主催: 大分県獣医師会 後援: 大分合同新聞社 市民公開フォーラム 2004/10/3 「鳥インフルエンザの発生事例に学ぶ」 主催: 大分県獣医師会 後援: 大分合同新聞社 人畜共通感染症: リスクと向き合うために 高病原性鳥インフルエンザとは 鹿児島大学 岡本嘉六 インフルエンザウイルスの電子顕微鏡写真 表面に突起物の規則的配列
ヒト 豚 鳥 馬 H 1,2,3 1,3 1-15 3,7 N 1,2 1-9 7,8 インフルエンザウイルスの模式構造 遺伝子 インフルエンザウイルスの模式構造
ウイルス抗原の循環説: 10~20年毎に大変異を起こす ウイルス抗原の循環説: 10~20年毎に大変異を起こす 1890 1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 Hsw1N1 スペインかぜ スペインかぜ H0N1 ウイルス発見 H1N1 イタリアかぜ ソ連かぜ H2N2 旧アジアかぜ アジアかぜ アジアかぜ H3N2 旧香港かぜ 香港かぜ 1918年に西フランスの前線で発生したスペイン風邪は瞬く間に全世界に広がり、発病者5億人、死亡者2000万人を超え、日本でも2400万人が罹患し40万人が死亡した。10万人当りの死亡率が数百名とされ、単なるかぜではなく、新型ウイルス登場初期は、非常に怖い病気である。 このウイルスは1930年にブタから分離されたタイプと等しく、ブタから広がったとの推測がある。同タイプのウイルスが1976年に米国の軍隊内で小流行し、一時は非常事態宣言が発令された。
1957年2月に雲南に誕生したアジアかぜの広がり方 4月 X 5月 6月 7月 8月 9月 船を主要な交通網とした時代でも、世界の主要都市に流行が広がるまでわずか半年であり、ジェット機が飛ぶ現在では1ヶ月もあれば世界に広がってしまうであろう。新型ウイルスが誕生した暁には、渡り鳥云々というのんびりした話ではない。誕生させない対策が重要!
1997年に、高病原性鳥インフルエンザが初めてヒトに感染した。この時も、日本で騒ぎ始めたのは8月頃からであり、WHO等の専門家は世界的流行とはならないと判断した時点である。予測される事態以上に、騒ぐことが好きな日本人は、平和ボケ?
1997年の香港での流行は、特殊な事情があった。関西では「朝引き鳥」が重宝されるが、鶏肉は牛肉や豚肉より鮮度が落ち易く、魚との中間。味覚の発達した中華民族はその上を行き、生きた状態で販売されている。「食い倒れ」の比ではない!
宿主細胞への入り口(レセプター)が、ヒトと共通するのはブタだけ。 ブタに馴化したウイルス以外がヒトの細胞に入るのは例外! 水禽類(カモなど)→ブタ →ヒトの経路が主であり、 「ニワトリ→ヒト」はあくま でも例外でしかない。 科学的には興味が尽き ないが、だからといって、 インフルエンザの基本的 特徴が変わってしまった ものではない(種の壁)。 ヒトに大流行を起こす 新型ウイルスは、これまで 同様ブタを介する。 宿主細胞への入り口(レセプター)が、ヒトと共通するのはブタだけ。 ブタに馴化したウイルス以外がヒトの細胞に入るのは例外!
インフルエンザ・ウイルスの流行模式 ? 「種の壁」を越えることは、頻繁に起きるものではないが・・・・ 通常は同一動物種内での流行 水禽類(カモなど) α2-3 H1~H15 (α2-3) ブタ α2-3、α2-6 ニワトリ α2-3 ウマ α2-3 H1、H3 (α2-3、α2-6) H5、H7 (α2-3) H3、H7 (α2-3) ? 通常は同一動物種内での流行 ヒト α2-6 H1、H2、H3 (α2-6) ウイルスのH型 (αレセプター対応) 動物種 αレセプター 矢印の形と太さは、感染の頻度を示す インフルエンザ・ウイルスの流行模式
2種類のウイルスが、1個の細胞内に同時に侵入する ブタ型ウイルス H1、H3 (α2-3、α2-6) 水禽類ウイルス H1~H15 (α2-3) α2-3 レセプター α2-6 レセプター 核 細胞質 細胞膜 :H(ヘマグルチニン) :N(ノイラミニダーゼ) ブタ鼻粘膜細胞 新型ウイルス誕生までのステップー1 2種類のウイルスが、1個の細胞内に同時に侵入する
ブタ鼻粘膜細胞 核 細胞質 新型ウイルス誕生までのステップー2 エンベロープが溶けて、それぞれ8分節のRNAが細胞質に出てくる
新型ウイルス誕生までのステップー3 ウイルスRNAを基に、 逆転写酵素により、一旦DNAができる 分節の交換など 遺伝子組み換えはこの過程で起きる このDNAを基に、ウイルスRNAが複製されるが、多くの変異株は生活能力を欠如し、生き延びるのはごく一部 新型ウイルス誕生までのステップー3 ブタ細胞の成分と酵素を利用して、ウイルス複製が同時進行する
豚インフルエンザ発生の年次推移(1982-1997) 日本ではブタのインフルエンザは1990年代以降ほとんど発生していない。 日本ではブタのインフルエンザは1990年代以降ほとんど発生していない。 すなわち、日本のブタで新型ウイルスが誕生する可能性はほとんどゼロである。 中国には世界の半数のブタが飼育されており、「アジアかぜ」の再来とならないために・・・ 2000 1800 発生率(豚飼養1千万頭対) 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 豚インフルエンザ発生の年次推移(1982-1997)
ブタでの確率よりはるかに低いことだけは確かである ヒト型ウイルス H1、H2、H3 (α2-6) 水禽類ウイルス H1~H15 (α2-3) α2-3レセプターのないヒトの細胞に 無理やり侵入する α2-6 レセプター 核 細胞質 ヒト呼吸器系細胞 ヒトで新型ウイルスが誕生する可能性 どの程度の確率で起きるか分からないが、 ブタでの確率よりはるかに低いことだけは確かである
高病原性鳥インフルエンザの発生状況(ProMed 20040304 ) 過去40年の流行では感染域もずっと小さく、本質的に取り組みがより容易であった。優れたサーベイランスシステム、十分な資源を持った国での、地理的広がりが限定的な流行でさえ、制圧には2年間も要することが多かった。こうした理由などから、WHOは今回の流行が近未来に制圧できるという推定に対して警告している。 1969年以来、全世界では流行21件のみが報告されている。その大部分がヨーロッパやアメリカ諸国で発生した。 現在の流行 5つの特徴 1. 非商業的な家禽(庭先で飼育されている家禽)での感染の集中。 2. 家禽産業への経済的影響の大きさ。 3. 流行制圧経験の不足。 4. (流行制圧のための)資源の不足。 5. 国際的な流行の広がりの規模。 こうした流行の特徴から、迅速な制圧や長期的な再発予防は達成が非常に困難となっている。 現在までのところ、野鳥がHPAI H5N1流行の感染源であることを明示した証拠はない。野鳥を処分すべきではない。家禽と野鳥、特にカモ類やその他の水鳥との接触を断つことは、家禽への低病原性ウイルス感染を防止するのに役立つ。 新型ウイルス誕生を 阻止するために 日本ができること
リスクは? 1. 高病原性鳥インフルエンザがヒトに感染する確率は低い。 1. 高病原性鳥インフルエンザがヒトに感染する確率は低い。 2. 鶏肉や卵から感染した事例はない。感染鶏の乾燥糞便を吸込んで感染する。 3. 直接感染のリスクを過大に報じることは間違っている。 1997年香港の流行 処分羽数: 140万羽 以上 患者数: 18名 死亡者数: 6名 2003年のオランダでの流行(H7) 養鶏場: 225カ所 死亡羽数: 127,900羽 処分羽数: 3,000万羽 ワクチン接種羽数: 10,211,800羽 死亡者数: 1名 高病原性鳥インフルエンザがヒト・インフルエンザウイルスと遺伝子組換えを起こし、新型ウイルスが誕生すると、予測できない「感染力」と「病原性」をもつので、リスク評価はできない。 しかし、新型ウイルス誕生は、その繰返しによって、スペイン風邪クラスのものとなり得る。 2004年東南アジアの流行 処分羽数: 1億羽 以上 死亡者数: 20数名 2004年中国の流行(2月27日) 発生地域: 16地域(省、自治区、都市) 発生件数: 52件 死亡羽数: 128,000羽 処分羽数: 850万羽
リスクは? 現在、ヒトインフルエンザで、何人死亡しているか、知っていますか? 現在、ヒトインフルエンザで、何人死亡しているか、知っていますか? リスクは、総体的に評価するものであって、個々の健康危害要因を「危険か 安全か」という二者択一の物差しで計るものではない。 現段階で、鳥インフルエンザがヒトの健康に及ぼす影響は、ヒトインフルエンザに比べて微々たるものである。 ニワトリが大量死することで、食料が減ることの影響が大きい。
1997年香港の流行時にホームページに書いたものだが、何時から自分だけの身を守る民族に成り下がったのか? 「一億玉砕」の反動の「自分さえ良ければ」という考え方は、滅亡民族の軌跡を辿ることになる(青少年を含む残虐事件の多発)。
感染症法において動物が占める位置(平成15年10月改正) 類型 動物由来感染症 保有動物 ヒト感染症 エボラ出血熱 クリミア・コンゴ出血熱 重症急性呼吸器症候群 ペスト マールブルグ病 ラッサ熱 サル 反芻動物、鳥類 ハクビシン げっ歯類 痘そう 1類 コレラ 急性灰白髄炎 ジフテリア 腸チフス パラチフス 2類 細菌性赤痢 サル 3類 腸管出血性大腸菌感染症 ウシ 黄熱、 Q熱 高病原性鳥インフルエンザ 狂犬病 サル 反芻動物、鳥類 鳥類 犬、猫、キツネ、 スカンク、アライグマ A型肝炎 E型肝炎 マラリア 4類 その他の既に知られている感染性の疾病であって、動物又はその死体、飲食物、衣類、寝具その他の物件を介して人に感染し、国民の健康に影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるもの
感染症法において動物が占める位置(続き) 類型 動物由来感染症 保有動物 ヒト感染症 ウエストナイル熱 エキノコックス症 オウム病 コクシジオイデス症 サル痘 腎症候性出血熱 炭疽 ツツガムシ病 ニパウイルス感染症 日本紅斑熱 日本脳炎 ハンタウイルス肺症候群 Bウイルス病 ブルセラ症 野兎病 ライム病 リッサウイルス感染症 レプトスピラ症 鳥類 キタキツネ、犬 反芻動物、鳥類 げっ歯類 サル ウシ、ウマ コウモリ、ブタ ブタ ブタ コウモリ 各種動物 回帰熱 デング熱 発しんチフス ボツリヌス症 レジオネラ症 4類 インフルエンザ (鳥インフルエンザ以外) ウイルス性肝炎 (E型、A型以外) 後天性免疫不全症候群 性器クラミジア感染症 梅毒 麻疹 MRSA感染症 5類 クリプトスポリジウム症 各種動物
日本民族は江戸時代を頂点として没落するか!? リスクと向き合うために 科学的知識を受入れ、冷静に行動を! 騒動するだけ流行制圧は難しくなる 騒動の陰に「タカリ屋評論家」がいる 日本民族は江戸時代を頂点として没落するか!? 安政5年 死者 数十万人 江戸時代のコレラ流行時の神詣: 科学的知識がない庶民は、祈願の祭りで流行を広げた(その時儲けたヒトもいた風刺画をどう見る)
鹿児島大学 新興感染症対策研究 プロジェクト 行政 医療 獣医療 農政 食品衛生 環境・自然保護 ・・・・・ 学会 医学会 農学会 獣医学会 食品衛生学会 公衆衛生学会 ・・・・・ 東北アジア 鹿児島大学 新興感染症対策研究 プロジェクト 中国 法人 医師会 獣医師会 食品衛生協会 NPO ・・・・・ 団体 生産団体 消費者団体 食品安全推進会議 環境・自然保護団体 ・・・・・ 東南アジア
新興感染症対策研究プロジェクト 鹿児島大学 ヒトの感染制御 動物の感染制御 生態系保全 プリオン部会 ウイルス部会 細菌部 会 動物部会 産業動物・伴侶動物・野生動物
高病原性鳥インフルエンザ H5、H7 鳥インフルエンザ H5、H7以外
図2. ヒトに感染性をもつ新型ウイルスの誕生の仕組み ブタの細胞内での遺伝子組み換え 替え 組み ブタ型ウイルス H1、H3 (α2-3、α2-6) 水禽類ウイルス H1~H15 (α2-3) :H(ヘマグルチニン) :N(ノイラミニダーゼ) 新たなウイルス H1、H3 (α2-6) 図2. ヒトに感染性をもつ新型ウイルスの誕生の仕組み
危険性の査定 危険性の管理 危険性の情報交換 ( Risk Assessment) 1.危害の特定、2.危害の特性解明、 3.暴露査定、4.危険性の特性解明 各方面の専門家によって、実験や調査に基づく科学的根拠から当該物質によってヒトで起きる健康被害を予測し、100万人に1人程度の確率に抑え込むための管理措置と管理基準を策定する役割 危険性の管理 ( Risk Management) 1.危険性の評価、2.管理措置の査定、3.管理措置の実行、 4.監視と再吟味 生産者が査定で提起された管理措置と管理基準が実施可能なものであるか否かを検討し、可能となれば実行し定期点検等の監視体制をとる役割 危険性の情報交換 ( Risk Communication) 査定と管理の連携が円滑にいくようにする企画・立案、組織化、進行の調整、成果の評価を行う危険性解析における第三者的存在であり、生産者と消費者の情報交換も担う役割 危険性解析の構図(Structure of Risk Analysis)
図1. 自然界でのインフルエンザウイルスの伝播 ウイルスのH型 (αレセプター対応) 動物種 αレセプター ヒト α2-6 H1、H2 、 H3 (α2-6) ブタ α2-3、α2-6 H1、H3 (α2-3、α2-6) ニワトリ α2-3 H5、H7 (α2-3) ウマ H3、H7 水禽類(カモなど) H1~H15 矢印の形と太さは、感染の頻度を示す ? H:ヘマグルチニン N:ノイラミニダーゼ 図1. 自然界でのインフルエンザウイルスの伝播