がんの治療.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
感染症・がんの治療薬 悪性腫瘍の病態と治療. 主要死因別死亡率 ( 人口 10 万対 ) の年次推移 1945 ~ 2011 年 人口動態統計 厚生労働省大臣官房統計情報部 注: 1995 年の心疾患の低下および脳血管疾患の上昇は、 ICD-10 の適用と死亡診断書の改正による影響が考えられ る。
Advertisements

急性腹症は定番 CT の重要性 解剖、腫瘍疾患の所見は必須 MRI 婦人科疾患の鑑別 T1 強調像、 T2 強調像の意味 消化管造影は減少? 内視鏡との相補的な扱い ポリポーシス、大腸疾患は依然重 要 肝、胆道系(腫瘍の鑑別)は? 腹部の画像診断のポイント.
Fukuyama City Hospital Sorafenib とは Sorafenib とは 2012 年 7 月 28 日 福山市民病院 内科 ○ 辰川 匡史 藪下 和久 下江 俊成 坂口 孝作.
佐賀大学医学部 泌尿器科 手術支援ロボット da Vinci のご紹介 ~前立腺癌の最新治療~. ダヴィンチとは? ダヴィンチとはアメリカで開発された手術を支援するロボットです。 日本では 2009 年より医療機器として認可を受け、 2012 年 4 月より、前立腺癌に対する手 術のみ、保険医療として認められています。
石切生喜病院乳腺頭頸部外科 森本 健.  臓器のリンパ液は全身に戻る前にそばのリ ンパ節に取り込まれると考えられています。 それをセンチネルリンパ節と呼びます。  腕であればわきのした(腋窩) ,下肢で あれば太ももの付け根(鼠径部)のリンパ 節がそれに相当します。
11-2 知っておくと役立つ、 糖尿病治療の関連用語 一次予防、二次予防、三次予 防 1.1. インスリン依存状態 インスリン非依存状態 2.2. インスリン分泌 3.3. 境界型 4.4. グルカゴン 5.5. ケトアシドーシス、ケトン体 6.6. 膵島、ランゲルハンス島 7.7. 糖代謝 8.8.
2012年7月28日 福山市民病院 内科 ○辰川 匡史 藪下 和久 下江 俊成 坂口 孝作
疾患治療の概要.
認定看護師研修センター  ホスピスケア 分野   がんのプロセスとその治療     5. がんの治療                                                   2010年                    生命基礎科学講座                                        小林正伸.
体重減少 ◎食欲があるのに体重が減る ⇒糖尿病、甲状腺機能亢進症、吸収不良症候群などを疑う ◎食欲がなくて体重が減る ⇒その他の疾患を疑う
4. がんの診断と腫瘍マーカー がんのプロセスとその治療 認定看護師研修センター ホスピスケア 分野 2009年6月25日(木) 1講時
無脾症候群  無脾症候群は、内臓の左右分化障害を基本とする病気です。 その中で、左右とも右側形態をとるものを無脾症候群と呼んでい ます。脾臓が無いか非常に小さな場合が多く感染症に耐性がありません。  多種多様な心奇形を呈しますが、単心室、肺動脈閉鎖・狭窄、総肺静脈還流異常(しばしば肺静脈狭窄を呈します)、共通房室弁口遺残(心房─心室間の弁がきちんと左右2つに分化しておらず、しばしば弁逆流を合併します)を高頻度に合併しています。全国的に、現在でも先天性の心疾患の中で最も治療が難しい疾患の1つです。
『腹腔内または骨盤内のがん』 と診断された患者さんへ
I gA腎症と診断された患者さんおよびご家族の皆様へ
2012年度 総合華頂探求(生命情報科学実習) 華頂女子中学高等学校 2年 医療・理系コース 小倉、北川、木村、久留野、田中、野村、山下
卵巣腫瘍(2)悪性卵巣腫瘍 女性生殖器コース講義 .
ホスピス外来における STAS-Jを活用した看護の実際
関東地方会 症例検討(治療) 東京医科大学 乳腺科学分野     寺岡冴子.
がんの家族教室 第2回 がんとは何か? 症状,治療,経過を中心に
医療は何のためにあるのか? ・医療とは?(治癒? 緩和?) ・いかに生きるのか?(死ぬのか?) ・プロ同士の協力(チーム医療)とは?
2型糖尿病患者におけるナテグリニドと メトホルミン併用療法の有効性と安全性の検討
Table. 1 悪性腫瘍治療後の精子形成 悪性腫瘍の種類 治療法 治療終了後の精子形成に与える影響 精巣がん
透析患者に対する 大動脈弁置換術後遠隔期の出血性合併症
Q5 がんはどうやって 見つければいいの?.
(木) 東京西徳洲会病院 緩和ケア認定看護師 黒田 裕子
リスクの把握と自己管理(ロードマップ) 安価なゲノム解析技術 (固定リスクの把握) 塩基配列情報
顎骨(および隣接顔面骨)における (または、みられる)疾患
外科手術と輸血 大阪大学輸血部 倉田義之.
1.職場における産業保健活動 (1) 産業保健は予防医学
日本人を脅かす三大疾病 癌 脳血管障害 心臓病 脳梗塞・脳内出血 虚血性心疾患・弁膜症・大動脈瘤・心不全 体にやさしい心臓・血管手術
各種手術における静脈血栓塞栓症のリスクの階層化(年齢因子を含む)
放射線医学総合研究所 重粒子治療推進棟大会議室
水素および水素水による放射線の防御 主 要 説 明 1.致死量放射線の死亡を抑制 2.放射線によるリンパ腫の発生を抑制
肝臓の機能(摂食時).
放射線(エックス線、γ線)とは? 高エネルギー加速器研究機構 平山 英夫.
2を基本として、より嗜好性を高めるために1を付与する場合が多い
肝動脈、上腸間膜動脈、 門脈浸潤を伴う 局所進行膵臓癌に対する 主要血管合併切除を伴う膵切除術
第13回 日本乳癌学会関東地方会 教育セミナー 診断部門.
化学療法学 悪性腫瘍の病態と治療.
本院は、放射線治療症例全国登録事業(JROD)に協力しています
2015年症例報告 地域がん診療連携拠点病院 水戸医療センター
4.生活習慣病と日常の生活行動 PET/CT検査の画像 素材集-生活習慣病 「がん治療の総合情報センターAMIY」 PET/CT検査の画像
樹状細胞療法 長崎大学輸血部 長井一浩.
PDGF-Bのretention motifを欠損させると、 pericyteが血管内皮へ誘引されにくくなる
認定看護師研修センター  ホスピスケア 分野   がんのプロセスとその治療     5. がんの治療                                                   2010年                    生命基礎科学講座                                        小林正伸.
前立腺腫瘍のVmatにおけるGafchromic film EBT3を 用いた線量検証
胃がん術後地域連携パスについて 通院の基本 * 基幹病院で手術治療をされた患者さんに対して、お近くの
日本乳癌学会関東地方会 教育セミナー 治療 2018・12・1    大宮ソニックシティ 自治医科大学 乳腺科   藤田 崇史.
大宮ソニックシティー 足利赤十字病院 外科 戸倉英之
偶発性低体温患者(非心停止)の復温法 復温法 軽中等度低体温 ≧30℃ 高度低体温 <30℃ ○ PCPS 能動的体外復温法
日本形成外科学会 皮膚腫瘍外科分野指導医 症例記録用紙
B-TACEのための肝癌結節の分類.
2016/10/29 がんという病気を知っていますか? 岡山医療センター 消化器外科(大腸) 國末浩範(くにすえ ひろのり)
研究内容紹介 1. 海洋産物由来の漢方薬の糖尿病への応用
本院は、放射線治療症例全国登録事業(JROD)に協力しています
疫学概論 疾病の自然史と予後の測定 Lesson 6. 疾病の自然史と 予後の測定 S.Harano,MD,PhD,MPH.
1.
2015年症例報告 地域がん診療連携拠点病院 水戸医療センター
経過のまとめ 家族歴、基礎疾患のない14歳女性 筋力低下、嚥下障害を主訴としてDM発症 DMは、皮膚症状と筋生検にて確定診断
異所性妊娠卵管破裂に対する緊急手術中の輸血により輸血関連急性肺障害(TRALI)を発症した1例
院内の回復期リハ病棟間の成果比較  -予後因子(入院時年齢・FIM・発症後日数)の階層化による測定法を用いて-
背景:在宅医療の現状と意義 入院・外来に次ぐ『第三の診療体系』として 入院 外来 在宅 意義 ・多様化する病態や『生き方』への対応
日本乳癌学会関東地方会 教育セミナー 治療 2018・12・1    大宮ソニックシティ 自治医科大学 乳腺科   藤田 崇史.
平成28年度がんの教育総合支援事業 「がんについて学ぶ授業」
消化器の解剖 消化器系とは、食物を摂取し、分解し、腸管で吸収した後、食物残渣を排泄する器官である。
Niti-S大腸ステント多施設共同前向き安全性観察研究の進行状況について
(上級医) (レジデント) 同意説明取得 無作為化 割り付け群による治療開始 来院時
1. ご高齢の糖尿病患者さんと 若い人との違いはなに? 2. ご高齢の糖尿病患者さんの 治療上の注意点 3. ご高齢の糖尿病患者さんの
疫学概論 §C. スクリーニングのバイアスと 要件
衛生委員会用 がんの健康講話用スライド.
Presentation transcript:

がんの治療

進歩するがん治療 個別化医療の進歩 手術方法の進歩 放射線療法の進歩 支持療法の進歩

図69.従来の化学療法と個別化がん治療 従来のがん化学療法 個別化がん治療 肺がん患者 肺がん患者 抗がん剤A+B 分子標的薬D F F B A B A E E C C D D 多彩な遺伝子異常を持つ肺がん患者に対して、同じような効果が出ると予測したうえで、同じ種類の抗がん剤の組み合わせで治療を行なう。 多彩な遺伝子異常を持つ肺がん患者に対して、特異的な遺伝子異常にあわせて標的を決めて抗がん剤を創って投与する。

進歩するがん治療 個別化医療の進歩 手術方法の進歩 放射線療法の進歩 支持療法の進歩

手術療法の適応−局所コントロール

がんの手術療法の有効性(根治度別効果) 根治度A:(比較的早期の癌について完全切除) 根治度B:(肉眼的にがんの遺残はないが、再発の危険性が高い) 根治度C:(肉眼的に明らかな遺残がある) 根治度Aの場合でもかなりの再発を認める。 完全切除の場合には切除の効果は顕著ではあるが、腫瘍細胞が遺残している限り、常に再発の危険性がある。これらの遺残腫瘍に対しては明らかに肉眼的に認める場合は治療的に、そうでない場合は予防的に放射線療法や化学療法との併用による集学的治療を考える。

遠隔転移がなければ、原発巣の大きな腫瘍塊を取り除くことが可能であれば、予後が良くなる。 あくまでも局所コントロールを目的とした治療法になる。

拡大手術から縮小手術へ

乳がん手術術式の変遷 % 日本乳癌学会会員アンケート調査結果より改変 Breast Cancer 2008, 15, 3-4

手術単独であれば、できるだけ大きく切除して取り残しをなくしたいので、拡大手術が選択される。 補助化学療法やホルモン療法などの併用療法の進歩に伴い、手術単独では得られない予後の改善があり、縮小手術でも同じ効果が得られるようになった。 最近、乳房再建術が進歩するにつれて、乳房切除術へと拡大傾向にある。

手術療法の実際

癌手術療法の特徴 良性腫瘍の手術では、腫瘍だけをくりぬくように切除して正常組織の切除を最小限にする。 癌の手術の場合には、癌の発生した臓器(例えば胃など)とともに浸潤や転移しているかもしれない周囲脂肪組織やリンパ節を安全域として切除する。胃癌を例にとると、リンパ節を廓清するために、脾動脈、脾臓および周囲脂肪組織を胃とともに切除する。 手術そのものの負担が大きく、術後の臓器欠損による負担も大きくなる。 脾動脈 脾臓

手術療法の選択

手術治療の選択 メリットである根治性だけではなく、デメリットである合併症、後遺障害も含めたバランスシートを考慮して、患者本人が決定する。 ー 根治性と安全性のバランスシート ー 根治性 切除範囲を大きくすれば、がん組織を完全に切除できる可能性が高くなる。 安全性 合併症:出血、感染、縫合不全、静脈血栓症など 後遺障害:臓器を切除したことによる欠損障害。例えば、胃切除後のダンピング症候群や貧血など メリットである根治性だけではなく、デメリットである合併症、後遺障害も含めたバランスシートを考慮して、患者本人が決定する。

図73.胃がんの推奨治療アルゴリズム 胃がん M0 M1 T1 T2/T3/T4a T4b N0 N+ T1a(M) T1b(SM) 分化型 2㎝以下Ul(-) 分化型 1.5㎝以下 化学療法 放射線 緩和治療 対症療法 Yes No Yes No 胃切除 合併切除D2郭清 EMR ESD 胃切除 D1郭清 胃切除 D1+郭清 定型手術D2郭清 日本胃癌学会、胃癌治療ガイドライン2010より引用

手術療法の選択は、正確なステージの決定に基づき決定する。 根治度と安全性のバランスによって決定する。(根治度を高めるためには拡大手術がいいが、安全性を考えると縮小手術が良い)

内視鏡手術の進歩

図74.内視鏡手術の方法 1) ポリペクトミー 2) 内視鏡的粘膜切除術 3) 内視鏡的粘膜下層剥離術 針金の輪をかける しばって切断 1) ポリペクトミー ポリープ 内視鏡の先端 針金の輪をかける しばって切断 2) 内視鏡的粘膜切除術 がんの部位を マーキング 生理食塩水を 注入して瘤を作る 針金の輪をかけて切断 がん 3) 内視鏡的粘膜下層剥離術 がんの部位を マーキング 生理食塩水を 注入して瘤を作る メスで粘膜を切開する 粘膜を剥離する がん

表23.内視鏡的粘膜切除術の適応 高分化型 低分化型 潰瘍なし 潰瘍あり 潰瘍なし 高分化型 低分化型 潰瘍なし        潰瘍あり   潰瘍なし 粘膜内 2 cm以下    2.1 cm以上   3 cm以下   2 cm以下 粘膜下 3 cm以下 ガイドラインの内視鏡的粘膜切除術適応 リンパ節転移のほとんどない癌 日本胃癌学会:胃癌治療ガイドライン2010より引用 表23.内視鏡的粘膜切除術の適応

医師主導型臨床試験などで、内視鏡手術の適応範囲の拡大が図られている。将来的には適応範囲は拡大するだろう。 一方、経験不足の術者による事故なども起き易くなる。

鏡視下手術の進歩

図75.腹腔鏡手術 モニター 腹腔鏡 処置具 約1cmの切開

高齢者に対する手術の進歩

がん死または寿命中に合併症を発症すると予測される がんによる病的状態が発現する前に寿命がつきる 図76.高齢者のがん治療アルゴリズム スクリーニング 評価 所見 治療に耐 えられない 支持療法 ・機能と併存症より平均余命を推定 ・がんによる病的状態の発生リスク  を推定(診断時のステージ、再発  及び進行のリスク、疾患の悪性  度) ・がん治療の忍容性を妨げる状況  の評価(栄養不良、多剤投与、社  会的支援の欠如、うつ病、認知症、  転倒リスク) ・患者の治療目標 ・社会福祉相談 がん死または寿命中に合併症を発症すると予測される ・老人病評価 ・機能及び併存症の評価 機能的に自立 (ADLが自立) 治療 治療に耐 えられる 中等度の機能障害 治療に耐 えられない 支持療法 重大な機能障害や複雑な併存症 がんによる病的状態が発現する前に寿命がつきる NCCN(National Comprehensive Cancer Network)治療ガイドラインより引用

表24.高齢者に対する外科治療 2004 1994 症例数 (%) 症例数 (%) 10歳代    4  0.0      2    0.0 20歳代    12  0.1 17    0.2 30歳代   85  0.9   84  1.1 40歳代   495  5.5   512    6.9 50歳代 2065 17.3 1334 18.0 60歳代 3713 31.8 2984 40.4 70歳代 4584 39.3 2222 30.1 80歳代   701  4.5   232    3.1 90歳代    4  0.0     1    0.0 欠損値   0  0.0     5      0.1 合計 11663 100.0 7993 100.0 1994年の全国集計では60歳代の切除例が2984例と最も多かったが、2004年では総切除例が1.5倍に増加し、70歳代の切除例が最も多かった。術後30日以内死亡は0.9%                     「肺癌登録合同委員会 2004年肺がん外科手術例の全国集計に関する報告」より引用

表25.80歳以上の高齢者肺がんに対する手術成績 報告者 報告年 症例数 合併症発生率 手術死亡率 5年生存率 Naunheim 1994 40 21 16.0 40.0 Aoki 2000 35 60 39.8 Port 2004 61 38 1.6 38.0 Dominguez 2006 379 48 6.3 - BrokX 2007 124 4.0 47.0 Okami 2009 367 8.4 1.4 55.7 Yamato 2011 464 17.6 1.3 56.9 Eur J Cardiothorac Surg. 1994;8:453-6.、Eur J Cardiothorac Surg. 2000;18:662-5、Chest. 2004;126:733-8, J Thorac Oncol. 2007;2:1013-7, J Thorac Oncol. 2009;4:1247-53, 新潟がんセンター病院医誌 50巻 2号:57−63より作成

超高齢者(80歳以上)の肺癌手術の適応基準 1.非小細胞肺癌 臨床病期I、II期 小細胞肺癌 臨床病期I期 2.重篤な併存疾患がない 3.Performance Statusが良好(PS<1) 4.十分な心肺機能の予備能がある 5.患者および家族が手術に積極的である 肺癌の臨床研究プロトコールの患者選択基準では、75歳未満と設定されることが多く、75歳以上を高齢者、80歳以上を超高齢者として、手術適応、術式選択の判断を75歳未満と分けて考慮している。

超高齢者肺癌の手術成績 東北大学加齢医学研究所の成績:80歳以上の超高齢者35例について2群郭清した22例と1群郭清以下にとどめた13例の比較検討結果では、肺葉切除+縦隔リンパ節までの郭清をおこなう標準手術よりも肺門部以下のリンパ節郭清にとどめた縮小術の方が5年生存率は良好であった。

年齢自体が手術適応の決定に当たって、重要ではなくなり、PSが十分に保たれているかどうかが重要になってきた。 支持療法の発達によって、高齢者に多かった術後合併症の発生を抑制できるようになった。

進歩するがん治療 個別化医療の進歩 手術方法の進歩 放射線療法の進歩 支持療法の進歩

放射線治療 放射線治療の基礎 1.腫瘍の局所制御 2.正常組織の急性反応 3.正常組織の晩期障害   放射線治療では線量さえ十分投与すればが   んは100%治しうる。 2.正常組織の急性反応   例えば60Gy程度の照射をすると照射開始10-   14日ぐらいでマウスの下肢皮膚は放射線皮   膚炎を起こすが、照射終了後2-4週間でほぼ   治癒する。あてる場所で異なる炎症が出現。 3.正常組織の晩期障害   8Gy x 10回の照射を行うとマウス腫瘍は   100%治癒すると述べたが、この時マウスの   足は萎縮し、指はとけてなくなっている。 6Gy x 10回の照射を行った場合合計線量は60Gyとなり、局所制御率は0%(すなわちマウス腫瘍は1つも治癒しない)であるのに対し、7Gy x 10回の照射では合計線量70Gyで局所制御率は約50%、さらに8 Gy x 10回の照射では合計線量80Gyとなりマウス腫瘍は100%治癒する。

表26.放射線治療の進歩 空間的線量分布の改善 CTシミュレーション、PET/CTシミュレーション 術中照射 192-Ir 高線量率小線源治療 125-I 前立腺がん永久挿入術 強度変調放射線治療(IMRT) 脳および体幹部定位放射線治療 時間的線量分布の改善 加速過分割照射 放射線像管法の進歩 温熱療法、放射線増感剤 空間的線量分布の改善:がん病巣に集中させて正常組織へ照射しない方法の改善

空間的線量分布の改善 放射線治療は、線量を上げれば癌細胞をたたける。問題は正常組織へのダメージ。がん組織への放射線被曝の集中をはかるのが、空間的線量分布の改善。

図77.定位放射線治療の原理 肺がんに対して5方向から照射する方法で、肺がんの部位のみに高線量の放射線を照射できる。 放射線治療ガイドライン2008より抜粋 肺がんに対して5方向から照射する方法で、肺がんの部位のみに高線量の放射線を照射できる。

分割照射=時間的線量分布の改善 がん細胞に比べて正常組織の方が回復が早く、分割することによって正常組織へのダメージを少なくすることができる。 また放射線は、細胞周期によって感受性が異なっており、抵抗性のS期の細胞が、分割照射すると感受性の周期に入っているため、効果が増大する。

密封小線源治療 放射線は距離が2倍に離れると線量が1/4になるため、外からの照射では内部のがん組織への影響は減少する。 体内(がん組織)から照射する方が正常組織へのダメージが減る。 b線の到達度は1−3mm.

図78.密封小線源治療 米粒 白く造影された膀胱の下部の前立腺に多くのシードが認められる。 ヨウ素125シード線源(長さ4mm程度)

重粒子線治療 重粒子線の特徴 1.ある特定の位置でのみ放射線を放出できる。 2.通常の放射線と違い、細胞周期に関係なくがん細胞の死を誘導できる。

図79.粒子線治療の効果 X線は、身体表面に近いところで放射線が強く、がん病巣に届くころには減弱してしまう.一方粒子線(水素原子核である陽子線や炭素原子核)は、任意の深さで線量をピークにすることができる。そのため、正常組織への影響を最小限にしてがん病巣に対する効果を最大にできる。

IR (Interventional Radiology) 画像下治療 エックス線透視や超音波像、CTを見ながら体内に細い管(カテーテルや針)を入れて病気を治す新しい治療

原発性肝細胞癌に対する動注化学塞栓療法 担がん亜区域までカテーテルを挿入してリピオドールと抗癌剤のエマルジョンを注入し、さらにゼラチンスポンジを注入して塞栓を行った。 CT scanでは、がん領域がリピオドールによって濃染している。

Q: なぜ肝癌に対して塞栓療法が可能なのか? ほかの臓器でも可能なのか?

胆道狭窄に対する治療(ステント) リンパ節転移による総胆管狭窄に対する 金属ステント挿入。 肝門部胆管癌による分離型狭窄に対して右前枝、右後枝、左枝、総肝管にそれぞれ金属ステントが挿入された。各枝から12指腸への良好な流出が得られている。