病院開設者との間で結ばれる 部長医 契約 （抜粋） 部長医Chefarztの大きな任務が ドイツの病院を支えている 東京医科歯科大学名誉教授　岡嶋道夫 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

ドイツの部長医制度 ドイツの病院には内科、外科などの部局があり、部長医が部局の頂点に存在する。 部長医は就任時に、病院開設者との間で下記のような「部長医契約」を結び、部局の管理、他部局や管理部との連携など、病院運営上の重大な義務を負うことになる。 部長医契約は長文であるが、ここでは部局の運営と質の向上に関連する箇所を抜粋して紹介する。 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

日本の医局と比較してみてください 日本で医局制度の弊害が話題にされる時、ドイツの影響であるかのように言われたりするが、このスライドでその誤解が解けると思う。 それどころか、部長医を責任の頂点とするドイツの部局制度から教えられることが数多くあるのではないだろうか。 ここに掲載した部長医契約の内容は Ulrich Baur: Chefarzt-/Belegarztvertrag. Deutscher Ärzte-Verlag, 2003.　　からの抜粋です。 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

医師 （助手医師＝研修医、専門医資格のない医師） 病院の医師構成 疾病金庫 医師会 警察 病院開設者 病院管理部 医師 ディレクター 部長医 　契約 病院 医療 職員 重 要 部長医Chefarzt 医長　専門領域の責任者 専門医 医師　（助手医師＝研修医、専門医資格のない医師） 図は岡嶋が作成 2009.9.15訂正 臨床初期研修医の制度は2004年に廃止 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

部長医契約　書式雛形 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

部長医契約の長さは20頁に及ぶ 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

病院開設者 医　師 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

部長医 Ｃｈｅｆａｒｚｔ 部長医Chefarztという名称を公式に使用 病院開設者（自治体や社会福祉事業団体）は部長医との間で部長医契約を結ぶ これは私法上の契約 部長医は部局のヒエラルキーの頂点に立つ （権力の頂点ではなく責任と義務の頂点に立つと言えよう） 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

部長医契約からの抜粋 任務を満たすため病院の近くに住む義務 部局の管理と専門的指導が義務づけられる 病院開設者の出す業務指令と院内規則を守らなければならない 無駄のない経費の使い方をすること、委員会への参加など、任務を詳細に記述 病院の全ての案件に守秘義務（退職後も） 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

部局内の患者の入院、一時退院及び退院を決定する権限を有する 部局の全ての患者のケアに責任 部局の全ての患者に必要な回診 外来における救急治療 他の部長医への助言 部局内の患者の入院、一時退院及び退院を決定する権限を有する 部局で死亡の場合、死体検査と死亡診断書の交付 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

部長医は部局の待機業務及び呼出待機を保障し、必要時には呼出待機に自ら参加する 医師の忠告に反して入院処置を望まない患者には、それによって生ずる結果に対して病院は責任を負わないことを教える 開業医のためのコンタクト 講演 患者や家族に対して情報提供企画などを行う これらの行為は職業法規規定には抵触しない 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

医師及び非医師の共働者の卒前教育、卒後教育及び生涯教育を行う 医学部学生の教育では、医師免許規則（卒前教育を規定）の規定に従って協力する 医師の共働者に、その教育程度、能力及び経験に相当して、特定の業務範囲をかれら自身で処理することを任せる。部長医の総合責任はこれによって縮小することはない 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

法規定または明白な医学的疑念による妨げがない限り、部局の空きベッドを必要に応じて他の部長医に、一時的な使用として貸す義務がある　（ドイツ全体のベッド稼働率は現在80％弱） 他の部局で患者が検査、治療される場合、そこで作られる患者記録と統合するために、部長医は自分のところの記録をその部局の指導医に渡さなければならない 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

病院開設者は医師の守秘義務と情報保護規定を守って保管する 部長医は常に部局の患者記録を見ることができる 患者記録は、完了後は病院開設者の所有物 病院開設者は医師の守秘義務と情報保護規定を守って保管する 部長医は常に部局の患者記録を見ることができる 患者記録の原本と附属資料の院外持出不可 止むを得ず持ち出すときは（裁判による押収など）、引渡の前にコピーを作成すること 謄本、抜粋、コピーは、部長医またはその後継者の同意があるときにのみ渡すことができる 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

病院管理部にあらゆる報告を行う義務がある 該当する任務として、医師料金規則による給 付番号、質改善のために義務づけられた届 出、その他・・・・・、ならびに国際疾病分類 これらは守秘義務と情報保護の規定に抵触し ない 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

部長医は、重大な出来事、とくに警察や検察庁の取調べ、部局の中において発生した面倒なことや困ったことは、 医師に関する問題であれば病院の医師ディレクター、　　（部長医に権限が集中しない） その他の場合は病院管理部を通して、 速やかに業務上司に伝えなければならない それらは必要に応じて医師会（医師を監督する）、疾病金庫、警察に連絡される　 （透明性） 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

部長医の最初の6ヶ月は仮採用期間で、毎月月末に相互に契約解除することができることになっている。その後は一定期間の契約となる。 部長医契約には、以上の他に、意見をのべる権利と義務、休暇、兼業、報酬（部長医には民間医療保険患者の診察料の一部を受領できる特権があり、その契約は病院によって異なる）など多数の契約項目がある。 部長医の最初の6ヶ月は仮採用期間で、毎月月末に相互に契約解除することができることになっている。その後は一定期間の契約となる。 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

部長医予定者は 部長医契約を解説した書物には、これから部長医になる予定の医長は予め部長医契約を読んでおくとよい、 契約書に署名する前に、この方面に詳しい弁護士と相談することをお薦めする、 ということが書いてある。 筆者は日本の医局の体験がないので分らないが、皆様はドイツの部長医契約をどのように捉えられたでしょうか。 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

部長医は他の病院から 部長医は必ず他の病院から招聘する（これはドイツの大学の主任教授の選考と同じ）。 部長医を目指すエリート医師は、適齢期になると応募の書類を提出して競り合うが、採否の通知に一喜一憂するという。 採用された場合、就任前の準備、そして就任してからの6ヶ月間の緊張した勤務は大変なようで、その経験記事を読んだことがある。 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

医師ディレクター 病院の医師ディレクターは、部長医の間の問題や医師に関する問題を処理する。人事権が部長医に集中しない構造が、封建的といわれる日本の医局と異なる点ではなかろうか。 また、医師ディレクターは病院開設者と緊密に連携し、病院の運営・改善の重要事項を扱い、州の病院計画委員会に提出する資料を作成したりする有能な医師である。今後米国のMedical Directorと比較してみたいと思っている。 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

終りに 以上がドイツの部長医契約の抜粋である。 研修医が手術数をごまかした研修記録にサインした部長医が、点検を怠ったという理由で医師職業裁判所で罰金を科せられた判例がある。部長医契約は、このような責任、緊張、真剣さを部局内に作り出す英知と言えるのではないだろうか。 日本の医療は議論を繰り返すだけでは改善されないことを学ばなければならない。 次の最後のスライドは私の感想である。 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫

医師 （助手医師＝研修医、専門医資格のない医師） 病院の医師構成 疾病金庫 医師会 警察 病院開設者 病院管理部 医師 ディレクター 部長医 　契約 病院 医療 職員 日本の開設者は どのような責任を 荷っているか？ 部長医Chefarzt クリック 医長　専門領域の責任者 専門医 医師　（助手医師＝研修医、専門医資格のない医師） 図は岡嶋が作成 2009.9.15訂正 臨床初期研修医の制度は2004年に廃止 2007/12/29 東医歯大　名誉教授　岡嶋道夫