最近の世論調査の実施状況と調査結果の利用における問題 最近の世論調査の実施状況と調査結果の利用における問題 国士舘大学 山田 茂 経済統計学会 2006年9月17日
最近の世論調査の実施状況と調査結果の利用における問題 1 全般的な実施状況 1)回収率の低下 2)住民台帳 3)入札 4)委託先 2 マスメディアによる調査 RDD 3 地方自治体による調査 多数の市町村合併関連調査 むすび(目的・協力・利用) 実施主体 対象者 結果利用者
1 全般的な実施状況 1)回収率の低下(官民 面接法・留置法とも) 1 全般的な実施状況 1)回収率の低下(官民 面接法・留置法とも) *長期低下 面接 内閣府(「国民生活」1968年:81%→2005年:69%) 読売(1978年:70%強→最近:60%前後) 留置 日銀(「生活意識」1993年80%強 →最近50%弱) 若年(特に男性) 大都市 「06年2月社会意識」(面接:全国51% 20代男:32% 東京区部:37%) 金銭関連:金融広報中央委「2005年金融資産世論調査」 (留置:全国32%、近畿24%) 時系列 回収率 理由
回収率の低下 :面接調査①
回収率の低下 :面接調査②
回収率の低下 :面接調査③
回収率/時事(4日)・読売(2日)
回収率の低下:留置調査
地域別・年齢別回収率:面接
調査不能 理由:「一時不在」「拒否」が3分の2以上 ←不在がち:住民登録と現住地の不一致 自宅外就業など外出 単身世帯 ←不在がち:住民登録と現住地の不一致 自宅外就業など外出 単身世帯 断りやすい:オートロック・マンション 個人情報提供への不安 「他人に知られたくない情報」
調査不能の理由
調査不能の理由
*官庁関係の委託調査:2005年後半の急落 ・日銀・統計局・内閣府政府広報室委託調査: 8月「不正」報道 国勢調査:「かたり」の報道 8月「不正」報道 国勢調査:「かたり」の報道 認識: → 「断っても良い」→「断った方が良い」 対応策: 調査期間延長 依頼状 依頼主明示 謝礼品 広告 *調査員への指示
所定期間内に調査票が 提出されなかった世帯 2005年国勢調査未回収 近隣への聞取り実施世帯のうち (単位:%) 所定期間内に調査票が 提出されなかった世帯 2005年 2000年 1995年 全 国 4.4 1.7 0.5 東京都・政令市所在道府県 5.6 2.3 0.6 東京都 13.3 上 記 以 外 の 県 0.7 0.2
調査 項目 就業状態不詳 就業者のうち 職業不詳 統計 調査 労働力調査 国勢 調査 対象 15歳以上人口 就業者 1985年 51 18 (単位:万人) 調査 項目 就業状態不詳 就業者のうち 職業不詳 統計 調査 労働力調査 国勢 調査 対象 15歳以上人口 就業者 1985年 51 18 23 16 1990年 49 42 30 32 1995年 7 53 22 39 2000年 12 174 37 74 2005年1) 11 341 69 102 1)「国勢調査」は1%抽出集計。 「就業状態不詳」は全国で3.1%、20代後半男性で6.0%、練馬区男性で22%。
調査の困難化の背景 2)住民基本台帳閲覧の制限: 「更新周期が短い標本抽出台帳」←最近の変動 ・閲覧:営利目的が多い 「更新周期が短い標本抽出台帳」←最近の変動 ・閲覧:営利目的が多い ・個人情報保護法:2005年4月施行 ・閲覧原則禁止:2006年6月成立 3)実地調査委託への入札導入 中央省庁・日銀・地方自治体 ←業界団体非加盟社:コンサルタント系など 「経費節約」→精度低下 閲覧目的の調査結果
住民基本台帳の閲覧
4)委託先調査機関の性格 世論調査業界 ← 重複 → マーケティング 調査業界 官庁の メディアと 専業 コンサルタント (業界団体は加盟社に自主規制を課している) 世論調査業界 ← 重複 → マーケティング 調査業界 官庁の メディアと 専業 コンサルタント 外郭団体 その系列 兼業 ↑ ↑ ↑ ↑ 調 査 員(複数の機関に登録)
2 マスメディアによる調査 1)調査方法の現状←目的(速報性・費用など) 選挙予測:RDD化(特に地域選挙) 出口調査 2 マスメディアによる調査 1)調査方法の現状←目的(速報性・費用など) 選挙予測:RDD化(特に地域選挙) 出口調査 「政治的事件」直後:RDD 月次定例調査:2社面接 2社RDD 1社電話 「急がないテーマ」:面接法・電話法並存
2 マスメディアによる調査 2)調査方法の変遷: ①大部分面接法 →②1986年頃~名簿式電話調査 (a有権者名簿から抽出→電話帳照合、 2 マスメディアによる調査 2)調査方法の変遷: ①大部分面接法 →②1986年頃~名簿式電話調査 (a有権者名簿から抽出→電話帳照合、 b電話帳から直接抽出、c属性別割り当て法) →③1998年頃~非名簿式電話調査 (RDD[RDS])導入
3)RDD Random Digit Dialing 手順: ①地域を抽出 →②番号を抽出・③住宅用電話か否か識別 →④有権者がいる世帯か否か識別 何人いますか? →⑤世帯内の有権者から抽出 →質問開始 ⑥不在なら同一人追跡or属性割当 電話法採用←面接困難化・費用増 (←小選挙区導入・回数増) *RDD採用←電話帳掲載減
RDD調査の弱点 拒否しやすい 依頼時に「○○さんをお願いします」が不可 事前に依頼状送付 ・稼働中の局番・バンク・世帯用電話の識別 拒否しやすい 依頼時に「○○さんをお願いします」が不可 事前に依頼状送付 ・稼働中の局番・バンク・世帯用電話の識別 世帯用・事業所用識別不能分など→回収率から除外 短期間で手配:専用回線・CAI設備・要員 *委託先の本業:通販受付など *電話調査一般 ・質問数限定 比例区:候補者名読み上げ ・固定電話を持つ世帯の減少([若年]単身層、 2005年:29歳以下43%)
61% ↑ =37% 有権者がいる世帯が 含まれていた? 日経 RDD調査 966 554 83 403 627 ↑ ↑ 公表回収率 公表回収率 61% 3664コール 事業所等 ↑ ①→ ②→ 1031 ③→ 966 回収率下限 554 83 403 627 =37% 話中 世帯か否か 不明 有権者は 何人? 質問 完了 質問 未了 留守電 呼出音 回答拒否 ↑ ↑ 有権者がいる世帯が 含まれていた? 日経 金土日 06年7月
4)選挙予測調査 議席数の精度の要請 投票先の決定遅く→複数回のトレンド調査 *衆院選:解散後に準備→費用増 議席数の精度の要請 投票先の決定遅く→複数回のトレンド調査 *衆院選:解散後に準備→費用増 →2005年電話帳抽出継続・全選挙区別調査の見送り 小選挙区と局番の対応 投票に行く人→回答する可能性大→予測の精度
3 地方自治体による調査 1)市町村合併関連調査 (2006年3月が優遇の期限・ネット利用普及 →2002年・03年に実施ピーク) 3 地方自治体による調査 1)市町村合併関連調査 (2006年3月が優遇の期限・ネット利用普及 →2002年・03年に実施ピーク) 奨励:中央・都道府県 +コンサルタント誘導 設計・内容・集計・分析まで委託 実施タイミング・添付資料 対象:世帯主だけ・10代・外国人も 広報:住民へ+合併推進中の他の自治体 グラフ
時期別実施件数(市による合併関連外を除く)
3 地方自治体による調査 調査内容 推進中の町村組合せでの合併が前提 ・質問順・表現…→意識喚起・誘導・承認 3 地方自治体による調査 調査内容 推進中の町村組合せでの合併が前提 ・質問順・表現…→意識喚起・誘導・承認 全数調査:町村住民投票に近い機能を期待 費用・期限が理由で投票が実施困難
3 地方自治体による調査 2)一般的なテーマの定期調査: 中規模以上の都市 3)長期計画策定時: 1990年代から小規模な町村も 3 地方自治体による調査 2)一般的なテーマの定期調査: 中規模以上の都市 3)長期計画策定時: 1990年代から小規模な町村も コンサルタントの助言
4)回収率 訪問回収>郵送回収>広報紙折込・郵送回収 (留置) *採用された方法:地域の性格に対応 *郵送法の督促効果 *同じ回収方法でも: *採用された方法:地域の性格に対応 *郵送法の督促効果 *同じ回収方法でも: 「市町村合併」は他のテーマより高い
回収方法:地域の性格に対応(2001年~)
全数・標本
テーマ別回収率
督促実施分の回収率(テーマ別2001年~)
3 地方自治体による調査 5)結果利用困難: 名称多様→ネット検索困難 「アンケート」「意向調査」「意識調査」など 「世論調査」は市限定 3 地方自治体による調査 5)結果利用困難: 名称多様→ネット検索困難 「アンケート」「意向調査」「意識調査」など 「世論調査」は市限定 結果収録サイト消滅・結果削除多数: 特に合併関連
調査の正式名称
むすび―調査は誰のもの *中央政府・地方自治体の調査担当: 「広報・広聴部門」 大半:住民の認識の「立ち遅れ」を把握 関心を引き上げる手段
*メディアの調査 ・限られた情報しかない時点での回答: 「条件反射的な反応」 ・「設定された構図に沿った質問」 ・限られた情報しかない時点での回答: 「条件反射的な反応」 ・「設定された構図に沿った質問」 ・出口調査:「数時間後に判明する情報」 vs.実際に投票した人の意図の手掛かり
回答を依頼されたとき…
調査に協力した理由
むすび―調査は誰のもの *回答者:従来「自発的な協力」 負担・被害は協力者の好意・「自己責任」 回答者でも意見を言いたかった人は多くない むすび―調査は誰のもの *回答者:従来「自発的な協力」 負担・被害は協力者の好意・「自己責任」 回答者でも意見を言いたかった人は多くない デメリット(住民台帳・有権者名簿の公開も): 被害が具体化・重大化 不利な行政施策などを困難にする: 消極的な「メリット」 埼玉県鳩山町の「まちづくり条例」 意識調査の位置付け 事前審議 結果報告
第33条 町長は、まちづくりの重要な課題に取り組むに当たり、広く町民の意向を把握するために、町民意識調査を実施するものとする。 2 町長は、町民意識調査の目的、対象者、結果の取扱いについて、事前に明らかにするものとする。 【趣旨】 1.第1項では、まちづくりの重要な課題に取り組むにあたり、町民意識調査を実施することを明らかにしました。町民意識調査は従来から行なわれているものですが、町民の意向確認をするために有効な制度であり、制度的な確立が必要だからです。 2.第2項では、「町民意識調査の目的、対象者、結果の取扱いについて、事前に明らかにする」ことを示しました。現在、民間企業や公共的団体などで、さまざまな世論調査や意識調査が行なわれています。このようななか、プライバシーを保護していくためには、町民意識調査について、その実施を事前に明らかにすることが必要です。また、このような措置は、回収率の向上にも通じるものです。
市町村とサイトの増減
調査結果の収録状況(2006年3月現在) 終
実施把握と結果入手のための手段 ・個別調査の報告書・自治体等の広報紙:入手困難 『世論調査年鑑』:実施1年後~2年後分を収録 実施把握と結果入手のための手段 ・個別調査の報告書・自治体等の広報紙:入手困難 『世論調査年鑑』:実施1年後~2年後分を収録 個別調査の結果:中央省庁・都道府県・大都市実施分にほぼ限定 インターネット:実施主体のサイト 業界団体のサイト(2000年実施分~) 記事データベース:有料・内容限定 複数紙DB:全国紙・ブロック紙・一部県紙
実施主体以外の結果利用 実施主体の目的→調査方法・内容 最近の回収率の低下 一般の統計調査より制約は強い 特に目的が違えば…