強震波形と測地データから推定した 2008年岩手・宮城内陸地震の震源過程

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強震波形と測地データから推定した 2008年岩手・宮城内陸地震の震源過程 2008/11/24 日本地震学会秋季大会 強震波形と測地データから推定した  2008年岩手・宮城内陸地震の震源過程   東京大学地震研究所     引間和人           纐纈一起  京都大学大学院理学研究科 宮崎真一

内容 近地強震波形, GPSによる測地データを用いて 震源過程解析を行った. 解析手順 すべり分布の特徴など Double-Difference法による震源再決定[断層面設定の参考とするため] 余震記録を使った速度構造チューニング 近地波形による点震源での解析 測地データを用いたすべり分布の推定 強震波形による震源過程解析 強震波形・測地データのジョイントインバージョン すべり分布の特徴など

震源再決定の実施 ・本震:震源深さ=7.8km ・余震分布: 南部で浅く,北部で深い ↓ 気象庁一元化震源  6/14 – 7/11(地震後4週間) ・本震:震源深さ=7.8km ・余震分布: 南部で浅く,北部で深い ↓ より詳細な本震・余震の位置を決定した上で,断層面を設定する

震源再決定の実施 Double-Difference法(Waldhauser and Ellsworth, 2000)による震源再決定 気象庁一元化データの検測値を使用 本震後4週間の地震を再決定した 観測点は震源域から80km以内  (観測点数:47) 速度構造はJMA2001を使用

再決定された震源の分布 震源深さが浅くなった(特に北部) 本震:震源深さ 7.8km → 5.9km 大局的には西に傾斜する余震分布 N=3020個 再決定した震源 JMA一元化震源 震源深さが浅くなった(特に北部) 本震:震源深さ    7.8km → 5.9km 大局的には西に傾斜する余震分布 いくつかのクラスター状に余震が分布し,余震が発生していない領域もある 6/14~4週間の地震

強震波形を用いた解析 震源近傍の観測点を多く使う 山地に位置する観測点をなるべく使用する 震源過程解析の前に,余震波形記録を使って構造のチューニングを行う  K-NET, KiK-net 17観測点の記録を使用した.  震央距離 約60km以内 本震後24時間の震源をプロット

速度構造モデルの設定 余震記録の波形インバージョンにより,観測点毎に水平成層構造を設定した AKT023 IWTH04 MYGH06 結果例 RD TR UD MYGH06 解析に使用した地震   6/18 16:18 (M4.2)   h=8.1 km   F-netのメカニズムを仮定 観測 計算 解析波形   0.05~0.5Hzまたは1.0HzのBPF   積分して速度波形とした Hikima and Koketsu (2005) と同様の方法

断層面の設定 1.Kikuchi and Kanamori(1991) と同様の”反復はぎとり法”を強震波形に適用し,複数のモーメントテンソル解を求めた    0.02~0.1Hz のBPF,速度波形 2.主要なモーメントテンソル解 (201°,45°,91°)   に余震分布を参考に西傾斜の断層面を設定する 3.傾斜については,強震波形,GPSデータの解析の際に残差が最小になるように微修正した      45 → 41° 4.破壊開始点の深さ=6km Total Moment  2.1x1019Nm (Mw 6.8) 本震後24時間の震源をプロット

解析条件 長さ:42km,幅:18km 小断層サイズ:2km×2km 解析波形 0.03~0.5Hz(周期2秒)のBPF,速度波形 S波到達後15~20秒までの波形を使用 multi-time window法[Yoshida et al.(1996)+非負の最小自乗法]によるインバージョン Dip=41° Xmn Ymn T mn 拘束条件 時間・空間の平滑化 平滑化強さはABIC最小条件で決める 本震後24時間の震源をプロット

測地データ 水平 鉛直 GEONETの30秒サンプリングデータを使用. 胆沢観測点 水平 鉛直 栗駒2  水平:149cm,上下:208cm GEONETの30秒サンプリングデータを使用. 地震時の急な変化は可能としながら,それ以外の時間帯は時間方向に平滑化をかけた解析.(Larson and Miyazaki, 2008) 地震2分後-地震1分前 を地震時の地殻変動量とする. 観測点数 46点

速度構造モデルとGreen関数 (測地データ) ・理論地殻変動量の計算   Zhu and Rivera (2002)のプログラムによる(水平成層構造) ・設定した水平成層構造   ・強震波形計算用の一次元構造を補間し,簡易3次元モデルを作成.   ・GPS観測点での各層の深さを抽出し,観測点ごとに一次元水平成層速度構造モデルを設定した. ・GPS観測点 ・深さ設定地点 Vp (km/s) Vs (km/s) Density (kg/m3) 2.0 0.7 2000 sedimentary layers 3.2 1.3 2300 4.3 2400 5.6 3.0 2600 basement 6.0 2700 upper crust 6.3 3.5 (Vp=4.3, Vs=2.0km/s)層の上面深さ

測地データ解析結果 [1枚断層] 断層北部(胆沢)の水平変動・上下変動 ともに方向が反転 → 胆沢観測点は断層の下盤側に位置する必要がある 測地データ解析結果 [1枚断層] 黒:Obs 白:Cal Mo=2.7x1019Nm (Mw 6.9) 最大すべり=5.1m 走向:201° 傾斜:41 黒:Obs 白:Cal 断層北部(胆沢)の水平変動・上下変動 ともに方向が反転   → 胆沢観測点は断層の下盤側に位置する必要がある

測地データ解析結果 [2枚断層] 南:走向201°傾斜41° 北:走向191°傾斜41° の2枚の断層面で解析 測地データ解析結果 [2枚断層] Mo=2.7x1019Nm (Mw 6.9) 最大すべり=5.2m 南:走向201°傾斜41° 北:走向191°傾斜41°  の2枚の断層面で解析 南部のすべり分布はほとんど同じ 北部のすべり量は1.2m程度 NNE SSW

測地データ解析結果 [2枚断層] 黒:Obs 白:Cal 黒:Obs 白:Cal 胆沢観測点の変位ベクトルが再現可能に

測地データ解析結果 [2枚断層] 鉛直 水平 栗駒2の変動量はやや不足しているが,概ね良好に観測値を再現している

強震波形 解析結果 2枚の断層面を設定した結果 測地データに比べて狭い領域にすべりが集中 Mo=2.4x1019Nm (Mw 6.9) NNE SSW 第一タイムウィンドウ伝播速度=2.8km/s

波形の比較(強震波形のみ) NS EW UD NS EW UD

測地データ,強震波形 単独解析の結果 両者のデータを同時に使用してインバージョン解析を試みる GPSデータの解析結果 強震波形の解析結果 測地データ,強震波形 単独解析の結果 Mo=2.7x1019Nm (Mw 6.9) 最大すべり=5.2m Mo=2.4x1019Nm (Mw 6.9) 最大すべり=4.7m GPSデータの解析結果 強震波形の解析結果 両者のデータを同時に使用してインバージョン解析を試みる

測地データ・強震波形のジョイントインバージョン NNE SSW Mo=2.5x1019Nm (Mw 6.9) 最大すべり=5.8m 南部のアスペリティですべりが集中 北部のすべりは広く分布し,浅部でやや大きい 余震はアスペリティの周辺で発生 アスペリティの延長部付近で地表断層が確認されている +は産総研による地表断層位置

波形の比較(ジョイントインバージョン) NS EW UD NS EW UD

測地データの比較(ジョイントインバージョン) 鉛直 水平 震源付近の観測点のベクトルの方向は一致 栗駒2 で計算される地殻変動量は観測値の半分程度

結果の比較 測地データ 強震波形 強震波形+測地 強震→ジョイント:アスペリティがやや深くなった.周辺部のすべりが減少 Mo=2.7x1019Nm (Mw 6.9) 最大すべり=5.2m 測地データ Mo=2.4x1019Nm (Mw 6.9) 最大すべり=4.7m 強震波形 Mo=2.5x1019Nm (Mw 6.9) 最大すべり=5.8m 強震波形+測地 強震→ジョイント:アスペリティがやや深くなった.周辺部のすべりが減少 測地→ジョイント:大きなすべりが集中,栗駒山直下でのすべりが無い

断層の西側に位置する観測点で計算される変動量が減少 測地データを説明するためには,断層深部でのすべりが必要? → 今後の検討課題 測地データのみ 黒:Obs 白:Cal 強震波形+測地 黒:Obs 白:Cal 断層の西側に位置する観測点で計算される変動量が減少 測地データを説明するためには,断層深部でのすべりが必要?   → 今後の検討課題

すべり時間関数の分布 ジョイントインバージョン結果 1.5m/s程度 第一タイムウィンドウ伝播速度=2.8km/s NNE SSW ・北部の断層では若干遅れて破壊開始

断層面での応力変化量の分布 Okada (1992)により断層面での応力変化を計算 最大:約40MPa アスペリティ平均:約30MPa  → 大きな加速度・高周波成分に富んだ波形の一因か? 青:応力降下 すべり量分布

まとめ 近地強震波形,測地データを使って2008年岩手・宮城内陸地震の解析を行った. 震源再決定の結果,断層北部での余震も浅部で発生していることを確認. 強震波形,測地データの解析結果の主要な特徴は一致し,震源の南側・浅部にかけて大きなすべりが存在する. 最大アスペリティでのすべり量は5~6m. アスペリティの面積は小さく,応力降下は30MPa以上と大きい. 北部にもすべりが存在するが,すべり量は1~1.5m程度. 強震波形,測地データの解析結果には異なる箇所もあり,両者の時間特性の違いなどについて,検討を要する. 謝辞:解析には防災科学技術研究所KiK-net,K-NETの波形記録,国土地理院GEONETのGPSデータ,気象庁一元化読み取りデータを使用させて頂きました.

破壊過程のスナップショット ジョイントインバージョン結果