日本国際経済学会関東部会報告 2007年1月13日(土)

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マクロ金融論 ポートフォリオ・アプローチ. マクロ金融論 ポートフォリオ・アプローチの 特徴 内外資産が不完全代替( ← 為替リス ク) 分散投資(ポートフォリオ)によって リスクを軽減可能。 経常収支黒字累積 → 外国資産流入 → 国 際ポートフォリオ → 為替相場.
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2004/11/18hiroyuki moriya1 早稲田大学教育学部社会科学専修 現代社会研究4 ( マネー) 伝統的資産運用とオルタナティブ投 資 森谷博之 住商キャピタルマネジメント チーフストラテジスト オックスフォードファイナンシャルエデュケーション.
『マクロ金融特論』 ( 2 ) 一橋大学大学院商学研究科 小川英治 マクロ金融特論
1 (第 14 週) 第5章 間接金融の仕組 み § 1 銀行の金融仲介機能 ( p.91 ~ 98 ) ① 仲介機能 ② 情報生産機能 ③ 資産転換(変換)機能 ④ 銀行貸付けにおける担保の役割 § 2 貸付債権の証券化とサブプライム問題 ( p.99 ~ 104 ) § 3 銀行以外の金融仲介機関.
金利、金融政策及び資金循環 金利の概念 金利体系 日本銀行の政策手段 資金循環. 金利の概念 金利とは:資金の貸借取引における資 金の価格である。 金利の機能:資金の配分や景気の調整。
1 国際金融市場 伝統的金融市場 オフショア市場 ユーロ市場 デリバティブ市場. 2 国際金融市場の意義 資金過剰部門から資金不足部門への, 国際的な資金の調達や運用が行われる 場 個別経済次元 ①再生産に関わる資本 の節約や有給貨幣資本の動員 ②ヘッ ジ,投機,裁定のための取引 ③手数 料稼ぎ 国民経済次元.
08BC172K 村杉 なつみ. 銀行への公的資本注入額 預金保険機構が主たる担い手と なって公的資金が注入された。 公的資金の使用途 ①破綻した金融機関 18兆6162億円 ②金融機関からの資産の 買取 9兆6483億円 ③破綻前金融機関への 資本注入 12兆3869億円 ④その他 6兆1539億円.
第5章 活性化する国際分散投資 と 日本経済の影響. ネットとグロスの違い 資本移動の場合 日本 外国 100 億円 50 億円 ネットの資本移動 100-50=50億 円の黒字 グロスの資本移動 100+50= 150 億 円.
債 券&投資信託 債券とは 投資信託と は 債券とは 投資信託と は 債券の発行・流通 会社型と契約 型 格付け メリット とデメリット 債券価格と金利 パフォーマンス 主な債券投資( CB ・外債)
証券会社 08年度決算とビジネスモデル                08BA231C 松江沙織.
証券化とデリバティブ 会計ファイナンス学科 08BC41B 尾崎 敦史.
アジア共通通貨導入の是非 否定派 蔵内 小柴 鶴間.
①共通通貨とは ②ユーロ実現まで ③アジア通貨危機 ④ ASEAN+3の現状と展望
松山大学公開講座「一般教養」 『日本経済のゆくえ』 2004年5月26日 掛下 達郎
1. Departamento de Consultoria e Assessoria
金融危機後の規制について ~時価会計、ディスクロージャー~
社会人基礎 II 第6回授業.
市場経済 金融市場メリット 需要と供給 2つの金融 経済循環 証券取引所・証券会社 資本主義経済 銀行
(第7週)第2章(3) 前回のおさらいとキーワード: ■ システミック・リスク ■ セーフティー・ネット ・ 競争制限的規制
証券会社のアジア展開 09BD135D 柿沼健太郎.
ノルウェー輸出金融公社(エクスポートファイナンス)最新情報
藤女子大学人間生活学部 内田博 現代資本主義分析
通貨統合 第5回 国際金融論.
金融市場ミクロ班.
3 外国為替市場と  外国為替相場 1 外国為替相場 2 為替取引と為替相場 3 為替相場の決定理論.
アジア開発銀行(ADB)の 融資による途上国の経済成長への影響
多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野
「日本の証券・銀行における 金融リスクマネジメントの今後について」
『手に取るように金融がわかる本』 p.202~p.223 part1~5
第70回 しがくセミナー ~日本のグランドデザイン~
消費者金融は日本で成立するか? ――肯定派――
2010年6月25日 09BA390L 山村美帆 金融の規制強化・制度改革 ~アメリカ~.
日本における ベイルイン導入の是非 〜否定派〜
第5章 発展する金融市場と 新しい金融商品(前半)
9 金融グローバリゼーション アメリカ型「錬金術」が地球を駆けめぐる
第7章 どのように為替レートを 安定化させるのか
固定為替相場制度 vs. 変動為替相場制度 マクロ金融論2010.
伊豆報告 「サブプライム問題と プライベートファン ド 」 へのコメント
セルビア共和国 経済・構造改革 ー挑戦と達成ー
経済学(第10週) 第3章 貨幣と金融取引[2-1] 前回の確認とキーワード ■ 貨幣需要と債券需要 ・ 証券の利益を構成する2つの要素
4 国際通貨 1 国際通貨の基礎理論 2 国際通貨の機能と選択 3 管理通貨制度下の国際通貨 国際金融2002(毛利良一)
国際経済3 多国籍企業 6-1.直接投資と多国籍企業の現状 6-2. 多国籍企業と直接投資の理論 6-3. 多国籍企業とM&A・国際提携
銀行向け 公的資本注入 08BA154K 高橋 和真.
金融の基本Q&A -Q21~Q24-  小瀬村愛子.
手に取るように金融がわかる本 PART6 6-11 09bd139N 小川雄大.
国際経済学入門 10 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2013年12月23日
『マクロ金融特論』 (3) 一橋大学大学院商学研究科 小川英治 マクロ金融特論2016.
素淮会 様 日本経済の復興と成長 2011 Aug 1 Takaaki Mitsuhashi
為替介入 MBA国際金融2016.
資源ナショナリズムについて 2012/01/20 長谷川雄紀.
与信ポートフォリオの信用リスクの解析的な評価手法 :極限損失分布およびグラニュラリティ調整を軸に
最近の中国と通貨に関する動向 08ba231c 松江沙織.
『ギリシャはユーロから          離脱すべきか?』 【否定派】 長谷川 雄紀 田中 道信 山本 恵美.
世界金融危機とアジアの通貨・金融協力 日本国際経済学会関東支部研究会2010年1月9日.
「ベトナムにおける協同組合とマイクロインシュアランスを活用した保険市場開拓の可能性」
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マイクロファイナンス(MF)の課題とJICAの取組み 2012年1月
財市場 国際班 .
障害の社会モデルの定式化による試み ー発展途上国に向けたバリアフリー化
第5章 貨幣と金融市場.
国内損保の特徴① 環境 規模の理論 少子化→パイの減少 高齢化→事故増 規制→自由化 自然災害 自動車、火災保険(利益率低い)中心
「今後証券化が証券市場を 発展させていくかの是非」
Sumitoku.Y Kurose.Y Ono.S Onodera.A Yamasaki.Y
2009年7月 為替相場講演会資料 株式会社三菱東京UFJ銀行/東アジア金融市場部
2009年10月7日 企業ファイナンス(2) 株式と債券の評価 佐々木 隆文.
東アジア文化論(11/20) 『成長するアジアと日本の位置づけ』.
松山大学公開講座「一般教養」 『日本経済のゆくえ』 2004年5月26日 掛下 達郎
アジア地域 跡見学園女子大学 山澤成康.
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日本国際経済学会関東部会報告 2007年1月13日(土) アジア諸国における 信用リスク情報 黒沢 義孝 日本大学経済学部

1.信用リスク情報(資本市場)を提供する   Credit Rating Agency(格付け会社) (1)アメリカ ● ルイ・タッパンが商業貸付の格付け開始(1841年) ● ジョン・ムーディーが社債の格付け開始(1909年) ● 米国通貨監督官「銀行の債券投資は格付け    上位4ランク以内」(1957年) ● SEC認定格付機関制度開始(NRSRO、1977年)

● エンロン事件発生により格付制度の見直し    企業改革法(サーベンス・オクスリー法、2002年)    認定格付制度の見直し         Credit Rating Agency Reform Act of 2006      参入障壁の除去      格付け会社の利益相反の禁止  (2)日本  ● 明治~1930年     社債のデフォルト多数発生     引き受け銀行のステータスがリスク情報  ● 1930年代~1996年     社債のデフォルトなし、銀行システムがリスクを吸収

● 格付制度導入(1985年、金融庁による指定) ● 社債のデフォルト発生(1996年以降)     R&I、JCR、ムーディーズ、S&P、Fitch (3)バーゼルⅡにより格付けを世界標準として使用 ● 1988年12月BIS規制導入(自己資本比率8%) ● 2007年3月新BIS規制(バーゼルⅡ)開始

● リスク計測手法  標準的手法:格付け会社の格付けを使用  内部格付け(基礎的アプローチ):予想デフォルト率  内部格付け(先進的アプローチ):デフォルト時予想損失率 ● 企業貸付のリスク・ウェイト      格付け     リスク・ウェイト 自己資本比率     AAA ~ AA- 20% 1.6% A+ ~ BB- 50 4.0 BBB+ ~BB- 100 8.0 B+以下 150 12.0   無格付け 100 8.0

(4)アジアの格付け ● 「アジア通貨危機支援に関する        新構想(新宮澤構想)」(1998) ● 「チェンマイ・イニシアティブ」(2000) ● 「アジア債券市場イニシアティブ(ABMI)」(2003)     自国通貨建て債券市場の育成     格付け制度の充実

アジア諸国の債券クロスボーダー取引阻害要因 資本 為替規制 外国資本 流入 源泉 徴収課税 決済 保管制度 透明性 ヘッジ手段 合計 香港 30 15 20 100 シンガポール 27 97 インドネシア 21 13 11 10 68 タイ 12 66 マレーシア 19 65 フィリピン 9 54 韓国 5 4 45 台湾 3 7 39 インド 2 31 中国 8 ベンチマーク=香港(100)  0=阻害要因最大  100=阻害要因最小 (出所)HSBC

アジアの格付け会社 日本(5) 韓国(5) 中国(8) インド(3) バングラデシュ(2) インドネシア(2) マレーシア(2) パキスタン(2) フィリピン(2) 台湾(1) タイ(1) ウズベキスタン(1) アジア合計 34社 世界合計  64社  ウズベキスタン 韓国 パキスタン バングラデシュ 台湾 フィリピン マレーシア

2.格付け情報の考え方とアジアの問題 (1)累積デフォルト率 ● 米国および日本の標準的な累積デフォルト率(%) AAA 0.0 AA ● 米国および日本の標準的な累積デフォルト率(%) 格付け yr 1 yr 2 yr 3 yr 4 yr 5 yr 6 yr 7 yr 8 yr 9 yr 10 AAA 0.0 AA 0.2 0.5 0.8 1.1 1.3 1.5 A 0.7 1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 BBB 0.3 1.0 2.5 3.0 3.5 4.0 5.0 BB 7.5 10.0 14.0 18.0 22.0 26.0 30.0 B 8.0 12.5 16.0 20.0 32.0 38.0 44.0 50.0

B BB BBB A AA AAA

● 相対的安定性 ● 時系列安定性

ムーディーズの相対的安定性

ムーディーズの時系列安定性

(2)トランジションの留保率(格付けの変更) ムーディーズの1年トランジション (1990 - 2003) Aaa Aa A Baa Ba B Caa/C 86.9 8.4 0.3 0.1 0.5 86.7 8.5 0.2 2.2 87.5 5.4 4.7 84.8 4.5 0.7 0.6 5.3 73.9 8.9 0.9 5.6 72.2 1.4 6.7 57.3

S&Pの年別トランジション留保率 (%) total Investment grades (AAA-BBB) Speculative grades (BB-CCC) 1 year 77.2 86.3 65.2 2 years 61.7 74.5 44.5 3 years 50.3 64.7 31.2 5 years 36.3 50.6 17.1 7 years 28.0 41.1 10.4 10 years 20.1 31.0 5.6 15 years 34.8 58.7 2.8 20 years 8.3 13.3 1.6

q = ( rf + Pd ) / ( 1 – Pd ) (3)市場利回りと格付け(信用リスク)の関係 市場利回り(q) 7.8% 1.8% リスク・プレミアム 1.8% 6.12% 0.12% rf 6% Pd AAA 30% 0% A 2%  BB 0.12% 5.88% 損失 1.8% 4.2% q = ( rf + Pd ) / ( 1 – Pd )

日本市場における市場利回りと格付けの関係 (残存期間1年)

日本市場における市場利回りと格付けの関係 (残存期間6年)

●アジアの問題

● アジアにおける信用リスク情報の課題 (1)格付けの定義の共通化 (2)リスクの測定方法の共通化 (3)間接金融における信用リスクと   資本市場のリスクデータの違いの認識 (3)累積デフォルト率のデータ蓄積 (4)格付け会社のパフォーマンス評価の共通化