日本国際経済学会関東部会報告 2007年1月13日(土) アジア諸国における 信用リスク情報 黒沢 義孝 日本大学経済学部
1.信用リスク情報(資本市場)を提供する Credit Rating Agency(格付け会社) (1)アメリカ ● ルイ・タッパンが商業貸付の格付け開始(1841年) ● ジョン・ムーディーが社債の格付け開始(1909年) ● 米国通貨監督官「銀行の債券投資は格付け 上位4ランク以内」(1957年) ● SEC認定格付機関制度開始(NRSRO、1977年)
● エンロン事件発生により格付制度の見直し 企業改革法(サーベンス・オクスリー法、2002年) 認定格付制度の見直し Credit Rating Agency Reform Act of 2006 参入障壁の除去 格付け会社の利益相反の禁止 (2)日本 ● 明治~1930年 社債のデフォルト多数発生 引き受け銀行のステータスがリスク情報 ● 1930年代~1996年 社債のデフォルトなし、銀行システムがリスクを吸収
● 格付制度導入(1985年、金融庁による指定) ● 社債のデフォルト発生(1996年以降) R&I、JCR、ムーディーズ、S&P、Fitch (3)バーゼルⅡにより格付けを世界標準として使用 ● 1988年12月BIS規制導入(自己資本比率8%) ● 2007年3月新BIS規制(バーゼルⅡ)開始
● リスク計測手法 標準的手法:格付け会社の格付けを使用 内部格付け(基礎的アプローチ):予想デフォルト率 内部格付け(先進的アプローチ):デフォルト時予想損失率 ● 企業貸付のリスク・ウェイト 格付け リスク・ウェイト 自己資本比率 AAA ~ AA- 20% 1.6% A+ ~ BB- 50 4.0 BBB+ ~BB- 100 8.0 B+以下 150 12.0 無格付け 100 8.0
(4)アジアの格付け ● 「アジア通貨危機支援に関する 新構想(新宮澤構想)」(1998) ● 「チェンマイ・イニシアティブ」(2000) ● 「アジア債券市場イニシアティブ(ABMI)」(2003) 自国通貨建て債券市場の育成 格付け制度の充実
アジア諸国の債券クロスボーダー取引阻害要因 資本 為替規制 外国資本 流入 源泉 徴収課税 決済 保管制度 透明性 ヘッジ手段 合計 香港 30 15 20 100 シンガポール 27 97 インドネシア 21 13 11 10 68 タイ 12 66 マレーシア 19 65 フィリピン 9 54 韓国 5 4 45 台湾 3 7 39 インド 2 31 中国 8 ベンチマーク=香港(100) 0=阻害要因最大 100=阻害要因最小 (出所)HSBC
アジアの格付け会社 日本(5) 韓国(5) 中国(8) インド(3) バングラデシュ(2) インドネシア(2) マレーシア(2) パキスタン(2) フィリピン(2) 台湾(1) タイ(1) ウズベキスタン(1) アジア合計 34社 世界合計 64社 ウズベキスタン 韓国 パキスタン バングラデシュ 台湾 フィリピン マレーシア
2.格付け情報の考え方とアジアの問題 (1)累積デフォルト率 ● 米国および日本の標準的な累積デフォルト率(%) AAA 0.0 AA ● 米国および日本の標準的な累積デフォルト率(%) 格付け yr 1 yr 2 yr 3 yr 4 yr 5 yr 6 yr 7 yr 8 yr 9 yr 10 AAA 0.0 AA 0.2 0.5 0.8 1.1 1.3 1.5 A 0.7 1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 BBB 0.3 1.0 2.5 3.0 3.5 4.0 5.0 BB 7.5 10.0 14.0 18.0 22.0 26.0 30.0 B 8.0 12.5 16.0 20.0 32.0 38.0 44.0 50.0
B BB BBB A AA AAA
● 相対的安定性 ● 時系列安定性
ムーディーズの相対的安定性
ムーディーズの時系列安定性
(2)トランジションの留保率(格付けの変更) ムーディーズの1年トランジション (1990 - 2003) Aaa Aa A Baa Ba B Caa/C 86.9 8.4 0.3 0.1 0.5 86.7 8.5 0.2 2.2 87.5 5.4 4.7 84.8 4.5 0.7 0.6 5.3 73.9 8.9 0.9 5.6 72.2 1.4 6.7 57.3
S&Pの年別トランジション留保率 (%) total Investment grades (AAA-BBB) Speculative grades (BB-CCC) 1 year 77.2 86.3 65.2 2 years 61.7 74.5 44.5 3 years 50.3 64.7 31.2 5 years 36.3 50.6 17.1 7 years 28.0 41.1 10.4 10 years 20.1 31.0 5.6 15 years 34.8 58.7 2.8 20 years 8.3 13.3 1.6
q = ( rf + Pd ) / ( 1 – Pd ) (3)市場利回りと格付け(信用リスク)の関係 市場利回り(q) 7.8% 1.8% リスク・プレミアム 1.8% 6.12% 0.12% rf 6% Pd AAA 30% 0% A 2% BB 0.12% 5.88% 損失 1.8% 4.2% q = ( rf + Pd ) / ( 1 – Pd )
日本市場における市場利回りと格付けの関係 (残存期間1年)
日本市場における市場利回りと格付けの関係 (残存期間6年)
●アジアの問題
● アジアにおける信用リスク情報の課題 (1)格付けの定義の共通化 (2)リスクの測定方法の共通化 (3)間接金融における信用リスクと 資本市場のリスクデータの違いの認識 (3)累積デフォルト率のデータ蓄積 (4)格付け会社のパフォーマンス評価の共通化