次は,話題提供 ラットの系統選択と被験物質摂取量 SD (Sprague-Dawley/人名-英国の地名) は,系統を示す.CD (Cesarean delivery/帝王切開分娩 = SPF動物を示す)は,子宮切断による出産を示す.Crjは,チャールズ リバー ジャパン(供給元)を表す. F344は,Fischer(人名)344を示す. SDは,F344に比較して体重および飼料摂取量が大きく,子育てが上手. SDは,急性(単回投与)毒性および生殖毒性試験に常用されている.
SDとF344ラットの違い 小林克己 2009-06-23/前川先生勉強会 混餌投与による被験物質摂取量の系統差 SDとF344ラットの違い 小林克己 2009-06-23/前川先生勉強会
試験系の選択理由/登録申請データの記述 反復投与試験に繁用されている動物種の一つであるラットを選択した. 系統は,背景データの保有量,既知化学物質に対する感受性,感染性疾患に対する抵抗性,遺伝的安定性を考慮して選択した. 選択理由を記述した試験報告書は,2受託機関.
混餌投与による供試動物の系統 出 典 SDラット F344ラット 日本の化審法 ○ × NTP報告書 一般投稿論文 ○ 7試験 ○ 6試験 出 典 SDラット F344ラット 日本の化審法 ○ × NTP報告書 一般投稿論文 ○ 7試験 ○ 6試験 体重および飼料摂取量: SD>F344
計算法の例 (短期反復投与毒性試験) 系統 週齢 飼料中の濃度 (mg/kg = ppm) 被験物質摂取量 (mg/kg/day) 雄 雌 SD 6 4, 20, 100, 500 0.34, 1.4, 6.6, 44 0.36, 1.7, 8.9, 60 倍率:飼料中の濃度 /被験物質摂取量 12, 14, 15, 11 11, 12, 11, 8 F344 1000, 5000, 15000 61, 303, 917 71, 360, 1068 16, 16, 16 14, 14, 14
系統差による 飼料中の濃度 /被験物質摂取量 N 平均値± 標準偏差 雄 雌 Wistar & SD 10.0, 10.0, 10.0, 12.5, 13.5, 13.2, 13.3, 11.7, 14.2, 15.1, 11.3, 6.9, 7.0, 7.0, 6.9, 10.0, 11.7, 14.2, 15.1, 11.3, 14.2 (11.3) 10.0, 10.0, 10.0, 12.5, 11.9, 11.8, 11.9, 11.1, 11.7, 11.2, 8.3, 6.9, 7.0, 7.0, 6.9, 10.0, 11.1, 11.7, 11.2, 8.3, 12.3 (10.0) 21×2 (sex) 10.7±2.4 F344 20.9, 16.3, 16.5, 16.3, 20.1, 14.5, 14.9, 14.9, 15.2, 16.8 (16.6) 17.5, 14.0, 13.8, 14.0, 17.6, 14.5, 11.1, 13.1, 13.2, 15.6 (14.6) 10×2 (sex) 15.5±2.3*** 括弧は平均値,***P<0.001 by Student’s t-test with two-side P value.
考察 飼料中濃度 (mg/kg = ppm)に占める被験物質摂取量 (mg/kg/day)の割合は,SD系が10.7倍に対してF344系が15.5倍であった. この主原因は,SD系がF344系に比較して添加飼料摂取量が多いことによる. NOELおよびNOAEL値のみを大きく設定したい場合は,F344系を使用することを推奨する .
調査した試験の概要 ラットを用いた109の28日間反復投与毒性試験/化審法ガイドライン 調査項目: ①行動機能観察 (FOB)②尿検査③血液学的検査④血液生化学的検査⑤器官重量とその体重比/投与28日後の定量値 群構成: ①対照群を含めて4および5群(37試験)②1群内動物数は,5匹程度③用量の公比は,3が最も多い④被験物質の投与は,全て胃ゾンデによる強制経口投与
使用された統計解析ツール Bartlettの等分散検定 分散分析(等分散OK = 平均値の検定) Dunnettの多重比較検定,Schefféの多重比較検定,Duncanの多重範囲検定 3. Kruskal-Wallisの検定(非等分散 = 順位の検定 = 平均値の検定ではナイ) Dunnett型ノンパラメトリック検定,Scheffé型ノンパラメトリック検定,Steelの多重比較検定など
有意差(P<0.05)検出数およびその 割合(その1,試験別からの結果) 試験番号 項目数 有意差検出数および(%) 低用量 中用量 高用量 最高用量 1 120 0 (0.0) 2 (1.7) 4 (3.3) 10 (11) 2 104 6 (5.7) 5 (4.8) 4 (3.8) - 108 130 2 (1.5) 4 (3.0) 16 (12) 31 (23) 109 116 1 (0.8) 9 (7.7) 試験数 37 合 計 12167 205 414 1318 731/4074 平均値 111 1.6% 3.4% 10% 17% 最大値 162 8.4% 36% 55% 最小値 54 0.0% 最頻値
有意差(P<0.05)検出数およびその 割合(その2, 測定項目からの結果) 項目数 有意差検出数および(%) 低用量 中用量 高用量 最高用量 FOB 68 1 (1.4) 3 (4.4) 8 (11) 1/10 (10) 尿検査 392 13 (3.3) 30 (7.6) 81 (20) 40/96 (40) 血液学検査 3586 56 (1.5) 106 (2.9) 318 (8.8) 176/1198 (14) 生化学検査 4285 79 (1.8) 163 (3.8) 455 (10) 267/1426 (18) 器官重量 1928 22 (1.1) 44 (2.2) 188 (14) 103/672 (15) 器官重量/BW比 1908 34 (1.7) 68 (3.5) 268 (14) 144/672 (17) 合計 12167 205(1.6) 414 (3.4) 1318(10) 731/4074 (17)
まとめ 定期検査・解剖が投与開始後26, 52, 78および104週で設定されている長期の慢性毒性試験など大規模試験は,極めて多くの測定値が得られる.このため低用量群には,偶発的な統計学的有意差が検出されやすい. 低用量群に統計学的有意差が認められた場合の無毒性量 (NOEL)は,毒性学的有意差の有無を検討し設定したい. 以上の調査結果から,全調査項目中,低用量群に統計学的有意差が1–2% (<5%)程度認められても試験が成立したと判断する.