石油政策 規制緩和による影響の分析 経済政策コース2年 宮下りりか
目次 背景 -これまでの石油政策 -規制緩和の推移 背景 -これまでの石油政策 -規制緩和の推移 定量分析 -データ -VAR分析 (1)石油関連整備法施行(1996)による影響 (2)「第一段階の規制緩和」と「第二段階の規制緩和」 の政策による影響 (3)1994~1998年の間、ベルトラン競争の想定 まとめ・今後の課題
これまでの石油政策の推移(1) 1960年代〜80年代中期:石油業法体制による規制 石油業法:石油供給計画策定、石油精製業の許可・届出等 石油備蓄法:石油精製業者・特定石油販売業者及び石油輸入業者に備蓄義務 特定石油製品輸入暫定措置法(特石法):石油製品輸入解禁。 事実上、精製・元売業者だけが輸入権 1980年代中期〜90年代中期:第一段階の規制緩和 二次精製設備許可の弾力化(1987年7月) ガソリンの生産枠(PQ)指導の廃止(1989年3月) 灯油の需要期前の一定量の在庫確保指導の廃止(1989年10月) 給油所にかかわる転籍ルールおよび建設指導の撤廃(1990年3月) 一次精製設備許可の運用弾力化(1991年9月) 原油処理枠指導の廃止(1992年3月) →元売・精製会社の集約化(合併・業務提携等)
これまでの石油政策の推移(2) 1990年代中期〜2000年代:第二段階の規制緩和 1994年2月、石油審議会石油部会に「石油政策問題小委員会」設置 1994年12月、石油政策問題小委員会最終報告「今後の石油製品供給のあり方に ついて」 石油関連整備法(1995年4月公布) -1996年3月末 特石法廃止=石油製品輸入の自由化 -石油備蓄法改正、1996年4月より施行 -揮発油販売業法を改正、「揮発油等の品質の確保等に関する法律(品質確保 法)」1996年4月より施行 「規制緩和推進3か年計画」閣議決定 -2001年12月末 石油業法廃止=石油産業の自由化が完成 -石油備蓄法一部改正、「石油の備蓄の確保等に関する法律(新石油備蓄 法)」2002年1月より施行
精製・元売会社への影響 小売価格の低下:1994〜1998年 供給費用の低下:1997〜2000年 石油関連整備法施行(1996)の前後では、生産者余剰の減少 1999年 日本石油、三菱石油 合併→日石三菱 精製・物流提携(日石三菱&コスモ石油、ジャパンエナジー &昭和シェル)
ガソリン・軽油・灯油価格から、原油価格を引き、実質化
供給平均費用から原油価格を引き、実質化(1Lあたり) 石油精製業の営業費用を、消費者向け販売量で割る 97-2000 合併・提携等でコスト削減 供給平均費用から原油価格を引き、実質化(1Lあたり)
VAR分析 内生変数:ガソリン・灯油・軽油の小売価格(月次)、販売量(月次) 外生変数:原油価格、家計消費、月次ダミー、政策ダミー、定数 (1)石油関連整備法施行(1996)による影響 (2) 「第一段階の規制緩和」(1980年代中期〜90年代中期)と、 「第二段階の規制緩和」(1990年代中期〜2000年代)の政策による影響 (3)1994~1998年の間、ベルトラン競争の想定
データ 一般小売価格 月次調査(石油情報センター) 原油価格 貿易統計(財務省) 一般小売価格 月次調査(石油情報センター) 原油価格 貿易統計(財務省) 生産量・消費量 資源・エネルギー統計年報(資源エネルギー庁) 家計所得 家計調査(総務省統計局) 企業業績 企業活動基本調査(経済産業省)
分析(1) 石油関連整備法施行(1996)による影響 分析(1) 石油関連整備法施行(1996)による影響 夏学期の分析の結果 政策ダミー:石油関連整備法施行(1996年4月)のみ → 有意な結果は出なかった。 仮説:政策のアナウンス効果(内藤隆夫, 2012) 石油関連整備法の公布(1995年4月)と施行(1996年4月)を政策ダ ミーとして分析 ガソリンについて 係数、P値は以下の通り 供給量 価格 公布 -0.053, 0.007 -0.004, 0.502 施行 -0.011, 0.420 0.005, 0.259
分析(1) 石油関連整備法施行(1996)による影響 分析(1) 石油関連整備法施行(1996)による影響 政策ダミーが石油関連整備法(1996)のみの場合、 小売価格、消費量への効果は有意でない。 →石油関連整備法(1996)以外の政策による影響を考慮に入れる必要
分析(2) 「第一段階の規制緩和」と「第二段階の規制緩和」 の政策による影響 分析(2) 「第一段階の規制緩和」と「第二段階の規制緩和」 の政策による影響 政策ダミー: 87年7月 二次精製設備許可の弾力化 89年3月 ガソリンPQ指導の廃止(※ガソリンの分析のみ) 89年10月 灯油の在庫確保指導廃止(※灯油の分析のみ) 91年9月 一次精製設備許可の運用弾力化 92年3月 原油処理枠指導の廃止 96年4月 石油関連整備法(分析(1)で用いたダミー) 02年1月 石油業法廃止 1985年1月~2004年12月の月次データを用いる。
分析(2) 「第一段階の規制緩和」と「第二段階の規制緩和」 の政策による影響 分析(2) 「第一段階の規制緩和」と「第二段階の規制緩和」 の政策による影響 ガソリン 推計結果 政策ダミー 係数 P値 価格 96年石油関連整備法 -0.0207 0.000 数量 89年ガソリン生産枠指導廃止 0.0095 0.003 0.0125 0.001 02年石油業法廃止 0.0066 0.004 灯油 推計結果 政策ダミー 係数 P値 価格 87年二次精製設備許可の弾力化 -0.0063 0.052 89年灯油の在庫確保指導の廃止 0.0069 0.033 96年石油関連整備法 -0.0053 0.007 数量 0.0592 0.009 02年石油業法廃止 0.0455 0.036
分析(2) 「第一段階の規制緩和」と「第二段階の規制緩和」 の政策による影響 分析(2) 「第一段階の規制緩和」と「第二段階の規制緩和」 の政策による影響 軽油 推計結果 政策ダミー 係数 P値 価格 91年一次精製設備許可の運用弾力化 -0.1267 0.006 92年原油処理枠指導の廃止 0.0091 0.049 96年石油関連整備法 -0.0063 0.008 数量 なし
分析(2) 「第一段階の規制緩和」と「第二段階の規制緩和」 の政策による影響 分析(2) 「第一段階の規制緩和」と「第二段階の規制緩和」 の政策による影響 ガソリン 規制緩和によって、価格低下、数量増加 価格については、96年石油関連整備法のみが有意 灯油 規制緩和によって、価格低下(ただし、89年灯油の在庫確保指導の廃止は係数 プラス)、数量増加 軽油 価格については、係数プラス/マイナス 数量については、有意な政策ダミーなし 3油種比較 ・価格:96年石油関連整備法が有意。係数を比較すると、ガソリンが最大。 ・80年代後半~ 過剰設備の処理と精製設備に関する規制緩和により生産効率化 → 灯油・軽油の価格は低下、ガソリン価格は下がらなかった。 ・96年石油関連整備法(石油製品輸入の自由化)をきっかけに、特にガソリンの 価格が大きく低下。 灯油 在庫確保指導:価格を低く抑える規制 規制廃止によって、需給がひっ迫
分析(3) ベルトラン競争の想定(ガソリン) 分析(3) ベルトラン競争の想定(ガソリン) 1994~1998年の間、ガソリンの価格が少しずつ低下 政策変更は、96年石油関連整備法のみ → ベルトラン競争の想定 政策ダミー: 87年7月 二次精製設備許可の弾力化 89年3月 ガソリンPQ指導の廃止(※ガソリンのみ) 89年10月 灯油の在庫確保指導廃止(※灯油のみ) 91年9月 一次精製設備許可の運用弾力化 92年3月 原油処理枠指導の廃止 96年4月 石油関連整備法の前後、ベルトラン競争 02年1月 石油業法廃止
分析(3) ベルトラン競争の想定(ガソリン) 分析(3) ベルトラン競争の想定(ガソリン) 推計結果 価格について 係数-0.056、p値0.000 数量について 係数0.038、p値0.000 分析(2)(係数―0.02)と比較して、係数大きい
まとめ、今後の課題 まとめ ・規制緩和によって、生産効率化、価格低下、販売量増加 ・94~98年は、ベルトラン競争を通して、特にガソリン価 格が大きく低下 今後の課題 ・軽油の推計結果の解釈 →個々の企業の生産戦略への影響 ・政策ダミーの数
参考資料 JXエネルギー『石油便覧』 http://www.noe.jx-group.co.jp/binran/index.html 内藤隆夫(2012)『1980年代から90年代中期の石油政策ー「安定供 給」から「安定的」かつ「効率的」供給へー』,経 済 学 研 究 62-1 石油動向研究会編『石油年鑑』 石油連盟『石油業界の推移』 経済産業省資源エネルギー庁『石油製品需給動態統計調査』 経済産業省資源エネルギー庁『給油所小売価格調査』 総務省統計局『家計調査』
VAR ガソリン推計結果
VAR 灯油推計結果
VAR 軽油推計結果
VAR ベルトラン競争推計結果