映像資料によるメディア・リテラシー 『9/11:真実への青写真』の DVD視聴後の態度変容を中心に (研究3) ◯いとうたけひこ   大高庸平 (和光大学)   take@wako.ac.jp   日本教育心理学会第52回総会 口頭発表 K011 社会心理学1 2010年8月27日(金) 9:30-12:00.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
CMU2005 海外エンジニアリングワークショップ参加報告書 1 「真の要求を見極めろ!」: teamB 要求定義をどう捉えるか ● 要求定義とは何か? 製品には、顧客の望むことを正しく反映させる必要がある。 そのために必要なものが要求仕様である。 すなわち、要求仕様とは、顧客と製品を結ぶものであり、これを作ることが要求定義である。
Advertisements

認知心理学の知見のさわり 知覚、記憶、学習、思考などを研究対象とする心理学の一 分野。 [せまい意味] 認知の領域をあつかう心理学(人間の認知の働き)を 研究対象としてとりあげ、 コンピューター科学をはじめとする認知科学の枠組みの もとで 解明していこうという心理学の一領域をさす。 認知科学 心理学、コンピューター科学、脳神経科学、言語学、哲.
メディア論 第 14 回 ドキュメンタリーとは何 か ( ) 担当:野原仁. 最終課題 提出期限: 2 月 16 日 ( 月 ) 17時 提出期限: 2 月 16 日 ( 月 ) 17時 提出場所:研究室前ボックス 提出場所:研究室前ボックス.
1 ビデオ視聴による 政治的態度の変容: 『911ボーイングを 捜せ』 視聴前から視聴後への 「陰謀説」支持の増加 は なぜおこったか?
< 3 日目内容> 出席点呼 班分けとテーマの確認 HP 更新内容の確認 課題 3 ~ 5 の説明 ( i-sys ) 今後のスケジュール プレゼンテーション方法論の講義 ネタ探し,班討論.
SNS によるストレスの研 究 鴫原 康太. 本研究の目的 今回私がこの研究を行おうと思ったきっかけは、 SNS によるストレスを自分も少なからず感じるこ とがしばしばあったということが今回の研究を 行ったきっかけである。 「既読無視」「バカッター」など SNS のあり方、 使い方を誤って使ったり、
イラク戦争・テレビは何を伝えたか 日本テレビ 2003/5/12 1:25-2:50
学習動機の調査 日下健 西原直人 津川眞希 吉田優駿 山下剛史.
メディア論 第13回 テレビと政治 ( ) 担当:野原仁.
子ども達への科学実験教室の運営方法論 -環境NGO「サイエンスEネット」の活動事例をとおして- 川村 康文
「道徳の時間」の進め方について 球磨教育事務所  .
メ デ ィ ア ・ リ テ ラ シ ー.
第3章:記憶の貯蔵庫モデルと処理水準アプローチ
今後の「良い発表」に向けて アンケート実習まとめ:8時間目.
ワークシート6 社会科.
ジャーナリズム論 第8回 ニュースとは何か 担当:野原仁.
相互評価システムの開発と大学情報科目における利用 柴田好章(名古屋大学大学院) 小川亮(富山大学教育学部)
学習支援システムにおけるゲームインタフェースの導入方法と提案
神戸大学大学院国際文化学研究科 外国語教育論講座外国語教育コンテンツ論コース 神戸 花子
第8回 記憶研究とテレビ 1.集合的記憶とは 2.社会的出来事に関する集合的記憶 3.外国の社会的出来事に関する集合的記憶
第13回 情報操作とやらせ 野原仁(地域科学部)
「存在の肯定」を規範的視座とした作業療法理論の批判的検討と 作業療法・リハビリテーションの時代的意義 田島明子
●レポートを書くこと→主張の根拠を示して、他の人を説得するため ●最初から順に読んで分かるように書く ●
社会心理学のStudy -集団を媒介とする適応- (仮)
イラク戦争2 イラク-アメリカの絡み合い.
日本教育心理学会第52回総会 口頭発表 K078 社会心理学3 2010年8月27日(金) 13:00-15:30
ミックス法のツールとしての テキストマイニング 9
統計リテラシー教育における 携帯端末の利用
第3回 説得コミュニケーション& プロパガンダほか ( ) 担当:野原仁
メ デ ィ ア ・ リ テ ラ シ ー 情報社会と情報倫理 第2回.
小学校社会科6年 1 単元名 「長く続いた戦争とアジアの人々」 -くらしは戦争一色へ- (第○次第○時) 2 授業概要 3 本時の目標
第2回 ジャーナリズムとは何か ( ) 担当:野原仁(地域構造講座)
学生の相互評価を用いた モデリング演習支援システム
スポーツ経営学 第4回目 スポーツ経営学の特徴.
9.11事件のメディア・リテラシー DVD『Loose change 2nd ed
ヘルスプロモーションのための ヘルスリテラシーと 聖路加看護大学『看護ネット』
浜中 新吾(山形大学) イスラーム地域研究 東京大学拠点グループ2 パレスチナ研究班 研究会
対北朝鮮「最大限の圧力へ」.
理論試験速報 理論問題部会長 鈴木 亨 先生 (筑波大学附属高等学校) にインタビュー.
C-2 導入プレゼン1 国際交流って何?.
練習問題アイテムバンクの開発研究 ~再生形式~
卒業研究中間発表 社会情報システム学講座 高橋義昭.
1.報道の意義 2.ニュースと現実の関係 3.マス・メディアと民主主義
探究科スライド 教材No.9.
学生の相互評価を用いた モデリング支援システムの開発
国家構築の際におけるタイの「標準化」、 国民の統一化
システム演習C報告 ゼミ長(E.T) Satoshi Ueda.
当事者研究の記述の構造分析:向谷地・浦河べてるの家『安心して絶望できる人生』を対象として
調査の企画(1):質問紙の作成プロセス 1.質問紙の構成 2.質問紙の作成手順 3.質問紙を作成する際に注意する点 4.課題
第51回日本語教育学講座公開講演会 知識と不安の道徳性 ⎯ 内部被ばく検査の結果報告を語ること/聞くこと ⎯
12の発明の原理だけで発想できるプロセス アイデア発想とアイデア選定
フーコー 言説の機能つづき: ある者・社会・国の「排除」
信頼性設計法を用いた構造物の 崩壊確率の計算
4.「血液透析看護共通転院サマリーVer.2」
日本の高校における英語の授業は英語でがベストか?
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
日常生活から社会へ~社会学理論とジェンダー 1
資料6.
「21世紀型コミュニケーション力の育成」研修モジュール A1 概要解説モジュール
福井県立大学 菊沢 正裕 大教室授業における グループ学習の効用 福井県立大学 菊沢 正裕
課題研究 P4 原子核とハドロンの物理 (理論)延與 佳子 原子核理論研究室 5号館514号室(x3857)
第13回(通算29回) 福祉対象者への相談援助 合意形成
ビデオ視聴による統合失調症の人への偏見低減のための教育の効果 AMD尺度による患者談話条件と医師説明条件との効果の違い
戦争と平和 正義の戦争は 戦争で利益を得る者は.
杉田明宏 ・ いとうたけひこ ・ 井上孝代 (大東文化大学)  (和光大学)  (明治学院大学)
 情報社会における  メディア・リテラシー教育 『911ボーイングを捜せ』と『9/11:真実への青写真』の 視聴前から視聴後への米国政府公式見解への 支持の減少はなぜおこったか? ◯いとうたけひこ   大高庸平            日本教育メディア学会第1回研究会.
ウェブサイト 『JPOP-VOICE』 における統合失調症の当事者の 語りの特徴
映像を用いた 「からだ気づき」実習教材の開発
学習指導要領の改訂 全国連合小学校長会 会長 大橋 明.
Presentation transcript:

映像資料によるメディア・リテラシー 『9/11:真実への青写真』の DVD視聴後の態度変容を中心に (研究3) ◯いとうたけひこ   大高庸平 (和光大学)   take@wako.ac.jp   日本教育心理学会第52回総会 口頭発表 K011 社会心理学1 2010年8月27日(金) 9:30-12:00 早稲田大学 早稲田キャンパス 10号館-205室 2018/9/18

問題① メディア・リテラシーの重要性 メディア・リテラシーの形成は、個人の発達上の課題として位置づけられるだけでなく、民主主義社会の形成の上でも重要な課題と位置づけられる。 池上(2008)はメディア・リテラシーを、テレビやラジオ、新聞、雑誌、書籍、さらにインターネットなどの「メディアを見たり聞いたり読んだりする能力」と規定した。 2018/9/18

問題② 21世紀に入り、やらせ・でっち上げ で戦争の世論を操作・誘導した事件 問題② 21世紀に入り、やらせ・でっち上げ で戦争の世論を操作・誘導した事件 (1)油にまみれた黒鳥事件 (2)虐待をみた少女ナイーラ、   実は大使の娘だった事件 (3)イラクに対し、大量破壊兵器を理由に開戦したが、実は無かった事件 (4)女性兵士ジェシカ・勇敢に戦った事件 このような情報操作あるいは事実に基づかないプロパガンダによって、集合的な記憶を共同体が共有する。 それが世論の基盤となって、イラク戦争とアフガニスタン戦争の遂行に協力推進するような世論を高めてきた。 このことを考えると、マクロレベルでの騙されないためのメディア・リテラシー(池上,2008)の向上のための教育が課題となろう。 ③ ① ② ④ 2018/9/18

問題③ 9.11事件:メディア・リテラシーの題材 9.11事件(9.11テロ)によるWTC崩壊の様子は、マスメディアによって広く報道された。 ブッシュ大統領の「テロとの戦い」政策は、米国国民の高い支持率を得たのち、アフガニスタン戦争とイラク戦争のきっかけとなった。しかし、戦争の発端として位置づけられている9.11事件の物的証拠は非公開であり、結果として米国軍需産業に莫大な利益をもたらしたこと、アルカイダがCIAに育てられた事実があるなど、いまだ未解明の部分も多い。 こうしたなかで、米国政府による公式見解の矛盾点を指摘する、さまざまな諸説が生み出されている。その諸説の1つとして、米国政府の公式見解に対して「事件は米国政府が予め知っていた」あるいは「米国による自作自演である」などと主張する、いわゆる「米政府関与説」(陰謀説、謀略説; 以下 陰謀説)が唱えられている。 この事件を題材とした教育について研究することは、メデイア・リテラシーの重要性・形成においても興味深いテーマである。 2018/9/18

本プロジェクトの目的と構成 9.11映像プロジェクトでは、以下の3つの研究から映像資料による態度変容について考えたい。 研究1では、『911ボーイングを捜せ』を取り扱った。(昨年の発表) 研究2では研究1と同じ映像資料を、より統制された条件で実施した。(次の発表) 研究3では、『9/11:真実への青写真』という別の映像資料を用いて検討した。(今回の発表) 2018/9/18

【研究3】目的 WTCビルの崩壊の記憶と映像資料による態度変容に着目した。   【研究3】目的 WTCビルの崩壊の記憶と映像資料による態度変容に着目した。 崩壊原因を飛行機の衝突による衝撃と火災とする米国政府公式見解に対して、制御解体による爆破説を主張するDVD『9/11:真実への青写真』(β版:約58分)を取り上げる。   これを大学生に視聴させ、WTCビル崩壊の原因について、米国政府の公式見解と対立する見解をめぐる意見について、事前と事後でどのような意見の変化が起こるかを確認することが本研究の目的である。 2018/9/18

Table 5 「崩落した建物の数」(問1)の正答数の変化  【研究3】 結果① 正答である「3棟」の答えは、事前テストでは45人中9人(20%)だったのに対して、視聴後には32人(71.1%)に増加した。負の変化2人、正の変化25人、変化無し18人。符号検定を行ったところ、有意な正答率の上昇があった(z = -4.426, p < .001)。 10年後の記憶では、WTCビル崩壊は(6割がそう答えたように)南北タワー2棟の強烈なイメージが残っていたようで、第7ビルの崩壊は記憶から消去されていた。 これは第7ビル崩落の報道が少なかったことの反映だろう。 Table 5 「崩落した建物の数」(問1)の正答数の変化 2018/9/18

Table 6 「ビル崩壊の理由」(問3)の単語数の変化(上位9件)  【研究3】 結果② Table6から、事前においては「飛行機」「突っ込む」「ハイジャック」といった米国公式見解を支持していることが単語頻度からわかる。 しかしながら、事後では公式見解への支持が減少し、「爆発」や「爆破」といった制御解体による爆破説を支持する内容に意見が変容している。 Table 6 「ビル崩壊の理由」(問3)の単語数の変化(上位9件) 2018/9/18

【研究3】 結果③ 事前に政府見解側だった衝突・火災説の38人中14人(36.8%)が、視聴後は米政府関与説(隠謀説)寄りである解体・爆破説に意見を変え、意見を変えなかったのは10人(26.3%)のみであった。回答者44人中29人(65.9%)が、DVDの内容に沿った方向に意見が変化した。 負の変化1人、正の変化29人、変化無し14人で、符号検定で有意な意見変化の効果があった(z = -4.930, p < .001)。 Table 7  ビルが崩れた理由(問3)の意見の変化 2018/9/18

【研究3】 結果④ 視聴後のDVDの感想(問4)に対して対応分析を行った(Fig. 5)。 【研究3】 結果④ 視聴後のDVDの感想(問4)に対して対応分析を行った(Fig. 5)。 Fig. 5によれば、衝突・火災説は「知らない」や「メディア」、中間説は「分からない」や「原因」との距離が近く、これらの表現が多かった。 解体爆破説(制御解体説)には、「 9.11 」や「見る」との距離が近いことがわかる。 Fig. 5 DVD感想文(問4)の対応分析 2018/9/18

 【研究3】 考察① DVD『9/11:真実への青写真』は説得的で、多くの視聴者に態度変容が見られた。Bronfenbrenner(1979)のいうマクロ・システム的なレベルでのメディア・リテラシー向上への興味深い映像資料である。 態度変容の効果量の大きさは、マイクロ・システム的なメディア・リテラシーの研究対象・実践材料としても重要である。 共有された記憶と客観的事実のズレを疑う必要が指摘される。 2018/9/18 11

 【研究3】 考察② ★以下は、BBCニュースが第7ビル崩壊を、実際の約20分前に「誤報」した映像のYouTube からのキャプチャーである。実際には午後5時30分頃におこった第7ビルの崩壊を事前に報道していた。「制御解体」を誰が事前に知っていたのか?

【結論】①今回の映像資料を用いた メディア・リテラシー教育の意義 米国政府見解に基づく9.11事件の記憶が、DVDビデオの視聴前に如実に表われていた。とくに研究3において、倒壊ビル棟数を2と誤って答えた人が多かったのは、事件翌日から第7ビルの倒壊映像をTVなどのマスメディアで流さなかったという、情報操作の影響が強く疑われるものである。 しかしながら本研究で用いた映像資料の視聴によって、その見解を批判的に観る態度に変容した。 クリティカルな視点に基づく映像資料は、このような歴史的事実に基づいた知識を提供し、それによって記憶を再構成するプロセスを見ることができるものである。 2018/9/18

【結論】②マイクロ・システムのレベルでのリテラシー対して出された疑義 マイクロ・システムとは、我々の生活するその場その場での直接的相互作用によるシステムのことである。 その疑義とは、すなわち事前・事後テストの間の態度変容があまりにも大きく、映像資料を批判的に見る視点が欠けているのではないかということである。 しかし、多くの人々の文章による回答を観ると、テキストマイニングの結果で明らかになったように、確固とした態度変容ではない。むしろ、もっと真実に迫りたいというポジティブな懐疑と、自分のなかにある既存の知識に対する批判的な態度を一時的に形成したといってよいであろう。 このような態度変容は、メディア・リテラシー向上のための教育として、既成の価値や知識を揺さぶる教育的手段として有効であることが示唆された。 2018/9/18

【結論】③謀略説(陰謀説)をどう扱うか ノルウェー人の平和学者Johan Galtungは、謀略のレベルとして4段階あるとする見解を表明している。 (1)政府の関与が無いが事件の結果を利用するレベル、 (2)政府はプロセス段階で計画を知っていて阻止することが可能だったにもかかわらず防止しなかったomissionのレベル、 (3)政府が主犯格ではないが、察知して計画を幇助したレベル、 (4)政府の計画に沿って行われた主犯者のレベル このような段階論に沿って、メディア・リテラシー教育や平和教育を展開するのも1つの方法であろう。 2018/9/18

【結論】④メディア・リテラシー教材選択のための効楽安近短モデル 本研究ではDVD・ビデオを教材としてとりあげ、その有効性を検討した。 伊藤(2008)は、良い教材の条件として(1)効果的であり、(2)楽しいものであり、(3)安価に手に入り、(4)入手しやすく、(5)短時間である、の5つの条件をあげている。 メディア・リテラシーの育成には継続的な学習が必要と思われる。そのために、これら5条件に見合う教材が役立つと考えられる。 それを素材として、自分の結論に基づいた他者との対話など、様々な教育活動が可能である。  2018/9/18