大学における 英語基礎学力保障のための 音読指導 (コンピュータ・ネットワークを利用した指導実践事例)

Slides:



Advertisements
Similar presentations
生物統計学・第 5 回 比べる準備をする 標準偏差、標準誤差、標準化 2013 年 11 月 7 日 生命環境科学域 応用生命科学 類 尾形 善之.
Advertisements

生物統計学・第 4 回 比べる準備をする 平均、分散、標準偏差、標準誤差、標準 化 2015 年 10 月 20 日 生命環境科学域 応用生命科学類 尾形 善之.
QUIZLETの活用による 語彙学習の習慣化を促す試み(の失敗例) 名古屋学院大学 国際文化学部 講師 工藤 泰三 1.
摂南大学理工学部における 数学教育と EMaT への取組み 東武大、小林俊公、中津了勇、島田伸一、寺本惠昭、友枝 恭子 ( 摂南大学理工学部 基礎理工学機構 ) 日本工学教育協会 第 63 回年次大会 2015 年 9 月 4 日 ( 金 ) 9:30-9:45.
研修のめあて 授業記録、授業評価等に役立てるためのICT活用について理解し、ディジタルカメラ又はビデオカメラのデータ整理の方法について研修します。 福岡県教育センター 教員のICT授業活用力向上研修システム.
学習習慣をつけるスパイラル学習の リーディングクラスへの応用
外国語教育メディア学会(LET)関東支部130 回(2013 年度)研究大会
リメディアル教育における 音声指導を中心にした英語授業実践
子ども達への科学実験教室の運営方法論 -環境NGO「サイエンスEネット」の活動事例をとおして- 川村 康文
心理的報酬と課題の難易度が 課題に対する評価に及ぼす影響 社会工学における戦略的思考 動機付け班 池田 遼太 岩渕 佑一朗 清宮 晨博
府内の小・中学校に普及 使える英語プロジェクト事業費 「習得」中心の授業
Tour (ツアー).
H17年度授業評価アンケート報告 教務WG:山澤一誠.
第1回 担当: 西山 統計学.
寺尾 敦 青山学院大学社会情報学部 atsushi [at] si.aoyama.ac.jp
Features (概要).
世界に発信!“京都”を伝えるムービー作成プロジェクト
教科用教材ソフトの「英語フラッシュカード」を電子黒板で実行
第6章 2つの平均値を比較する 2つの平均値を比較する方法の説明    独立な2群の平均値差の検定   対応のある2群の平均値差の検定.
このPowerPointファイルは、 情報処理演習用に作った フィクションです。
経済情報処理ガイダンス 神奈川大学 経済学部.
臨床統計入門(3) 箕面市立病院小児科  山本威久 平成23年12月13日.
統計リテラシー教育における 携帯端末の利用
インターネット大学へ向かって ムードルにいたるまでの道.
統計学の授業でのセカンド モニタとしてのiPhoneの使用
丹波市立西小学校 教諭 細見 隆昭 2007年2月25日(日) 神戸市ハーバーランドダイヤニッセイビル
技術者英語 対象: 電気電子システム工学科 2年生 時限: 前期 水曜日 Ⅳ限 担当: 武藤 真三、本間 聡
CRLA Project Assisting the Project of
経済情報処理ガイダンス 神奈川大学 経済学部.
学習意欲と自信の回復を目指す一連の音読指導
繰り返しのない二元配置の例 ヤギに与えると成長がよくなる4種類の薬(A~D,対照区)とふだんの餌の組み合わせ
●校内研修(自立型研修)での活用 自立型研修での活用について紹介します。 研修の中でも最も身近なものとして、校内研修があげられます。
英語絵本と読み聞かせ -読み聞かせ体験の有効性-
スピーキングタスクの繰り返しの効果 ―タスクの実施間隔の影響―
音読練習の方法が 音読の熟達度に及ぼす影響
Rコマンダーで分割プロットANOVA 「理学療法」Vol28(8)のデータ
夏休みボトムアップ企画 進路指導部 孫 一 進路指導部の孫一です。 本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。
小中連携を進めるために! 外国語教育における 三つのステップと大切にしたいこと 岐阜県教育委員会 学校支援課
高校における英語の授業は英語でがベストか
Rコマンダーで2元配置ANOVA 「理学療法」Vol28(8)のデータ
第11回授業(12/11)の学習目標 第8章 分散分析 (ANOVA) の学習 分散分析の例からその目的を理解する 分散分析の各種のデザイン
二重課題による ワーキングメモリの増減  情報システム工学科3年 038 田中 祐史.
音読能力のスコア化と 英語学力との相関に関する研究
藤田保健衛生大学医学部 公衆衛生学 柿崎 真沙子
教育センターにおける エネルギー環境教育講座実施の実態 ( 川村先生)
教員養成課程の学生を対象とした物理嫌いについての実態調査
AO入試合格者に対する入学前学習課題としての 大学入試センター試験受験の試み (大学教育学会 第32回大会 愛媛大学 2010/6/5)
黒はいや!   白のパンダにして!.
統計学の入門講義における 達成動機,自己効力感,およびテスト成績の関連
日本の高校における英語の授業は 英語がベストか?
日本の高校における英語の授業は英語でがベストか?
統計学の授業でのセカンド モニタとしてのiPhoneの使用
確率と統計2009 第12日目(A).
「アルゴリズムとプログラム」 結果を統計的に正しく判断 三学期 第7回 袖高の生徒ってどうよ調査(3)
統計学  第9回 西 山.
数理統計学 西 山.
IT活用のメリットと活用例 校内研修提示資料.
平成23年度 大阪府学力・学習状況調査の結果概要 大阪府教育委員会
教育情報共有化促進モデル事業報告 中学校数学 平成16年1月31日 岐阜県 学習システム研究会「楽しく学ぶ数学部会」
教育学概論 第一回オリエンテーション.
Speakを使った 音読指導 鈴木政浩(西武文理大学) 学習者の意欲を高める音読指導の一事例.
小標本に関する平均の推定と検定 標本が小さい場合,標本分散から母分散を推定するときの不確実さを加味したt分布を用いて,推定や検定を行う
藤田保健衛生大学医学部 公衆衛生学 柿崎 真沙子
情報の授業 アプリ等を活用した勉強方法の改善(計画) ・R-PDCAサイクル ・アプリを活用した勉強方法の改善 計画書
テキスト理解,論点設定, 論述のスキルを高める アクティブ・ラーニング
新入社員トレーニング 発表者名 発表日 このテンプレートは、トレーニング資料をグループ設定で紹介するための開始ファイルとして使用できます。
平成30年度 ○○○立○○中学校 学力向上プラン(例)
~国際比較にみる達成目標と評価のガイドライン~
一問一答式クイズAQuAsにおける学習支援の方法
H21年度教務WG FD担当から報告 教務WG:山澤一誠,眞鍋佳嗣 2010年2月25日 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科
Presentation transcript:

大学における 英語基礎学力保障のための 音読指導 (コンピュータ・ネットワークを利用した指導実践事例) 大学における 英語基礎学力保障のための 音読指導 (コンピュータ・ネットワークを利用した指導実践事例) 鈴木政浩 (西武文理大学) 阿久津仁史 (文京区立第八中学教諭、聖学院大学兼任講師) 日本リメディアル教育学会 (The Japan Association for Developmental Education) 第4回全国大会 関東学院大学 2008年8月

× 問題の所在・・・学生の学力実態 十分なExposure Reading Fluency 教師の説明・・・・・・どこを説明しているのかわからない コーラス・・・・・・聞こえた音の反復のみ teachの過去形はtaughtですが・・・  Repeat after me! Consider this for a moment: In all your schooling, did anyone ever teach you how to study something? Today, people are graduating school unable to read or write at a level adequate to hold a job or deal with life. It is a huge problem. It is not that subjects cannot be learned; what isn’t taught is how to learn. It is the missing step in all education. 外国語の習得には十分な量ふれることが大切で、たくさん読めばReading fluencyが形成されると言われる。しかし現実的に、以下のような現象は日常的に(特に初学者やslower learnersには)見られ、decoding skillsが形成されないばかりか、読む量も十分確保されているとはいいがたい。 一度コーラスして発音を確認後教師が説明をほどこす。その際、decoding skillsが十分に形成されていない学習者は、「"taught"を見て下さい。これは"teach"の過去形で・・・」と説明されても、taughtが見つけられないため、見つけるまでに説明は終わっており、結局何も聞いていないのと同じことになる。 また、テキストをコーラスしてみたところで、最初の数語は単語を見ながら繰り返せるかもしれないが、decoding skillsが十分に形成されていない学習者の場合、段々どこを読んでいるかわからなくなってしまう。最終的には周りから聞こえる声を繰り返しているだけで、文字と音声の一致はなかなか進まない。「それでは各自読んで下さい」と指示を出した後、なぜかクラス全体の音読の声がそろってしまうという現象はこれを反映している。 http://www.scientologyhandbook.org/SH1_1.HTM

学生の学力実態・・・実例 オネ one カメ came コメ come タケ take ローマ字読みができるのはまだよい方である 中学2年生レベルの検定教科書が音読できない・・・しかし 指導前 指導後

音読指導をめぐる諸問題 音読指導と言えば、コーラス・リーディング 授業中指導しても次の授業ではもとに戻っている(隈部, 1996) 手間隙がかかる 音読は学習者任せになっているのが現状。そのためどのようにすれば音読ができるようになるのか指導をされないまま英語の勉強から取り残されてしまう。しかし、授業では丁寧な音読指導をする物理的余裕がない。音読に関するautonomyを育て、どのように音読をすればどのようなことができるようになるかを学習者自身に認識してもらえるような指導法はないものか。 音読を自分でできるようにする道はないか・・・

リーディングとリスニング Tape-assisted reading instruction (Chomsky, 1978) 先行研究 リーディングとリスニング Reading while Listening (Neville & Pugh, 1972) モデル音声を聞くだけのリーディング 綿密な教師の指導と同程度の効果 →省力化の可能性 下位の児童に有意な効果認められず 聞きながらの内容理解のためか?→聞きながら発音する場合はどうか? Tape-assisted reading instruction (Chomsky, 1978)  モデル音声を聞きながら音読(Repeated reading) → Struggling readersの指導に効果 Reading While Listeningは、Integrationという概念が認知される前に、複数の技能を組み合わせて指導するという点では先駆的な研究。 Poorer readersを含むクラス(実験群P)と一般リーディングクラス(統制群)、Better readersを含むクラス(実験群B)と一般リーディングクラス(統制群)のデータを比較。実験群P,Bには、Reading while listeningの授業を受けさせた場合と、強力な教師の介入があるリーディングの授業を受けさせた結果、両者に効果の差が認められなかったとした。つまり聴きながら読むという活動だけで十分リーディングの効果は見られたことから、省力化が可能となるとした。実験群と統制群の比較では、実験群B(Better readersを含む)クラスの方がテストに有意な伸びがみられたが、実験群P(Poorer readersを含む)クラスでは有意な伸びは認められなかったとした(t検定による平均値の差の比較)。 これに対してChomsky(1978)はテープを聴きながら繰り返し音読をさせるという指導で、poorer readersに対して効果が上がったとする研究。

Fluency instruction A divide and conquer strategy 先行研究 Fluency instruction A divide and conquer strategy Samuels (2002) Not the type of instruction, but amounts of experience Samuels, Laberge, & Bremer (1978) Matthew Effects in Reading Stanovich (1986) Repeated reading Stahl, Heuback, & Cramond (1997) ・A divide and conquer strategy: Decoding skillsの形成が遅れている学習者の取る読みの方略。文字と音の一致をさせた後内容理解をする読みのスタイル。時間がかかり負荷が高く、なかなか読みの量が確保できない。 ・Fluencyはどのような指導をしたかではなく、どの程度の量を読んだかにより差が出る。 ・Matthew Effects in Reading: 読む量の格差は無限に広がるという考え方。good readersはpoor readersの10倍読書をするという研究がある。 ・Repeated readingの効果について体系的に述べた論文。Word recognition, comprehension, expressionは読みの能力を代表する指標になるとする。

Word recognitionからcomprehensionへ 先行研究 Word recognitionからcomprehensionへ Audio assisted instruction Word recognition (Decoding skills) Comprehension Repeated reading 先行研究のまとめ Word recognitionからcomprehensionにいたるまで、流ちょうな音読は必要不可欠である。この流れをスムーズにするためには、モデル音声による補助を得た上で、繰り返し読みに取り組むことで、Word recognitionが自動化され、脳のリソースをcomprehensionに関わる作業に宛てることができるようになると考えられる。 英語基礎学力: Word recognitionを自動化し、comprehensionに集中できる力 音読によるDecoding Skillsの形成

実測・繰り返し読み 先行研究 飯野・阿久津・鈴木(2007)より 測定方法 テキストを5回読み1回測定 →5回繰り返し 英検準2級を大学生に、英検3級を中学生に(いずれも二次試験)問題として採用。 有意な差が認められた部分 1回目と3回目 2回目と5回目 1回目と5回目 中学生のデータに有意差なし n=36 図. 1 大学生と中学生の音読スコア推移

研究の目的・・・自立した音読活動 下位の学生の音読練習に適切な英文の難易度は? 自立した音読練習の方法は? 上位群と下位群の間に効果の違いは? 音読のリスニング能力への影響は? 経験的に、海外のニュース番組を教材化するためには、最低英検準2級程度のテキストに抵抗なく取り組めることが必要であると考えている。問題はそのレベルに学生を引き上げるため、どの程度から始めればよいのか。できるだけ早く準2級に近づくためには、近接する3級に取り組んでみた上で、その効果を検証することとした。しかし、今回の被験者は、3級筆記テストに対しても抵抗感を示す状況のため、先行研究にある通り、音声の補助が得られるリスニング問題を取り上げることとした。

方法 対象 指導手順 埼玉県内の大学1年生31名(男子21名、女子10名) 学内に個人サーバーを設置 英検3級の問題とtranscriptと音声ファイルをアップロード CALL教室を使用 英文を各自で訳出後、モデル音声を聞きながらパラレルリーディングに取り組む 教師は教室を巡回しながら、モデル音声と同じ速度で学生が読めるかどうかを確認 教師がその場でモデル音声と同じ速度で読めることを確認したら、点検表にスタンプを押す Pre-testからinterim testまではリスニング問題のみ、その後は筆記テストの問題を含めた音読練習

分析方法 Pre-(2008年4月), interim(同5月), Post-test(同7月)による効果測定 スコアを分散分析 英検3級リスニング問題(2006年度)第1回、第2回、第3回をそれぞれ使用 スコアを分散分析 試験後にアンケート調査を実施し、その回答を分析

指導手順の流れ 自己補正能力の確認 その後の指導 鈴木(2008)b改 個 別 指 導 基礎テキストのパラレルリーディング 個 別 指 導 基礎テキストのパラレルリーディング 単語の意味調べと訳(4月から5月末) 効果測定1 リスニング問題および筆記テストの音読 6月から7月 コンピュータソフトウエアを使った独習 効果測定2 応用テキストのシャドーイングと録音 応用テキストのシャドーイングとビデオ収録 → 朗読シャドーイング → なりきりシャドーイング

使用したネットワーク環境 とソフトウエア 方法 教員研究室の個人サーバ設置 学習支援用ホームページの公開 教材のアップロード 使用したネットワーク環境        とソフトウエア 教員研究室の個人サーバ設置 メインサーバーによる認証 学習支援用ホームページの公開 教材のアップロード 授業用ホームページによる指示 ネットワーク環境を活用する理由とメリット 1. CDプレーヤ等を持ち運ぶ手間が省ける。 2. 学習者が自分で選んだ課題に取り組める 3. 授業時間以外にも取り組める 4. 学生の状況に応じて、教材の難易度等調整ができる 5. 指示の徹底が可能となる

英検3級リスニング問題のページ 取り組みたいリスニング問題の番号をクリックすると、transcriptと音声が流れる。学生はこの音声の補助によりパラレルリーディングに取り組む。

結果1 記述統計量(3回のテストの結果) 平均点 標準偏差 最低点 最高点 Pre-test 13.8 5.16 5 26 結果1 記述統計量(3回のテストの結果) 表1. Pre-test, interim test, post-testの平均値推移 平均点 標準偏差 最低点 最高点 Pre-test 13.8 5.16 5 26 Interim test 16.9 5.97 8 28 Post-test 19.3 4.72 10 27 平均点は合格レベルに達した。Preとintのばらつきはほぼ同じだが、Postのばらつきは前2回と比べて小さくなっている。また最低点がPreとpostで倍となった。

結果2 リスニングテスト スコアの伸び 19.3 16.9 平均点に関しては、クラス全体として合格圏内に! 13.8 結果2 リスニングテスト スコアの伸び 19.3 16.9 平均点に関しては、クラス全体として合格圏内に! 13.8 3回のテスト間で、平均点には有意な差が認められた 図2. リスニングテスト スコアの伸び(全体)

結果3 分布の推移 図3. リスニングテスト分布の推移 分散分析の結果をビジュアルに示すと図3のようになる。 結果3 分布の推移 分散分析の結果をビジュアルに示すと図3のようになる。 第1回のスコアは、低い得点をピークにしているが、2回目のテストでは、真ん中の15点より上位を山に、3回目では合格点レベルを山にする推移となっており、全体の得点が上昇していることを示している。 図3. リスニングテスト分布の推移

結果4 リスニングテスト スコアの伸び 下位群のこの部分の伸びが上位群よりも顕著に見える・・・ 下位群が追いつきそうな勢い 結果4 リスニングテスト スコアの伸び 表3. 上位群・下位群平均の推移 Pre Int Post 下位群 10.47 14.40 17.73 上位群 17.07 19.40 20.87 下位群のこの部分の伸びが上位群よりも顕著に見える・・・ 下位群が追いつきそうな勢い 図4. リスニングテスト スコアの伸び(上位群 下位群の比較)

結果5 上位群・下位群別 リスニングテストの伸び検証 結果5 上位群・下位群別 リスニングテストの伸び検証 2要因分散分析(混合計画)と多重比較 (Pre-testとpost-test) →  リスニングと熟達度の交互作用有り(有意傾向)    F (1,28) = 3.759 ( p = .063) 表4. 分散分析表(被験者内対比の検定) 要因 平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率 L 459.27 1 459.267 38.31 L x 熟達度 45.067 3.759 0.063 誤差 (L) 335.67 28 11.988 グラフの特徴から、Pre, int, postという3水準の分析を断念し、Pre, postで分散分析を行った。 その結果、交互作用が確認できた(有意水準)。サンプル数が多ければ、確実に有意となったと考えられる。これにより、下位群の学生は、音読指導を重ねるに従い、リスニング能力を伸ばしたということができる。

結果6 サンプル全体の差の検定 表5. サンプル全体の3回のテストの差 (I) Test (J) Test 平均値の差 (I-J) 標準誤差 結果6 サンプル全体の差の検定 表5. サンプル全体の3回のテストの差  (I) Test  (J) Test 平均値の差 (I-J) 標準誤差 p 値 Pre-test Interim test -3.133(*) 0.967 0.009 Post-test -5.533(*) 0.894 3.133(*) -2.400(*) 0.914 0.041 5.533(*) 2.400(*) * p < .05 クラス全体の3回のテストの差は5%水準で有意。

結果7 上位群と下位群の違い 表. 6 音読回数間のペアごとの比較結果 (Bonferroni法) (I)測定 (J)測定 結果7 上位群と下位群の違い 反復測定(ANOVA Repeated Measurement) 表. 6 音読回数間のペアごとの比較結果 (Bonferroni法) (I)測定 (J)測定 平均値の差 (I-J) 標準誤差 p 値 下位群 Pre Int -3.933(*) 1.368 0.008 Post -7.267(*) 1.264 上位群 -2.333 0.099 -3.800(*) 0.006 * p< .05 上位群の特徴:Preとintの間に有意差がなく、Preとpostにのみ有意な差がある(伸びが緩慢であり、天井効果が働いたと考える) 下位群の特徴:3回とも有意差がみられる(音読の即効性により、下位群により顕著な効果が確認できた) Post-testのテスト結果は、上位群と下位群の平均点に有意な差がみられない、つまりクラス全体がほぼ同じ水準になり、一斉にスタートラインに立ったと言うことができる。見た目に上位群・下位群の区別が最初はあったとしても、継続した音読指導により、下位群の学生が追いついている。いたずらに下位群の潜在能力を過小評価し、教材の内容を落とすと、下位群の能力が発揮されないこともあるという結論に達する。 これに対して、上位群の伸びが緩慢なことから、天井効果を取り払う指導の必要性が課題となる。 上位群は1回目と2回目に有意差なし、下位群は3回のテストに有意差あり

結果8 Pre-testとInterim test比較 熟達度 (I) Pre-test (J) Interim test 平均値の差 (I-J) 標準誤差 p 値 下位群 10.47 14.40 -3.93(*) 1.345 0.007 上位群 16.75 19.06 -2.31 1.302 0.086 * p < .05 表8. 3回のテストの差の検定 (I) 熟達度 (J) 熟達度 平均値の差 (I-J) 標準誤差 p 値 Pre-test 上位群 下位群 6.600(*) 1.455 Interim test 5.000(*) 2.009 0.019 Post-test 3.133 1.651 0.068 * p < .05

アンケート内容 表9. アンケート項目 4月の授業開始時期と比べて、もっとも自分の気持ちに近いものの番号に○を付けなさい。 (2008年7月、Post-test終了後の調査) 表9. アンケート項目 Q1. リスニングテストはやさしかった きわめて簡単だった 5 4 3 2 1 きわめて難しかった Q2. リスニングテストを日常的に受けたい かなり受けてみたい かなり受けたくない Q3. リスニングテストは英語力を高めるのに役立つ 役立つと思う 役立たないと思う Q4. 授業を受けてみて英語が好きになった 好きになった 嫌いになった Q5. 音声を聞いて音読できるようになった かなりそう思う かなりそう思わない Q6. 英単語の発音がしっかりできるようになった Q7. 英文の音読がしっかりできるようになった Q8. 音読が重要だと感じるようになった Q9. 音読が好きになった Q10. リスニング力が付いた Q11. 英語を読んだり聞いたりすることに対する抵抗感が減った かなり少なくなった かなり増えた Q12. 授業以外でも音読やリスニングの練習をした かなりやった まったくやらなかった

アンケート 結果1 2.88 「リスニングテストは英語力を高めるのに役立つ」「音読が重要だと感じるようになった」が顕著。指導のねらいと研究の目的は達成したと考えられる。 図5. アンケートの平均

アンケートの結果2 項目ごとの相関 表10. アンケート項目相互の相関例 アンケートの結果2 項目ごとの相関 表10. アンケート項目相互の相関例 項目 相関係数 リスニングの力が付いた .657(**) 音読が重要だと感じるようになった .746(**) 英語を読んだり聞いたりすることに対する抵抗感が減った .828(**) 英単語の発音がしっかりできるようになった 音声を聞いて音読できるようになった .629(**) 英文の音読がしっかりできるようになった .723(**) .747(**) リスニングテストは英語力を高めるのに役立つ 音読とリスニングの関係について学生が認識しており、autonomous learnersとしての第一歩を歩き出したと言うことができる。 単語レベルの抵抗感は減ったが、英文レベルとなると若干心許ないと考えているようだ。 **1%水準(両側)で有意 Q1とQ12を除き、その他の質問項目間についても.556~.840(**)と比較的高い相関が認められた。 Q1. リスニングテストはやさしかった Q12. 授業以外でも音読やリスニングの練習をした

授業外における音読練習の状況 うれしい誤算 課題 授業外でも練習したという意識が高いが、スコア上昇には結びついていない学生 授業以外でもホームページを使って学習していた(つもりの)学生が存在 →授業のみの効果は測定できず 伸びと授業外の学習意識に中程度の正の相関有り r = .464 *(p < .05) ただし、Q12と他の項目との相関はほとんど認められないため、英語力はもっぱら授業でつけたと学生は考えていると推測。 課題 授業外でも練習したという意識が高いが、スコア上昇には結びついていない学生 個人サーバにはいつでもアクセス可能なため、授業時間以外にも勉強したと自己認識する学生が予想以上に多かった(5段階の3.56)。しかし、この項目と他の項目に相関がないことから、自分で勉強したからリスニングができるようになったとか、音読が重要になったと考えているとは言えないため、学生はもっぱら授業で力を付けたという認識でいるようだ。 課題に示した学生は天井効果も一部みられるが、サンプル数が少ないため、原因ははっきりしない。 下がったか、伸びない学生 図6 . Pre-Postの得点差と、Q12の相関

考察 相関の高いアンケート項目 ・ 音読に対する重要性を認識した ・ リスニングの力が付いたと実感した ・ 英語に対する抵抗感が減った 相関の高いアンケート項目 ・ 音読に対する重要性を認識した ・ リスニングの力が付いたと実感した ・ 英語に対する抵抗感が減った 下位の学生に音読指導の効果が高かったのは、decoding skillsの習得により、内容理解に集中できるようになったため。 リスニングテストに対する苦手意識は残っているが、英語力を高めるためには重要だという認識に至った。 4月から7月までのテストで、リスニングテストについては上位群と下位群の差はほぼ解消された。 得点の伸びた学生は授業外でも勉強したと振り返っているが、英語力の形成はもっぱら授業によるものであるという認識である。

例外的データ ・・・ 自己補正能力 鈴木 (2008) a 上下を繰り返すだけで、ほとんどスコアの伸びが認められない学生 例外的データ ・・・ 自己補正能力 鈴木 (2008) a 上下を繰り返すだけで、ほとんどスコアの伸びが認められない学生 モデル音声を聞くだけでは、 正しく再生できない学生 自己補正能力の著しく低い学生の存在 図7. 例外的データ 音読指導が徹底しないのは、学習者の怠惰だけが原因とは限らない

音読能力測定ソフトSpeaK! モデル音声を聞けば正しく音声の再生ができる学生には、音読能力を測定するソフトウエアを使って練習を進めされる。

SpeaK!にできること どんな英文でも取り込める 英文や単語を読み上げてくれる 単語の意味を示す辞書機能がある 音読を録音し、スコアを出してくれる 動画や音声ファイルの取り込み リピーティング シンプルでわかりやすい操作性

課題 教材の難易度を上げるきっかけと指導上の留意点 ごく初期のリメディアル英語教育は、学生のmotivationと教材の難易度との間の微妙なバランスの上に成立する。 3級ができたら準2級というようにはいかないだろう。 上位の被験者を対象にした指導方法の改善 →上位と下位の差がなくなった後のクラス全体の底上げ指導 語彙能力の育成と音読指導のリンク

ホームページURL → http://langedu.dip.jp/or/

筆記テストの結果 参考資料 表8. 筆記テスト記述統計量 N=30 図7. 筆記テストの分布推移 平均点 標準偏差 最低点 最高点 R1 7.57 3.29 1 16 R3 13.83 3.17 9 19 R1: 1回目のテストでリスニングテストと同時間に実施した英検3級筆記テスト(2006年度第1回から抜粋、20点満点)の得点 R3: 3回目のテストでリスニングテストと同時間に実施した英検3級筆記(2006年度第3回から抜粋、20点満点)テストの得点 図7. 筆記テストの分布推移

引用文献 飯野厚・阿久津仁史・鈴木政浩 (2007) 「音読ソフトを勝つようした音読評価のスコア化:習熟度との関係および繰り返し音読におけるスコア変化の検証」 KATE Bulletin, 21 隈部直光 (1996) 「英語教師心得のすべて」 開拓社 鈴木政浩 (2008) a, Interactive, Vol.24, 旺文社 鈴木政浩 (2008) b, 「学習意欲と自信の回復を目指す一連の音読指導-動機づけと集中度をどう維持させたか-」 全国英語教育学会第34回大会口頭発表 Chomsky, C. (1978). When You Still Can’t Read in Third Grade: After Decoding What? In S.J. Samuels (Ed.), What Research Has to Say about Reading Snstruction Newark, DE: International Reading Association. Neville, M. H., & A. K. Pugh (1972) Reading While Listening: The Value of Teacher Involvement. ELT Journal, XXXIII(1). Samuels, S. J. (2002). Reading Fluency: Its Development ad Assessment. In S.J. Samuels (Ed.), What Research Has to Say about Reading. Newark, DE: International Reading Association. Samuels, S. J., Laberge, D., & Bremer, C. (1978). Units of Word Recognition: Evidence for Developmental Changes. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 17, 715-720. Stahl, S., Heuback, K., & Cramond, B. (1997). Fluency-oriented reading instruction (Reading Research Report No. 97). Athens, GA: National Reading Research Center. Stanovich, K. (1986). Matthew Effects in Reading: Some Consequences of Individual Differences in the Acquisition of Literacy. Reading Research Quarterly, 1, 360-407.