線維素性胸膜肺炎を主徴とする 豚の呼吸器系感染症

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線維素性胸膜肺炎を主徴とする 豚の呼吸器系感染症 豚胸膜肺炎 線維素性胸膜肺炎を主徴とする 豚の呼吸器系感染症

豚胸膜肺炎 本病の典型的な発生例では、罹患率が50%を超えることがあり、死亡率は1~10%と多様である。 肥育期に群単位で発病することが多いが、新生豚や成豚でも発病することがある。 抗体陰性群の豚は、本菌に極めて高い感受性を有し、感染により重篤な症状を発現する。 大多数の群は自然抗体を保有し、移行抗体により発病を免れ、明らかな症状を示さない。 幼若豚の多くは、哺乳期の感染により保菌動物となる。 種々のストレスや呼吸器系病原体の感染は本菌による感染を重篤化させ、不顕性感染豚を発病させることがある。

豚胸膜肺炎の原因菌 豚胸膜肺炎の原因菌はActinobacillus pleuropneumoniaeで、グラム陰性、球~卵円形ないし桿状の微小桿菌(0.4~1.0μm)で、多形性、芽胞非形成、非運動性、非抗酸性、通性嫌気性で、培養菌は通常粘稠性に富む。 両端染色性で、発育にはV因子(NAD: Nicotinamide Adenine Dinucleotide)を要求する生物型1と非要求性の生物型2がある。 表層多糖抗原に基づき15の血清型に型別される。 毒性の異なる4種類の蛋白質性細胞毒(ApxⅠ, ApxⅡ, ApxⅢおよびApxⅣ)を産生し、 ApxⅠおよび ApxⅢの毒性は強い。 世界各地に分布しており、わが国では血清型1,2および5型が多く分離されている。

豚胸膜肺炎の症状 菌の血清型、感染菌数、豚群の免疫の程度、環境要因、飼養管理要因に応じて、甚急性から慢性の経過をとる。 甚急性・急性型では、突然元気消失・食欲廃絶して横臥する。 高熱(40.5~41.5℃)を発し、頻脈となり、下痢と嘔吐を伴うことも多い。 発病初期には呼吸器症状は顕著でないが、次第に呼吸促迫を示し、末期には重度の呼吸困難に陥り、チアノーゼを生じる。 鼻腔および口腔には、血液を混じた泡沫状の分泌物を認める。 重症例では24~36時間で死亡する。 耐過して慢性型に移行すると、発咳および食欲の減退がみられ、発育が遅延する。

豚胸膜肺炎の病変 甚急性・急性例の肺病変は、重度の水腫、炎症、出血、壊死を特徴とする。 胸腔には血液・線維素凝塊を混じた漿液が貯留し、瀰漫性線維素性胸膜炎および心外膜炎がみられる。 耐過例では病変の多くが消散し、残存する肺病変および線維素性胸膜癒着がみられ、他の病原体による病変との識別が困難である。 組織学的には、急性壊死性気管支肺炎像を呈し、毒素および関連する炎症反応は巣状血管壊死を導き、結果として限局性血栓症、水腫、虚血性壊死および線維素性胸膜炎をもたらす。

豚胸膜肺炎の診断・予防 V因子を添加した血液寒天培地を用いて本菌を分離するが、18~24時間の好気培養でβ溶血性のある灰白色集落(直径約1mm)を形成する。 同定はグラム陰性桿菌の確認、V因子要求性、ウレアーゼ陽性、マンニット分解能を確認する。 本病の発生防止にはオールイン・オールアウト方式による飼育が、清浄化には投薬早期離乳法による生産が有効である。 不活化ワクチン、組換え無毒化細胞毒含有不活化ワクチンおよび豚丹毒との混合不活化ワクチンが市販されている。