2. 対応力向上 編(480分) (2) せん妄 1. 基本知識 編(180分) 3. マネジメント 編(420分) (1) 認知症

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2. 対応力向上 編(480分) (2) せん妄 1. 基本知識 編(180分) 3. マネジメント 編(420分) (1) 認知症 2.対応力向上編(2)せん妄 1. 基本知識 編(180分) 2. 対応力向上 編(480分) (1) 認知症 (2) せん妄 (3) 地域連携 (4) 事例検討(認知症、せん妄) 3. マネジメント 編(420分) (1) マネジメント (2) 人材育成 (3) GW ①自施設の現状 ②人材育成計画の策定

キーメッセージ ● せん妄は意識障害 ● 身体状態に注意することにより対処可能である ● 低活動型のせん妄にも注意をする ● せん妄の発症リスクを評価し、予防につなげる ● せん妄の予防・対応は、医療チームで対応する せん妄は問題行動という認識でとらえられがちであるが、身体的問題で生じた意識障害であり、意識障害の治療をおこなうことで、予防や改善が可能であること せん妄には、過活動型せん妄と低活動型せん妄があり、どちらも患者の生命予後に影響する。 過活動型せん妄は問題行動として認知されやすいが、活動が低下する。低活動型せん妄は、症状に気づきにくいため見落とされがちである。 せん妄は単一の要因で生じることは少ない。複数の要因が重なり生じるため、その要因を丁寧に検索し、対応することが基本である。原因検索と対応は、看護だけではなく、医師やリハビリを交えた多職種で進めることが効果的である。 せん妄への対応のポイントをまとめる ・せん妄は「意識障害」であること ・せん妄は問題行動という認識でとらえられがちであるが、身体的問題で生じた意識 障害であり、意識障害の治療をおこなうことで、予防や改善が可能であること をまず確認することが重要である。 せん妄には、過活動型せん妄と低活動型せん妄があり、どちらも患者の生命予後に影響する。過活動型せん妄は問題行動として認知されやすいが、活動が低下する。低活動型せん妄は、症状に気づきにくいため見落とされがちである。 せん妄は単一の要因で生じることは少ない。複数の要因が重なり生じるため、その要因を丁寧に検索し、対応することが基本である。原因検索と対応は、看護だけではなく、医師やリハビリを交えた多職種で進めることが効果的である。

せん妄の影響 ● 危険行動による事故・自殺 ● 家族とのコミュニケーションの妨げ 家族の動揺 ● 意思決定ができない ● 医療スタッフの疲弊   家族の動揺 ● 意思決定ができない ● 医療スタッフの疲弊 ● 入院期間の長期化 せん妄が引き起こす問題について ・医療管理上の問題: 転倒、転落、ルートトラブルとの関連 ・家族とのコミュニケーションの阻害 ・意思決定能力の低下、喪失と、治療方針決定の遅れ ・結果として、患者の意向に沿った治療を提供できない、対応の負担による 医療スタッフの疲弊 ・入院期間の長期化(米国では8000ドル程度の負担増加) が指摘されている。 Litaker et al.,Gen Hosp Psychiatry,2001 Lawlor et al.,Arch Intern Med,2000 Inouye et al.,N Engl J Med,1999

せん妄が起こったら、再アセスメントのタイミングである。 せん妄は身体管理の問題でもある せん妄は多臓器不全の一種 全身状態の変化の予兆(呼吸、循環、代謝、感染など) 問題行動として、問題行動への対処(抑制、鎮静)のみ考えるのではなく、全身状態悪化の想起サインとしてとらえ、原因の探索と治療につなげることが意識されてきている。 せん妄が起こったら、再アセスメントのタイミングである。 絶好のチャンスと捉えましょう せん妄に関しては、集中治療領域を中心に、そのとらえ方が変化してきている。 大きくは、せん妄が身体的問題により生じた「意識障害」として再認識されてきている点である。 つまり、問題行動として、問題行動への対処(抑制、鎮静)のみ考えるのではなく、 全身状態悪化の想起サインとしてとらえ、原因の探索と治療につなげることが意識されてきている。

せん妄体験は苦痛である 非常につらい (4) 80% 3.2 妄想 76% 3.8 (0.5)* PS 73% 3.1 (0.8) 幻覚、 対象 :せん妄の体験を記憶していたがん患者54人(53.5%) :家族 75名 :看護師101名 患者 (N=54) 家族 (N=75) 看護師 (N=101) 評価 (0-4点) 非常につらい (4) 80% 3.2 (1.1) 妄想 76% 3.8 (0.5)* PS 73% 3.1 (0.8) 幻覚、 せん妄重症度 平均(SD) 予測因子 入院中のがん患者を対象として、せん妄を記憶している割合、苦痛の程度、およびせん妄が患者の家族や看護師に与える影響を検討した報告。 せん妄から回復しせん妄の体験を記憶していた患者さんは54人で回復したせん妄患者のうち約半数でした。家族75名、看護師101名に苦痛を0から4点で評価してもらった結果、非常につらいと4点をつけた割合が、患者自身80%、家族76%、看護師73%といずれも高い割合で強い苦痛を感じていることがわかる。 これは平均値ですが、苦痛の程度は家族でもっとも高い。苦痛の予測因子となっているものは、患者の苦痛には妄想の存在、家族の苦痛には患者のPS、看護師の苦痛には患者のせん妄の重症度と幻覚の存在だった。 このようにせん妄は意識障害であるものの患者さん自身の苦痛につながるものであること、また関わっている家族、看護師さんにとっても強い苦痛を与える疾患であることがわかる。 *P<.001 (one-way ANOVA) Breitbart et al, Psychosomatics, 2002 こんな場面を見たことはありませんか・・・?! 受け持ち看護師や主任・師長が家族に対して「夜中の徘徊や処置をしようとしても暴れたりして、治療にならない」「ほかの患者さんに迷惑」「このままこの状態が続くなら入院継続は困難」⇒医療者(看護師の)の能力不足の転嫁【能力不足を露呈してる様なもの】

「身体拘束やドラックロックでその場しのぎで対処」 せん妄とは 中枢神経系の脆弱性があるところに、身体的・環境的な負荷が加わり、脳が機能的な破綻をきたした状態 注意と認知の障害: 意識障害 ①精神運動活動の変化と②睡眠覚醒リズムの障害を伴う 急性に発症、一時的・可逆的な障害 一般的にみられるにもかかわらず、30-60%が見過ごされたり、不適切な治療を受けている 「身体拘束やドラックロックでその場しのぎで対処」 となってしまっているのが現状である。

せん妄の疫学 せん妄は頻度が高い 入院患者の20-30%に合併する。 医療従事者は誰もが経験する精神症状である 認知症をもつ患者では頻度が高まる

せん妄の診断基準(DSM-5) 注意の障害(すなわち、注意の方向づけ、集中、維持、転換する能力の低下)および意識の障害(環境に対する見当識の低下) その障害は短期間のうちに出現し(通常数時間~数日)、もととなる 注意および意識水準からの変化を示し、さらに1日の経過中で重症度 が変動する傾向がある さらに認知の障害を伴う(例:記憶欠損、失見当識、言語、視空間 認知、知覚) 基準AおよびCに示す障害は、他の既存の、確定した、または進行中 の神経認知障害ではうまく説明されないし、昏睡のような覚醒水準の 著しい低下という状況下で起こるものではない 病歴、身体診察、臨床検査所見から、その障害が他の医学的疾患、 物質中毒または離脱(すなわち、乱用薬物や医療品によるもの)、ま たは毒物への曝露または複数の病因による直接的な生理学的結果に より引き起こされたという証拠がある せん妄の診断基準(DSM-5)を示す。 このスライドは、特に覚える必要はないが、せん妄の臨床上の確認に簡略化して用いてもよい。

せん妄の中核症状 「注意障害」と「睡眠覚醒リズム」 せん妄の評価 次ぎの場合、せん妄を疑う:医療者は専門を念頭にアセスメント 〈本人より〉 認知症症状との 鑑別診断が 難しい・・・ 〈本人より〉 ●ぼんやりする ●集中できない 〈家族より〉 ●最近言っていることがおかしい ●忘れっぽくなっている ●昼はずっとうとうとしており、夜は眠れていない 〈看護師より〉 ●点滴中に点滴台を持たずに歩こうとして危険 ●言っていることのつじつまが合わない せん妄の中核症状は、注意障害と睡眠覚醒リズムの障害である。 軽度の場合は、本人の自覚症状を尋ねることで、微細なサインをとらえることができる。 中等度に達すると、客観的な症状として気づかれるようになる。 せん妄の症状は、注意の障害であり、それが忘れっぽい、情動の変化などさまざまな形にかえて現れる。そのため、医療者は「せん妄」を念頭にアセスメントする必要がある。 せん妄の中核症状 「注意障害」と「睡眠覚醒リズム」

せん妄の分類 ● 過活動型せん妄 (hyperactive delirium) 20% ルート類の抜去や切断、転倒・転落など問題行動 として発見 ● 低活動型せん妄 (hypoactive delirium) 30% 混乱・鎮静が中核症状症状に乏しいため見過ごされる ● 混合型(mixed) 50% せん妄の分類の一覧 (DSM-5では、混合型は活動水準混合型と分類が変更されている。ここでは、以前 から用いられている混合型で表記する) 重要な点は、過活動型せん妄と低活動型せん妄は同様に発症することである。臨床では、どうしても「行動の見える」過活動型が気づかれ、「行動が見えにくい」低活動型は見落とされがちである点を意識したい。 Lipowski et al., 1990

せん妄は見落とされる 看護師はせん妄の70~80%を見落としている 患者 2,721名 看護師の評価 せん妄あり 239名 せん妄なし 患者 2,721名 看護師の評価 せん妄あり 239名 せん妄なし 2,482名 19% 4% 81% 96% 経験に基づく評価では、 看護師はせん妄の70~80%を見落としている 見落とす要因としては、 ①低活動型せん妄、 ②高齢(年だがら、との誤解)、 ③感覚障害(白内障などの視覚障害、難聴など聴力障害)の合併があげられる。 せん妄は、その症状が多彩なために、系統だった評価をすることが望ましい。 アメリカの高齢者病棟での検討では、看護師の経験に基づいた判断を米国精神医学界の診断基準をゴールドスタンダードとして比較をすると、80%で見落としていることが明らかとなった。 見落とす要因としては、①低活動型せん妄、②高齢(年だがら、との誤解)、③感覚障害(白内障などの視覚障害、難聴など聴力障害)の合併があげられる。 Inouye et al., Arch Int Med 2001

せん妄と認知症の臨床的特徴 せん妄 認知症 発 症 急激 緩徐 日内変動 夜間や夕刻に悪化 変化に乏しい 初発症状 錯覚、幻覚、妄想、興奮 記憶力低下 持 続 数時間 ~ 1週間 永続的 知的能力 動揺性 変化あり 身体疾患 あることが多い 時にあり 環境の関与 関与することが多い 関与ない せん妄との最も大きな違いは発症様式である。前者は急性であり、認知症、特にアルツハイマー型認知症では潜行性に発症し、緩徐に進行する。 何日の夜からと特定できる特徴。発症時期が鮮明 夜間に増悪することが多く、夜間せん妄ともいわれる。 注意力の散漫という形での意識障害と幻視および運動不穏はせん妄の三徴であるが、高齢者では幻視を伴わないこともある。 せん妄との最も大きな違いは発症様式である。前者は急性であり、認知症、特にアルツハイマー型認知症では潜行性に発症し、緩徐に進行する。何日の夜からと特定できる発症は前者の特徴である。また、夜間に増悪することが多く、夜間せん妄ともいわれる。注意力の散漫という形での意識障害と幻視および運動不穏はせん妄の三徴であるが、高齢者では幻視を伴わないこともある。また、通常は運動不穏のために多動となることが多いが、多動状態を伴わず、不活発な状態となる場合もある。

見落とす典型的な例 低活動型せん妄 一般に、治療や看護援助に対し、協力的に応じる患者を「認知機能が保たれている」と判断しがち 自発性が低下し、受け身になる、反応が乏しい患者は、「一見治療に協力している」ようにみえるため関心が向けられない 高齢者 「歳のせい」ですまされがち 視聴覚障害:視力低下や聴力低下だからと済まされがち 認知症だから せん妄を見落とすリスクも挙げられている。 大きくは、 1.低活動型せん妄を見落とす 2.高齢者 3.視聴覚障害 4.認知症 があげられている。 特に、「●●歳だから」という、年齢で歳相応とみなしてしまうリスクには注意をしたい。

せん妄の原因と影響を及ぼす主な薬剤 ● アルコール、薬物または薬物中毒 ● 感染症、特に肺炎と尿路感染症 ● 脱水状態および代謝異常 ● 感覚遮断 ● 心理的ストレス せん妄が出現 だから 循環器、抗がん剤、ステロイド、抗パーキンソン薬を中止できるか・・・ 主な薬剤 ・循環器用薬   :ジギタリス、βブロッカー、利尿薬 ・H2受容体拮抗薬 ・抗癌薬 ・ステロイド せん妄の原因としては様々なものがある。アルコールや薬物、肺炎や尿路感染症等の感染症、脱水状態や電解質異常、感覚遮断や心理的ストレス(入院、旅行等の環境の変化など)などがある。そのため、せん妄の対処には原因を適切に把握する必要があり、身体的診察や臨床検査等も必要である。 せん妄を来す可能性のある主要な薬剤を示す。特に頻尿や尿失禁に対して使用される抗コリン薬や胃潰瘍や胃炎に用いられるH2受容体拮抗薬は見逃されやすいので注意を要する。せん妄が疑われたときに、これらの薬剤の使用によるものではないかを検討する必要がある。 ・抗パーキンソン病薬 ・抗コリン薬 ・抗不安薬 ・抗うつ薬 国際老年精神医学会 :プライマリケア医のためのBPSDガイド、 アルタ出版、2005

せん妄の発生要因 1. 準備因子 2. 誘発因子 3. 直接原因 せん妄の発生要因をカンファレンスで扱い、       せん妄の発生要因 1. 準備因子 2. 誘発因子 3. 直接原因 せん妄の原因を同定したら、その原因を準備因子、誘発因子(促進因子)、直接原因(因子)に整理をして、対応できる要因をチームで共有し、アプローチを組み立てていく。 せん妄の発生要因をカンファレンスで扱い、 それをもとにするとチームでの役割分担が容易

③直接原因:薬物、代謝性障害、敗血症、呼吸障害 せん妄の発症 ①準備因子:70歳以上、脳器質疾患、認知症 ②誘発因子 過少・過剰な感覚刺激 睡眠障害 強制的安静臥床 ③直接原因:薬物、代謝性障害、敗血症、呼吸障害 せん妄の要因間の関連を図に示す。 準備因子、誘発因子、直接原因の3要因が関連して、せん妄の発症につながる。 せん妄

①準備因子 1)高齢 2)脳血管障害の既往など脳の器質的 病変の存在 3)認知症ないしその前駆状態(認知 機能障害):脳の神経変性 せん妄の本態である脳機能低下を起こしやすい状態 1)高齢   2)脳血管障害の既往など脳の器質的 病変の存在 3)認知症ないしその前駆状態(認知 機能障害):脳の神経変性 他には、術後せん妄に関して、アルコールの多飲経歴や高血圧治療歴が指摘されている。                                                        準備因子は、脳機能低下を生じうる要因を指す。 主に高齢(昔は65歳以上の設定が多かったが、最近は70歳でリスク要因と捉えることが多い)、脳器質疾患(脳構想、神経変性疾患)、認知症の既往、がある。 他に術後せん妄に関しては、アルコール多飲歴、高血圧の治療歴なども指摘されている。

②誘発因子 症状を増悪させる要因の評価 ● 環境変化 ● 身体拘束 ● 不快な身体症状 (疼痛、尿閉、宿便、発熱、口渇など) (疼痛、尿閉、宿便、発熱、口渇など)                                                   環境に関連した要因で、せん妄自体を直接生じさせはしないが、せん妄を長引かせたり、増悪させる要因を指す。 環境(外部環境): 非生理的なリズム(夜間の照明、過剰な音刺激)、 身体抑制、点滴・バルーン等 環境(内部環境): 身体の不快な感覚(代表的なものが痛み、便秘、 排尿困難) がある。

③直接原因 薬剤の評価 ● オピオイド(モルヒネ、オキシコドンなど) ● 睡眠剤、抗不安薬 ● 抗コリン作用のある薬   ● オピオイド(モルヒネ、オキシコドンなど) ● 睡眠剤、抗不安薬 ● 抗コリン作用のある薬 せん妄出現の少し前に開始・増量されて いれば疑わしい                                         ベンゾジアゼピン系薬剤:トリアゾラム(ハルシオン)、ブロチゾラム(レンドルミン)、ゾピクロン(アモバン)、ゾルピデム(マイスリー)、アルプラゾラム(ソラナックス)、エチゾラム(デパス) 非ベンゾジアゼピン系薬剤:エスゾピクロン(ルネスタ) メラトニン受容体作動薬:ロゼレム(2010年) オレキシン受容体拮抗薬:ベルソムラ(2014) 直接原因は、せん妄を生じさせる身体要因を指す。 臨床で頻度が高いのは、薬剤、脱水、感染がある。 特に薬剤については、医療者が注意をすることで予防できる最大の要因であり、知識を共有して指示の実施に注意をしたい。 特に注意をすべき薬剤は、 ・オピオイド(医療用麻薬): モルヒネ、オキシコドン ・ベンゾジアゼピン系薬剤(睡眠導入薬、抗不安薬):トリアゾラム、ブロチゾラム、 ゾピクロン、ゾルピデム、アルプラゾラム、エチゾラムなど (非ベンゾジアゼピン系睡眠導入薬もリスクは同等とみなされているため、 併せて注意をする) ・抗コリン作用の強い薬剤: 臨床でしばしば遭遇するものにH2ブロッカーの ファモチジンなどがある。 特に、せん妄の発症直前に開始・増量されている場合には、関連が疑われる。 H2ブロッカー:ファモチジン

直接原因② 全身状態の評価 ● 高カルシウム血症 ● 脱水 ● 貧血 ● 呼吸不全 ● 低ナトリウム血症 ● 高アンモニア血症 ● 感染症 ● 腎機能障害                                                         ● 貧血 ● 低ナトリウム血症 ● 感染症 ● 中枢神経浸潤 など                                                直接原因には、ほかに低酸素血症、代謝障害、電解質異常などがある。

せん妄の予防と診断(NICEのガイドラインより) 入院・施設入所 入院時にリスク因子の確認(ハイリスクのスクリーニング) 65歳以上、認知機能障害・認知症、股関節部位骨折、身体的に重篤な状態 リスクあり モニタリング: 認知機能の変化、知覚障害、身体機能の変化、社会行動の変化 せん妄への系統立てた対応として、海外のガイドラインを参考までに示す。 ポイントとしてあげられているのは、 1.入院・入所者に対して、基準を定めてせん妄のリスクのある人を抽出すること 2.ハイリスクの人に対しては、予防的な対応を実施するとともに、定期的なモニタ リングを行い、早期発見に努めること である。 DSM-IV、short CAMを用いたアセスメント、認知症の鑑別 せん妄の診断

せん妄対策 ● 予防: 予防できる病態を除去 ● 治療: - 環境調整 疼痛コントロール - 脱水 薬剤 感染対策 - 早期発見 ● 予防: 予防できる病態を除去 - 環境調整 疼痛コントロール - 脱水 薬剤 感染対策 ● 治療: - 早期発見 - 早期対応

せん妄の発症を予防する 予防(発症予防): 調整可能な因子を可能な限り除去 多職種による複合的な介入により、せん妄の発症率・ 重症率の低下、転倒・転落の減少、退院時の身体 機能低下が減少するエビデンスがある 調整可能な因子を可能な限り除去 これが一番難しい!!! せん妄を発症した場合には、原因を検索し、要因の除去を進める。 要因の中には、 対応可能な要因(たとえば、脱水、感染) 対応が困難な要因(たとえば、転移性脳腫瘍など)がある。

せん妄に推奨される介入法 医師 定期的なレビュー 主治医との連携 看護師 薬剤師 栄養士・NST 低酸素 感染 認知機能障害 脱水 便秘 関連する要因 介入 低酸素 低酸素の評価とO2投与 感染 •感染徴候の検索と治療 •感染対策・カテーテル使用の最少化 認知機能障害 •適切な照明と わかりやすい標識 •見当識を促す(例:話しかけ、時計とカレンダーの設置) •認知を刺激する活動の導入(例:回想法) •家族・友人の定期的な面会 脱水 飲水励行、脱水補正 便秘 排便の確認、排便コントロール 安静 •動くよう促す (早期離床、歩行器の用意) • 自発的なROM運動 疼痛 •疼痛の評価:特に非言語的な疼痛症状を評価 •適切な疼痛マネージメント 感覚遮断 •治療可能な感覚障害の改善(例:耳垢の除去など) •視覚・聴覚補助器具 睡眠障害 •睡眠時間中のケア・処置を極力避ける •睡眠の妨げになる配薬スケジュールの見直し •騒音の低減 多剤併用 薬剤のレビュー(種類と剤数の両方を検討) 栄養障害 •適切な栄養管理 •義歯の確認 主治医との連携 定期的なレビュー 医師 看護師 せん妄を発症した場合の対応について示す。 せん妄を発症した場合には、原因を検索し、要因の除去を進める。 要因の中には、対応可能な要因(たとえば、脱水、感染)と、対応が困難な要因(たとえば、転移性脳腫瘍など)がある。 対応できる要因と対応が困難な要因を抽出し、対応可能な要因に対して、チームでアプローチをおこなう。 薬剤師 栄養士・NST National Institute for Health and Clinical Excellence. Delirium - Quick reference guide, 2010

せん妄の予防・前駆症状 アセスメント項目に入れると有効です。 【発症因子の評価と対策】 1)聴覚・視覚機能・移動能力低下の援助 :補聴器、眼鏡等の補助具、リハビリ 2)栄養状態(脱水)の管理 3)睡眠障害の是正、不安、抑うつの緩和 4)脳の画像検査、脳波検査の施行。血液生化学検査 5)見当識障害の有無のチェック 6)使用薬剤内容の検討:抗コリン作用薬、ベンゾジアゼピン(BZ)系 の減量・中止 【前駆症状】 1)わずかな注意力の低下(計算間違い)、集中困難、記銘力低下、 理解力低下 2)見当識の障害 3)睡眠の障害、悪夢 4)落ち着きなさ、イライラしやすさ、怒りっぽさ せん妄を早期に発見するためには、医療者の積極的な評価と対応が求められる。 特に注意をしたいのは、注意力の低下である。 CAMでも取り上げられているように、せん妄の症状の中で、ほぼ確実に出現する症状である。 見当識や精神病症状(幻視、妄想)などよりも、確実に出現することから症状評価を臨床でトレーニングをし、チームで共有をする。

せん妄の治療・ケア せん妄の直接的原因への対処(全身状態の安定) せん妄の間接的原因への対処(環境調整) 薬物療法 水分・電解質、酸素化などの保持、基礎疾患の治療 直接的原因となる薬物の特定と減量・中止の検討 せん妄の間接的原因への対処(環境調整) 睡眠-覚醒パターンの改善 過剰な刺激や感覚遮断の改善 身体拘束や体動の制限の改善 薬物療法 専門医と相談し、鎮静目的で少量の抗精神病薬を  投与する場合もある(第一選択として抗コリン作用のすくないハロペリドールが使用されることが多い) せん妄への対応をまとめる。 せん妄への対応の基本は、「意識障害への対応」であり、原因となった身体疾患への治療である。(決して、鎮静ではない) せん妄への対応の基本は、「意識障害への対応」であり、原因となった身体疾患への治療である。(決して、鎮静ではない)

安全確保 ● 点滴ルートの工夫 ● 点滴時間の工夫 ● 障害物、危険物(はさみ、ナイフなど) の除去 ● 離床センサーの設置 など ● 離床センサーの設置 など 入院中の場合は、せん妄への対応とともに、安全面にも注意を払う 特に、転倒・転落、ルートトラブルは強く関連している。不要なルートを外すとともに、夜間の点滴を可能であれば止める、などをおこなう。 米国精神医学会治療ガイドライン

まずしっかり看護師がせん妄と認知症の違いを理解していないと、心理教育はできない。 家族への説明 ● 認知症とは異なり、身体疾患や薬剤が原因である こと、原因が除去されれば回復可能であることを 説明する ● 原疾患の進行による場合は、せん妄が病状進行の サインであることを説明し、家族のつらさを理解し、 声かけを行う。家族が実行できる患者のケアなどを 一緒に探す ● つじつまが合わない言動は、無理に修正しようとせず、 話をあわせたり、話題を変えたりする方法を推奨する せん妄は、家族の苦痛とも関連するため、家族に対しても説明を進めることが望ましい。 せん妄を見ると、家族は認知症になった、精神病になったと受け止めがちである。 認知症とせん妄は異なること、せん妄は身体的な要因で生じうるものであること、身体治療を進めることで症状の改善が可能であることを説明する。 あわせて、接し方についてふれる。特に見当識の障害等は、無理に修正をする必要のないこと、家族がそばにいるだけでも本人は安心し、見当識の回復につながることを伝える。 まずしっかり看護師がせん妄と認知症の違いを理解していないと、心理教育はできない。

認知機能障害のある患者に接する時のコツ 注意力が落ちているので、いかに負担なく注意を向けてもらうか、がポイント 理解と支持を提供し、不安・よそよそしさを除去 (せん妄の情動反応自体がせん妄を悪化させる) 低いトーンでゆっくり、はっきり 短い文、具体的に 同じ言葉をくり返す 呼ばれることに慣れている名前をいう 目線は患者より低めに。会話をするときは視線を合わせる ようにし、自分に注意を向けられるように 認知症とせん妄、どちらも注意力の障害のある人への接し方を工夫する点で共通。 認知症でのコミュニケーションについて説明があれば、ここでは触れなくてもよい。

あくまで、「せん妄」に対する薬物療法であり、間接因子・直接因子の除去や調整を行ってから使用する。使い方によって、せん妄の悪化も認められる せん妄に用いる抗精神病薬 薬剤 投薬量 有害事象 備考 ハロペリドール (セレネース®) 0.5-2mg 2-12時間ごと 4.5mg/day以上を連用すると錐体外路症状のリスク QTcモニタリング 終末期のせん妄の標準薬として未だに残っている 鎮静作用は弱いので、必要に応じてベンゾジアゼピン系を併用する オランザピン (ジプレキサ®) 2.5-5mg 12-24時間ごと 鎮静作用がdose-limiting side effect 高齢者、認知症合併、低活動型せん妄では効果が低いとみなされている リスペリドン (リスパダール®) 0.25-1mg 12-24時間ごと 6mg/day以上で錐体外路症状のリスク 低活動型せん妄に対して優れていると経験的にいわれている クエチアピン (セロクエル®) 12.5-100mg 12-24時間ごと 錐体外路症状のリスクが一番少ない鎮静効果が強い パーキンソン病、レヴィ小体型認知症で第一選択薬 アリピプラゾール (エビリファイ®) 5-30mg 24時間ごと アカシジアのモニタリング 低活動型せん妄に対して優れていると経験的に言われている せん妄に対しては、標準的な治療として抗精神病薬が用いられる。 (この点で、認知症と異なることは確認をする) 抗精神病薬はどの薬剤でも治療効果はほぼ同等であるが、最近は、有害事象であるパーキンソン症状を避ける意味合いで、非定型抗精神病薬が標準になりつつある。 少なくとも、各施設内で初期対応で用いられる薬剤について、どのようなものがあるかを 確認し、意識を統一させておきたい。 あくまで、「せん妄」に対する薬物療法であり、間接因子・直接因子の除去や調整を行ってから使用する。使い方によって、せん妄の悪化も認められる