第1回 ガイダンス;民法入門(民法とは何か、民法典の歴史とその構成、債権法改正) 民法(1) 第1回 ガイダンス;民法入門(民法とは何か、民法典の歴史とその構成、債権法改正)
ガイダンス 教科書、参考書 講義資料 → ITC-LMSへアップロード 成績評価・小テストについて 教科書 内田貴『民法Ⅰ:総則・物権総論〔第4版〕』(東京大学出版会・2008年) 参考書 大村敦志=道垣内弘人編『民法(債権法)改正のポイント』(有斐閣・2017年) 潮見佳男『民法(債権法)改正法の概要』(きんざい・2017年) 講義資料 → ITC-LMSへアップロード 成績評価・小テストについて
民法とは何か 私法の一般法としての民法 私法と公法 私法→私人間の関係を規律する法 公法→私人と国家の関係を規律する法 一般法と特別法 私法→私人間の関係を規律する法 公法→私人と国家の関係を規律する法 一般法と特別法 e.g. 商人間の取引等に関する特別法としての商法 c.f. 債権譲渡特例法、不動産登記法、消費者契約法
民法とは何か 民法上の法律関係 A B C α β (A,B,C=人; α,β=物)
民法の構造 権利と義務 物権と債権 物権=物に対する権利 債権=人に対する権利 cf. 債権と債務
債権の発生原因 債権の発生原因 ①契約(521条以下) ②不法行為(709条以下) ③不当利得(703条以下) ④事務管理(697条以下) e.g. アパートを1ヶ月7万円の家賃で借りた ←2つあるいはそれ以上の意思表示の合致(→合意)により成立する法律行為 ②不法行為(709条以下) e.g. 自動車事故により他人に怪我をさせてしまった ←単なる事実(行為)であり、法律行為ではない ③不当利得(703条以下) e.g. 売買契約によって代金を受け取った後に、契約が無効となった ④事務管理(697条以下) e.g. 旅行中の隣人に代わって、割れている窓ガラスを台風に備えて修繕してあげた
債権法に関する民法典上の諸規範の構造 債権編(民法典第3編)の構造 第3編 債権 総則(第1章) 各則 契約(第2章) 事務管理(第3章) 第3編 債権 総則(第1章) 第1節 債権の目的 第2節 債権の効力 第3節 多数当事者の債権 第4節 債権の譲渡 第5節 債権の消滅 各則 契約(第2章) 事務管理(第3章) 不当利得(第4章) 不法行為(第5章)
民法総則の構造 民法総則の構造 第1編 総則 第1章 通則 第2章 人 第3章 法人 第4章 物 第5章 法律行為 第6章 期間の計算 第1編 総則 第1章 通則 第2章 人 第3章 法人 第4章 物 第5章 法律行為 第6章 期間の計算 第7章 時効
日本民法典の編纂方式 パンデクテン方式 いくつかの個別的な法律関係について規定する際に,それらについて共通の規律が見出される場合には,規定の重複を避けるために,個別的な各則規定に先立って総則規定を置くという方式 パンデクテン方式の長所と短所 条文の重複を避け,論理的に明確性の高い法典の構造を実現できる ⇔ある問題に関して適用されるべき規律が分散化し,現実の法律関係と法典上の規律の配列とが対応しなくなってしまう
日本民法典の編纂方式 パンデクテン(Pandekten)とは? ローマ法大全(6世紀、東ローマ帝国皇帝ユスティニアヌス1世) 法学提要(institutiones)→Institutionen インスティトゥティオーネン方式 人・物・訴権による構成(→フランス、オーストリアの民法典) 学説彙纂(digesta)→Pandekten パンデクテン方式(→日本、ドイツの民法典) 勅法彙纂(codex) 新勅法(novellae)
民法典の歴史 日本民法典の沿革 法典編纂の背景 条約改正問題と国家の近代化 ボワソナード草案と旧民法(1890年) 条約改正問題と国家の近代化 ボワソナード草案と旧民法(1890年) フランス民法典の編別(←インスティトゥティオーネン方式) 法典論争による旧民法の施行延期 「民法出でて忠孝亡ぶ」(穂積八束) 明治民法(1898年) 梅謙次郎、富井政章、穂積陳重による起草 旧民法の改正という立法形式 ドイツ民法典(草案)の編別(←パンデクテン方式)を採用
民法典の編纂 ヨーロッパにおける民法典編纂① 先駆けとしてのフランス民法典(1804年) フランス革命の理念としての「自由、平等、友愛」 フランス革命の理念としての「自由、平等、友愛」 →所有権絶対の原則(544条) 契約自由の原則(1134条1項) (教会からの)婚姻の自由(220条) ←民法の近代化 cf. 身分から契約へ(メーン『古代法』(1861年)) 封建的・身分的な前近代的秩序から、個人の自由な合意に基づく近代社会への構造転換
民法典の編纂 ヨーロッパにおける民法典編纂② 統一国家・連邦国家の形成と民法典編纂 ドイツ(1900年) スイス(1907年の民法典、1911年の債務法典) イタリア(1942年) →国家統一の象徴としての法典編纂
民法典の編纂 ヨーロッパにおける民法典編纂③ EUにおける法の統一化と民法改正 オランダ新民法典(1992年) フランス民法典を継受した旧民法典(1838年)からの脱却 消費者や事業者に関するルールをも取り込んだ大民法典 ←単に旧来のルールを現代的に刷新するだけでなく、今後のEUにおける法の統一化に際して主導権を獲得することを目指す ドイツにおける債務法改正(2001年債務法現代化法) フランスにおける契約法改正(2016年)
市場と契約法の共通化 EUにおける市場と法の統一化 単一の経済圏の形成 1957年 欧州経済共同体(EEC)の創設〔ローマ条約〕 1986年 単一欧州議定書 1992年 欧州連合(EU)の創設〔マーストリヒト条約〕 アキ・コミュノテール(acquis communautaire)の受容義務 EU加盟国は、EUにおける現行法の総体としてのアキ・コミュノテールの受容義務を負う
市場と契約法の共通化 EUにおける契約法の平準化(harmonization) EC/EU指令による各国内法の平準化 一定の期限(国内法化期限)までに、指令によって指示される内容または水準に合致するように国内法を整備することを義務付ける e.g. 消費者契約における不公正条項に関する指令(93/13/EEC); 訪問取引指令(85/577/EEC); 隔地取引指令(97/7/EC); 消費者権利指令(2011/83/EU) EUの統一契約法の制定に向けた試み ヨーロッパ契約法原則(1995年〔第1部〕~2002年〔第3部〕) ヨーロッパ私法共通参照枠草案(2009年)
市場と契約法の共通化 共通欧州売買法草案(2011年)の目指すもの 売買に関する国際的な統一ルールの必要性 ハーグ統一売買法条約(1964年採択、1972年発効) ウィーン売買条約(1980年採択、1988年発効) *日本でも、2009年に発効 欧州共通売買法草案(2011年) EU域内におけるクロス・ボーダー取引のみを適用対象として、EUレヴェルの「規則(regulation)」として定められる、当事者が任意に選択可能な売買ルール群としての選択的法典 →国際取引における準拠法に関する新たな選択肢の追加 →イギリス等からの強い反対により、草案段階で頓挫
市場と契約法の共通化 東アジアにおける広域的な経済連携・経済統合 APEC(アジア太平洋経済協力;1989年) ASEAN+3 / ASEAN+6 ASEAN+3 (2002年): ASEAN+日本・中国・韓国 ASEAN+6(2005年) : ASEAN+3+インド・オーストラリア・ニュージーランド TPP(環太平洋パートナーシップ協定) →東アジアにおける経済連携の強化に伴い、越境取引を中心とした取引ルールの共通化・平準化も、より強く要請されるようになる
市場と契約法の共通化 契約法共通化の時代における取引法モデル 国際的な契約法の共通化に際し、その標準となる取引法のモデルを、新たな債権法によって提示すること ←国際標準への適合ではなく、国際標準の提示を目指した債権法の抜本改正へ cf. 越境取引における標準的な準拠法となるために必要な、法の透明性の確保
債権法改正 法務省・法制審議会における審議 民法(債権法)改正法の成立 法制審議会民法(債権関係)部会(2009年~2015年) →契約に関係する民法総則・債権法の規定についての見直し →2015年度に民法(債権法)改正法案が国会提出 ←内容的には、抜本的な改正を目指した当初の提案の多くが取り下げられ、債権法の現代化にとって必要最小限の改正にとどめられた 民法(債権法)改正法の成立 2017年5月26日可決・成立、6月2日公布 施行期限→公布の日から3年を超えない範囲内
次回の予定 法律行為法総説(法律行為の意義;法律行為法の構造) 法律行為の成立