ファーストリテイリングの経営戦略 日本大学2年 石井 啓介 川又 悠治
もくじ 1.はじめに 2.企業概要 3.ファーストリテイリングの軌跡 4. SPAへの事業転換 5.ユニクロブームの終息 6.革新と挑戦 6-①. 多品種少量生産化へのシフト 6-②. M&A 6-③. 海外への挑戦 7.今後の展望 8.参考文献
1.はじめに 最近では、テレビでユニクロのCMを見かけない日はないのではないでしょうか。現在、ユニクロを展開するファーストリテイリングは小売業界の衣料部門でトップに君臨しています。私たちはファーストリテイリングがここまで大きく成長した要因や、どのような戦略を展開しているのかに興味を持ちテーマに選びました。
2.企業概要 名称 株式会社 ファーストリテイリング 所在地 山口県山口市佐山 717-1 設立 1963年5月1日 売上高 株式会社 ファーストリテイリング 所在地 山口県山口市佐山 717-1 設立 1963年5月1日 売上高 連結5,252億円(2007年8月期) 従業員数 7,470名(連結) 3,976名(単独)
3.ファーストリテイリングの軌跡 2001年 海外初進出 1984年 1998年 ユニクロ第一号店 フリース発売 2003年 カシミヤ発売 ファーストリテイリングが一躍脚光を浴びたのは1998年に発売した1900円という低価格フリースの全国的な大ブームです。当時のユニクロは中国での少品種大量生産による製造小売型の業態で一世を風靡していました。しかし、2001年をピークに売り上げが低迷していき、2003年には売り上げが約1000億円も減少してしまいました。しかし、その後、様々な改革を行うことで2004年から現在に至るまで売り上げは順調に推移し、再び復活の軌道に乗り出しています。 2003年 カシミヤ発売
4.SPAへの事業転換 この時期にユニクロでは従来の衣料品の製造、仕入れ方法から、製造から販売までを一貫して行うSPA事業への事業転換を本格的に進めこれがユニクロの基盤となりました。そして、1998年に都心に進出する一歩目に原宿店をオープンすると若者の間で評判になりユニクロブームが起こり、フリース600万枚キャンペーンで一気に売上がのびました。
4. SPAへの事業転換 生地・縫製工場など アパレルメーカー 商社 卸 小売企業 消費者 従来の業態 商品納入 発注 返品可能 返品可能 従来、衣料品はアパレルメーカーがシーズンに先駆けて企画・デザインを行い、生地、縫製工場に生産委託されます。アパレルメーカーに納入された商品は、商社や卸を通じて販売委託形式で小売店に並べられる方法が主流でした。販売委託形式とは、小売店がメーカーや問屋から商品を仕入れ、店頭で売れ残りが出た場合にも返品は自由というシステムです。 返品可能 返品可能 小売企業 消費者
4. SPAへの事業転換 生地・縫製工場など 販売店 消費者 SPA業態の流れ 商品納入 発注 販売店 SPAとは企画・製造・販売を一貫して行う事業形態です。衣料品SPAの場合、ほとんどは海外で製造を行っています。また、製造過程において小売企業が主導権を持っているため、より安く、より良い商品を提供することもできます。 消費者
GAPをモデルにSPAへの事業転換を進める 2001年 ユニクロブームのピーク 売り上げ高4186億円を記録 1997年 GAPをモデルにSPAへの事業転換を進める 1998年 フリース600万枚 キャンペーン 1997年 中国に 生産拠点を置く この製造から販売を一貫しておこなうSPAがユニクロの基盤となりました。 ユニクロでは流行している商品ではなくフリース、デニムパンツ、チノパンツなどの定番商品に力をいれ厳選した少数の商品を大量に売るという販売戦略をとり、原料や仕入れ価格を引き下げることで生産コストを下げました。★1997年中国に生産拠点を置き、同年アメリカの衣料品小売店であるGAPをモデルとしたSPAへの事業転換を本格的に進め、低価格・高品質商品を展開しました。 ★ 1998年にフリース600万枚キャンペーンで実際に850万枚を売りあげ、一気に売上がのびます。 ★このユニクロブームによる効果は2001年にピークを迎え4186億円の売り上げを記録しました。
5.ユニクロブームの終息 大量生産型の戦略のもと1998年のフリースブーム等で売り上げを伸ばしたユニクロでしたが、2001~2003年にかけて大幅に売り上げが落ちました。この売り上げ低迷の要因として考えられることは、ユニクロブームの終わりが挙げられます。
5.ユニクロブームの終息 環境の変化 事業の失敗 「ユニバレ」による消費者離れ 野菜事業「SKIP」の撤収 海外事業の苦戦 SPAの影響 ライバル店の価格低下による価格競争力の低下 「ユニバレ」による消費者離れ 事業の失敗 野菜事業「SKIP」の撤収 海外事業の苦戦 SPAの影響 ライバルのカジュアルチェーンがユニクロと同様に中国生産の低価格良質商品を手がけ、この種の商品が過剰供給となって値崩れする中でユニクロの価格競争力は失われていきました。加えて、着用している人が多いため、ユニクロの衣料を着用しているのが判明してしまう「ユニバレ」と呼ばれる現象が広がり、ユニクロ服を着ていると「ダサい」「恥ずかしい」との印象が広がったことで人気がなくなってしまいました。しかし、ユニクロは、前年と類似した商品を大量に仕込んだことで、商品が残ってしまい、返品できない製造小売の弱点がでる結果となってしまいました。 これらの要因からブームが終息していき、2001年8月期に4186億円の売り上げを記録した後、減収していきます。 そして、同時期には新事業の野菜事業SKIPは2年足らずで撤収となり、また海外では16店舗を閉鎖する ことになりました。
6.革新と挑戦 2001年をピークに売り上げが低迷していき、2003年には売り上げが約1000億円も減少したファーストリテイリングでしたが、その後、2004年から現在に至るまで売り上げは順調に推移し、再び復活の軌道に乗り出しました。
6-①. 多品種少量生産へのシフト 少品種大量生産 多品種少量生産 売り場構成 売り場構成 1アイテム単独完結型の 単品集積売り場 6-①. 多品種少量生産へのシフト 少品種大量生産 多品種少量生産 売り場構成 売り場構成 売り上げを伸ばした要因として多品種少量生産へのシフトが挙げられます。ユニクロは大量生産型の戦略のもと1998年のフリースブームなどで売り上げを伸ばしましたが、消費者のニーズの変化などにより2002年から売上高は減少しています。更なる売り上げの増加を目指し、これまでの少品種大量生産から多品種少量生産へとシフトしてきました。★時代やニーズに柔軟に対応し、これまでユニクロの特徴だった1アイテム単独完結型の単品集積売場からテーマ別、スタイル別に分類、編集された商品のコーディネーション展開を始め、多数の新商品が投入されました。例えば「スキニージーンズ」「カシミヤ」に代表される先端トレンドを取り入れた商品です。このような取り組みによる新商品と売り場は顧客に受け入れられ売上増加につながっています。 1アイテム単独完結型の 単品集積売り場 テーマ・スタイル別に分類 コーディネーション展開
6-②. M&A ・新規事業開発 ファーストリテイリング 連結5252億円 国内事業 4707億円 海外事業 536億円 SPA SPA イギリス 中国・香港 韓国 アメリカ フランス 多品種少量生産へシフトしたユニクロにとって、M&A・新規事業開発は最重要課題のひとつです。 なぜなら買収することによって、これまで以上に多様化する消費者のニーズに対応する事ができるからです。 国内ではキャビン、ジーユー、フットパークを海外ではセオリー、コントワー・デ・コトニエ、プリンセス・タム・タムを買収しました。 M&Aには3つの狙いがあります。1つ目は、ユニクロで築いたSPAを買収した企業に活かすことです。ユニクロの強みは、高効率の店舗オペレーション、在庫コントロール、物流、出店開発のノウハウ、世界中からの素材調達、高品質な商品の生産などがあります。このようなユニクロの仕組みをグループ化した企業や新規事業に注ぎ、より大きなビジネスへ成長させることを狙っています。 2つ目は、グループの総資産の拡充です。今後は将来性豊かなブランドを買収し、成長させ、新たなブランドグループをつくろうとしています。 そして3つ目は、世界の主要市場で事業基盤を整えることです。各地域で買収した企業を足がかりに、ユニクロの海外展開や、新たに買収したブランドの成長をより加速できる体制を築き上げようとしています。 ファーストリテイリングのグループ戦略の軌跡 2004年1月■「セオリー」を展開する リンク・インターナショナルへ出資 2005年3月■ ワンゾーンを買収 5月■「コントワー・デ・コトニエ」を展開する ネルソンフィナンス社の経営権を獲得 2006年2月■「プリンセスタム・タム」を展開する プティヴィクル社を買収 3月■ 新規事業のジーユーを設立 4月■ キャビンの株式を取得し、業務提携 11月■ ビューカンパニーへ出資 2007年8月■ キャビンをTOBにより完全子会社化
6-③. 海外への挑戦 海外ユニクロ事業の売上高 英国 中国 米国 香港 韓国 海外計 店舗数計 2007年 3,831 2,649 6-③. 海外への挑戦 海外ユニクロ事業の売上高 (単位=百万円) 英国 中国 米国 香港 韓国 海外計 店舗数計 2007年 3,831 2,649 3,441 2,736 4,338 16,995 39 2006年 2,706 1,536 796 1,199 2,498 8,735 30 2005年 1,948 1,130 3,078 14 2004年 1,721 1,002 2,723 9 2003年 6,819 559 7,378 26 2002年 2,528 15 まだまだファーストリテイリングの売り上げでは少ないですが、 M&Aと同様にファーストリテイリングが推し進めているのがユニクロの海外展開です。2001年9月のロンドン出店を皮切りに、英国、中国、米国、韓国、香港、と日本を 含める5ヶ国にまで広がっています。現在の店舗状況は、イギリス 13店、中国 9店、アメリカ 1店、韓国 14店、香港 4店、フランス 1店です。 全体をみてみると、売り上げは順調に推移しています。今後は世界中のファッション都市を中心に、旗艦店戦略を展開し、ユニクロブランドの知名度をあげていく方針です。
7.今後の展望 ファーストリテイリングが目指しているのは、「GAP」「ZARA」などと競合できるグローバルブランドの確立です。(表3)世界市場での競争環境は厳しさを増していますが、ユニクロにとって海外市場はこれからの成長余地が大きい魅力的な舞台であると考えられます。ファーストリテイリングが世界のトップ企業と互角に戦うためには、売上高1兆円の企業規模が、最低限必要だと考えているため、ファーストリテイリングは「2010年にグループ売上高1兆円、経常利益1500億円」を中期的な目標としています。
1兆円企業 (グループ売り上げ) 7.今後の展望 M&A 国内事業 海外進出の拡大 大型店出店 欧米ブランドの買収 アジアの市場拡大 この目標を達成するために、まず中核事業であるユニクロ事業については、大型店の出店数を拡大し顧客数のUPを狙い、 SPA企業のトッププレイヤーとして、さらに競争力のある素材や商品の開発に取り掛かっていく必要性があります。 また、M&Aではグローバル展開できる欧米ブランドや事業基盤となりえる企業を中心に買収を進め、より有力なブランド獲得を目指していくでしょう。 海外ではグローバルブランドとしてのポジションを確立するために、欧米のファッション都市で旗艦店戦略をさらに進め、アパレル需要の成長が著しいアジア市場では、中国と韓国での出展を加速させていくと考えられます。 このようにしていけば、売上高1兆円企業という目標に近づくことができるのではないかと考えています。
8.参考文献 『ユニクロ方式』 岡本広夫(著) ぱる出版 2000.10 『ユニクロ 急成長の秘密』 『ユニクロ方式』 岡本広夫(著) ぱる出版 2000.10 『ユニクロ 急成長の秘密』 近江七実(著) アップル出版社 2000.10 『ユニクロVSしまむら』 月泉博(著) 日本経済新聞社出版 日経新聞 四季報 NBonline(http://business.nikkeibp.co.jp/index.html)