【指導教員】郷古 学 教授 【発表者】 荒川 有香 佐藤 駿介

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【指導教員】郷古 学 教授 【発表者】1341110 荒川 有香 1341164 佐藤 駿介 第409回 機械知能工学セミナー(E部門) 平成28年6月17日(金) Which Robot Behavior Can Motivate Children to Tidy up Their Toys? Design and Evaluation of “Ranger” ロボットのどのような行動が子どもの片付けのやる気をおこすか? “レンジャー”の設計と評価 Julia Fink, Séverin Lemaignan, Pierre Dillenbourg, Philippe Rétornaz, Florian Vaussard, Alain Berthoud, Francesco Mondada, Florian Wille, Karmen Franinovic 【指導教員】郷古 学 教授 【発表者】1341110 荒川 有香 1341164 佐藤 駿介  これから、郷古研究室、1341110 荒川有香と、1341164 佐藤駿介の発表を始めます。  テーマは、「ロボットのどのような行動が子供の片付けのやる気をおこすか~“レンジャーの設計と評価”~」です。  よろしくお願いします。

日常生活を支援するロボットの設計が長年の課題 ◆背景 日常生活を支援するロボットの設計が長年の課題 ロブジェクトを設計  それではまず、本研究の背景からご説明します。  ロボット工学において、日常生活を支援する家庭用ロボットの設計は長年の課題となっています。それに対するアプローチのひとつとして、今回私たちは「ロブジェクト」と名付けたロボットの設計に取り組みました。

家庭でのロボットの受け入れを高める可能性 ◆ロブジェクト ロブジェクト(RObject) →すでに日常生活の一部である物体に  ロボットの機能を統合したもの  ロブジェクトとは、すでに日常生活の一部になっている物体に、ロボットの機能を追加したものです。  これは、すでに受け入れられているものをロボット化することで、家庭でのロボットの受け入れを高めることが期待されます。  例としては、掃除機にロボットとしての機能を持たせた、家庭用お掃除ロボットがあげられます。 家庭でのロボットの受け入れを高める可能性

本研究では子供のおもちゃの片付けを対象に ロブジェクトを作成 ◆ロボットと人の関わり 人と関わりあうロボットの開発にはHRIの実現が不可欠 ◎HRI = Human-Robot Interaction 本研究では子供のおもちゃの片付けを対象に ロブジェクトを作成  家庭用ロボットのように、人と関わりあうロボットの開発には、HRIの実現が求められます。HRIとは、Human-Robot Interaction のことです。  本研究では、このHRIにより、子供におもちゃの片付けを促すことを目的として、おもちゃ箱にロブジェクトを作成した、ロボットおもちゃ箱を設計することにしました。

◆関連研究 STB(Sociable Trash Box) →子供にゴミを拾わせ、捨てさせるロボット 効果的な3つの要素 STBの移動能力 子供とのインタラクション  ここで、子供に片付けをさせるロボットの例として、関連研究をご紹介します。  写真をご覧ください。これは STB(Sociable Trash Box) といって、ゴミの方へ自ら近づいていくことで、子供たちの気を引き、ゴミを捨ててもらうというロボットです。  この研究者は、ゴミを拾ってほしいというSTBの意図を子供に伝えることにおいて、より効果的な三つの要素を発見しました。  1. STBの移動能力  2. 子供ではなくゴミに向かう  3. 子供と交流し、インタラクションする  私たちは、この研究を参考に、本研究で設計するロボットおもちゃ箱にもこの要素を取り入れることにしました。 (三宅ら,2013)

◆ロボットおもちゃ箱「レンジャー」① 子供におもちゃの片付けを促すロボット 木製のおもちゃ箱に車輪、目、眉を装備  車輪:移動能力の取得  目と眉:簡単な感情を表現 状況に応じたLEDの色と点滅パターン、 音の組み合わせを作成 レンジャー  次に、本研究で設計したロボットおもちゃ箱についてご説明します。私たちはこのロボットおもちゃ箱を、レンジャーと名付けました。  レンジャーは、子供におもちゃの片付けを促すロボットおもちゃ箱です。  レンジャーには、移動するための車輪と、感情を表現するための目と眉がついています。  このとき、目はインタラクションにプラスの効果を与えますが、見た目が人間に近すぎると、ユーザーに過度な期待をさせてしまう可能性があるため、人間に近い顔は避けました。  また、レンジャーからのフィードバックとして、音と光で合図することとし、子供の行動に応じたLEDの色と点灯パターン、音の組み合わせを複数作成しました。

◆ロボットおもちゃ箱「レンジャー」② レンジャーからのフィードバック おもちゃを入れられる おもちゃが取り出される 触られる or 撫でられる 蹴られる or 誤った使い方をされる レンジャー  レンジャーは、子供の行動に対するフィードバックとして、次の場合に光ったり、音を鳴らしたりします。 レンジャーにおもちゃが入れられたとき レンジャーからおもちゃが取り出されたとき レンジャーが子供に触られたり、撫でられたとき レンジャーが子供に蹴られたり、誤った使い方をされたとき

◆実験目的 子供たちがどのように レンジャーと接し、インタラクションするか レンジャーの行動が子供の片付けにどのように影響するか  それではここから、本研究の実験についてご説明します。  実験では、子供たちがどのようにレンジャーと接し、インタラクションするかということ、さらに、レンジャーの行動が子供の片付けにどのように影響するかを調査しました。

◆レンジャーの行動 proactive と reactive の2つの行動を調査 proactive:レンジャーがおもちゃの方へ進む

◆実験方法(概要①) 参加者 14家族(1家族あたり1~4人の子供) 子供 31人(2~10才 男の子:16人 女の子:15人)   子供 31人(2~10才 男の子:16人 女の子:15人)   両親 16人(母親:12人 父親:4人 平均年齢40.5歳) 実験は2グループ(7家族)にわけて proactive と reactive をそれぞれ調査  次に、実験の参加者についてご説明します。2~10歳の子供が31人、その両親が16人の、14組の家族に参加してもらいました。  この家族を7家族ずつの2グループに分け、一方のグループでは proactive 、もう一方のグループでは reactive の行動を調査しました。

◆実験方法(概要②) 実験は各家庭の子供部屋で実施(~1時間) 事前説明(20分) レンジャーと子供の片付けの様子を観察(15~30分) アンケート(15分)   → レンジャーに対する理解度の調査と評価(デザイン、好感度 など)  実験は、二人の研究員が各家庭を訪問し、子供部屋で実施しました。  まず、子供の両親に実験についての説明をし、同意を得ます。  次に、レンジャーと子供のインタラクションについて観察します。これは、最大で30分かかりました。  最後に、両親にレンジャーについてのアンケートをとり、デザインやレンジャーに対する好感度などを調査し、レンジャーを評価してもらいました。

◆実験方法(概要③) レンジャーはWizard of Oz法によって操作 レンジャーに命令

◆実験方法(概要④) 子供部屋の様子はカメラで観察 →子供たちはカメラで見られているとは 実験への影響はない 思っていない 撮影用のカメラ  思っていない  実験中の子供部屋の様子は、あらかじめ部屋に設置しておいたカメラにより観察しました。  この時、子供たちにはカメラで見られているとは思っていなかったため、このカメラの実験の結果に対する影響はないものとします。 撮影用のカメラ 実験への影響はない

◆実験結果① proactive, reactive 共に 片付け時間に大きな差は見られなかった しかし それでは実験結果について説明します。子供たちはまず、初めて見るレンジャーがどのようなものなのかを知るためにインタラクションし始めました。方法は子供によってさまざまで、触ったりなでたり、時には蹴ったりしています。そして、この行動に対してレンジャーはフィードバックを行います。それを見て、徐々に子供たちは魅了されていきました。その後、レンジャーの中におもちゃを入れたり出したりし始めました。この一連の実験の様子を観察した結果、片付け時間に関してはproactive, reactiveともに大きな差は見られませんでした。この片付け時間とは、レンジャーにおもちゃを出し入れしている時間のことです。しかしながら、子供たちとレンジャーとのインタラクションは、proactiveの方がreactiveの2倍インタラクションに時間がかかりました。これは、子供たちが部屋の中を動くproactiveのレンジャーを魅力的なおもちゃ箱と感じ、部屋のある箇所に静止し続けることが多いreactiveよりも高い興味を示したものだと考えられます。 proactiveの方がreactiveと比べ、レンジャーとの インタラクションの時間に2倍の差があらわれた

レンジャーは短時間の片付けのやる気の引き出しに役立つ ◆実験結果② レンジャーからのおもちゃの出し入れ → proactive, reactive 共に最初の2分間が活発   その後は興味が低下 また、レンジャーからのおもちゃの出し入れは、proactive, reactiveともに最初の2分間が最も活発に行われました。そして、そのあとは両者ともにレンジャーからのおもちゃの出し入れの回数が減少していきました。その理由としては、はじめはあったレンジャーへの目新しさが時間とともに失われ、子供にとってのレンジャーへの興味が低下したものと考えられます。このことから、レンジャーは子供たちの短時間のやる気の引き出しには役立つものであると分かりました。 レンジャーは短時間の片付けのやる気の引き出しに役立つ

1分ごとのおもちゃの出し入れの平均数をグラフ化 ◆実験結果③ 片付けの判断方法 → レンジャーの中におもちゃが入ると「+1」   レンジャーの中からおもちゃが出ると「-1」 私たちは子供たちのおもちゃの出し入れの回数を時間の経過で調査するため、片付けの判断方法を以下のように設定しました。子供たちがレンジャーの中におもちゃを1個入れた場合を「+1」とします。同様に、レンジャーの中からおもちゃを1個取り出した場合には「-1」とします。この値を2グループ、7家族ずつの合計14家族分の調査データとして1分ごとのおもちゃの出し入れの平均数をグラフ化しました。 1分ごとのおもちゃの出し入れの平均数をグラフ化

◆実験結果④ reactiveの方が 片付けに対する効果が高かった reactive の方が proactiveよりも おもちゃの出し入れが多い proactiveとreactiveの おもちゃの出し入れの平均数 1分ごとのおもちゃの出し入れの平均数 reactiveの方が 片付けに対する効果が高かった そのグラフが右手のグラフとなります。実線で書かれているのがproactive、破線で書かれているのがreactiveとなります。縦軸を1分ごとのおもちゃの出し入れの平均数、横軸を時間としています。この赤い丸で示したところが最も活発におもちゃの出し入れが行われていた部分です。これより、レンジャーはreactiveの方がproactiveよりもおもちゃの出し入れが活発に行われていたことが分かりました。この理由としては、proactiveは部屋の中を動き回るので、子供たちはレンジャーをおもちゃ箱としてではなく遊ぶ道具として見ていました。したがって、おもちゃを出し入れする回数が少なくなりました。対してreactiveは、子供たちがレンジャーからのフィードバックを見たいが為におもちゃを入れていたので、出し入れする回数が増えました。これより、この研究の目的である片付けへの影響については、reactiveの方が効果が高かったということが分かります。 時間(分)

◆レンジャーの評価(両親)① 実験時のレンジャーについて proactiveよりもreactiveを評価 → 利用しやすい点 この実験のあと、レンジャーの評価について両親と子供へのアンケート調査を行いました。まず、両親のアンケート結果のまとめになります。実験時のレンジャーについては、両親はproactiveよりもreactiveの方を評価しました。これは、reactiveはproactiveに比べ利用しやすいということを理由に挙げていました。しかし、reactiveが自ら動かないことには否定的意見が見られました。これは、レンジャーを含めた、ロボットに対しての過度な期待が原因である考えられます。この過度な期待というのは、適応ギャップと呼ばれる言葉で当てはめることができます。 適応ギャップ

◆適応ギャップとは 外見によってそのロボットの機能をユーザが 勝手に予想し、期待してしまうこと ロボット ユーザ ロボット ユーザ 外見によってそのロボットの機能をユーザが 勝手に予想し、期待してしまうこと ここで、適応ギャップについての説明をいたします。適応ギャップとは、 ユーザが使用するロボットの外見で機能を勝手に予測するが、そのロボットの機能が予測したそれ以下だった場合にユーザが期待外れに感じてしまうことです。例として、図のような場面があります。向かって左側の人に近い外見のロボットが人間以下の行動をするとユーザは失望します。しかし、向かって右側の外見があまり大したことのないロボットが行うとユーザは予測以上の行動に、それがすごいことをしているように感じてしまうのです。このようなことを適応ギャップといいます。 ロボット ユーザ ロボット ユーザ (山田ら,2007)

◆レンジャーの評価(両親)① 実験時のレンジャーについて proactiveよりもreactiveを評価 → 利用しやすい点 この適応ギャップが、今回の両親のレンジャーに対しての否定的な評価につながっていると考えられます。実際、否定的な意見を出した父親はレンジャーに対して実験前には期待していたことを認めていました。両親からの評価は以上です。一緒にレンジャーの改善案も両親からいただきました。

◆レンジャーの評価(両親)② 両親からの改善案 音の種類の追加 子供たちとレンジャーとの会話を可能に 両親からの改善案はおもに2つで、1つ目はレンジャーが出す音の種類の追加です。参加者の両親はより多くの音を出すことを提案していました。2つ目は、レンジャーと子供たちが会話できることを提案していました。両親からの評価・改善案は以上で、次は子供からのレンジャーの評価に移ります。

ロボットが感情を持つものとして受け入れられた ◆レンジャーの評価(子供) 子供たちはおもちゃの有無でレンジャー自身が 幸せかどうか、という感情を抱いていると考えていた おもちゃ有 : 幸せ おもちゃ無 : 幸せではない 子供たちが考えた 実験中、子供たちはレンジャーの中に入っているおもちゃの有無で、レンジャー自身が幸せかどうか、という感情を抱いていると考えていた、と答えました。彼らはレンジャーの中におもちゃがあるときは、レンジャーが「幸せ」に感じていると考えていました。反対におもちゃがないときは、レンジャーは「幸せではない」と考えていました。これより、子供たちはレンジャー、つまりロボットを感情を持つものとして受け入れたのではないかと考えます。 ロボットが感情を持つものとして受け入れられた

◆まとめ > ロボットおもちゃ箱「レンジャー」を設計 → proactive と reactive の2つの行動を調査 proactive 片付けのやる気 向上 インタラクションの時間 長い 短い 片付けへの効果 低い 高い 今回の研究のまとめです。私たちはロボットおもちゃ箱「レンジャー」を設計しました。その行動の仕方をproactiveとreactiveの2つに分け、それらが子供たちとどのようにインタラクションをし、また片付けの行動にどのような影響を与えるかを調査し、評価しました。その結果、proactiveとreactiveの両方とも子供たちの片付けに対するやる気を引き出し、向上させることができました。この研究で特に、2つの行動の結果に差が現れたのはレンジャーとのインタラクションの時間と子供たちの片付けへの効果です。proactiveの方がreactiveよりもインタラクションの時間に2倍かかりました。また、子供たちの片付けへの効果はproactiveよりもreactiveの方が高いことが分かりました。 >

◆今後の課題 レンジャーの自律化、子供の認知のしやすさ 短期的な片付けに対するやる気の引き出しに成功 → 目新しさによるもの 短期的な片付けに対するやる気の引き出しに成功 → 目新しさによるもの 今後の課題としましては、まずレンジャーの自律化と子供の認知のしやすさです。今回の実験ではレンジャーの操作に「Wizard of Oz法」を使用しましたが、これを自律化させたいと考えています。同時に、子供たちが、レンジャーはおもちゃ箱であると認知しやすくするための設計をしようと考えています。またインタラクションの時間の結果より、今回はレンジャーによって子供たちの短期的な片付けに対するやる気の引き出しに成功しました。しかし、これは目新しさによるものでした。このインタラクションを長時間、維持することを目標に長期的な研究と検証をする必要があると考えます。 長期的な研究により検証する必要あり

WOZ法 →システムに扮した人が行動の一部またはすべてを操作する手法。  実験対象者は実際にシステムを相手にしていると思うため、  データが得やすい。

◆実験方法(概要①) 実験は各家庭の子供部屋で実施 約1時間 参加両親に同意 準備 インタラクションの調査 アンケートと評価  実験は、二人の研究員が各家庭を訪問し、子供部屋で実施しました。  まず、子供の両親に実験についての説明をし、同意を得ます。  次に、実験の準備をし、レンジャーと子供のインタラクションについて観察します。  最後に、子供と両親にレンジャーについてのアンケートをとり、レンジャーを評価します。  この一連の流れを、約1時間で行います。