食の安心・安全の確保に関する基礎知識 鹿児島県立短期大学特別講義 2016年11月4日(金) 学習目標 鹿児島大学名誉教授 岡本嘉六 学習目標 食べることは、生きることの基礎であり、誕生以来、食べることを通して様々なことを学習し、躾(しつけ)られてきた。立場を変えてこれから親となり、子供にどう教えるか? 1.日本における食中毒事故の概要 2.細菌性食中毒: 大腸菌、サルモネラ、カンピロバクター 3.自然毒: フグやキノコの外に、ナチュラル志向 4.化学物質の安全性: 農薬、食品添加物 5.用量・反応関係: 食べる量と安全性 6.農場から食卓までの安全性確保
1.日本における食中毒事故の概要 46,000人 3,000件 22,700人 21人 1,200件 6人 35年間において事故件数と患者数は1990年代後半が最も多かったが、サルモネラ、大腸菌、カンピロバクターなど新たな菌種が国内侵入したためであった。 46,000人 3,000件 22,700人 21人 死亡数は増減を繰り返している。 1,200件 6人
平均 2.0 1.3 1.5 細菌については、 O157による死亡が15名、サルモネラが各8名、ウェルシュ菌とセレウス菌が各1名であった。 原因物質別死亡数 ノロウイルスおよび化学物質による死亡は発生していない。細菌より自然毒による死亡が多く、動物より植物による死亡が多い。
原因細菌別患者数 魚介類を原因食とする腸炎ビブリオは激減した。サルモネラは卵や肉を介して感染するが、新鮮な内に加熱調理すれば防げる。
食中毒事故件数の年間の変化 2014年 フグ料理は冬場が盛んであるが、自分で釣りをするので年中発生している。スーパーには年中キノコが出ているが、山菜狩りは春、キノコ狩りは秋が本場である。 ウイルスは生きている細胞の酵素系と有機物を利用して増殖し、外界では死滅する一方である。したがって、死滅が遅い気温が低い冬場に多発する。 細菌は、汚染食品中で増殖して、喫食者に食中毒を引き起こす。増殖に好都合な夏場に多発する。細菌が増殖できる25℃~55℃に放置してはダメ。買い物した後、道端で話し込むのはダメ。保存の際は、再加熱後流水で冷やし、冷蔵庫に保存。
食品汚染細菌・真菌に起因する疾病の種類と区分 感染 食品中で産生された毒素による障害 組織内侵入 喫食後に毒素産生 サルモデラ カンピロバクター 病原性大腸菌 腸炎ビブリオ エルシニア リステリア菌 毒素原性大腸菌 (O157、O111) ウェルシュ菌 セレウス菌 黄色ブドウ球菌 (腸管毒) ボツリヌス菌 (神経毒) ヒスタミン中毒 カビ毒 アフラトキシン (肝臓癌) ペニシリウム (黄変米) フザリウム (無)白血球症) 麦角菌 行政上は食中毒菌 チフス 赤痢 コレラ 行政上は経口伝染病 ヒトからヒトに直接感染する菌は経口伝染病扱いである。食中毒菌は食品中で増殖して数を増やした後に、感染または産生した毒素によって健康障害を引起し、少数の汚染は問題とならない。カビ毒は、長期間摂取することによって発癌などを引起す。
腸炎ビブリオ 1950年大阪で発生した「シラス中毒事故(患者272名中20名が死亡)」を契機に日本で発見された菌。 沿岸部海水中に生息し、水温が20℃を超えると増殖して魚介類に付着する。すなわち、夏場の近海魚はほぼ全て菌で汚染されている。 菌液の服用試験で、 10~100万個服用しないと発症しなかったが、1000万個以上服用した運動部学生は危篤状態になった。 ➔菌を増殖させない(冷蔵、刺身は早く食べる) 、魚を料理した包丁やまな板は熱湯消毒(海水と等しい塩分濃度の浅漬けで菌が増殖して中毒事故が起きている)。
黄色ブドウ球菌 食品中で菌が産生した毒素(エンテロトキシン)によって、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、頭痛などを起こす。毒素は100℃、30分の加熱でも失活しない。毒素の作用なので、喫食から発症までの潜伏期間が短い。 黄色ブドウ球菌はヒトや動物に常在している。切り傷が化膿するのはこの菌によるものであり、牛の乳房炎の原因菌である。 傷のある手でオニギリを作った ➔ 3~4時間すると毒オニギリ 牛の乳房炎 乳 洗浄不足 交差汚染 加熱不足 菌の増殖と毒素産生 保存温度と時間 家畜の化膿巣 肉・卵 調理人の手指傷 雪印乳業事故→メグミルク 2000年6月末、雪印乳業大阪工場で製造された牛乳を飲んだ学童を中心に14,780人の被害者が発生した。原料の脱脂粉乳を生産した北海道工場で停電事故中に菌が増殖し、廃棄処分しなかった。
原因物質別患者数 ウイルス(平均14,321) 細菌(9,529) 化学物質(245) 自然毒(317) ノロウイルスが最も多く、細菌がそれに次ぎ、自然毒や化学物質による患者数は1~2桁少ない。
サルモネラ 家畜や伴侶動物が保菌している。2000種類以上の血清型があり、各動物種に対する病原性を異にする。犬や猫の糞便(砂場の幼児)、不顕性感染している家畜から生産された畜産物の喫食によりヒトは感染する。 S. Infantis ブロイラー 肉 羽や骨は餌に加工され、感染鶏から汚染が広がる 非可食部分を餌に加工 S. Enteritidis 採卵用種鶏 卵 雛・育成 卵 調理時に肉の中心部まで十分加熱すれば、菌は死滅する。卵を生または半熟で食べる場合は、菌が増殖していない新鮮な卵を使用する。産卵する前に卵に入る菌はごく少数であり、卵白には菌の発育を抑える成分が含まれている。しかし、卵黄膜がもろくなり、卵黄が卵白に漏れ出すと、その抑制力が無くなり菌が増殖する。 保存温度と時間によって卵黄膜が脆弱化する 卵黄 濃厚卵白 水様卵白
カンピロバクター 様々な動物の腸管内に生息し、環境や食肉を汚染する。とくに鶏は無症状で保菌率が高い。 環境汚染により、飲用水や野菜が汚染されることもある。1982年に新規開店したスーパーが掘った井戸が汚染され、8000名近くの客が感染した。少数の菌で感染し、潜伏期が長かった。 低温では長期間生存するので、冷蔵庫を過信してはならない。他方、乾燥と熱に弱く、調理時の加熱が有効である。 「トリ刺し」は、表面を焼くかまたは「湯通し」した「タタキ」である。名称から「生食」と思って食べている鹿児島県外で食中毒が多発している。
腸管出血性大腸菌 1996~2010年における年齢別発生状況 1996年に堺市の学校給食で起きた事故により国民の関心が高まったが、その後も死亡事故が絶えない。 2002:病院または老人保健施設の給食を喫食 2011:焼き肉店が生の牛肉を「ユッケ」と称して提供 2012:高齢者施設で白菜浅漬を原因 発生件数 患者数 死者数 1996 179 14,488 8 1997 176 5,407 1998 16 183 3 1999 46 2000 113 1 2001 24 378 2002 13 273 9 2003 12 184 2004 18 70 2005 105 2006 2007 25 928 2008 17 115 2009 26 181 2010 27 358 2011 714 7 2012 392 2013 2014 766 平均 36 1,315 2 1996~2010年における年齢別発生状況 年齢 患者数 % 死者数 致命率 0~4 583 2.5 1 4.5 17.2 5~9 7426 32.3 4 18.2 5.4 10~14 4678 20.3 2 9.1 4.3 15~19 1442 6.3 0.0 20~29 2147 9.3 30~39 1540 6.7 40~49 1807 7.9 50~59 1796 7.8 11.1 60~69 728 3.2 >70 431 1.9 13 59.1 301.6 不詳 429 死亡は、ハイリスク者(年少者、高齢者、妊婦、免疫低下者、糖尿病などの基礎疾患)で起きている。健康保菌し、食中毒外のヒト・ヒト感染が多い。
腸管出血性大腸菌の感染様式 非加熱の食肉 子供には 食べさせない! 用便後の便器、ドアノブには、下痢便中の大腸菌が付着する。 レバー刺し 細切れ生牛肉 子供には 食べさせない! 発酵不十分な堆肥 用便後の便器、ドアノブには、下痢便中の大腸菌が付着する。 その後に利用する子供は・・・ 調理時の交差汚染 大人は腹痛・下痢程度で終わるが・・・ この感染経路を断つのは難しい!
死亡事故の原因食と発生場所(全54名) 2014年2名 フグ(家庭1名)、 イヌサフラン(家庭1名) 2013年1名 キノコ(家庭1名) 2014年2名 フグ(家庭1名)、 イヌサフラン(家庭1名) 2013年1名 キノコ(家庭1名) 2012年11名 アオブダイ(家庭1名)、 トリカブト(家庭2名)、白菜きりづけ(製造所8名、腸管出血性大腸菌) 2011年11名 昆布の煮物(家庭1名、サルモネラ)、生卵入りオクラ納豆(家庭1名、サルモネラ)、 1名?(家庭、サルモネラ)、フグ(飲食店1名)、柏餅(製造所1名、腸管出血性大腸菌)、 サンドウィッチ(老人ホーム1名、腸管出血性大腸菌)、5名ユッケ(飲食店、腸管出血性大腸菌) 2010年 なし 2009年 なし 2008年4名 フグ(家庭2名)、1名昼食(家庭、セレウス菌)、 フグ(販売店1名) 2007年7名 3名フグ(家庭)、キノコ(家庭2名)、 グロリオサ(家庭1名)、植物性自然毒(家庭1名) 2006年6名 フグ(家庭1名)、 キノコ(家庭2名)、 グロリオサ(家庭1名)、弁当(仕出屋1名、ウェルシュ菌) 、 ?(? 1名、サルモネラ) 2005年7名 2名フグ(家庭)、 3名キノコ(家庭)、 1名トリカブト(家庭)、 1名グラタン(飲食店、サルモネラ)、 2004年5名 フグ(家庭1名)、キノコ(家庭1名)、 ?(家庭1名、サルモネラ)、フグ(販売店1名)、 ?(? 1名、サルモネラ)、 かつてはなかったナチュラル志向と業界不信が、毒草を食べさせる 自然毒30名(動物性14名、植物性16名)、細菌24名; 家庭32名、その他22名
自然毒 自然毒食中毒患者数 (数字は死亡数) 2 1 3 4 植物性:死亡16名 動物性:死亡14名 自然毒食中毒患者数 (数字は死亡数) 2004~15年に動物性は796名(年平均66名)の内14名が死亡し、致命率1.76%であった。植物性は3,013名(年平均251名)の内16名が死亡し、致命率0.53%であった。発生件数は植物性が4倍と多いが、致命率は動物性が3倍以上であった。 死亡の内訳は、動物性はフグ:家庭10名、飲食店1名、販売店2名。アオブダイ:家庭1名、植物性はキノコ:家庭9名、トリカブト:家庭3名、グロリオサ:家庭2名、イヌサフラン:家庭1名、植物性自然毒:家庭1名)であった。 フグは、種類、産地、季節、ならびに部位によって毒性が異なる。各県(東京都1949年、鹿児島1960年)はふぐ取扱業取締条例を交付し、所定の試験に合格した者でないとフグを取扱う事が出来なくなっている。自分で釣ったフグを食べるのは自殺行為! 知らない山菜を調理する主婦は、家族を死に追いやっている。
自然毒の脅威との戦いが人類史の一側面 ボツリヌス毒 破傷風毒 ジフテリア毒 パリトキシン テトロドトキシン サキシトキシン 0.00003 50%致死量 μg/kg mouse 産生・保有 ボツリヌス毒 破傷風毒 ジフテリア毒 パリトキシン テトロドトキシン サキシトキシン 0.00003 0.0001 0.3 0.6 8.7 10 土壌細菌 病原細菌 イソギンチャク類 フグ、ヒョウモンダコ 二枚貝 1000倍 青酸カリ 10,000 1億倍: 有機信者の泥付野菜は怖い! 青酸配糖体:アミグダリン(ウメ、アンズ、モモ)、ドーリン(イネ科) ファゼオルナチン(アオイマメ)、リナマリン(キャサバ) 青酸配糖体を含む生薬: キョウニン(杏仁)、トウニン、ショウキョウ
グロリオサ: 和名で、キツネユリとも言い、観賞用栽培が広がっている。球根はヤマノイモやナガイモに似ている。 気候が適した東日本ではキノコ狩りが盛んであるが、ベテランと同行しない限り、素人が可食性を判断できない。ツキヨタケ、クサウラベニタケ、カキシメジによる中毒が多い。 年 2014 2013 2012 2011 2010 2009 事故数 24 37 57 38 91 40 患者数 85 108 166 100 263 126 トリカブト:食べると嘔吐・呼吸困難などから、摂取後数十分で死亡する。即効性で、解毒剤はない。1986年には「トリカブト保険金殺人事件」が起きている。 グロリオサ: 和名で、キツネユリとも言い、観賞用栽培が広がっている。球根はヤマノイモやナガイモに似ている。 イヌサフラン:自宅庭に植えていた球根を茹でてたべた。 ジャガイモ:芽や緑変部にソラニンがある。2009年に小学校で栽培・収穫・調理し、26名中半数が発症した。 ギンナン:数十個を子供に与えて救急車で運ばれた。 子孫を残すため、種・実に毒を持つものが多い
ナチュラルとは? 「自然のままが安全であり、ヒトが手を加えることで危害が生じる」というナチュラル思考は正しいか? 弱肉強食の生存競争が自然の姿であり、全ての生物種は他種の餌となって滅びないための防御システムと他種を餌として繁栄するシステムを備えている。肉食獣は草食獣を餌にし、草食獣は植物を食べて生きている。さらに、寄生虫、細菌、ウイルスは、もっぱら宿主に依存・搾取することで繫栄し、宿主を損ねている人類最大の敵である。 「自然の食べ物は安全である」は正しいか? 現在食卓に上っているものは、人類が野生生物を改良して安全性、栄養価、嗜好性を高めてきた品種である。ブタはイノシシから、米は「赤米や黒米」として現在も残っている古代の原種を改良したものである。野生の生き物は、食用として決して安全ではない。 「安全な食品」は、生産から消費まで人為的管理によって得られる。 適切な工程管理によって、生産、流通、調理の安全性を向上させることで、食品による健康障害を防ぐことができる。「安心して食べる」ためには、適切な工程管理が行われていることを確認することが必要で、それは社会システムとして構築しなければならない。
事故と事件 和歌山毒物カレー事件 「化学物質が怖い」と言うおばあちゃん、それを聞いて育ったお母さん、そのお母さんに育てられたあなたは・・・ 1998年7月25日夕方、和歌山市で行われた夏祭において、提供されたカレーに毒物が混入された事件。67人が腹痛や吐き気などを訴えて病院に搬送され、4人(64歳男性、54歳男性、16歳女性、10歳男児)が死亡した。当初保健所は食中毒事故によるものとして調査したが、警察庁の科学警察研究所が亜ヒ酸の混入と解明した。 食中毒事故: 調理手順等を誤って有害な料理ができた(過失)。 毒物混入事件: 危害を加える目的を持って作った料理(故意)。 「怖い化学物質がある」のは事実であり、そのため「劇毒物取締法」や「農薬取締法」等によって有資格者以外の取扱いを禁止している。そうした「怖い化学物質」が調理場に紛れ込むことは、犯罪以外にあり得ない。台所包丁を用いたバラバラ殺人事件が発生しているが、身の回りには犯罪に利用できるものが無数にある。犯罪を生まない社会を作ることは重要であるが、犯罪と食の安全は別問題だ。
農薬散布時事故 ニカメイチュウ防除のためにパラチオンが販売許可された1954年(昭和29年)には、散布時に1957名が中毒し、307名が死亡した。翌年「特定毒物指定制度」が導入されたが、散布時事故は収まらず毎年数十名の死亡が続いた。パラチオンが農薬登録取消しになったのは、米の自給が達成された後の1969年であり、それまで農業者は犠牲を強いられたのである。 パラチオンを含めて有機リン系殺虫剤は植物体内や環境中での分解速度が速く、残留問題は発生しにくい。事実、パラチオンの農産物残留による健康被害は記録されていない。
ヒ素ミルク事件:食品添加物問題 1955年(昭和30年)6月頃から主に西日本を中心として乳幼児の奇病が発生した。8月になって、患児が特定のドライミルクを飲用していることが判明した。製造工程でのヒ素汚染が確認され、 12,344名が神経障害、臓器障害などの中毒症状を呈し、内131名が死亡した。 日本軽金属がボーキサイトからアルミを精製する際に出た産業廃棄物を新日本金属に顔料原料として売却 松野製薬会社がそれを買取り、別の化学会社に精製させた第二リン酸ソーダを森永乳業徳島工場に納品 その当時は、農場にバルクーラー、輸送にタンクローリーという冷蔵システムがなく、集乳缶をトラックに積んで乳工場まで常温輸送していた。そのため、細菌が増殖してpHが下がり、粉ミルク製造の加熱工程で固まることがあり、それを防ぐのに中和剤として第二リン酸ソーダを使用していた。現在とは事情が全く違う。 この事故までは、最終製品に確認できるものだけが食品添加物に指定されていたが、最終製品に残らない物質も指定するように食品衛生法が改正された。年配の方が食品添加物を怖がるのは、この事件と発癌性の懸念だが、そのような科学的事実は、もはやない。
2.用量・反応関係: 食べる量と安全性 閾値(いきち)とは、生体に何らかの悪影響を及ぼす最小濃度であり、動物実験や疫学的研究によって求められた科学的数値である。 DNAに障害を与えると、 DNA ➔RNA ➔蛋白の増幅回路が働き、代謝異常がおきて癌などの障害が発生する。閾値がない物質の低濃度領域は、実験できない。食品に限らず、100%安全なことは世の中にはなく、リスクを下げることしかできない。
日本における食中毒、糖尿病、心疾患による死亡の推移 罹患率、死亡率とも人口10万当り 食中毒 糖尿病 心疾患 患者数 罹患率 死亡数 死亡率 1960 37,253 39.5 218 0.231 3.4 73.2 1970 32,516 31.1 63 0.060 7.4 86.7 1980 32,727 28.0 23 0.020 7.3 106.2 1990 37,516 30.4 5 0.004 7.7 128.1 2000 43,307 34.1 4 0.003 9.8 116.8 2010 25,972 20.3 11.4 149.8 食の安全性とは、食品自体の安全性とともに、「安全な食品であっても<危険な食べ方>をすると健康を害して病気になる」事態を防ぐことも重要である。 2005年に制定された食育基本法で、食育を「健全な心と身体を培い豊かな人間性をはぐくんでいく基礎となるもの」とし、「食に関する知識と食を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる」とされている。
閾値がある化学物質の用量・反応関係 生態への影響 一日摂取許容量(ADI)とは、一生涯毎日食べ続けても健康への悪影響が出ない量 致死量 中毒量 個体差 1/10 種差 1/10 医薬品の用量 ADI 無作用量 用量 動物に所定濃度の餌を食べ続けさせ、急性毒性、慢性毒性、発癌性、催奇形性、繁殖障害、薬理試験(中枢神経、自律神経、呼吸・循環器、消化器、血液、骨格筋)などを総合して求めた無作用量の1/100の用量であり、国際機関によって承認されている。
閾値がない化学物質の安全性 ベンゾピレン ニトロソアミン 加熱分解物質 日常的に発癌物質を食べており、それは避けられない。「ゼロリスクはありえない」ことを前提として、リスクを下げる努力をする。 世界最初に日本人が発見した化学発癌物質で、有機物質の不完全燃焼の過程で生成される様々な多環芳香族炭化水素➔焼け焦げを食べない ベンゾピレン 野菜の硝酸が体内で代謝された亜硝酸と魚肉の二級アミンと胃内反応して生成する➔日本食で胃癌が多い理由の一つ ニトロソアミン アミノ酸の一種であるトリプトファンの加熱分解物Trip-P1などは、ベンゾピレンより数千倍の突然変異原性を持っている➔生野菜が突然変異原性を軽減してくれる 加熱分解物質 動物を用いた発癌試験では多くの検体をこなせないので、培養細胞系による突然変異原性試験が行われ、陽性物質は食用から除外されている。これまでに全ての農薬や添加物などが国際的に検査され、陽性となったものは製造・販売禁止になってきた。
3.化学物質の安全性: 農薬、食品添加物 一日摂取許容量(ADI ) 許容残留量(MRL) 3.化学物質の安全性: 農薬、食品添加物 一日摂取許容量(ADI ) 許容残留量(MRL) 小麦: 10ppm(mg/kg) さやいんげん: 0.5 ADIを達成するため、全ての食品に許容残留量(MRL)を設定する。 市販食品の喫食による量は、ADIを大きく下回っている。 枝豆:0.5 トマト:0.2 大豆:0.2 米:0.2 動物の生涯に亘る投与試験から求められた一日摂取許容量(ADI)は、ヒトが生涯に亘って摂取しても健康に影響しない量である。 当該の有害物質が含まれ得る全ての食品について、摂取量を加味しながら、それぞれの食品について許容残留量(MRL)が設定される。
実際の残留量 一過性の超過は健康に影響せず こむぎ さやいんげん コムギ さやいんげん トマト 枝豆 枝豆 トマト 大豆 大豆 米 米 農水省がそれぞれの食品の実際の残留分析値を測定して公表している。分析値はMRLを大幅に下回っており、 MRLを超える事例はきわめてまれ(年に数検体)である。 仮に、トマトの残留値がMRLを超えても、総体としてはADIの範囲内にある。しかも、一過性のことであり、一生涯を通しての摂取を想定したADIであるから、短期間の暴露は健康に全く影響しない。
中国産餃子事件:メタミドホス 2007年12月下旬から2008年1月にかけて中国製冷凍餃子を食べた千葉県千葉市、市川市、兵庫県高砂市の3家族計10人が下痢や嘔吐などの中毒症状を訴え、このうち、市川市の女児が一時意識不明の重体になった。 このような急性毒性を示す濃度は、通常の「残留」では起こりえず、製品段階で誰かが意図的に毒物混入したことが明らかだった。 県警が餃子を鑑定したところ、メタミドホスなど有機リン系殺虫剤が検出され、餃子の皮では3580ppm、具では3160ppmと数個食べただけで死に至る可能性がある量であった。メタミドホスは日本では農薬として登録されたことがなく、中国では2007年1月から販売と使用が全面禁止されていた。 混入地点を巡って日中の公安当局の応酬が続いたが、2009年3月になって毒物を混入させた容疑で天洋食品の元従業員が拘束された。このような有害物質の意図的混入は、解雇などのトラブル、増量による営利目的(粉ミルクへのメラミン添加)、未承認医薬品を用いたダイエット食品など中国の食品製造業界のモラルが指摘されている。
2) 生の食材と調理済み食品を分ける 1) 清潔の維持 4) 安全な温度に保つ 3) 完全に加熱する 5) 安全な水と原材料を使用する 食品をより安全にする5 つの鍵(WHO) 2) 生の食材と調理済み食品を分ける * 生の赤身肉、家禽肉および魚介類をその他の食品と分ける *生の食材を調理するための包丁やまな板などの機器と器具は区別して使う * 生の食材と調理済み食品が接触しないように、別々の容器で保存する 1) 清潔の維持 *食品を取扱う前だけでなく、調理中も頻繁に石鹸で手を洗う *トイレ後は石鹸で手を洗う * 全ての表面と食品の調理に使用した器具を洗って消毒する * 害虫、害獣およびその他の動物から台所と食品を保護する 4) 安全な温度に保つ * 調理した食品を2 時間以上室温に放置しない。 * 調理済み食品と傷みやすい食品は全て速やかに冷蔵する(5°C 以下が好ましい)。 * 調理した食品は食べるまで熱い状態(60°C 以上)を保つ。 * 冷蔵庫内でも食品を余りに長期間は保存しない。 * 冷凍食品を室温で解凍しない。 3) 完全に加熱する * 食品、とくに赤身肉、家禽肉および魚介類は十分に加熱する * スープやシチューなどの食品は、具の中まで確実に70℃に達するよう沸騰させる。食肉は、肉汁がピンク色でなく確実に透明になるにする。理想的には、調理用温度計を使用する * 調理済み食品は完全に再加熱する * フライ、網焼き、オーブン焼きする際に、有害物質が生じるのを避けるため、過度に加熱しない 5) 安全な水と原材料を使用する * 安全な水を使用するか、または安全にするための処理をする。 * 新鮮で健全な食品を選ぶ。 *殺菌乳のような安全処理された食品を選ぶ。 * 果物や野菜は、生で食べる場合はとくに、良く洗う。 * 消費期限を過ぎた食品を使用しない。
6.農場から食卓までの安全性確保 食肉の安全性に関わる社会システム(1) リスク・レベルのモデル 農場 食肉センター 流通過程 消費過程 リスクが減るのは2箇所だけ リスク・レベルのモデル 調理時の加熱は細菌を殺滅する。 しかし、食材や料理を室温での放置すれば、菌は増殖する。 輸送距離が延びるにつれ、細菌増殖に必要な時間も長くなる。 温度管理等の法的基準もない。 病気 動物薬残留 食中毒菌 薬剤耐性菌 と畜検査員による法律に基づく検査 農場 食肉センター 流通過程 消費過程 素畜 飼料・飲水 畜舎環境 動物薬 食肉検査 食肉検査 解体 カット 出荷 輸送 市場 問屋 小売店 調理 調理 保存 喫食 食肉の安全性に関わる社会システム(1)
? ? 食肉の安全性に関わる社会システム(2) リスク・レベルのモデル GAP HACCP 農場 食肉センター 流通過程 消費過程 農場における 適正な衛生管理 リスク・レベルのモデル 解体処理工程など 食肉センターの 衛生管理 消費者は GAP ? ? HACCP リスクは 残る! 流通過程が 変わらなければ 農場 食肉センター 流通過程 消費過程 飼料・飲水 素畜 畜舎環境 動物薬 食肉検査 解体 カット 出荷 輸送 市場 問屋 小売店 調理 保存 喫食 食肉の安全性に関わる社会システム(2)
「農場から食卓まで」の、全ての段階で安全性確保対策を実施することによって、初めてリスクが小さくなる。 食品輸送衛生法 (米国、1990) 台所のHACCP 適正取扱い規範 リスク・レベルのモデル 消費者 教育 流通過程の 衛生基準 GAP ? ? HACCP 農場 食肉センター 流通過程 消費過程 「農場から食卓まで」の、全ての段階で安全性確保対策を実施することによって、初めてリスクが小さくなる。 素畜 飼料・飲水 畜舎環境 動物薬 食肉検査 解体 カット 出荷 輸送 市場 問屋 小売店 調理 保存 喫食 食肉の安全性に関わる社会システム(3)
農業生産工程管理(GAP: Good Agricultural Practice) GAPの共通基盤に関するガイドライン(農林水産省) 農業生産活動を行う上で必要な関係法令等の内容に則して定められる点検項目に沿って、農業生産活動の各工程の正確な実施、記録、点検及び評価を行うことによる持続的な改善活動のこと。 GAPの共通基盤に関するガイドライン(農林水産省) ガイドラインにおける取組事項(野菜) 1 食品安全を主な目的とする取組 ほ場環境の確認と衛生管理、農薬の使用、水の使用、肥料・培養 液の使用、作業者等の衛生管理、機械・施設・容器等の衛生管理、収穫以降の農産物の管理 2 環境保全を主な目的とする取組 農薬による環境負荷の低減対策、肥料による環境負荷の低減対策、土壌の管理、廃棄物の適正な処理・利用、エネルギーの節減対策、特定外来生物の適正利用、生物多様性に配慮した鳥獣被害対策 3 労働安全を主な目的とする取組 危険作業等の把握、農作業従事者の制限、服装及び保護具の着用等、作業環境への対応、機械等の導入・点検・整備・管理、機械等の利用、農薬・燃料等の管理、事故後の備え 4 農業生産工程管理の全般に係る取組 技術・ノウハウ(知的財産)の保護・活用、情報の記録・保管、生産工程管理の実施、記録の保存期間
HACCPと衛生水準 永続的改善システム 再吟味 検証 記録 必須管理点 危害解析 再吟味 検証 記録 必須管理点 危害解析 加工手順 衛生標準作業手順 SSOP 再吟味 検証 記録 必須管理点 危害解析 衛生標準作業手順 SSOP 再吟味 検証 記録 必須管理点 危害解析 衛生標準作業手順 SSOP HACCPは定まった衛生水準を規定するものではなく、衛生水準を向上させる永続的システムであり、そのシステムの可否を認証するものである。 標準作業手順 SOP 一般的衛生管理 PP 加工手順 食品衛生法 HACCPと衛生水準
相互理解と協力に基づく信頼性構築が基礎となる 食品の安全性: 科学に基づく合理的判断 安心: 食料生産提供網に対する信頼感 相互理解と協力に基づく信頼性構築が基礎となる なぜ安心できるのか? 1.FAO、WHO、Codex委員会、OIEなどの国際機関が、世界的科学者を集めた委員会で農場から食卓までの安全性確保に関する基準を策定している。これらの国際基準を満たさない食料は、輸入検疫によって排除されている。 2.ISO、Global GAP、SQFなどの民間機関による第三者認証システムが国際展開しており、多くの食品産業がそれらの認証を取得している。貿易に参入する食品産業は、取引相手から認証取得の証明書の提示を求められる。 3.国内農産物については、農水省および県の主導によるGAP認証が推進されている。 4. 上記の基準や認証の基礎となっているHACCPやGAPは、農場から食卓までの食品の安全性を確保するための最新の科学的方法である。
Integrated Pest Management
テントウムシ科 生物農薬? テントウムシの食性は種類によって大きく異なる。 肉食性:アブラムシやカイガラムシなどを食べる益虫 テントウムシ科 生物農薬? テントウムシの食性は種類によって大きく異なる。 肉食性:アブラムシやカイガラムシなどを食べる益虫 菌食性:うどんこ病菌などを食べる益虫 草食性:ナス科植物などの葉を食べる害虫 農薬の使用によってテントウムシなどの益虫を減らすだけ ナナホシテントウ アブラムシ、ハダニ ナミテントウ アブラムシ でなく、生態系のバランスを崩すことによる思わぬ影響もあり得る。 ベダリアテントウ ワタフキカイガラムシ シロホシテントウ うどんこ病菌 ニジュウヤホシテントウ ナスやジャガイモ 天敵Wikiへようこそ
タイリクヒメハナカメムシ:アザミウマ類、アブラムシ類・ダニ類等を広く捕食 タバコカスミカメ:ナス、ピーマンの施設栽培で利用 スワルスキーカブリダニ:複数の種類の害虫を捕食。ピーマンで利用 チリカブリダニ、ミヤコカブリダニ:ハダニを捕食。いちごで利用 ハダニを捕食中 市販されている
かごしまの農林水産物認証制度(K-GAP) 「安全」とは、生産・栽培基準に適合した生産管理又は栽培管理がなされ、適正に管理された施設等で集出荷が行われていること。 生産・栽培基準:安全性などを考慮した関係法令等を踏まえ、県が策定した生産又は栽培に関する指針及びそれらに基づき地域で作成する生産又は栽培に関する基準等をいう。 「安心」とは、生産履歴等の記録・保存の確実な実施、生産管理責任者等の設置、適正な表示、消費者の疑問若しくは質問又は万が一の事態に速やかに対処できるなど消費者の信頼を得られる体制が整備されていること。 2015年9月29日現在、65品目254団体・個人(298件)が認証。 野 菜(豆類):17 野 菜(果菜類):43 野 菜(根菜類):104 野 菜(葉茎菜類):30 果 樹(果物):42 米:19 茶(緑茶):14 卵(鶏卵):4 たけのこ(青果):2 原木栽培きのこ:12 菌床栽培きのこ:3 エビ養殖:3 海面魚類養殖:2 1 化学肥料低減:5 2 農薬低減: 2-1 節減対象農薬当地比5割以上減:21 2-2 農薬栽培期間中不使用:1 3 特別栽培農産物(化学肥料,節減対象農薬ともに当地比5割以上低減):34
学習目標 食べることは、生きることの基礎であり、誕生以来、食べることを通して様々なことを学習し、躾(しつけ)られてきた。立場を変えてこれから親となり、子供にどう教えるか? 1.日本における食中毒事故の概要 2.細菌性食中毒: 大腸菌、サルモネラ、カンピロバクター 3.自然毒: フグやキノコの外に、ナチュラル志向 4.化学物質の安全性: 農薬、食品添加物 5.用量・反応関係: 食べる量と安全性 6.農場から食卓までの安全性確保 食の安全は、量的確保が大前提である。自給率4割の日本が、人口爆発による世界的飢饉を乗り越えられるか? 国内生産を増やし、自給率を高めることが消費者の役割である。