ヒトインスリン混合製剤30から 二相性インスリン アスパルト30/70への 切り替え時における食後高血糖および 動脈硬化の改善 Improvement of postprandial hyperglycemia and arterial stiffness upon switching from premixed human insulin 30/70 to biphasic insulin aspart 30/70 Ohira M et al.:Metabolism, 2010(in press)
試験概要 ヒトインスリン混合製剤30 (BHI30)から二相性 インスリン アスパルト30(BIAsp30)への切り替えによる動脈硬化に対する影響を評価する。 すでにBHI30を1日2回注射している2型糖尿病患者26例(HbA1C>6.5%) BHI30 1日2回注射を3ヵ月間観察し、BIAsp30に切り替えた。ベースライン時(切り替え時)および切り替え3ヵ月後のBMI、空腹時血糖値、HbA1C、1,5-AG、総コレステロール、トリグリセリド、HDL-C、LDL-C、血清アディポネクチン、LDL粒子サイズおよびCAVIを測定した。 目 的 対 象 方 法 食後高血糖は、2型糖尿病患者の心血管系死亡率の増加と関連していることが知られています。CAVI(心臓足首血管指数)は、動脈硬化を反映する新しい評価指標で、冠動脈アテロームの予測に関しては内膜中膜複合体厚(IMT)よりも有用であると報告されています。 そこで、ヒトインスリン混合製剤30(BHI30)から食後高血糖の改善が期待できる二相性インスリンアスパルト30(BIAsp30)に切り替え、食後高血糖および動脈硬化に対する影響を評価しました。 対象は、すでにBHI30を1日2回注射している2型糖尿病患者26例です。 3ヵ月観察した後、BIAsp30の1日2回注射に切り替え、ベースライン時および切り替え3ヵ月後のBMI、空腹時血糖、HbA1c、1,5-AG、総コレステロール、トリグリセリド、HDL-C、LDL-C、血清アディポネクチン、LDL粒子サイズおよびCAVIを測定しました。 Ohira M et al.:Metabolism, 2010(in press)
健常群での性・年齢別CAVI平均値(5歳ごと) 11 男性:3,259名 女性:3,534名 CAVI(Cardio Ankle Vascular Index) =動脈の硬さの指標 大動脈を含む「心臓(Cardio)から 足首(Ankle)まで」の動脈 (Vascular)の硬さを反映する指標 (Index)で、動脈硬化が進行する ほど高値となる。 10歳ごとにCAVI平均値はおよそ 0.5上昇する(2年で0.1上昇)。男 女差は0.5(およそ10年差に相当) 10 9 CAVI値 8 7 6 CAVIとは、大動脈、大腿動脈、腓骨動脈までの動脈を一体とみなし、その硬さを脳波速度と血圧測定から求めた、新しい指標です。 動脈硬化が進行するほど、高値を示します。 CAVIの平均値は、年齢とほぼ直線的相関を示しますが、男性の方がやや勾配が高い傾向が伺えます。 血管年齢:男女とも加齢に伴ってほぼ直線的にCAVI値が上昇する。10歳で、男性では0.4~0.6ずつ、女性では0.5~0.6ずつ上昇することを利用し、血管年齢が算出される。 CAVI予測式 男性:CAVI=5.43+0.053×年齢 女性:CAVI=5.34+0.049×年齢 5 4 > 年齢 20-24 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-64 70 折茂肇 他 監修:新しい動脈硬化指標CAVIのすべて 1版 日経メディカル開発, 2009 日本労働文化協会2006
参考:心臓足首血管指数(CAVI) 測定法が簡易 血圧の影響を受けない(PWV,ABIを除く) 再現性が良好 血管機能の定量性が可能 特 徴 測定法が簡易 血圧の影響を受けない(PWV,ABIを除く) 再現性が良好 血管機能の定量性が可能 臨床的有用性 治療や生活習慣是正の動機付けに役立つ。 動脈硬化に対するリスクファクターの影響 を定量的に判定できる。 薬剤の治療効果を明確に評価できる。 測定手技は非常に簡単で、測定時間は5~10分。 血圧の影響は受けません。 再現性も良好で、血管機能が定量化できます。 動脈硬化に対するリスクファクターの影響を定量的に判定でき、 動脈硬化の治療や生活習慣病の是正に対する動機づけに役立ちます。 また、治療薬の効果を明確に評価することもできます。 血管年齢の 予測値が 記載される 折茂肇 他 監修:新しい動脈硬化指標CAVIのすべて 1版 日経メディカル開発, 2009 フクダ電子株式会社ホームページより
患者背景 性別(男/女) 12/14 HDL-C(mg/dL) 58.35±18.65 年齢(歳) 64.58±9.47 LDL-C(mg/dL) 104.00±29.96 体重(kg) 56.09±10.33 アディポネクチン(ng/dL) 12.87±7.77 BMI(kg/m2) 22.63±3.27 MDA-LDL(U/L) 104.00±74.18 FBG(mg/dL) 154.61±75.68 RLP-C(mg/dL) 5.97±4.97 HbA1C(%) 7.51±1.29 尿中アルブミン(mg/g Cr) 680.34±1618.38 1,5-AG(μg/mL) 6.84±5.07 尿中8-OHdG(ng/mg Cr) 8.30±3.38 TC(mg/dL) 189.58±32.14 LDL-Rm比 0.3462±0.041 TG(mg/dL) 120.92±70.15 患者背景です。 HbA1cは7.51%、平均年齢64.6歳です。 Mean±SD MDA-LDL : マロンジアルデヒド修飾LDL(酸化LDL) RLP-C : レムナント様リポ蛋白コレステロール Ohira M et al.:Metabolism, 2010(in press)
二相性インスリン アスパルト30 への切り替え後の指標の変化 体重、BMI、FBG、HbA1C、TC、TG、HDL-C、LDL-Cは、BIAsp30への切り替え後、変化しなかった。1,5-AGは改善傾向がみられた。 1ヵ月後 2ヵ月後 3ヵ月後 体重(kg) 56.24±9.99 56.40±9.65 56.68±9.90 BMI(kg/m2) 22.69±3.19 22.77±3.10 22.87±3.13 FBG(mg/dL) 152.50±62.80 147.00±60.94 153.65±66.40 HbA1C(%) 7.57±1.23 7.63±1.20 7.50±1.11 1,5-AG(μg/mL) 6.55±5.73 6.99±5.23 6.99±5.29 TC(mg/dL) 194.11±33.41 195.15±33.90 197.23±39.49 TG(mg/dL) 134.15±82.58 154.65±130.13 152.12±110.70 HDL-C(mg/dL) 56.73±19.37 57.19±20.23 59.58±19.72 LDL-C(mg/dL) 106.96±29.13 105.81±32.61 105.69±31.64 BHI30の1日2回投与からBIAsp30の1日2回投与へ切り替えした後、体重、BMI、FBG、HbA1c、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロールは変化しませんでした。 一方、食後高血糖を反映する1,5-AGは、3ヵ月後に改善傾向が認められました。 Mean±SD Ohira M et al.:Metabolism, 2010(in press)
二相性インスリン アスパルト30 への切り替え後の指標の変化 アディポネクチン、MDA-LDL、RLP-C、尿中アルブミン、尿中8-OHdGは、BIAsp30への切り替え後、変化しなかったが、LDL-Rm比は有意に低下した。 1ヵ月後 2ヵ月後 3ヵ月後 アディポネクチン(ng/dL) 12.08±6.73 12.97±8.14 13.10±8.34 MDA-LDL(U/L) 106.58±75.19 103.13±53.08 106.90±80.01 RLP-C(mg/dL) 7.02±6.01 8.45±10.64 7.19±6.25 尿中アルブミン(mg/g Cr) 470.10±968.79 556.72±1161.51 586.22±1227.07 尿中8-OHdG(ng/mg Cr) 8.77±2.65 7.97±2.55 7.36±3.37 LDL-Rm比 0.3356±0.035* BHI30の1日2回投与からBIAsp30の1日2回投与へ切り替え後、アディポネクチン、MDA-LDL、RLP-C、尿中アルブミン、尿中8-OHdGは変化しませんでした。LDL-Rm比は3ヵ月後に有意に低下しました。 Ohira M et al.:Metabolism, 2010(in press)より改変 アディポネクチン 血管の炎症、アテローム性動脈硬化症の発症に予防的な役割を果たすアディポカイン。食後高血糖を改善することで、アディポネクチンが上昇し、動脈硬化症を予防すると考えられている。 MDA-LDL (マロンジアルデヒド修飾LDL) 酸化LDLのひとつ。糖尿病や高トリグリセリド血症で増加する。 RLP-C (レムナント様 リポ蛋白コレステロール) 動脈硬化症の進展予測や治療の指針として有用。心血管疾患発症に対する独立危険因子。 8-OHdG 生体におけるDNAの損傷の程度、ひいては酸化ストレスの高低を反映する指標。尿中8-OHdG排泄量の増加が確認されている疾患は、糖尿病、肺癌、アトピー性皮膚炎、尿細管間質性腎炎、慢性肝疾患などがある。 Mean±SD *:p<0.01(vsベースライン) ANOVA Ohira M et al.:Metabolism, 2010(in press)
空腹時血糖値の推移 BIAsp30への切り替え後、空腹時血糖値に変化はみられなかった。 250 154.61±75.68 (mg/dL) 250 Mean±SD 154.61±75.68 153.65±66.40 152.50±62.80 147.00±60.94 200 150 100 BHI30の1日2回投与からBIAsp30の1日2回投与へ切り替えした後、空腹時血糖値には変化がみられませんでした。 50 ベースライン 1ヵ月後 2ヵ月後 3ヵ月後 Ohira M et al.:Metabolism, 2010(in press)
HbA1Cの推移 BIAsp30への切り替え後、HbA1Cに変化はみられなかった。 7.51±1.29 7.57±1.23 Mean±SD (%) 7.51±1.29 7.57±1.23 7.63±1.20 9 7.50±1.11 8 7 6 5 4 BHI30の1日2回投与からBIAsp30の1日2回投与へ切り替えした後、HbA1cも変化がみられませんでした。 3 2 1 ベースライン 1ヵ月後 2ヵ月後 3ヵ月後 Ohira M et al.:Metabolism, 2010(in press)
1,5AGの推移 1,5AG濃度は、3ヵ月後に改善傾向がみられた。 6.55±5.73 6.99±5.23 6.99±5.29 12 (μg/dL) 6.55±5.73 6.99±5.23 6.99±5.29 12 6.84±5.07 10 Mean±SD 8 6 BHI30の1日2回投与からBIAsp30の1日2回投与へ切り替え3ヵ月後、1,5-AGは改善傾向が認められました。 4 2 ベースライン 1ヵ月後 2ヵ月後 3ヵ月後 Ohira M et al.:Metabolism, 2010(in press)
CAVIの変化 BIAsp30への切り替え後、CAVIは有意に低下した。 * 9.77±1.11 CAVI 9.35±1.17 11 10 (m/sec) 11 Mean±SD *:p<0.005 (vsベースライン) ANOVA * 10 9.77±1.11 CAVI 9.35±1.17 9 BIAsp30の1日2回投与へ切り替えにより、CAVIは有意に低下しました。 (months) 3 Ohira M et al.:Metabolism, 2010(in press)
CAVIの減少量と各項目の 3ヵ月間の変化量との相関関係 1,5-AGの変化のみがCAVIの低下と相関していた。 相関係数 (r) P値 相関係数(r) △体重 0.1863 0.3621 △HDL-C 0.1636 0.4246 △BMI 0.1426 0.4872 △LDL-C -0.1511 0.4613 △FBG 0.0236 0.9090 △アディポネクチン -0.2553 0.2081 △HbA1C 0.1313 0.5227 △MDA-LDL 0.1284 0.5318 △1,5-AG -0.3939 <0.05 △RLP-C 0.1206 0.5572 △TC -0.0029 0.9888 △尿中アルブミン -0.1595 0.4363 △TG 0.1985 0.3317 △尿中8-OHdG -0.0066 0.9745 △LDL-Rm比 -0.0396 0.8479 BIAsp30への切り替えによるCAVIの低下に関連した因子を明らかにするため、CAVIの変化と各指数の相関関係について検討しました。 CAVIの変化と1,5-AGの変化には、負の相関関係が認められました。 △:ベースライン値と3ヵ月後の値の差 Ohira M et al.:Metabolism, 2010(in press)
1,5-AG上昇群(n=12)における さまざまな指標の変化 1,5-AG上昇群において、 1,5-AGは有意に上昇し、FBG、CAVIは有意に減少した。 FBG 1,5-AG CAVI (mg/dL) (μg/dL) 180 12 11.0 11 10.5 170 10 9 10.0 160 8 6.76 9.56 154.75 7 ** 9.5 150 6 9.13 * 5 9.0 5.08 140 4 8.5 CAVIと1,5-AGの関連性を検討するため、BIAsp30に切り替えから3ヵ月後に1,5-AGが上昇した群におけるさまざまな指標の変化をサブ解析しました。 1,5-AG上昇群において、1,5-AGは有意に上昇し、空腹時血糖値、CAVIは有意に減少しました。 138.33 * 3 130 2 8.0 1 ベースライン 3ヵ月後 ベースライン 3ヵ月後 ベースライン 3ヵ月後 Mean±SD **:p<0.005、*:p<0.05 (vsベースライン) ANOVA Ohira M et al.:Metabolism, 2010(in press)
1,5-AG上昇群(n=12)における CAVIの減少量と各項目の変化量との相関関係 1,5-AG、アディポネクチンの増加がCAVIの低下と相関していた。 相関係数 (r) P値 相関係数(r) △体重 0.0889 0.7836 △HDL-C 0.4164 0.1781 △BMI 0.0004 0.9989 △LDL-C -0.3520 0.2618 △FBG 0.0677 0.8343 △アディポネクチン -0.4933 <0.05 △HbA1C 0.2292 0.4736 △MDA-LDL -0.0420 0.8970 △1,5-AG -0.6261 △RLP-C -0.0085 0.9792 △TC -0.0696 0.8298 △尿中アルブミン -0.3594 0.2513 △TG 0.2186 0.4950 △尿中8-OHdG -0.0591 0.8552 △LDL-Rm比 -0.0179 0.9559 1,5-AG上昇群12例におけるCAVIの減少量とさまざまな指標の相関関係についても検討しました。 1,5-AG上昇群においては、CAVIの変化は、1,5-AGの変化およびアディポネクチンの変化と負の相関関係が認められました。 △:ベースライン値と3ヵ月後の値の差 Ohira M et al.:Metabolism, 2010(in press)
結論 ヒトインスリン混合製剤30 から二相性インスリン アスパルト30へ切り替えることによりCAVIが有意に改善した。 CAVIの変化量と1,5-AGの変化量には負の相関を認めた。 インスリンの変更により1,5-AGが上昇した群において、CAVIの変化量は1,5-AGの変化量およびアディポネクチンの変化量と負の相関を認めた。 二相性インスリン アスパルト30へ切り替えたことによる食後高血糖の改善が、冠動脈性疾患の危険度を低下させるかもしれないことが示唆された。 以上より、BHI30からBIAsp30への切り替えで、CAVIが有意に改善しました。 CAVIの変化量と1,5-AGの変化量には負の相関を認めました。 BIAsp30への変更で、1,5-AGが上昇した群において、変更前に比べ、1,5-AGおよびアディポネクチンが有意に増加しました。また、CAVIの変化量は1,5-AGの変化量およびアディポネクチンの変化量と負の相関を認めました。 BIAsp30へ切り替えたことで、食後高血糖が改善され、CAVIの低下、つまり血管弾性能が改善し、冠動脈性疾患の危険度が低下する可能性が示唆されました。 Ohira M et al.:Metabolism, 2010(in press)