリオンも血中に浸入する危険性があります。乳児の主食である粉乳および牛乳は牛に由来しますが、異常プリオンは脳脊髄にあり、乳汁中には出てこないので、粉乳が感染源となることはありません。

敵を知り、己を知れば百戦あやうからず。彼を知らず、己を知らざれば、戦うごとに必ずあやうし(孫子)。 3.英国での牛の流行は、肉骨粉の入った代用乳を子牛に与えたことによる:  イギリスと兄弟国であるアメリカでは狂牛病の発生がありません。その理由の一つとして、離乳期に子牛に与える代用乳(本物は人間の口に入るのですよ、可哀想な子牛!)のタンパク質を補充するため、イギリスでは肉骨粉を使用していたが、アメリカでは植物蛋白のみを使っていたことが挙げられています。ヒトと同様、牛でも乳児期にはタンパク質がそのまま吸収されるので、汚染された肉骨粉の異常プリオンがその際血中に浸入したと考えられます。牛でも健康な成牛で異常プリオンがそのまま吸収されることは考えられません。 4.プリオンは動かない:  タンパク質からなる異常プリオンは、細菌のような運動器官(鞭毛)を持っていないので、動きません。「成人でも腸の微少な傷から血中に浸入する可能性がある」とはいえ、異常プリオンが細菌のようにそこへ移動することはあり得ないので、微少な傷口に遭遇する機会はきわめて希でしょう。 敵を知り、己を知れば百戦あやうからず。彼を知らず、己を知らざれば、戦うごとに必ずあやうし(孫子)。 生物の進化は現在も続いており、 1970年以降も、エボラ出血熱などの感染力と致命率の高い「新興感染症」が10数種類登場しています。BSE の危険性は当初考えたほどではないことが解ってきました。

行政・研究機関・生産団体・消費者団体・報道 大学・試験場 等の専門家 実務機関 生産団体 流通団体 食材バッシング: 暴露査定ができていれば、マスコミの煽り行為は防げる 行政・研究機関・生産団体・消費者団体・報道 「100%安全」など地上に存在しない! 危険性解析は、品質・安全性保証システム( HACCP や ISO )の基本的方法論であり、査定、管理、情報交換の三つの独立かつ統合した要素からなる( FAO ) 。