火山としての富士山と,そのハザード マップに対する地元行政・住民の意識 小山真人・坂本珠紀 (静岡大学教育学部総合科学教室)
日本の火山ハザードマップの問題点 2003年なかば時点で32火山のハザードマップが公表ないしは公表準備中.しかしながら,作成されたハザードマップがどのように利活用されているかの検証例はわずか. それ以前の問題として,火山ハザードマップの内容・表現方法がいかにあるべきかについての調査研究はまったく不十分.ハザードマップの内容や表現はクローズした会議の席上で決められ,公開の場でほとんど議論されたことがない. 個々のマップの内容・表現は,既存のものを参考にして決められているために類似したものが多く,個性や魅力に乏しい.
富士宮市立富士宮第二中学校における ハザードマップ試作版読み取り実験(2004年3月2日) 結果は次回のお楽しみ
アンケート調査の目的・対象 筆者らは火山ハザードマップの理想的な内容・表現や利用法をさぐるための基礎研究のひとつとして,火山の地元の行政や住民が火山ハザードマップや火山そのものに対してどのような意識や考えを抱いているかを調査している. 今回は富士山麓の自治体の防災担当職員に対するアンケート調査をおこなった: 富士山の地元にあたる静岡県・山梨県・神奈川県の県庁,および富士山麓にある市町村役場の合計115名の防災担当職員.
調査方法 調査依頼状とアンケート用紙を各県庁の防災担当職員に送付し,県庁から各市町村に配付し,回収もおこなう方式としたため,回収率はほぼ100%. 市町村の防災担当職員の数はもともと少ないため,115名という数は該当者のほぼ全員分が集まったとみてよい. 回答者無記名.アンケートに添えた文で,防災担当部署としての建前的な回答ではなく,担当者個人としての自由なご回答をお願いした.
調査対象内訳
調査対象市町村(3県庁+32市町村)
アンケート大項目 アンケート項目は,大きく分けて次の3項目 (1)火山としての富士山に対する意識, (2)火山学一般ならびに火山としての富士山に関する基礎知識の獲得状況, (3)ハザードマップに対する意識 なお,このうちの(1)に関しては,住民も調査対象 2000年度調査(小山・羽根,2002) 富士市および富士宮市の中高生198名 富士市および富士宮市の一般市民85名 2002-2003年度調査(今回の調査) 静岡大学の学生111名 放送大学静岡学習センターでの集中講義の受講生である一般市民(全員が職をもつ社会人)78名
調査対象内訳
Ⅰ 火山としての富士山に対する意識を問う設問群 Ⅰ 火山としての富士山に対する意識を問う設問群 Q1 富士山を火山として意識していますか? Q2 富士山の過去の噴火について学校の先生や家族から教えられたことがありますか? Q3 次に富士山が噴火するのはいつ頃だと思いますか? Q4 もし富士山が噴火したら、あなたの自宅付近がどのぐらい被害を受けると思いますか? Q5 もし富士山が噴火したら、あなたの自宅付近が具体的に何によって被害を受けると思いますか? Q6 もし富士山が噴火したら、他の火山と比べて被害全体の大きさはどうなると思いますか? Q7 もし富士山が噴火した場合の個人的な対策や避難について、家族と話し合ったことがありますか? Q8 富士山が噴火しそうになったとき、その前兆がとらえられると思いますか? Q9 富士山の次の噴火について、その噴火場所や噴火の仕方を今から予測できると思いますか? Q10 東海地震と富士山の噴火は、互いに関係があると思いますか?
Q11 過去2000年くらいの間、富士山の噴火は、どの場所で生じたことが多いと思いますか。 Ⅱ 火山学一般ならびに火山としての富士山に関する基礎知識の獲得状況を問う設問群 Q11 過去2000年くらいの間、富士山の噴火は、どの場所で生じたことが多いと思いますか。 Q12 過去2000年くらいの間、富士山ではどのようなタイプの噴火が最も多いと思いますか。 Q13 富士山がこれまでに噴出した火山灰は主にどこに分布していますか。 Q14 富士山で噴火が起きた場合、火砕流が発生する可能性はどれぐらいあると考えていますか。 Q15 富士山噴火が差し迫った兆候として重視すべきものを全て選んでください。 Q16 危険区域内で発生に気づいた場合、避難にあまり時間的余裕のない現象は次のうちどれでしょう。 Q17 「火砕流」や「火砕サージ」の発生要因として考えやすいものをすべて選んでください。
Ⅲ ハザードマップに対する意識を問う設問群(1) Ⅲ ハザードマップに対する意識を問う設問群(1) Q18 富士山のハザードマップは火山防災の為に役立つと思いますか。 Q19 富士山のハザードマップはどの地域で配布するのがよいと思いますか。 Q20 富士山のハザードマップは,上で答えた地域内の誰に配付するのがよいと思いますか? Q21 富士山のハザードマップはどれぐらいの頻度で改訂・配布されるのがよいと思いますか。 Q22 富士山のハザードマップをもとにした土地利用や都市計画は有効であると思いますか。 Q23 富士山のハザードマップを公開すると観光に悪影響が出るという意見があります。あなたはこの意見をどう思いますか。 Q24 最近のハザードマップの傾向として、危険情報だけでなく、火山の恵みに関する情報や火山観光情報を加えた総合的自然ガイドマップとしてハザードマップを作成・配布する動きがあります。あなたはこの傾向についてどう思いますか。
Ⅲ ハザードマップに対する意識を問う設問群(2) Ⅲ ハザードマップに対する意識を問う設問群(2) Q25 富士山のハザードマップに関するあなたの要望や考えを自由に書いてください Q26 富士山のハザードマップの配布や説明は,どういった形でするのがよいと思いますか。 Q27 富士山のハザードマップの説明会を行うとすれば、どんな内容に重点をおいて説明すべきと思いますか。 Q28 富士山のハザードマップと併用する資料(ハンドブックや解説ビデオ,CD-ROMなど)を作成する必要があると思いますか? Q28-2 上で1または2と答えた方,どんな内容に重点をおいた資料とすべきと思いますか?
どの集団でも,富士山噴火の被害が他火山と比べて大きくなると思っている者が8割以上いる
防災担当職員の92%地元と非地元をあわせた一般市民の90%が,富士山噴火の際に何らかの前兆現象が観測されると思っている
正答率81%
正答率28%
正答率43%
各噴火の 噴出量比較
正答率27%
火山学一般ならびに火山としての富士山に関する基礎知識の獲得状況に関するまとめ 問13(降下火山灰分布)の正答率が最も高く,噴煙が偏西風にあおられて降灰分布が東に偏りやすいことがよく理解されている.また,富士山ハザードマップ検討委員会の調査によって富士山の新たな火砕流履歴が複数発見されたことがたびたび報道されたために,問14(火砕流の発生可能性)の正答率も高くなっているとみられる. しかし,問11(過去の噴火位置)と問12(噴火規模と様式)の正答率の低さから,富士山の噴火履歴に対する根本的な知識の不足が感じられる.また,問15(前兆として重視すべき現象),問16(避難に余裕のない現象),問17(火砕流・火砕サージの発生条件)の正答率がいずれも半分以下であり,噴火の前兆や個々の噴火現象の特徴・メカニズムに関する知識や理解度が不十分であることを示している.とくに,火砕流や水蒸気爆発の発生条件についての知識の周知が必要である.
95%の人が役立つと考えている
全体の73%が肯定的(非常にそう思う,ある程度そう思う)
55%が否定的(あまりそう思わない,全くそう思わない)であるが肯定的(非常にそう思う,ある程度そう思う)に考える人も41%存在.ただし,観光依存度の高い山梨県で,とくに否定的見解が強いというわけではない.
全体の85%から賛同(全く賛同する,ある程度賛同する)が得られた.