色彩コラージュ法 と中学生の色彩コラージュ 色彩コラージュ法 と中学生の色彩コラージュ 鳴門教育大学の山根和子です。これから「色彩コラージュの考案と中学校での実施」について発表させていただきます。
色彩コラージュ法とは 色彩コラージュは、「コラージュ療法」の方法にヒントを得て、中学校の教育現場で使いやすい方法として考案したもの(山根.2002)である。 コラージュとは貼り絵の事である。色彩コラージュでは写真の代わりに色紙を使用する。色と形の要素に絞る事によって、気持ちの拡散を防ぎ、コラージュよりも自己表現に集中する事ができる。 色と形を使った自己表現である色彩コラージュの作品や、振り返りカードから生徒理解の一助とすることができる。また、作成者にとっては、色紙を使うことで、色や手触りによる癒しの効果も考えられる。
色彩コラージュ法の特徴 「色彩」という要素を使うことで、自分の心の中を表現しやすい。 色彩・切片の形・貼り方の3つの要素があり、それらが組合わされることで、多様な表現の可能性がある。 色彩コラージュをした後で、自分の作品を振り返ることにより、客観的に自分自身をながめることができる。 集団でも個人でも実施できる。 中学校の1単位時間で実施可能である。 材料費・設備費画かからない。 安価である。
色彩コラージュの実施方法 色紙を用いる。丸・四角・三角の形で、大・中・小の大きさを準備する。 条件を色と形に限定するため、色紙の材質は統一する。 台紙は八つ切りサイズ。貼られた色を判定するため台紙の色は白とする。 一人分ずつ箱の中に、色紙と糊を入れたものを用意する。 制作時間は30分とする。 クラス単位で集団実施。(個人でも実施可) まず、「色彩コラージュ」の実施方法を考えました。 1. 2. 3. 4. 5. 6. これの実施方法は学校現場で実際に使いやすいという視点から考えました。
表1 色彩コラージュ実施手順 時間 留 意 点 準 備 10分 表1 色彩コラージュ実施手順 時間 留 意 点 準 備 10分 色彩コラージュの方法について簡単に説明し、材料を配布。教示をする。自分の一番使いたい色をまず選ばせる。 色材・ハサミ・のり 画用紙 30分 どんな色・形・枚数を貼ってもよいことを知らせ、自由に表現できるようにする。 作品ができた人から,作品の天地をかき、振り返りカードを記入してもらう。自分なりに気づいたことや発見を大事にさせる。 振り返りカード 次に色彩コラージュの実施手順について説明します。中学校の一単位時間の50分を基準に考えました。まず、はじめの10分に簡単な説明をし、材料を配ります。そして
色彩コラージュ法の教示 「これからやってもらう色彩コラージュは、学校の成績 に関係ありません。安心して自分の今の気持ちを色で 表現して下さい。 まず、色紙の色をよく見て、今の自分の気持ちに一 番ぴったりする色、または今の気分で一番好きな色 を選び、好きな形を、好きな場所に、好きなだけいく つでも貼ってください。 色紙の形を変えたいときは、ハサミで切ってもいい し、手でちぎってもかまいません。 色紙は重なっても、はみ出してもかまいません。」
これは、色彩コラージュの材料です。このようなケースを人数分用意しました。 図1 色彩コラージュの材料
ふりかえりカード(例) 1.今日の色彩コラージュは楽しかったですか?(どちらかに○をいれてください) はい・いいえ ふりかえりカード(例) 1.今日の色彩コラージュは楽しかったですか?(どちらかに○をいれてください) はい・いいえ 2.色彩コラージュのどこが楽しかったですか?(いくつでも○を入れてください) ・色紙をさわる ・色紙をさがす ・色紙をならべる ・色紙をはる 3.あなたが今日選んだ色で一番気になる色は何色ですか。 4.その色はあなたにとって、どんな意味があるでしょうか、ことばで表現してみてください。 5.この作品に題名をつけるとしたらどんな題になりますか?題名を書いてください。またその題の意味も教えてください。 5.色彩コラージュの作品に満足していますか?(どちらかに○を入れてください) 6.自分の色彩コラージュを作って、またはその作品を見て気づいたことや、感じたことをいくつでも(できるだけたくさん)書き出してみてください。 例 :私の好きな色は~色だけど、今日のコラージュは~色が多かった。 :色紙をはってみると~~だった。
中学校での色彩コラージュ法 色彩コラージュは、自分の心の中を表現する方法として学校現場で使いやすい方法である。 中学生自身は、色彩コラージュで自己表現ができたと考えているものが多い。 振り返りカードを書くことで、自分自身の心の状態を見つめ直すことができる。 色彩コラージュの作品と振り返りカードを手がかりにして、中学生の心の理解につなげることができる。 学校現場で応用するための有用性として、次の4つの点が考えられます。 1. 2. 3. 4. そのほかの有用性としては、 5.色彩コラージュは集団でも個人でも実施可能である。 6.特別な施設設備や用具費がかからない。 7.中学校の1単位時間である50分で、実施可能である。
まとめ 色彩コラージュ法は、中学生の心の表現方法として使いやすい方法である。 色彩コラージュをすることで自分を表現し、振り返りカードを書くことで、自分の心の中を言語化することにもつながる。 実施者側は、色彩コラージュと振り返りカードから、中学生の心を理解する手がかりとすることができる。 まとめ これまでの研究で、わかったことは、1.2.3.4.の4点です。 これらのことから、中学生の色彩コラージュの一般的な傾向がわかりました。このことから色彩コラージュ宇野得意な表現をする子供たちの心の内に目を向けることができると思います。表面的に「問題がない子」として見過ごされがちである生徒の心の内に、少しでも近づくことができたら幸いであると考えます。 今後は、そのほかに色の3要素や、余白の位置、色のイメージなどの分析項目を分析を進めていきます。 これらの結果から、色彩コラージュの方法を、ぜひ中学校現場で生かしていきたいと思っています。
色彩コラージュ作品と生徒理解 色彩コラージュだけで生徒の心の内をすべて読みとることはできない。あくまでも理解の手がかりを得る一つの方法である。 理解の手がかり ・色彩コラージュ制作中の様子を観察する。 ・使用した色から:色に投影された心をみる。(参考;色彩心理・カラーセラピーなど) ・色紙の貼り方から:空間に投影された心をみる。(参考;箱庭療法・コラージュ療法・空間象徴など) ・ふりかえりカードから:言語化された心を読む。 ・作品を介しての本人とのコミュニケーション:作品が間にあることで、より自然な形で会話の糸口となる。 ・色彩コラージュの作品全体の印象から感じる。
中学生の色彩コラージュ 徳島県A中学校
表2 色彩コラージュの実施対象 徳島県A中学校(1年~3年)の生徒172名 1年 2年 3年 計 男子 44 22 20 86 女子 33 29 24 77 51 172 色彩コラージュの実施対象は、A県B中学校の男子86名女子86名の計172名です。 授業実践は平成14年1月21日・22日。および平成14年5月14日の3日間実施しました。
色彩コラージュ 検討の視点 2 はみ出しの有無 3 重ね貼りの有無 4 余白の有無 5 無彩色の有無 6 統合性の有無 7 中心性の有無 色彩コラージュ 検討の視点 1 用紙の使い方 2 はみ出しの有無 3 重ね貼りの有無 4 余白の有無 5 無彩色の有無 6 統合性の有無 7 中心性の有無 8 主な色 9 主な形 10 切片数 続いて実施結果についてお話します。データの分析方法の主なものはこの10項目です。
表3 用紙の使い方 た て よ こ 男 8(9%) 78(91%) 女 3(3%) 83(97%) 計 11(6%) 161(94%) 表3 用紙の使い方 た て よ こ 男 8(9%) 78(91%) 女 3(3%) 83(97%) 計 11(6%) 161(94%) 大部分のものが用紙をたてに使用した。 用紙をたてに使用したものは、172名中男子7名、女子4名の計11名であった。
図2 たての作品例
図3 よこの作品例
表4 はみ出しのあり・なし あ り な し 男 27(31%) 59(69%) 女 25(29%) 61(71%) 計 52(30%) 表4 はみ出しのあり・なし あ り な し 男 27(31%) 59(69%) 女 25(29%) 61(71%) 計 52(30%) 120(70%)
図4 はみ出しのある作品例
図5 はみ出しのない作品例
表5 重ね貼りのあり・なし あ り な し 男 81(94%) 5(6%) 女 79(92%) 7(8%) 計 160(93%) 表5 重ね貼りのあり・なし あ り な し 男 81(94%) 5(6%) 女 79(92%) 7(8%) 計 160(93%) 12(7%)
図6 重ね貼りのある作品例
図7 重ね貼りのない作品
表6 余白のあり・なし あ り な し 男 71(83%) 15(17%) 女 80(93%) 6 (7%) 計 151(88%) 表6 余白のあり・なし あ り な し 男 71(83%) 15(17%) 女 80(93%) 6 (7%) 計 151(88%) 21(12%)
図8 余白のある作品例
図9 余白のない作品例
表7 無彩色のあり・なし あ り な し 男 69(80%) 17(20%) 女 58(67%) 28(33%) 計 127(74%) 表7 無彩色のあり・なし あ り な し 男 69(80%) 17(20%) 女 58(67%) 28(33%) 計 127(74%) 45(26%)
図10 無彩色のある作品例
図11 無彩色のない作品例
表8 統合性のあり・なし 男 36(42%) 20(23%) 30(35%) 女 39(46%) 27(31%) 計 75(44%) 表8 統合性のあり・なし あり どちらともいえない なし 男 36(42%) 20(23%) 30(35%) 女 39(46%) 27(31%) 計 75(44%) 47(27%) 50(29%)
図12 統合性のある作品例
図13 統合性のない作品例
表9 中心性のあり・なし あり なし 男 17(20%) 69(80%) 女 8 (9%) 78(91%) 計 25(15%) 表9 中心性のあり・なし あり なし 男 17(20%) 69(80%) 女 8 (9%) 78(91%) 計 25(15%) 147(85%)
図14 中心性のある作品例
図15 中心性のない作品例
表10 その作品の中で主に使われた色 全男(N=86) 全女(N=86) 全学年(N=172) きいろ 12 17 29 あか 9 26 表10 その作品の中で主に使われた色 全男(N=86) 全女(N=86) 全学年(N=172) きいろ 12 17 29 あか 9 26 オレンジ 11 23 ピンク 13 22 みず 7 20 あお 8 15 みどり 4 くろ 6 10 しろ 2 きみどり あかむらさき 1 むらさき 0 こん うすむらさき うすみどり はい ちゃいろ
図16 主に使われた色(全学年) N=172
図17 主に使われた色(全学年男) N=86
図18 主に使われた色(全学年女) N=86
色彩コラージュで使用された色数 使われた色の平均数は、9色 全体に明るい色が多く使われた 一番色数の多いものは、16色 一番色数の少ないものは、2色
表11 画面で主に使われている形 ○、□、△、不定形 表11 画面で主に使われている形 ○、□、△、不定形 男 女 計 ○ 15(17%) 34(40%) 49(28%) □ 63(74%) 44(51%) 107(63%) △ 5 (6%) 2 (2%) 7 (4%) その他 3 (3%) 6 (7%) 9 (5%) その他というのは、○・□・三角の切片を自分で形を変えたものや、折が曲げたものをいう。
切片数 色彩コラージュに貼られた切片の数の 平均は、25枚 もっとも少ないものは、6枚 もっとも多いものは、87枚 平均は、25枚 もっとも少ないものは、6枚 もっとも多いものは、87枚 重ね貼りをして正確に数えられないものもあった。
表12 切片数 1~10枚 11~30枚 31枚~ 男 5(6%) 55(64%) 26(30%) 女 8(9%) 62(72%) 表12 切片数 1~10枚 11~30枚 31枚~ 男 5(6%) 55(64%) 26(30%) 女 8(9%) 62(72%) 16(19%) 計 13(8%) 117(68%) 42(24%)
色彩コラージュの特徴的な表現 1 与えられていた形を変えて、具体的な文字や形を作った作品(具体表現) 1 与えられていた形を変えて、具体的な文字や形を作った作品(具体表現) 2 折り紙をしたものを貼った作品(折り紙表現) 3 色のコラージュという教示であったのに、白・黒のみ使用した作品(モノクロ表現) 4 画面一面にすき間なく色紙を貼った作品 (タイル貼り表現) 5 色彩コラージュをした上から、表面をおおいつくすように色紙を貼った作品(マスク表現) 6 立体的な表現をした作品(立体表現) 先へ進む
図19 具体表現 一覧にもどる
図20 折り紙表現 一覧にもどる
図21 モノクロ表現 一覧にもどる
図22 タイル貼り表現 一覧にもどる
図23 マスク表現 一覧にもどる
図24 立体表現 一覧にもどる
表13 色彩コラージュ実施後の感想 (作品に自分らしさが出ているか) 表13 色彩コラージュ実施後の感想 (作品に自分らしさが出ているか) 男 女 計 いる 66(77%) 80(93%) 146(85%) いない 12(14%) 4 (5%) 16 (9%) わから ない 8 (9%) 2 (2%) 10 (6%)
図25 自分らしさが出ている作品例
図26 自分らしさが出ていない作品例
図27 自分らしさが出ているか わからない作品例 図27 自分らしさが出ているか わからない作品例
参考文献 鳴門教育大学大学院 教育臨床コース 22002年度修士論文 「色彩コラージュ法の考案と中学校での実施」 山根 和子 鳴門教育大学大学院 教育臨床コース 22002年度修士論文 「色彩コラージュ法の考案と中学校での実施」 山根 和子 遊戯療法学研究 Vol.2 No.1 2003.7 「色彩コラージュ法」開発の試み 鳴門教育大学 山根和子・田中雄三 次ページ作品例につづく
資料編 ・色彩コラージュ作品
図28 裏貼り表現
図29 マンダラ様表現
図30 具体表現(家紋)
図31 マンダラ様表現
図32 タイル貼り表現
図33 マンダラ様表現 おわり