第6章 物価指数 ー 経済統計 ー
この章の内容 Ⅰ 物価指数の考え方 Ⅱ 数量指数 Ⅲ 指数に関するいくつかの検討 Ⅳ 物価指数の実際 個別価格指数 平均指数 Ⅰ 物価指数の考え方 個別価格指数 平均指数 ⅰ) 単純平均指数 ⅱ) 加重平均指数 c) 金額比指数 ⅰ) ラスパイレス指数 ⅱ) パーシェ指数 Ⅱ 数量指数 個別数量指数 Ⅲ 指数に関するいくつかの検討 フィッシャーのテスト ⅰ) 時点逆転テスト ⅱ) 要素逆転テスト ラスパイレス指数とパーシェ指数の関係 経済理論との対応 Ⅳ 物価指数の実際 消費者物価指数 ⅰ) データの源泉 ⅱ) 基準の改定 ⅲ) 作成される指数の種類 企業物価指数、企業向けサービス価格指数 貿易価格指数
Ⅰ 物価指数の考え方 a) 個別価格指数 牛肉 1990年を基準(100)とすると、2000年は Ⅰ 物価指数の考え方 a) 個別価格指数 牛肉 1990年を基準(100)とすると、2000年は となる。これが2000年の牛肉の価格指数である。
個別価格指数によって、各品目ごとの価格変化はわかった。しかし、物価を考えるには、全体での価格変化が分からなくてはならないのでは? 同様に、豚肉は とり肉は となる。 一般に第i品目の個別価格指数は と表すことができる。 個別価格指数によって、各品目ごとの価格変化はわかった。しかし、物価を考えるには、全体での価格変化が分からなくてはならないのでは? 比較時点の価格(t期) 基準時点の価格(0期) p01 p02 p03 0期 t期 pt1 pt2 pt3
b) 平均指数 ⅰ) 単純平均指数 各品目の個別価格指数の単純平均を考える。 この例では となる。これを和記号(Σ)を用いて表すと となる。 ⅰ) 単純平均指数 各品目の個別価格指数の単純平均を考える。 この例では となる。これを和記号(Σ)を用いて表すと となる。 <和記号Σ(シグマ)について> とは、i=1からnまでXiをすべて加えるということである。 すなわち、
各品目の購入頻度を考慮に入れていない 単純平均指数は「物価」を表す指数として、自然な発想である。 しかし、次のような問題点がある。 単純平均指数は「物価」を表す指数として、自然な発想である。 しかし、次のような問題点がある。 各品目の購入頻度を考慮に入れていない 単純平均指数では高い頻度で購入する野菜の価格変化も、購入する頻度の低い車の価格変化も、同等に扱ってしまう。 → この問題の対処法が加重平均指数
ⅱ) 加重平均指数 加重平均指数は、各品目の個別価格指数をウエイトをつけて平均したものである。 加重平均指数では、購入頻度を表すウエイトとしてどのようなものを選ぶかが問題である。 購入数量をウエイトに用いる。 → 自然な考え方であるが、単位の相違の問題がある。 (例) 牛肉300gとCD5枚を購入した場合、ウエイトとして300, 5という単位の異なる2つを用いることは問題である。 そのため、購入数量は金額換算し、購入金額をウエイトとする。 金額 = 価格 × 数量 (piqi) (pi) (qi)
c) 金額比指数 「物価」とは、経済全体としての財やサービスの価格である。 「物価」とは、経済全体としての財やサービスの価格である。 基準時と比較時の2つの時点では、平均的な家計†が購入する品目のパターンは異なる。もしこの2つの時点において、購入する品目のパターンが同じであるとしたなら、2時点間の購入金額の合計の相違は、各品目の価格変化を原因とするものであり、その比は、2時点間の物価の比をあらわす。 † 経済全体の購入量を世帯数で割った、算術平均の定義に合致する家計が存在したとしよう。 基準時の購入金額の合計は 比較時の購入金額の合計は であり、 購入数量を基準時の数量(q0i)で一定としたもの - ラスパイレス指数 購入数量を比較時の数量(qti)で一定としたもの - パーシェ指数
ⅰ) ラスパイレス指数 ラスパイレス指数は、購入数量を基準時の数量で一定としたときの購入金額の合計の比であり、 と表される。 これは、加重平均指数において、wi=p0iq0iとおくと、 となる。すなわち、加重平均指数の1種であり、実際の計算はこの加重平均の形でおこなわれる。
ⅱ) パーシェ指数 パーシェ指数は、購入数量を比較時の数量で一定としたときの購入金額の合計の比であり、 と表される。 これは、 と表すことができる。これは、wi=ptiqtiとした加重調和平均である。 実際の計算は、次のように求めれば良い。
p0i p01 p02 p03 p0iq0i p01q01 p02q02 p03q03 0期 q0i q01 q02 q03 pti pt1 pt2 pt3 ptiqti pt1qt1 pt2qt2 pt3qt3 t期 qti qt1 qt2 qt3
ラスパイレス指数 p0i p01 p02 p03 p0iq0i p01q01 p02q02 p03q03 0期 pti pt1 pt2 ptiqti pt1qt1 pt2qt2 pt3qt3 t期
ラスパイレス指数 p0i p01 p02 p03 p0iq0i p01q01 p02q02 p03q03 0期 q0i q01 q02 pti pt1 pt2 pt3 ptiqti pt1qt1 pt2qt2 pt3qt3 t期 qti qt1 qt2 qt3 q0i q01 q02 q03
パーシェ指数 p0i p01 p02 p03 p0iq0i p01q01 p02q02 p03q03 0期 pti pt1 pt2 pt3 ptiqti pt1qt1 pt2qt2 pt3qt3 t期
パーシェ指数 p0i p01 p02 p03 p0iq0i p01q01 p02q02 p03q03 0期 q0i q01 q02 q03 qti qt1 qt2 qt3 pti pt1 pt2 pt3 ptiqti pt1qt1 pt2qt2 pt3qt3 t期 qti qt1 qt2 qt3
Ⅱ 数量指数 a) 個別数量指数 b) 平均指数 第i品目の基準時の購入数量をq0i、比較時の購入数量をqtiとすると、 Ⅱ 数量指数 a) 個別数量指数 第i品目の基準時の購入数量をq0i、比較時の購入数量をqtiとすると、 個別数量指数は となる。 b) 平均指数 ⅰ) 単純平均指数 個別の数量指数を単純平均したもの ⅱ) 加重平均指数 加重平均指数は、各品目の個別数量指数をウエイトをつけて平均したものである。 数量指数においても、購入金額をウエイトとすることが考えられる。
c) 金額比指数 基準時と比較時の2つの時点において、すべての品目の価格が同じであるとしたなら、2時点間の購入金額の合計の比は、2時点間の購入数量の比をあらわす。 価格を基準時の価格(p0i)で一定としたもの - ラスパイレス数量指数 価格を比較時の価格(pti)で一定としたもの - パーシェ数量指数
Ⅲ 指数に関するいくつかの検討 a) フィッシャー(Fisher)のテスト Ⅲ 指数に関するいくつかの検討 a) フィッシャー(Fisher)のテスト 物価指数が満たすべき基準として、フィッシャーはいくつかのものを設定した。その中の代表的なものが次の2つである。 時点逆転テスト - 基準時と比較時を逆転しても矛盾しない 要素逆転テスト - 価格と数量を逆転しても矛盾しない
(たとえば個別価格指数を考えると となってこのテストを満たしている) ⅰ) 時点逆転テスト 1990年を基準としたとき、2000年に125となる指数があったとする。この指数について2000年を基準とした指数を作成しなおすことを考えてみよう。 この指数は2000年は1990年の 倍となっている。したがって、2000年を基準とした指数では、1990年は2000年の 倍の80となるはずである。 80 これが基準時と比較時の逆転である。 時点逆転テストはこれが成り立つかどうかをテストするものであり、基準時と比較時を逆転した指数を考え、元の指数とかけあわせたものが1になるかどうかで判断する。 (たとえば個別価格指数を考えると となってこのテストを満たしている)
<ラスパイレス指数の場合> 基準時と比較時を逆転した指数 ラスパイレス指数は時点逆転テストを満たさない。 <パーシェ指数の場合> 基準時と比較時を逆転した指数 パーシェ指数は時点逆転テストを満たさない。
=1 ラスパイレス指数、パーシェ指数ともに時点逆転テストを満たさない。 ラスパイレス指数、パーシェ指数ともに時点逆転テストを満たさない。 ラスパイレス指数とパーシェ指数を幾何平均したものを考える。(これをフィッシャー指数という。) <フィッシャー指数の場合> =1 基準時と比較時を逆転した指数 フィッシャー指数は時点逆転テストを満たす。
ⅱ) 要素逆転テスト 基準時と比較時の購入金額の合計の比を考えると である。この金額の変化には、価格の変化と数量の変化の両方が含まれるが、価格指数P(t)と数量指数Q(t)を考えると、 M(t) = P(t)×Q(t) という関係が成り立つことが望ましい。この関係を金額条件という。 価格と数量の役割を逆転したものは、価格指数と数量指数であるが、要素逆転テストはこれらに矛盾がないということを、金額条件が満たされるかどうかによって判断するものである。 (たとえば個別価格指数と個別数量指数を考えると となってこのテストを満たしている)
<ラスパイレス指数の場合> ラスパイレス指数は単独では要素逆転テストを満たさない。 <パーシェ指数の場合> パーシェ指数は単独では要素逆転テストを満たさない。
ただし、次のような組み合わせを考えることができる。 <ラスパイレス価格指数-パーシェ数量指数の場合> 要素逆転テストを満たす。 <パーシェ価格指数-ラスパイレス数量指数の場合> 要素逆転テストを満たす。
ラスパイレス指数、パーシェ指数ともに単独では要素逆転テストを満たさない。では、単独でこのテストを満たす指数はないであろうか? <フィッシャー指数の場合> フィッシャー指数は要素逆転テストを満たす。 なお、フィッシャー数量指数はラスパイレス数量指数とパーシェ数量指数の幾何平均であり、 である。
b) ラスパイレス指数とパーシェ指数の関係 ボルトキヴィッチの関係式 sP - 個別価格指数の標準偏差 sQ - 個別数量指数の標準偏差 r - 個別価格指数と個別数量指数の相関係数 いう関係式が成り立つ。 通常、価格が上昇した物の購入数量は相対的に小さくなるので、r<0となる。 PL(t), PQ(t), sP, sQ のいずれも+であることから、通常の場合 となり、ラスパイレス指数はパーシェ指数より大きくなる。
また、通常、個別品目の価格変化や数量変化のちらばりは、時間の経過とともに大きくなるので、sP, sQ は時間の経過とともに大きくなる。 したがってラスパイレス指数とパーシェ指数のズレは時間の経過とともに大きくなる。 ⇒ パーシェ・チェックの必要性
日本の消費者物価指数はラスパイレス指数により算出されている。 <日本の消費者物価指数> 日本の消費者物価指数はラスパイレス指数により算出されている。 ラスパイレス指数のメリットには、ウエイト(購入金額)に基準時の1時点のみを用いればよいことがある。 (パーシェ指数は各比較時点ごとのウエイト(購入金額)を用いなくてはならない。) 5年に1度の基準改定の時にパーシェ・チェックをおこない、ラスパイレス指数の信頼性を確認している。 基準時 比較時1 比較時2 比較時3 p0i pti pti pti ラスパイレス指数 p0iq0i p0i pti pti pti パーシェ指数 ptiqti ptiqti ptiqti
c) 経済理論との対応 ミクロ経済学で用いられる効用理論の観点から物価指数を考えてみる。 x1,x2の2財のみからなる市場を考える。 同様に比較時の所得をytとすると、 yt=pt1x1+pt2x2の解が比較時の購入数量Qt(qt1,qt2)となる。 x2 x1,x2の2財のみからなる市場を考える。 基準時の所得をy0とすると、消費者は予算制約の範囲内で効用を最大化しようとするので、 y0=p01x1+p02x2 となるように購入量を決める。 この解がQ0(q01,q02)である。 Qt Q0 x1
「真の指数」 = 同じ効用を得るために必要な金額の比 と定義する。 同様に基準時の価格体系のもとで、比較時と同じ効用を得るためには、Q0*(q01*,q02*) という購入数量をとればよい。 このとき真の指数は となる。 比較時の価格体系のもとで、基準時と同じ効用を得るためには、 Qt*(qt1*,qt2*) という購入数量をとればよい。 したがって、このとき真の指数は となる。 x2 Qt Qt* Q0* Q0 x1
同様にQ0. とQtとを比較すると、QtはQ0. の接線の右上方にあることから、基準時の価格体系であればQtを購入する際の予算は、 Q0 となる。 x2 Qt*とQ0を比較する。 Q0はQt*の接線の右上方にあることから、比較時の価格体系であればQ0を購入する際の予算は、 Qt* を購入する際の予算より大きくなる。よって、 となる。 Qt Qt* Q0* Q0 x1
以上のことから、 I0<PL(t) ラスパイレス指数は真の指数I0の上限 PP(t)<It パーシェ指数は真の指数Itの下限 I0とIt の大小関係がわからないことから、ラスパイレス指数とパーシェ指数の大小関係を直接導くことはできないが、効用関数が一定という条件をつければ、 I0 = It となる。その場合にはラスパイレス指数とパーシェ指数がそれぞれ真の指数の上限と下限ということになる。
Ⅳ 物価指数の実際 おもな物価指数 消費者物価指数(総務省統計局) 企業物価指数、企業向けサービス価格指数(日本銀行) Ⅳ 物価指数の実際 おもな物価指数 消費者物価指数(総務省統計局) 企業物価指数、企業向けサービス価格指数(日本銀行) 貿易価格指数(財務省関税局)
a) 消費者物価指数(Consumer Price Index) 平均的な世帯が日常購入する財・サービスの価格の動きをとらえた指数 ラスパイレス指数で算出 5年ごとにウエイトの改定(現在は平成17年(2005年)基準)をおこない、過去の指数との接続をおこなう。 基準改定の際、パーシェチェックによって指数の妥当性の検討をおこなう。
ⅰ) データの源泉 ウエイト - 家計調査 平成17年平均1か月間の1世帯当たり品目別消費支出金額(農林漁家世帯含む2人以上世帯) ⅰ) データの源泉 ウエイト - 家計調査 平成17年平均1か月間の1世帯当たり品目別消費支出金額(農林漁家世帯含む2人以上世帯) 価格 - 小売物価統計調査(基幹統計) 全国 約28000店舗・事業所(価格の調査、各地区内の販売数量 または従業者規模等の大きい店舗の 順に、価格取集数に応じた店舗を選定) 約25000世帯(家賃の調査) 約530旅館(宿泊料の調査) ⇒ 584品目を指数に採用 ※ 指数に採用される品目は、各品目への支出が消費支出全体の1万分の1以上が目安になっている。
ⅱ) 基準の改定 物価指数は5年に1度†基準の改定がおこなわれる。 ⅱ) 基準の改定 物価指数は5年に1度†基準の改定がおこなわれる。 基準改定とは、家計消費の変化に対応して、指数採用品目の改廃、ウエイトの変更などをおこなうことである。 基準改定時に、過去の指数は新しいウエイトで再計算すべきであるが、採用品目の改廃などがあるため、非常に困難であり、指数の接続という方法が用いられる。 1995年を基準とした場合、1998年 は102.5、2000年は101.5であった。 2000年の基準改訂の際にこれらを接続するには、それぞれの数字を101.5で割れば良い。1998年であれば 102.5÷101.5×100=101.0となり、1995年であれば100÷101.5×100=98.5となる。 ※ ラスパイレス指数は時点逆転テストを満たさないため、理論的にはこのような接続は正しくないが、実際上使わざるをえない。 † 5年に1度では、消費構造の変化に対応しきれない面があるので、中間年における品目・ウエイトの見直しをおこなった。2008年1月に一部改変(第3のビールの追加、ブラウン管型テレビの統合など)された。
ラスパイレス指数で計算される消費者物価指数が妥当であるかどうかを、パーシェ・チェックによって検証する。 パーシェ・チェックは次のような式である。
ⅲ) 作成される指数の種類 <連鎖指数> 0期を基準時とし、t期を比較時とする物価指数をI0,tとあらわすと、連鎖指数は ⅲ) 作成される指数の種類 <連鎖指数> 0期を基準時とし、t期を比較時とする物価指数をI0,tとあらわすと、連鎖指数は I0,1×I1,2×・・・×It-1,t というように、前年のウエイトを使う指数を順次接続していく。 この指数は消費構造の変化に速やかに対応することができる。(ただし、ウエイトを毎年求める労力がかかる) 実際のデータを見ると、ラスパイレス指数による消費者物価指数と、連鎖指数との差はあまりない。
b) 企業物価指数(Corporate Goods Price Index)、 企業向けサービス価格指数(Corporate Service Price Index) 企業物価指数は企業間で取引される商品の価格をとらえた指数 企業向けサービス価格指数は企業間で取引されるサービス(商品輸送など)の価格をとらえた指数であり、企業物価指数と対をなしている。 ともにラスパイレス指数で算出 <企業物価指数> 2000年基準への改定(2002年12月公表分)において、卸売物価指数(Wholesales Price Index)から名称変更 国内企業物価指数(910品目) 企業物価指数 輸出物価指数(222品目) 輸入物価指数(293品目) 国内企業物価指数は生産者、1次卸、2次卸の中で価格決定に最も影響を与える部分を調査している。
c) 貿易価格指数 税関を通過する際の提出資料により、輸出と輸入の価格指数を作成 フィッシャー指数で算出